

医療費が年10万円を超えても、あなたが受け取った保険金は「別の病気の治療費」に当てることができます。
医療費控除とは、1月1日から12月31日までの1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合に、その超えた部分を所得から差し引くことで税負担を軽くできる制度です。正式には「所得控除」の一種であり、所得税法第73条に基づいています。
「税金が戻ってくる」という表現をよく耳にしますが、正確には少し違います。戻ってくるのは、払いすぎていた所得税です。医療費控除によって課税所得が下がり、本来支払う必要のなかった税金が還付される、というのが正しい理解です。いいことですね。
対象となる医療費の上限は200万円。つまり、最大200万円の所得控除を受けられる制度です。所得税率が20%の方であれば、最大で40万円の還付を受けられる計算になります。さらに、所得税だけでなく翌年の住民税(一律10%)も下がるため、トータルの節税効果は意外と大きくなります。
この制度が適用されるのは「納税者本人」だけではありません。同じ生計を共にしている配偶者や親族の医療費も合算できます。たとえば、一人暮らしで学費を親に出してもらっている学生の医療費は、その親の医療費控除に組み込めます。家族全員の医療費を高所得な方に集約することで、より高い節税効果を得られるのが特徴です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 控除の種類 | 所得控除(所得税法第73条) |
| 対象期間 | 毎年1月1日〜12月31日 |
| 足切り金額 | 10万円(所得200万円未満は所得の5%) |
| 上限額 | 200万円 |
| 申告方法 | 確定申告(年末調整は不可) |
参考:医療費控除の基本的な仕組みと計算式について国税庁が公式に解説しています。
医療費控除の還付金額は、「控除額 × 所得税率」で求められます。まず、1年間の医療費合計から保険金などで補填された金額を引き、そこからさらに10万円(足切り額)を引いた金額が「医療費控除額」です。
計算式を整理すると次のようになります。
※所得合計が200万円未満の場合は「所得の5%」が足切り額になります。
具体例で確認しましょう。年収400万円・課税所得300万円の会社員の方が、年間で医療費を20万円支払い、保険金の受取はゼロだった場合を想定します。
つまり、20万円の医療費に対して2万円が手元に戻ってくるイメージです。東京23区内のカフェのランチ約40食分に相当する金額と考えると、申告する手間は十分に報われると言えるでしょう。
注意が必要なのは「保険金の差し引きルール」です。受け取った給付金は、その給付の対象となった治療費からのみ差し引きます。たとえば入院給付金30万円を受け取り、入院費が30万円だった場合、入院費はゼロとなりますが、別途かかった歯の治療費からは差し引きません。この計算を間違えると、受け取れるはずの還付が0円になることがあります。注意が必要な点です。
所得税率の区分は以下の通りです。課税所得が高いほど還付額も大きくなります。
| 課税所得の目安 | 所得税率 | 医療費控除額10万円なら還付額 |
|---|---|---|
| 〜195万円 | 5% | 5,000円 |
| 195万〜330万円 | 10% | 1万円 |
| 330万〜695万円 | 20% | 2万円 |
| 695万〜900万円 | 23% | 2万3,000円 |
| 900万〜1,800万円 | 33% | 3万3,000円 |
参考:所得税率の詳しい速算表は国税庁公式ページで確認できます。
医療費控除の対象かどうかを判断するポイントは「治療目的かどうか」です。この一文が基本です。美容・予防・健康増進が目的のものは原則として対象外になります。
ただし、この「治療目的」という線引きが意外と細かく、知らないと損をするケースが多くあります。以下に代表的な対象品目と非対象品目を整理しました。
✅ 対象になるもの(意外なものを含む)
❌ 対象にならないもの(勘違いが多い品目)
参考:医療費控除の対象・対象外の詳細な具体例は国税庁のページで確認できます。
国税庁 No.1122 医療費控除の対象となる医療費(詳細一覧)
医療費控除は確定申告でしか申請できません。年末調整では対応不可です。ただし、会社員にとって確定申告は「縁遠い手続き」というイメージがありますが、現在はスマートフォン1台あれば自宅で完結します。これは使えそうです。
