圧縮記帳とは補助金で使える課税繰り延べ制度

圧縮記帳とは補助金で使える課税繰り延べ制度

圧縮記帳とは補助金にかかる課税を繰り延べる制度

補助金をもらっても、税金で3割近く持っていかれる事実を知っていますか?


📋 この記事の3ポイント要約
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圧縮記帳は「節税」ではなく「課税の繰り延べ」

補助金にかかる税金が免除されるわけではなく、支払いを将来年度に先送りする制度です。トータルの納税額は変わりません。

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個人事業主は圧縮記帳を使えない

圧縮記帳は法人税法の制度です。個人事業主は「国庫補助金等の総収入金額不算入」という別制度を使う必要があります。

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有形固定資産の取得にしか使えない

人件費・外注費・技術導入費など「経費」に使った補助金には圧縮記帳を適用できません。固定資産の購入が条件です。


圧縮記帳とは何か?補助金が「課税対象」になる理由から理解する

国や自治体から補助金を受け取ると、多くの人は「もらったお金だから非課税」と考えがちです。しかし補助金は原則として法人税の「益金」に算入され、課税所得を押し上げます。たとえば300万円の補助金を受け取った場合、法人税率を約30%とすると、約90万円が税金として消えてしまう計算になります。せっかくの補助金が、実質的に210万円の手取りになってしまうわけです。


そこで国が設けたのが「圧縮記帳」という制度です。補助金交付の本来の目的は設備投資の後押しであり、その恩恵を課税によって薄めないようにするための配慮として、法人税法第42条に規定されています。


圧縮記帳が原則です。補助金を使って取得した固定資産の帳簿価額を減額し、「圧縮損」という経費を計上することで、受け取った補助金の収益相殺できます。この結果、補助金を受け取った初年度の課税所得がほぼゼロになるため、多額の法人税を一度に支払わなくて済みます。


ただし、強調しておきたい重要な点があります。圧縮記帳は税金そのものを免除する制度ではありません。あくまで「支払いを翌年度以降に分散させる繰り延べ」です。固定資産の帳簿価額が圧縮された分、翌年度以降の減価償却費が少なくなり、その分だけ課税所得が増えていきます。つまり、最終的にトータルで支払う税金の総額は変わりません。


比較項目 圧縮記帳あり 圧縮記帳なし
取得初年度の税負担 🟢 軽くなる 🔴 重くなる
翌年以降の減価償却費 🔴 少なくなる 🟢 多くなる
トータルの納税額 🟰 変わらない 🟰 変わらない
キャッシュフローへの効果 🟢 初年度に余裕が生まれる 🔴 初年度に資金が逼迫しやすい


圧縮記帳の最大の価値は「キャッシュフローの平準化」にあります。設備投資直後で資金が手薄になりやすいタイミングで、多額の法人税支払いを回避できることが、中小企業にとって大きなメリットです。


参考:法人税法第42条(国庫補助金等で取得した固定資産の圧縮記帳)については国税庁の公式ページで確認できます。


国税庁|第2節 国庫補助金等で取得した資産の圧縮記帳(法人税法基本通達)


圧縮記帳の適用要件と補助金の対象範囲を確認する

圧縮記帳を使いたいと思っても、すべての補助金・すべての法人が使えるわけではありません。まず大前提として、圧縮記帳は法人税法上の制度であるため、個人事業主は利用できません。これは意外に知られていないポイントです。個人事業主が同様の恩恵を受けるには、所得税法第42条に規定される「国庫補助金等の総収入金額不算入」という別制度を使う必要があります。


法人が圧縮記帳を適用するには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。


  • 📌 圧縮限度額の範囲内で、損金経理による減額・積立金への計上などの適切な経理処理を行うこと
  • 📌 確定申告書に圧縮記帳経理額の損金算入に関する明細書を添付すること
  • 📌 清算中の法人でないこと


圧縮記帳が必須です、というわけではなく、適用は任意です。ただし、「使えたのに使わなかった」では大きな機会損失になります。


次に、どんな補助金に圧縮記帳が使えるかです。圧縮記帳の対象となる国庫補助金は、以下の条件を同時に満たすものに限られます。


  • ✅ 固定資産の取得または改良に充てるためのもの
  • ✅ 返還が不要であることが確定しているもの
  • ✅ 国・地方公共団体から交付されるもの(民間からの補助金は対象外)


