

「福利厚生費として計上したのに、税務調査で給与扱いにされて追徴課税が発生した」は実際に起きています。
税務上、「福利厚生費」には明確な法律上の定義が存在しません。これは意外なことです。国税庁のタックスアンサー(No.5261)では、交際費等との区分を示す形で間接的に福利厚生費の考え方を示しており、「専ら従業員の慰安のために行われる運動会・演芸会・旅行などのために通常要する費用」や「創立記念日・国民の祝日などに際し従業員等におおむね一律に供与される通常の飲食に要する費用」などが例として挙げられています。
つまり、福利厚生費かどうかを判断するのは「費目の名称」ではなく「支出の実態」です。帳簿に「福利厚生費」と書いてあるだけでは不十分で、税務署は中身を見て判断します。
| 分類 | 概要 | 代表例 |
|---|---|---|
| 法定福利費 | 法律で義務付けられた保険等(会社負担分) | 健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料・労災保険料・介護保険料 |
| 法定外福利費 | 企業が独自に取り組む福利厚生にかかる費用 | 健康診断費用・社員旅行・食事補助・慶弔見舞金・社宅提供 |
法定福利費は原則として全額非課税。問題になりやすいのは法定外福利費の方です。正しく計上できれば損金算入でき、従業員の所得税も非課税になる一方、要件を外れると給与課税の対象に変わります。これが基本です。
参考:国税庁タックスアンサー「No.5261 交際費等と福利厚生費との区分」では、交際費と福利厚生費の境界線が具体的に示されています。
国税庁 No.5261 交際費等と福利厚生費との区分(令和7年4月1日現在)
福利厚生費として非課税扱いにするには、国税庁の見解をもとにした3つの要件をすべて満たすことが必要です。この3点が条件です。
① 機会の平等性:全従業員を対象にしていること
特定の部署・役職・役員だけを対象にした福利厚生は認められません。国税庁も「全従業員を対象としていない場合は福利厚生費に該当しない」と明記しています。たとえば「管理職限定のジム補助」や「役員専用の保養施設」は、一見福利厚生に見えても給与課税の対象になる可能性があります。厳しいところですね。
社員全員が自由に参加・利用できる設計になっているかどうかが、まず最初の確認ポイントです。
② 金額の妥当性:社会通念上、相当な金額であること
「金額に明確な上限はない」と思われがちですが、社会通念上相当な金額を超えると否認されます。たとえば社員3人の会社が1泊2日の社員旅行に1人50万円を支出したような場合は、まず通りません。金額の妥当性は企業規模・業種・従業員数などを総合的に見て税務署が判断します。
具体的な目安が示されているケースもあります。たとえば社員旅行の会社負担は「1人あたり10万円程度」、食事補助の会社負担は「月額3,500円以下(2026年4月以降は7,500円以下に改正予定)」といった目安があります。
③ 換金性のない現物給付であること
現金・商品券・プリペイドカード・Amazonギフトカードのように「換金できるもの」を支給した場合は、国税庁の見解では原則として給与扱いになります。福利厚生は「物やサービスで提供する」のが基本ルールです。
以下は非課税となる主な福利厚生費と、その条件をまとめた一覧です。
| 項目 | 非課税になる条件 |
|---|---|
| 社員旅行 | 4泊5日以内・全社員50%以上参加・会社負担1人10万円程度以内 |
| 食事補助 | 従業員負担が食事代の50%以上・会社負担が月3,500円以下(2026年4月より7,500円以下予定) |
| 健康診断・人間ドック | 全従業員が受診できる・医学的に健康管理上必要と認められる内容 |
| 慶弔見舞金 | 一定の支給基準があり、全従業員に公平に適用されている |
| 社宅の提供 | 従業員から賃貸料相当額の50%以上を徴収している |
参考:弥生株式会社のページでは、福利厚生費として認められる具体例と認められないものを一覧でわかりやすく整理しています。
弥生「福利厚生費とは?経費を計上する要件や具体例などを解説」
「善意のつもりが給与課税に」というパターンは、中小企業でも大企業でも起きます。具体的なNGケースを見ておきましょう。
NG例1:商品券・ギフトカードの支給
全社員への感謝として1万円の商品券を配布した場合、これは原則として給与課税の対象です。商品券は現金と同じ換金性を持つため「現物給付」とは認められません。従業員の所得税・住民税が増加し、会社は源泉徴収漏れになります。国税庁の質疑応答事例(「創業50周年を記念して従業員に支給した商品券」)でも、「記念品に代えて支給する金銭については、給与等として課税の対象になる」と明記されています。
これは使えそうな知識ですね。
NG例2:社員旅行の参加率が50%未満
部署旅行や有志だけの慰安旅行を福利厚生費として計上しているケースがあります。国税庁(No.2603)は「旅行に参加した人数が全体の人数の50パーセント以上であること」を要件の一つとして明示しています。参加率が50%を下回った場合は、参加者全員が旅行費用相当額の給与を受け取ったとして課税されます。
また、不参加者に金銭を支給した場合は、参加者・不参加者の全員に給与課税が発生するという点も見落としがちです。痛いですね。
NG例3:役員だけ・特定部署だけの飲食・旅行
役員だけで行う飲食や旅行は、国税庁(No.2603注2)でも「ここにいう従業員レクリエーション旅行には該当しない」と明記されており、給与または交際費として処理しなければなりません。「社員旅行」の名目でも実態が役員のみであれば否認されます。
NG例4:実態が私的な利用
帳簿に「福利厚生費」と記載していても、実際には役員の家族旅行や私的な飲食を計上していた場合、税務調査で指摘されると役員給与の損金不算入・所得税・延滞税のトリプル課税が待っています。名目ではなく実態で判断されるのが原則です。
