

毎年110万円を贈与し続けても、亡くなる前7年分はまるごと相続税の対象になります。
「贈与税の非課税枠がなくなる」という言葉を耳にして、焦った方も多いのではないでしょうか。結論から言うと、2026年2月時点で暦年贈与の110万円基礎控除そのものは廃止されていません。
しかし実態として、制度の「使い勝手」は大きく変わっています。
2024年1月1日以降に行われた贈与から、相続開始前7年以内の暦年贈与は相続財産に加算されるルールが適用されています。改正前は「3年以内」でしたが、これが「7年以内」へと延長されました。つまり、110万円以下の贈与で税金はかからなくても、その贈与者が亡くなる前7年以内に渡したお金は相続税の計算に戻されてしまうということです。
具体的に考えてみましょう。
毎年110万円ずつ親から子へ贈与していたとします。改正前の制度なら、亡くなる3年前までの贈与、つまり3年分(330万円)が相続財産に加算される計算でした。しかし改正後は7年前までさかのぼり、7年分(770万円)が加算対象になります。差額は440万円。この440万円が相続税の計算ベースに加わるわけです。
なお、延長された4年分(4〜7年前)については、総額100万円は加算対象から除外されるという緩和措置があります。そのため正確な加算額は「3年分全額+4年分から100万円を差し引いた額」となります。
まず、110万円の非課税枠はあるが「効き目が薄まった」という理解が正確です。
参考:国税庁「贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4161.htm
暦年課税の非課税枠が今後さらに見直されるかどうかは、引き続き税制改正大綱の動向を注視する必要があります。2021年から2023年にかけて3年連続で「相続税・贈与税の一体化」が税制改正大綱に盛り込まれており、将来的に暦年課税が廃止または大幅縮小される可能性がゼロとは言えません。制度が動く「前」に動くことが鍵です。
廃止が確定している非課税枠があります。それが「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」です。
2026年(令和8年)3月31日をもって、この制度は終了することが決定しています。2013年から続いてきた人気制度がついに幕を閉じます。
この制度の概要をおさらいしておきましょう。祖父母や親(直系尊属)から、30歳未満の子や孫への教育資金の贈与について、最大1,500万円まで非課税になる制度です。ただし受贈者(贈与を受ける人)の前年の合計所得金額が1,000万円以下であることが条件になります。手続きは金融機関に専用口座を開設して行います。
これは使えそうですね。
廃止の背景には「制度が一部の富裕層の節税スキームとして機能してしまっている」という批判があります。子や孫の数に応じてこの非課税枠を繰り返し使えるため、格差の固定化につながるとの指摘がなされ、政府が公平性の観点から終了を決断しました。
この制度の廃止は、関心があっても「まだ先の話」と後回しにしていた方には大きな損失になりえます。2026年3月31日を過ぎると、同じ1,500万円を一括贈与しようとすれば、税率は40〜45%にも達します。非課税で渡せるかどうかで、数百万円単位の差が生まれます。
2026年3月末が期限です。
なお、廃止後の代替策として注目されているのが「暦年贈与」と「相続時精算課税制度の年間110万円基礎控除」の組み合わせです。ただしいずれも一括で大きな金額を渡す手段には向いていないため、複数の手段を組み合わせた長期的な計画が不可欠になります。
参考:令和8年度税制改正大綱(教育資金の一括贈与の非課税措置廃止)
https://ampersand-tax.jp/超速報!令和8年度(2026年度)税制改正大綱を徹底解説!