補助金が条件です。人件費・外注費・コンサルティング費用など「経費」に充てる補助金には圧縮記帳を適用できません。技術導入費や専門家経費も対象外です。この点は非常に重要で、補助金の用途によって圧縮記帳が使えるかどうかが変わります。


近年活用されている主な補助金で、固定資産取得に使う分については対象になるものとして以下が挙げられます。


  • 🏭 ものづくり補助金(機械設備の取得に充てる分)
  • 💻 IT導入補助金(ソフトウェア等の固定資産取得に充てる分)
  • 🏢 事業再構築補助金(設備・建物の取得に充てる分)
  • 🛒 小規模事業者持続化補助金(固定資産取得に充てる分)


なお「返還不要の確定」タイミングについても注意が必要です。交付決定の通知を受けた時点で返還不要が確定したと判定されるケースが一般的ですが、補助金の種類によって異なります。補助事業の完了報告・精算後に確定通知が来る場合は、その通知日が基準となります。


圧縮記帳の仕訳方法:直接減額方式と積立金方式の違い

圧縮記帳の処理方法は大きく2種類あります。それぞれ特徴が異なり、自社の状況に合った方を選ぶことが重要です。


①直接減額方式


固定資産の帳簿価額を直接減額する方法です。手続きがシンプルで実務的に多く使われています。以下の具体例で確認してみましょう。


例:600万円の補助金を受け取り、1,600万円の機械装置(耐用年数5年・定額法)を購入した場合


タイミング 借方 金額 貸方 金額
補助金の受取 預金 600万円 国庫補助金収入 600万円
機械装置の購入 機械装置 1,600万円 預金 1,600万円
圧縮損の計上 機械圧縮損 600万円 機械装置 600万円
減価償却(毎年) 減価償却費 200万円 機械装置 200万円


圧縮後の帳簿価額は1,000万円(=1,600万円−600万円)になるため、毎年の減価償却費は200万円(=1,000万円÷5年)です。通常の1,600万円÷5年=320万円より少ないことに注意してください。


②積立金方式


固定資産の取得価額は本来の金額のまま維持し、補助金分を「圧縮積立金」として純資産の部に計上する方法です。企業会計上の取得原価主義の観点からは、こちらのほうが適切とされています。固定資産の帳簿価額をそのまま残したい場合(銀行融資の審査で資産評価を重視する場面など)には、積立金方式が有利なケースもあります。


積立金方式では毎期、圧縮積立金を一部取り崩して益金計上する処理が必要となり、直接減額方式より経理作業が複雑になります。これは厳しいところですね。


比較項目 直接減額方式 積立金方式
経理の手間 🟢 シンプル 🔴 複雑
固定資産の帳簿価額 🔴 圧縮後に減額 🟢 取得価額を維持
減価償却費の計算 圧縮後の価額で計算 元の取得価額で計算
企業会計上の適合性 問題ありとされることも 🟢 取得原価主義に適合


どちらの方式でも、最終的な税負担の総額は同じです。自社の会計処理の方針や、融資・決算書の見せ方を踏まえて税理士と相談しながら選択することをおすすめします。


参考:freee公式による圧縮記帳の仕訳方法の詳細解説はこちらを参考にしてください。


freee|圧縮記帳とは?適用要件やメリット、仕訳方法などを解説(公認会計士・税理士 監修)


圧縮記帳の見落とされがちな3つのデメリットと注意点

圧縮記帳には多くのメリットがありますが、理解不足のまま適用すると後で予期せぬ税負担を生む可能性があります。代表的な落とし穴を3つ押さえておきましょう。


デメリット① 翌年以降の減価償却費が減り、課税所得が増える


圧縮記帳によって固定資産の帳簿価額を下げると、翌年以降の減価償却費がその分少なくなります。減価償却費は損金(経費)として課税所得を下げる効果がありますが、その効果が毎年小さくなるということです。意外ですね。


先ほどの例でいえば、圧縮記帳なしで1,600万円の機械を購入した場合の減価償却費は年間320万円ですが、圧縮記帳後は年間200万円になります。毎年120万円分だけ「経費として使える金額が少なくなる」ことを意味します。


