

交換特例を使ったのに、不動産取得税と登録免許税は普通に課税されます。
「固定資産の交換の特例チェックシート」は、国税庁が毎年公表している公式の適用判定書類です。所得税法第58条に基づくこの特例を確定申告で利用する際、このチェックシートを申告書に添付して提出することが求められています。
チェックシートは「はい」「いいえ」の選択式で、5〜7のステップに沿って要件を確認できる構成になっています。全ての質問で「はい」が続けば特例適用が可能、途中で「いいえ」になれば適用不可という判定が出る仕組みです。これが原則です。
なお、国税局ごとに微妙に書式が異なる場合がありますが、確認する内容は共通しています。確定申告書には「譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)【土地・建物用】」と合わせて提出が必要です。
令和6年(2025年申告分)以降のチェックシートは、東京国税局・福岡国税局・高松国税局など各局が個別にPDFで公開しています。以下のリンクから最新版を確認できます。
国税庁による交換特例の公式解説(タックスアンサーNo.3502)
No.3502 土地建物の交換をしたときの特例|国税庁
令和6年分の交換特例チェックシートPDFをはじめ、他の特例チェックシートも一覧で確認できるページです。
令和6年分 資産課税(譲渡所得・贈与税)関係チェックシート|高松国税局
チェックシートは一見シンプルに見えますが、各設問には見落としやすいポイントが潜んでいます。順番に整理しましょう。
① 固定資産かどうか
交換する資産は双方とも「固定資産」でなければなりません。不動産業者が販売目的で保有している土地・建物は「棚卸資産」に分類されるため、対象外です。つまり、相手方が不動産業者の場合、特例は使えない可能性が高い点に注意が必要です。
② 所有期間が1年以上かどうか
譲渡する側も取得する側も、それぞれ1年以上継続して所有していることが条件です。ただし、相続・遺贈・贈与で取得した資産の場合は、前所有者(被相続人など)が取得した日から計算できます。つまり、相続直後の土地でも、被相続人が長年保有していれば1年要件をクリアできるケースがあります。これは意外と知られていない点です。
③ 交換目的で取得していないこと
相手方が「この交換のために」新たに取得した資産は対象外です。交換話が持ち上がってから相手方が取得した資産との交換は認められません。これが条件です。
④ 同じ種類の資産かどうか
土地と土地、建物と建物の組み合わせに限られます。「土地と建物」を交換することは原則として認められません。借地権は土地の種類に含まれ、建物附属設備・構築物は建物の種類に含まれます。
⑤ 交換後の用途が同一かどうか
取得した資産を、譲渡した資産の「交換直前の用途」と同じ用途に使わなければなりません。たとえば、宅地として使っていた土地を渡した場合は、取得した土地も宅地として使う必要があります。用途区分(宅地・田畑・山林など)が一致していることが条件です。
⑥ 時価の差額が高い方の20%以内かどうか
これが最も多くの人が見落とす要件です。2,000万円の土地と2,300万円の土地を交換する場合、差額は300万円です。高い方の時価(2,300万円)の20%は460万円なので、この差額300万円は460万円以内に収まり要件をクリアします。しかし差額が460万円を超えると特例が使えません。厳しいところですね。
| チェック項目 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| ① 固定資産か | 棚卸資産は対象外 | 相手が不動産業者なら要確認 |
| ② 所有期間1年以上か | 双方1年以上 | 相続取得は前所有者の期間を引き継ぎ可 |
| ③ 交換目的取得でないか | 交換のために取得した資産はNG | 相手方の取得経緯を確認 |
| ④ 同種資産か | 土地↔土地、建物↔建物 | 土地と建物の混合は不可が原則 |
| ⑤ 同一用途か | 交換後も同じ用途で使用 | すぐ売却・転用は取消リスクあり |
| ⑥ 差額が20%以内か | 高い方の時価の20%以内 | 超過すると特例全体が使えなくなる |
「20%要件」は数値ルールなので明確に見えますが、実務では計算ミスや時価評価のズレによって特例が使えなくなるケースが実際に起きています。痛いですね。
