

別表13を添付し忘れただけで、数百万円の税負担が一気に発生します。
国庫補助金等の交付を受けて固定資産を取得した場合、その補助金は本来であれば法人税の課税対象となる益金に算入されます。しかし、これをそのまま課税してしまうと、補助金で設備投資を後押しするという国策の効果が著しく薄れてしまいます。そこで法人税法第42条は、一定の要件を満たした場合に限り、補助金相当額の課税を将来へ繰り延べる「圧縮記帳」を認めています。
圧縮記帳とは、節税ではありません。これが重要な前提です。補助金受給年度の税負担を軽くする代わりに、固定資産の取得価額が引き下げられるため、その後の減価償却費も少なくなります。結果として、トータルで支払う税額は変わらず、あくまで「課税の繰り延べ」にすぎないということです。
この圧縮記帳を法人税の確定申告で適用するためには、申告書に「別表13」を添付することが法律上の必須要件とされています。別表13は全部で9種類(別表13(1)〜(9))存在しており、国庫補助金の圧縮記帳には「別表13(1)」を使用します。この明細書には、補助金の名称・交付者・交付年月日・交付金額、取得した固定資産の詳細、圧縮限度額の計算過程などを記載します。
つまり、会計帳簿の上で圧縮処理を行っていても、確定申告書に別表13(1)を添付していなければ、その圧縮記帳は税務上認められないのです。これは非常に重要な点で、申告漏れが発覚した場合には過少申告加算税(10〜15%)が課せられる可能性もあります。別表添付は「あってもなくても同じ」ではなく、圧縮記帳適用の絶対条件です。
国税庁タックスアンサー|No.5600 国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮記帳(国税庁公式)
別表13(1)は、「国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮額等の損金算入に関する明細書」として、上段・中段・下段の3つのブロックに分かれています。補助金で固定資産を取得した一般の法人が記載するのは上段のみです。中段は電気・ガス・水道などの工事負担金、下段は非出資組合の賦課金に対応する欄であるため、通常の補助金申告では上段だけ記入すれば足ります。
記入の流れは次のとおりです。まず欄①〜⑤には、補助金の名称(例:「事業再構築補助金」「ものづくり補助金」)、交付者(「国(中小企業庁)」「○○県」など)、交付を受けた年月日、交付を受けた金額、そして補助金で取得した固定資産の取得価額を記載します。
続いて「帳簿価額の減額等をした場合」の欄(⑥〜⑮)では、圧縮損として経理した金額や圧縮限度額の計算を行います。圧縮限度額は、原則として「固定資産の取得等に充てた国庫補助金の額」がそのまま上限となります(法人税法第42条)。たとえば3,000万円の機械を購入するために2,000万円の補助金を受けた場合、圧縮限度額は2,000万円です。
特に注意が必要なのは、固定資産を先行取得してから翌事業年度に補助金が交付確定した場合です。この「期ずれ」ケースでは、圧縮限度額の計算に調整が必要になります。具体的には「(固定資産の帳簿価額-既償却額)×(補助金額÷取得価額)」という算式で圧縮限度基礎額を求め、その金額が限度額となります。たとえば、5,000万円のソフトウェアを先行取得して250万円の減価償却後に2,500万円の補助金が確定した場合、圧縮限度額は(5,000万円-250万円)×(2,500万円÷5,000万円)=2,375万円となります。
欄⑬には圧縮限度超過額(経理した圧縮額が限度額を超えた分)、欄⑮には取得価額に算入しない金額(先行取得の調整後の圧縮額)を記載します。圧縮限度超過額が発生すると、その分は損金算入が認められず別表4で加算調整が必要になるため、限度額の計算は丁寧に行いましょう。
