残業代の計算方法と基本給・基礎賃金の正しい知識

残業代の計算方法と基本給・基礎賃金の正しい知識

残業代の計算方法と基本給・基礎賃金を正しく理解する

基本給だけで残業代を計算すると、あなたは毎月数千円〜数万円を損し続けます。


この記事のポイント3つ
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残業代の計算は「基礎賃金」が基本

基礎賃金は基本給ではなく、役職手当・皆勤手当なども含めた賃金が計算のベースになります。正しい基礎賃金で計算しないと、もらえる残業代が少なくなります。

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割増率は状況によって125%〜175%まで変わる

時間外・深夜・休日労働の組み合わせで割増率は異なります。特に月60時間超の残業は、2023年4月から中小企業も50%割増が義務化されました。

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固定残業代・みなし残業でも超過分は請求できる

「うちはみなし残業だから」と思って諦めていても、固定残業時間を超えた分は法律上別途請求が可能です。未払いになっている可能性をチェックしましょう。


残業代の計算方法で使う「基礎賃金」と基本給の違い

残業代の計算式は、「基礎賃金 × 割増率 × 残業時間数」です。ここで多くの人が勘違いしているのが、「基礎賃金 = 基本給」だという思い込みです。


基本給とは、給与明細の中の固定給部分のことです。一方、残業代計算に使う「基礎賃金」は、月の総賃金から特定の手当だけを除いた1時間あたりの金額になります。つまり、基礎賃金は基本給より大きくなるのが通常です。


たとえば、月給に役職手当・皆勤手当・無事故手当が含まれていれば、これらはすべて基礎賃金に含まれます。これは原則です。


法律上、基礎賃金から「除外できる」手当は、以下の7種類に限定されています。


  • ①家族手当(扶養家族の人数に応じて支給されるもの)
  • ②通勤手当(通勤距離・費用に応じて支給されるもの)
  • ③別居手当
  • ④子女教育手当
  • ⑤住宅手当(住宅費用に応じて支給されるもの)
  • ⑥臨時に支払われた賃金(結婚祝金など)
  • ⑦1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(ボーナスなど)


ここに注意点があります。たとえば「住宅手当」という名目でも、全従業員に一律3万円が支給されているような場合は、除外手当とは認められません。「住宅費用に応じて支給されている」という実質を満たさなければ、基礎賃金に含めなければならないのです。


同様に、「家族手当」でも扶養人数に関係なく一律金額が支給されているなら、それは基礎賃金に含まれます。名目だけで判断できない点が重要です。


月給30万円(基本給22万円+役職手当5万円+通勤手当3万円)という例で考えてみましょう。通勤手当は除外できますが、役職手当は除外できないため、基礎賃金の計算ベースは27万円になります。月平均所定労働時間を160時間とすると、基礎賃金は「270,000円 ÷ 160時間 = 1,687.5円」です。もし「基本給だけ」で計算すると「220,000円 ÷ 160時間 = 1,375円」となり、1時間あたり312.5円の差が生まれます。月20時間残業した場合の差額は、「312.5円 × 1.25 × 20時間 = 7,812円」にもなります。基礎賃金の正確な把握が条件です。


参考リンク(残業代の基礎賃金と手当の除外範囲について、企業法務の観点から詳しく解説しています):
残業代の計算方法 ~手当はどこまで基礎賃金に含まれるか~|ホームワン法律事務所


残業代の割増率の種類と計算方法の全体像

割増率は「一律25%」ではありません。労働の種類によって異なる点を正確に把握しておきましょう。


| 労働の種類 | 割増率 |
|---|---|
| 法定時間外労働(月60時間以下) | 25%以上(基礎賃金の1.25倍) |
| 法定時間外労働(月60時間超) | 50%以上(基礎賃金の1.50倍) |
| 法定休日労働 | 35%以上(基礎賃金の1.35倍) |
| 深夜労働(22時〜翌5時) | 25%以上(基礎賃金の1.25倍) |
| 時間外+深夜の重複 | 50%以上(基礎賃金の1.50倍) |
| 休日労働+深夜の重複 | 60%以上(基礎賃金の1.60倍) |


ポイントは「重複加算」です。深夜22時以降も残業が続いた場合、時間外労働(25%)と深夜労働(25%)が重なるため、合計50%の割増が必要になります。これは意外ですね。