税理士の損害賠償事例として記録されているものに、次のようなケースがあります。法人と個人が共有名義の土地建物の所有権を整理するために交換と売買を組み合わせた取引で、交換差金の額が「いずれか高い方の価額の20%」を超えてしまったため、固定資産の交換の特例の適用が否認されました。これにより圧縮記帳が否認され、固定資産売却益が発生し、想定外の法人税が課税されたという事例です。
この事例からわかることは、「20%要件はシビアである」ということです。鑑定士ごとに評価額が異なるケースもあり、双方の鑑定額に開きがある場合は特に注意が必要です。
交換差金が発生する場合の計算手順は以下のとおりです。
なお、土地と建物をまとめて交換する場合は「土地対土地」「建物対建物」とそれぞれ種類ごとに20%判定を行います。まとめて一括で判定するわけではない点もチェックシートに明記されています。
差額が20%を超えそうな場合は、追加の現金支払いや物件選定の見直しを検討する必要があります。事前に税理士と時価評価について入念に確認しておくことがリスク回避の第一歩です。
詳細な要件と失敗事例のポイントについては、専門家向けの解説もあります。
固定資産の交換ケーススタディ(20%要件・建物付き土地との交換)|三井不動産リアルティ
交換特例は自動で適用される制度ではありません。確定申告をすることが必須です。「申告不要」という誤解が一部に見られますが、これは大きな間違いです。
確定申告で必要な書類は以下のとおりです。
特に「チェックシートを添付すること」は書類要件として明示されています。チェックシートを記入せず申告書だけ提出しても、形式要件を欠くとして特例が認められない可能性があります。書類は必須です。
申告期限は通常、翌年の3月15日(または16日)頃です。令和6年分(2024年分)の申告期限は2025年3月17日でした。期限を過ぎても特例は申告しなければ適用されないため、交換を行った年の翌年は必ず申告スケジュールを確認しておきましょう。
また、チェックシートの最新年分は各国税局のWebサイトからPDFでダウンロードできます。以下のリンクから入手できます。
東京国税局の令和6年分チェックシート一覧ページです。固定資産交換特例のチェックシート(所法58条)も収録されています。
交換特例が適用されると「課税されない」と表現されることが多いですが、これは正確ではありません。正しくは「課税が繰り延べられる」です。つまり将来、交換で取得した資産を売却したときに、まとめて課税されるという仕組みです。これがポイントです。
具体的にどういうことかというと、取得した資産(新所有資産)の取得費は「交換で譲渡した資産(旧所有資産)の取得費」を引き継ぎます。たとえば、旧所有資産を500万円で購入しており、新所有資産の時価が2,000万円だった場合でも、新所有資産の「帳簿上の取得費」は500万円のままになります。将来2,000万円で売却すると、差額1,500万円が譲渡益として課税されます。
売却時の税率は所有期間が5年超であれば長期譲渡所得で約20%(所得税15%+住民税5%)が適用されます。仮に1,500万円の譲渡益があれば、約300万円の税負担が生じる計算です。
| 条件 | 通常の売却(特例なし) | 交換特例適用後に売却 |
|---|---|---|
| 旧所有資産の取得費 | 500万円 | 500万円(引き継ぎ) |
| 売却時の時価 | 2,000万円 | |
| 課税される譲渡益 | 交換時点で1,500万円 | 売却時点で1,500万円 |
| 税負担のタイミング | 交換年の申告時 | 将来の売却年の申告時 |
つまり交換特例は「節税」ではなく「納税の先送り」です。それでも手元資金を温存して資産の組み替えができる点は大きなメリットです。とはいえ、将来の売却計画や相続対策を視野に入れた上で活用しないと、想定外の税負担が生じる可能性があります。
また、交換特例が適用される場合でも、不動産取得税と登録免許税は通常の売買と同様に課税されます。登録免許税は不動産評価額の2%が原則です。たとえば評価額2,000万円の土地であれば40万円の登録免許税がかかります。特例を適用しても「ゼロコストで交換できる」わけではないことを、事前に予算として見込んでおきましょう。
交換特例を活用した相続税対策の具体例や活用方法については以下が参考になります。