デメリット② 税額控除の対象金額が圧縮後の取得価額になる


中小企業向けの税額控除特例(中小企業投資促進税制など)と圧縮記帳は原則として「併用可能」ですが、注意点があります。税額控除の計算対象となる取得価額は、圧縮記帳後の価額になります。


たとえば500万円の補助金を使って1,500万円の機械を取得した場合、圧縮記帳を適用すると税額控除の対象は1,000万円(=1,500万円−500万円)になります。中小企業投資促進税制の税額控除率7%を掛けると控除額は70万円です。これを1,500万円のまま計算した場合(105万円)と比べると、35万円も差が出ます。これは痛いですね。


デメリット③ 途中売却で思わぬ大きな売却益が出る


圧縮記帳を適用した固定資産を耐用年数の途中で売却した場合、帳簿価額が圧縮されている分だけ「売却益(簿価との差額)」が大きくなります。その年度に多額の課税所得が発生し、思わぬ税金を支払うことになる可能性があります。


売却を検討する場合は必ず事前に税理士へ相談することが条件です。


参考:圧縮記帳の落とし穴について、実務目線での解説はこちらが参考になります。


筒井税理士事務所|補助金もらって浮かれちゃだめよ 圧縮記帳の落とし穴


圧縮記帳を使うべき場面と、使わない方が有利になるケース【独自視点】

「圧縮記帳は必ずしも使った方が得とは限らない」という視点は、あまり語られません。結論は、状況によって判断が分かれます。


使うべき場面:初年度の資金繰りが最優先の中小企業


補助金を活用して設備投資を行った直後は、資金が一番手薄になるタイミングです。ものづくり補助金や事業再構築補助金では、数千万円規模の設備を導入するケースも珍しくなく、その年に数百万円の法人税がかかると資金繰りが一気に苦しくなります。圧縮記帳なしで事業再構築補助金3,000万円を受け取った場合、法人税率30%で計算すると約900万円が当期の税負担に上乗せされます。これを翌年以降に分散できる圧縮記帳は、中小企業にとって強力な資金繰り支援策です。


使わない方が有利になるケース:将来の増税リスクを考慮する場合


実はこの判断は非常に繊細です。現在の法人税率より将来の法人税率が上がる見通しがある場合、圧縮記帳によって課税を繰り延べることは、むしろ将来に重い税負担を先送りすることになります。日本では法人税の実効税率が長期的に変動しており、税率上昇のリスクがある局面では「今すぐ払っておく」選択肢も検討に値します。


また、向こう数年間で赤字が見込まれる場合も考え方が変わります。赤字の年度は課税所得がゼロになるため、せっかく繰り延べた課税も無駄になるケースがあります。これなら問題ありません、というケースではありません。


圧縮記帳の適用判断チェックリスト


  • ☑️ 設備取得初年度のキャッシュが不足しそうか?
  • ☑️ 翌数年間は安定して利益が出る見通しか?
  • ☑️ 税額控除の特例と合わせてどちらが得か計算したか?
  • ☑️ 取得した資産を長期保有する予定か(途中売却リスクはないか)?
  • ☑️ 税理士と最適な会計処理方針について確認したか?


補助金の採択が決まった段階で、税理士への相談を早めに行うことが最重要です。「補助金をもらってから考える」では遅い場合があります。とくに補助金の交付決定と固定資産の取得が別の事業年度にまたがる「期ずれ」が生じるケースでは、圧縮限度額の計算方法が変わるため、事前の確認が必須になります。


会計処理が複雑になる場合は会計ソフトの活用を


圧縮記帳の仕訳・積立金の取り崩し・毎年の減価償却費の管理は、手作業で行うとミスが起きやすい領域です。freee会計やマネーフォワードクラウド会計などのクラウド会計ソフトは固定資産管理機能を標準搭載しており、減価償却費の自動計算にも対応しています。圧縮記帳の管理も含めて一元化できると、経理処理の負担を大幅に減らせます。


参考:国庫補助金の圧縮記帳に関する国税庁の公式見解はこちらで確認できます。


国税庁|No.5607 圧縮記帳(国庫補助金等で固定資産を取得した場合)