「相続時精算課税制度」は、2024年の改正で大きく使いやすくなりました。この制度を正しく理解することが、今後の節税戦略の要になります。
改正前の相続時精算課税制度は、「累計2,500万円まで非課税で贈与できる代わりに、全額が将来の相続税に加算される」という仕組みでした。節税というより「課税の先送り」と評されることも多く、積極的に選ぶ理由が薄かった制度です。
これが変わりました。
2024年1月1日以降、相続時精算課税制度を選択した場合でも、年間110万円までは「相続税にも贈与税にも課税されない」基礎控除が新設されました。申告も不要です。つまり、相続時精算課税の110万円は、贈与税がかからないだけでなく、将来の相続税にも加算されない点が暦年贈与の110万円と決定的に異なります。
暦年贈与の110万円は、7年以内に贈与者が亡くなれば相続財産に加算されます。一方、相続時精算課税の110万円は亡くなるタイミングを問わず、相続財産への加算がありません。これは純粋な非課税です。
ただし、注意点が一つあります。
相続時精算課税制度は、一度選択すると取り消しができません。選択後はその贈与者との関係において、永久に暦年課税の110万円基礎控除が使えなくなります。毎年110万円を暦年課税で積み上げていた戦略が、制度変更によって一方的に閉ざされてしまうリスクがあります。
つまり制度選択は慎重に、が基本です。
さらに「小規模宅地等の特例」という相続税の重要な減額措置が使えなくなるケースもあります。相続時精算課税で土地を贈与した場合、その土地は相続税計算時に特例の対象外になることがあるためです。不動産を含む贈与計画の際は、必ず専門家に確認することをおすすめします。
参考:三菱UFJ銀行「相続時精算課税制度とは?メリット・デメリットをわかりやすく解説」
https://www.bk.mufg.jp/soudan/shisan/lp/column/82.html
多くの方が「生前贈与といえば子ども」と考えますが、実は孫への贈与の方が節税効果が高いケースが多いです。意外ですね。
その理由は、持ち戻しルールにあります。
暦年贈与の「7年持ち戻し」ルールは、「相続や遺贈によって財産を受け取る人」が対象です。法定相続人でない孫は原則として相続財産を受け取らないため、生前贈与加算の対象外になります。つまり、亡くなる直前に孫へ110万円を贈与しても、相続税の計算には一切影響しません。
これが原則です。
例外として、孫が「代襲相続人」になっている場合(例:子どもが既に亡くなっていて孫が代わりに相続する場合)や、遺言で孫に財産を遺贈する場合は持ち戻しの対象になります。状況によっては7年ルールが適用されるため、一概に全員が対象外とは言い切れない点に注意が必要です。
それでも大丈夫です。
子への暦年贈与110万円が7年間で計770万円加算されるのに対し、孫への同額の贈与はゼロ加算。同じ110万円を毎年渡しても、渡す相手によって将来の相続税への影響がまるで違います。金融資産が多い方にとって、この差は数十万〜数百万円の節税効果に直結します。
さらに踏み込んだ視点として、孫への贈与は「相続の一世代をスキップ」する効果があります。子から孫に財産が移るときに再び相続税がかかるところを、祖父母から直接孫に渡すことで二重の相続税負担を回避できます。これは財産規模が大きい家族ほど効果が顕著です。
参考:税理士法人レガシィ「孫への生前贈与は7年持ち戻し適用外!節税のポイントを解説」
https://legacy.ne.jp/knowledge/before/zouyo/796-mago-seizen-zouyo-7-nen-mochi-modoshi-tekiyou-gai-setsuzei-pointo-kaisetsu/
「毎年110万円をコツコツ贈与していれば安全」と思っている方は、落とし穴に注意が必要です。
「連年贈与」と「名義預金」という2つのリスクが、暦年贈与の節税効果を根こそぎ消してしまうことがあります。
まず連年贈与について説明します。最初から「毎年110万円を10年間渡す」という契約(口約束でも)が存在した場合、税務署は「10年分の1,100万円を一括で贈与する約束をした」とみなす可能性があります。そう判断されると、初年度に1,100万円全額に贈与税が課税されます。税率は最大55%に達する可能性があり、最悪の場合600万円以上の税負担が発生しかねません。
痛いですね。
回避策は明快です。毎年別々の贈与契約書を作成し、贈与額や時期をあえて変えること(たとえばある年は100万円、次の年は120万円など)で「定期的な約束ではなく、独立した贈与である」と証明できるようにしておくことが重要です。
次に名義預金です。これは親が子や孫の名義で口座を開設し、そこにお金を積み立てるケースです。子や孫が通帳の存在を知らない、印鑑・通帳の管理が親のままになっている場合、税務署から「実態は親の財産だ(名義預金だ)」と判断され、相続財産として課税される可能性があります。
贈与の証拠を残すが条件です。
具体的な対策として、贈与を受けた本人が口座を自分で管理すること、贈与ごとに贈与契約書を作成・保存すること、贈与を受けた資金を実際に受贈者本人が使うことが挙げられます。これらを徹底するだけで、税務調査での否認リスクを大幅に下げることができます。
税務調査は特定の高額資産家だけが対象というわけではありません。国税庁の資料によれば相続税の税務調査は年間約1万件以上実施されており、その調査率は申告件数の約5〜6%に上ります。10件に1件前後の確率で調査が入る計算です。「バレないだろう」という油断は禁物です。
参考:国税庁「No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4161.htm