

中退共の掛金を「未払金」で計上しても、損金算入はできません。
中退共(中小企業退職金共済)の掛金を支払ったとき、どの勘定科目を使えばよいか迷う担当者は少なくありません。結論から言うと、最も一般的に使われているのは「福利厚生費」です。
福利厚生費が選ばれる理由は明確です。中退共の掛金は従業員の退職金を積み立てるための制度であり、従業員の福祉向上を目的としたコストであることから、福利厚生費として分類するのが実態に合っています。一般的な仕訳は以下のとおりです。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 福利厚生費 | 例:100,000円 | 普通預金 | 100,000円 |
「保険料」や独自に設けた「退職共済掛金」という科目を使う会社も実在します。実は、法令上は勘定科目の名称に特別な指定はありません。中退共の公式資料でも「中小企業退職金共済掛金などの科目を設けて損金勘定に計上してください」と案内されており、科目名よりも内容の正確性が重視されています。
ただし、これが重要な点です。一度決めた勘定科目は必ず継続して使用することが原則です。科目を途中で変更すると決算書の比較可能性が損なわれ、税務調査の際に説明を求められる場合もあります。迷ったときは「福利厚生費」を選んでおけば、まず問題はありません。
なお、NPO法人や公益法人など一部の団体では「退職給付費用」として統一するよう指導されているケースがあります。これは法人の性質によって会計基準が異なるためで、一般的な営利法人とは処理のルールが変わります。自分の法人形態を確認してから判断するのが大切です。
中退共の公式FAQページには税法上の取り扱いが明記されています。
掛金は税法上どのように取り扱われますか?|中退共 公式Q&A
中退共の掛金を入力するとき、消費税の区分で迷う担当者も多いです。正解は「非課税取引」です。
消費税法上、中退共の掛金は「資産の譲渡等の対価」には該当しないと整理されています。つまり、モノやサービスへの対価ではなく、退職後の生活保障を目的とした制度的な拠出であるため、消費税の課税対象から外れます。これは生命保険料と同じ位置づけです。
ここで誤りが起きやすいのは「不課税」と「非課税」の混同です。どちらも消費税がかからない点は同じですが、税務処理上の区分としては「非課税仕入」として入力するのが正確です。
非課税が原則です。課税区分の誤りは、消費税の申告額に直接影響が出ることもあります。特に本則課税を採用している会社では個々の取引の課税・非課税判定が仕入税額控除の計算に影響するため、正確な区分の入力が不可欠です。簡易課税を採用している場合は仕入税額控除の影響は小さいですが、それでも正確な記帳習慣を持つことが重要です。
弥生会計などの会計ソフトでは「保険料」科目で入力し、税区分を「非課税仕入」に設定する方法が推奨されています。勘定科目と税区分の両方を正しく設定することが、正確な帳簿を作るうえで欠かせません。
中小企業退職金共済(中退共)を支払ったときの仕訳は?|弥生会計サポート
掛金を損金算入するうえで、もっとも注意したいポイントがここです。
法人税基本通達9-3-1は、中退共の掛金について「現実に納付または払込みをしない場合には、未払金として損金の額に算入することができない」と明記しています。つまり、決算月に「今月分を未払計上しておいて損金にしよう」という処理は、税務上は認められないのです。
たとえば、3月決算の法人が3月分の掛金を4月に引き落とした場合、その掛金を3月期の損金として計上することはできません。実際に口座から引き落とされた4月が属する事業年度の損金になります。これは「退職金をなるべく早く損金に落としたい」と考えている経営者や経理担当者には見落としがちな落とし穴です。
痛いですね。資金繰りの都合で支払いを翌月にずらすと、損金算入できる期がひとつずれるだけでなく、申告調整が必要になることもあります。
具体的にはこう考えるとわかりやすいです。たとえば掛金が月3万円・従業員10名の場合、1か月分の掛金合計は30万円になります。この30万円を3月期の損金にするには、3月31日までに実際の支払いが完了していることが必要条件です。
一方で、掛金を前納した場合は「支払いをした日の属する事業年度」の損金に算入できます。前納はまとめて支払うため、実際の支払日が確認しやすく、損金算入の時期を誤るリスクが低くなります。前納の活用は経理処理の正確性を上げる面でも有効です。
法人税基本通達9-3-1 退職金共済掛金等の損金算入の時期|税務研究会
中退共は「従業員の退職金制度」です。だからこそ、役員の取り扱いに注意が必要です。
法人の役員は原則として中退共への加入資格がありません。代表取締役や副社長・専務・常務などの職位を持つ役員は被共済者にはなれないと、中退共のQ&Aで明示されています。もし誤って役員を被共済者として登録し掛金を支払っていた場合、その掛金分は損金として認められないリスクがあります。
ただし「使用人兼務役員」については例外があります。支店長・工場長・部長など使用人としての職制上の地位を持ち、実態として労働者的性格が強いと認められる場合は、引き続き中退共に加入できます。この判断は見た目の肩書ではなく、実際の勤務実態と雇用関係の有無によって決まります。
つまり条件が重要です。使用人兼務役員として認められるためには、①使用人としての職制上の地位があること、②常時その職務に従事していること、③従業員として賃金の支給を受けていること、という3つの条件をすべて満たす必要があります。
会計処理の観点から見ると、役員に対して支払った掛金が損金否認されると、法人税の申告でそのぶんを加算調整しなければならなくなります。誤った加入を続けていると、後から多額の税務調整が発生する可能性があります。採用時や役員就任時に加入資格を確認する仕組みを社内に作っておくことが、最善の対策です。
従業員が役員になった場合はどうすればいいですか?|中退共 公式Q&A
中退共の最も優れた特徴のひとつは、退職時の会計処理の簡便さです。
従業員が退職して退職金を受け取るとき、中退共では退職金が会社を通さず直接従業員に支払われます。従業員が自ら中退共に請求手続きを行い、中退共事業本部から直接振り込まれる仕組みです。そのため、会社側に退職時の仕訳処理は原則不要です。
これは使えそうです。一般的な退職金制度では、退職時に「退職給付引当金の取り崩し」「退職金の支払い」「源泉徴収税の処理」など複数の仕訳が発生します。中退共を利用していれば、その煩雑な処理をすべて省略できます。経理コストの削減につながる、見落とされがちなメリットです。
また、新規加入時の国からの助成制度も経理面で見逃せません。新規加入した事業主には、加入後4か月目から1年間にわたり、掛金月額の2分の1(従業員1人あたり上限5,000円)が国から助成されます。この助成金は掛金の支払額から差し引かれた形で精算されるため、会計処理では助成後の実負担額を福利厚生費として計上する形になります。
さらに、月額18,000円以下の掛金を増額する場合にも、増額分の3分の1が1年間助成されます。掛金が月額20,000円以上への変更は助成対象外になるため、増額のタイミングは18,000円以下の段階で行うことが節税・助成の両面から有利です。
これらの助成を受ける際、会社が実際に支払う金額(助成後の実額)が損金に算入できる金額となります。助成分を含む全額を損金計上してしまうと過大計上になるため、精算状況を確認したうえで仕訳額を決定することが大切です。