必要な書類は基本的に4点です。
なお、領収書の提出は2017年から不要になっています。ただし、確定申告から5年間は自宅での保管が義務です。5年間の保管が条件です。
e-Taxを使ったスマホ申告の大まかな流れは次のとおりです。
還付金は申告後おおむね1〜2ヶ月で登録口座に振り込まれます。申告期間は毎年2月16日から3月15日ですが、還付申告(税金が戻ってくるケース)に限っては1月1日から申告が可能です。
医療費のデータ管理には、健保組合から届く「医療費通知(医療費のお知らせ)」を活用するのが便利です。年間の受診履歴がまとめられており、e-Taxの入力画面にそのまま読み込めます。通院交通費など通知に載っていない費用は、手動で追加する形になります。
「去年の医療費が多かったのに申告し忘れた」という方でも、あきらめる必要はありません。医療費控除の還付申告は、対象年の翌年1月1日から5年間有効です。たとえば2021年(令和3年)分の医療費控除は、2026年12月31日まで申告可能です。
5年間の申告チャンスがある、ということです。
これは「国税通則法第74条」に基づく還付申告の時効規定です。本来の確定申告期間(2〜3月)を過ぎても、還付の場合は期限外の申告でもペナルティなしで受け付けてもらえます。年をまたぐと忘れがちな点ですが、過去の領収書さえ保管してあれば十分間に合います。
この制度を活用できる典型的なケースとして、次のような状況があります。
遡って申告する際の手順は通常の確定申告と同じです。「還付申告」専用の書類は存在しないため、通常の確定申告書に必要事項を記入して、管轄の税務署に郵送または持参、あるいはe-Taxで送信します。過去の年分を申告する場合は、申告書の右上に「令和◯年分」と明記し、その年の源泉徴収票をもとに記入します。
注意点として、5年の期限を過ぎてしまった場合はペナルティはないものの、税金の還付は一切受けられなくなります。保管している領収書の年号を今一度確認することをおすすめします。
参考:還付申告の期限と手続き方法は国税庁のページで詳しく説明されています。
国税庁 還付申告はいつからいつまで申告できますか(還付申告の期限)
医療費控除には「通常の医療費控除」と「セルフメディケーション税制(特例)」の2種類があり、どちらか一方しか選択できません。意外ですね。
セルフメディケーション税制とは、健康診断や予防接種など健康維持の取り組みをしている方が、市販の対象OTC医薬品(スイッチOTC)を年間12,000円超購入した場合に、その超えた分(上限88,000円)を所得から差し引ける制度です。
2つの制度の比較
| 比較項目 | 通常の医療費控除 | セルフメディケーション税制 |
|---|---|---|
| 足切り額 | 10万円(※) | 12,000円 |
| 上限額 | 200万円 | 88,000円 |
| 対象となる支出 | 病院・薬局など幅広い医療費 | 指定OTC医薬品の購入費のみ |
| 事前条件 | 特になし | 健康診断や予防接種などの実施が必要 |
| 最大節税効果 | 大きい | 限定的 |
※所得200万円未満は所得の5%
使い分けの目安はシンプルです。年間の医療費合計(病院・薬局)が10万円を超えているなら通常の医療費控除が有利です。一方、医療費が10万円に届かないが、市販薬(対象品)をよく購入するという方は、セルフメディケーション税制を検討する価値があります。
たとえば年間の病院代が6万円で、ドラッグストアで対象OTC医薬品を3万円購入していた場合、通常の医療費控除では足切り額の10万円に届かず控除ゼロです。ところがセルフメディケーション税制なら、3万円 ー 1.2万円(足切り)= 1万8,000円の控除が受けられます。所得税率10%なら1,800円の還付になります。
どちらの制度を選ぶかは「その年の医療費の状況」によって毎年見直すのが賢い選択です。確定申告書等作成コーナーでは両方の税額を比較しながら申告できるため、実際に入力しながら有利な方を選ぶことが可能です。
OTC医薬品が対象かどうかはパッケージに「セルフメディケーション税制対象」のマークが印刷されているため、購入時にそのマークを確認するだけでOKです。確認するだけで大丈夫です。
参考:セルフメディケーション税制の仕組みと対象品目については国税庁が解説しています。
国税庁 医療費控除とセルフメディケーション税制の違いについて