参考:国税庁タックスアンサー「No.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行」には、課税・非課税の判断基準が具体的な事例つきで解説されています。
国税庁 No.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行(令和7年4月1日現在)
食事補助は、中小企業でも導入しやすい代表的な福利厚生の一つです。しかし非課税になるには厳格な条件があります。
現行(2026年3月まで)の非課税要件は以下の2つをどちらも満たすことです。
たとえば月の食事総額が7,000円(税抜)の場合、従業員が3,500円以上を負担し、会社負担が3,500円以下であれば非課税です。この2つが条件です。一方、会社が食事代を現金で渡す「食事手当」の形にすると、深夜勤務者への特例(1食300円以下)を除き全額が給与課税の対象になります。
そして2026年4月1日からは状況が変わります。令和8年度税制改正大綱(令和7年12月26日閣議決定)により、この非課税上限が約42年ぶりに月額3,500円から月額7,500円へ引き上げられる予定です。国税庁も改正予告ページを公開しており、2026年4月1日以降に支給する食事補助から適用されます。
改正後は1人あたり年間最大9万円(7,500円×12ヶ月)の食事補助が非課税で提供できるようになります。これは使えそうです。仮に30人の会社であれば、年間270万円分の食事補助を給与課税なしで提供できる計算です(東京ドームの面積が約4.7万㎡、30人の会社の年間節税効果はそれ相当の経営インパクトを持ちます)。
この改正を機に食事補助制度を新しく導入・見直す動きが広がっています。食事補助サービスや社員食堂の利用補助制度と組み合わせることで、給与を上げずに実質的な手取りを増やせるため、採用競争力の強化にもつながります。
参考:国税庁「食事の現物支給に係る所得税の非課税限度額の引上げについて」では、2026年4月1日以降の改正内容が公式に告知されています。
国税庁「食事の現物支給に係る所得税の非課税限度額の引上げについて」
経費処理で迷いやすいのが「これは福利厚生費か、交際費か、それとも給与か」という判断です。費目を間違えると法人税の計算に影響したり、従業員への課税関係が変わったりします。結論は「誰のための支出か」で決まります。
| 勘定科目 | 誰のための支出か | 損金算入 | 従業員課税 |
|---|---|---|---|
| 福利厚生費 | 全従業員(社内) | 全額OK | 要件内は非課税 |
| 交際費 | 取引先・得意先(社外) | 制限あり | 対象外 |
| 給与・賞与 | 特定の従業員・役員への対価 | 原則OK | 課税対象 |
| 会議費 | 業務上の打合せ・会議(1人1万円以下) | 全額OK | 対象外 |
たとえば全従業員参加の忘年会は福利厚生費ですが、取引先も招いた忘年会は交際費になります。「おおむね全員参加」の運動会は福利厚生費、「役員と一部幹部だけの慰労会」は役員給与に近い扱いです。
交際費は、中小企業(資本金1億円以下)の場合、年間800万円までは損金算入できますが(令和6年4月以降)、それを超えると法人税の課税対象になります。一方、福利厚生費は要件を満たせば全額損金算入なので、節税効果という意味でも適切な振り分けが重要です。
よくある判断ミスを避けるためのチェックポイントは3つです。
「どの勘定科目に当てるべきか迷う」という場面は、税務調査のリスクが高まるポイントでもあります。グレーな支出が複数ある場合は、税理士に事前相談して処理方針をルール化しておくことが、将来の追徴課税を防ぐための最も確実な手段です。
参考:MoneyForward Bizのページでは、福利厚生費が課税・非課税になる条件をケース別に詳しく解説しています。
マネーフォワード「福利厚生費に所得税はかかる?課税・非課税の条件をケース別に解説」
一般的な解説記事では触れられにくいポイントがあります。それは「福利厚生費は給与の代替として活用できる」という財務・節税上の視点です。
給与を1万円増額した場合と、福利厚生費として1万円分のサービスを提供した場合では、会社・従業員双方のコストが変わります。
給与を1万円上げると、会社側は社会保険料(事業主負担:約15%)が追加でかかります。従業員側も所得税・住民税・社会保険料(本人負担)が増えるため、手取りの増加分は1万円より少なくなります。
一方、要件を満たした福利厚生費として1万円分を提供した場合、会社側の追加社会保険料はゼロ。従業員の所得税・住民税も非課税のままです。実質的な経済効果は、給与増額より大きくなります。これは使えそうです。
たとえば食事補助月7,500円(2026年4月改正後)を30人の会社で導入した場合、年間270万円分の経済的利益を従業員に提供しながら、会社の社会保険料負担の増加はゼロです。仮に同額を給与で支給した場合、会社の社会保険料追加負担だけでも年間約40万円以上になります。
実際の数字は会社規模・業種・導入する福利厚生の種類によって変わりますが、「節税」と「従業員満足度向上」を同時に実現できる手段として、福利厚生費の活用は財務戦略の一環です。
金融・会計に興味がある方であれば、「損金算入できる支出の最大化」という視点でこの制度を捉えると、より実践的な知識として活用できます。
また、福利厚生費の活用で注意すべきなのは「証拠書類の整備」です。支給基準・対象者・金額の記録、行事であれば出席者名簿や写真・議事録まで、すべてが税務調査での「証拠」になります。制度を設計するだけでなく、運用記録を残しておくことが否認リスクを最小化する実務上の鍵です。証拠書類の整備が最終的な防衛策です。
参考:国税庁「No.2594 食事を支給したとき」には、食事補助の非課税要件が公式に明示されています。
国税庁 No.2594 食事を支給したとき(令和7年4月1日現在)