圧縮記帳の経理方法には「直接減額方式」と「積立金方式」の2種類があります。別表13(1)の記載内容自体は両方式で大きく変わりませんが、別表4(所得の金額の計算に関する明細書)や別表5(1)(利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書)への申告調整の要否が大きく異なります。これが実務上の最大のポイントです。
直接減額方式の場合は、会計上で固定資産の帳簿価額を直接減額し、同額を「固定資産圧縮損」として損益計算書に計上します。会計上と税務上の帳簿価額が一致するため、別表4・別表5(1)への追加の申告調整は原則として不要です。処理がシンプルであり、中小企業に多く採用されます。ただし、減価償却の基礎となる取得価額が圧縮後の金額(上記の例では1,000万円)になるため、毎期の減価償却費が少なくなる点に注意が必要です。
積立金方式の場合は、固定資産の帳簿価額を減額せず、補助金相当額を「圧縮積立金」として純資産の部に計上します。会計上の損益には圧縮損が現れないため、税務上は別表4で圧縮損相当額を減算し、同額を別表5(1)で調整するという申告調整が毎期必要になります。さらに、会計上は取得原価(3,000万円)を基礎に減価償却するため、毎期の減価償却費が大きくなり、その分の償却超過額が別表4・別表16にも波及します。処理は複雑ですが、財務諸表上に固定資産の実態が正確に反映されるという利点があり、上場企業や大企業では一般的な方式です。
以下に両方式の課税所得の比較を示します(補助金2,000万円、機械装置3,000万円・耐用年数10年・定額法の例)。
| 圧縮記帳なし | 直接減額方式 | 積立金方式 | |
|---|---|---|---|
| 会計上の当期利益 | 1,700万円 | △100万円 | 1,700万円 |
| 税務上の課税所得 | 1,700万円 | △100万円 | |
| 別表4の調整 | 不要 | 必要(毎期) |
こういうことですね。どちらの方式でも税務上の課税所得は同じです。選択の際は「処理のシンプルさ(直接減額)」か「財務諸表の正確さ(積立金)」かという観点で判断するとよいでしょう。
TKC全国会コラム|補助金と圧縮記帳〜会計処理と税務調整(税理士・吉田公彦氏の詳細解説)
補助金を受けて固定資産を取得した場合でも、事業年度末日までに補助金の「返還を要しないことが確定」していなければ、その年度に圧縮記帳を適用することができません。これが実務でよく起きる「期ずれ」問題です。
この問題に対処するのが「特別勘定」の制度です(法人税法第43条)。期末までに返還不要が確定しない補助金については、いったん「国庫補助金等特別勘定」として計上しておき、翌事業年度以降に確定した段階で圧縮記帳を行うことが認められています。特別勘定は負債の部に計上され、その金額が繰入限度額(補助金を充てて取得しようとする金額)の範囲内であれば損金算入が可能です。
別表13(1)における特別勘定の記載は下段の欄(⑯〜㉕)で行います。まず⑯欄に特別勘定に経理した金額(当期計上額+前期繰越額)を記載し、⑰欄に繰入限度額を記載します。⑰の限度額を超えた部分は⑱欄の繰入限度超過額として損金不算入になります。㉔欄には翌期への繰越額を記載します。
翌事業年度に補助金が確定・入金されたら、特別勘定を取り崩すとともに圧縮記帳を行い、再度別表13(1)の「帳簿価額の減額等をした場合」の欄に記入します。つまり、特別勘定を使う場合は2年度にわたって別表13(1)の作成が必要になるということを覚えておけばOKです。
近年は事業再構築補助金やIT導入補助金のように、採択から入金まで半年〜1年以上かかるケースが珍しくなく、この特別勘定を使う場面が増えています。「今年補助金の申請が採択されたが、入金は来年になりそうだ」という状況であれば、特別勘定の設定を忘れずに検討しましょう。特別勘定の繰入を失念した場合、補助金全額が当期の益金に算入され、多額の法人税が一括課税されるリスクがあります。
圧縮記帳を適用するための別表13(1)の添付は必須です。しかし実務では、担当者の失念・税理士との連携不足・決算作業の混雑などを原因として、添付漏れが起きることがあります。では、添付漏れが発覚した場合はどうなるのでしょうか?
結論から言うと、後から別表を提出・補完しても圧縮記帳が認められない可能性が極めて高いです。名古屋高等裁判所の判例(税務訴訟資料第261号-126)では、申告時に交換特例明細書(別表)の添付を失念した法人が「やむを得ない事情」を主張しましたが、裁判所はこれを認めず、過少申告加算税の賦課処分が妥当と判断しています。つまり、うっかりミスは「やむを得ない事情」にはあたらないのです。
過少申告加算税の税率は、新たに納めることになった税額の10%(50万円超の部分は15%)です。仮に圧縮記帳が認められなかったことで追加納税額が1,000万円となれば、過少申告加算税だけで100万円以上の出費が確定します。痛いですね。これは圧縮記帳を適用する資産の規模が大きいほどリスクが増大する話です。
添付漏れを防ぐための実践的な対策を3点挙げます。
また、圧縮記帳は「申告時に適用するかどうかを選択できる」制度ですが、補助金収入が大きいほどその効果も大きくなります。たとえば2,000万円の補助金について圧縮記帳を適用すれば、実効税率30%として約600万円分の納税を翌期以降に繰り延べられます。これは資金繰りに非常に有利です。適用を見落とすことは大きな損失につながるため、補助金を受ける予定がある場合は事前に圧縮記帳の可否を必ず確認するようにしましょう。
マネーフォワード クラウド会計|圧縮記帳で別表の添付漏れがあったらどうすればよい?課税のリスクや対処の仕方を解説
ここでは、別表13の実務運用において比較的見落とされがちな論点を取り上げます。
❓ 1件の補助金で複数の固定資産を取得した場合、別表13(1)は何枚必要か?
圧縮記帳は取得した固定資産ごとに圧縮額を計算するため、原則として資産の数だけ別表13(1)を作成するか、1枚の用紙に行を分けて記載します。机1台・机2台のようにまったく同一の資産をまとめることはできますが、異なる種類の資産(たとえば機械装置と構築物)は分けて管理・記載するのが正確な処理です。資産の数が多くなるほど、抜け漏れが起きやすいため注意が必要です。
❓ 償却資産税の申告にも圧縮記帳を反映すべきか?
反映してはいけません。これが意外と知られていない点です。償却資産税(固定資産税の一種)には圧縮記帳の制度がなく、申告は必ず「圧縮前の取得価額」で行う必要があります(地方税法上の財産課税的性格による)。法人税・会計上では1,000万円の固定資産として管理しているのに、償却資産税の申告では3,000万円の資産として扱わなければならないという「二重管理」が発生します。この事実は圧縮記帳のデメリットの一つでもあり、管理する固定資産が多いほど経理担当者の負担が増します。
❓ 補助金に対して圧縮記帳と特別償却を同時に使えるか?
これは「補助金の種類によって異なる」が正解です。法人税法で定められた国庫補助金の圧縮記帳(法法42条)であれば、租税特別措置法上の特別償却や税額控除との併用が可能です。しかし、租税特別措置法で規定された圧縮記帳(収用・特定資産買換)と同じく租税特別措置法上の特別償却・税額控除は、同一法律内の特例の重複適用禁止ルールにより、原則として併用できません。ものづくり補助金などで設備を取得した場合に特別償却も使いたいと思うケースは多いですが、圧縮記帳後の取得価額が特別償却の計算基礎になる点も要注意です。
❓ 中小企業が圧縮記帳を使わない選択肢はあるか?
圧縮記帳は任意適用です。補助金を受けても圧縮記帳をしない選択もできます。その場合、補助金収入に対してその年度に全額課税されますが、固定資産の取得価額は本来の金額のままとなるため、その後の減価償却費が多く計上でき、将来の税負担が軽くなるというメリットがあります。赤字が続いており当期の課税所得がもともと低い場合や、繰越欠損金が十分にある場合などは、圧縮記帳を使わないほうが全体として有利になるケースもあります。単に「補助金が出たから圧縮記帳をする」と自動的に判断するのではなく、自社の税務状況と照らし合わせたうえで判断することが大切です。
マネーフォワード クラウド会計|法人税申告書の別表13とは?見方や書き方、注意点まで解説