また、2023年4月からは中小企業も含め、月60時間を超えた時間外労働については割増率が50%に引き上げられました。それ以前は中小企業に猶予があったため、この変化を見落としている経営者・労働者は少なくありません。50%割増が条件です。


基礎賃金1,500円の場合、月60時間超の残業1時間あたりは「1,500円 × 1.50 = 2,250円」になります。月40時間の時間外労働(60時間超の20時間分)と合計すれば、1,500円×1.25×40+1,500円×1.50×20=75,000円+45,000円=120,000円が正しい残業代です。


「法定内残業」(所定労働時間は超えているが法定の8時間以内に収まる残業)には割増義務がない点も見落とされがちです。たとえば所定労働時間が7時間の会社で、7時間〜8時間の1時間部分は法定内残業にあたり、原則として割増賃金は発生しません。これだけ覚えておけばOKです。


参考リンク(割増率の詳細と、月60時間超の割増賃金引き上げについて厚生労働省の公式資料):
月60時間を超える時間外労働の割増賃金率引き上げ|厚生労働省(PDF)


月給制・年俸制・日給制での残業代計算方法の違い

雇用形態や給与形態によって、基礎賃金の算出方法が変わります。自分の給与形態に合った計算が必要です。


月給制の場合、最も一般的な形態です。「(月の総賃金 − 除外手当) ÷ 月平均所定労働時間」で基礎賃金を算出します。月平均所定労働時間は「年間所定労働時間 ÷ 12か月」で求めます。たとえば、年間の所定労働日数が240日・1日8時間勤務なら「240 × 8 ÷ 12 = 160時間」が月平均所定労働時間です。


年俸制の場合、よく「残業代込みの年俸」と思い込んでいる人が多いですが、年俸制でも残業代は別途発生するのが原則です。基礎賃金は「年俸額(ボーナスを除く基礎部分) ÷ 年間所定労働時間」で算出します。たとえば年俸600万円(賞与なし)・年間所定労働時間2,000時間なら、基礎賃金は「6,000,000円 ÷ 2,000時間 = 3,000円」です。つまり年俸制でも残業代は発生します。


日給制の場合は、「1日の日給 ÷ 1日の所定労働時間」で基礎賃金を算出します。日給に基本給以外の手当が含まれている場合は、除外できる手当を差し引いてから計算します。


時給制の場合、時給がそのまま基礎賃金になりますが、深夜や休日の重複を計算に含め忘れないようにする必要があります。これは使えそうです。


変形労働時間制フレックスタイム制の場合は、集計単位期間が変わるため計算がより複雑になります。こうした特殊な雇用形態の場合は、労働基準監督署や社会保険労務士への確認が確実です。


固定残業代(みなし残業)でも超過分の残業代は請求できる

「うちの会社はみなし残業制度があるから、何時間残業しても残業代は出ない」——この考え方は法律上、誤りです。


固定残業代(みなし残業代)とは、あらかじめ「月〇時間分の残業代を毎月定額で支払う」という制度です。たとえば「月30時間分の固定残業代3万円込みの月給」という形で設定されます。実際の残業が20時間でも30時間分の残業代はもらえます。いいことですね。


しかし問題は、実際の残業が「30時間を超えた場合」です。この場合、超過した分については別途残業代の支払いが義務付けられています。これが法律上の原則です。


さらに、固定残業代が有効とされるには、以下の3つの条件を満たす必要があります。


  • 基本給と固定残業代の金額が明確に区分されていること
  • 固定残業代に対応する残業時間数が明示されていること
  • 固定残業時間を超えた場合は追加で支払う旨が明記されていること


これらが明示されていない場合、固定残業代の取り決め自体が無効と判断されるケースもあります。裁判例でも、テックジャパン事件(最高裁判所第一小法廷 2012年3月8日)では、基本給と時間外労働の対価部分が判別できないとして固定残業代の有効性が否定されました。


固定残業代の月30時間分に対し、実際に月45時間残業した場合の追加残業代は「基礎賃金 × 1.25 × 15時間」分が請求対象です。月の基礎賃金が2,000円なら追加で37,500円が請求できます。これを知らずに3年間放置すると、時効成立前に請求できる金額は最大で「37,500円 × 36か月 = 135万円」にものぼる可能性があります。痛いですね。


参考リンク(固定残業代の超過分請求と法的有効要件について解説):
固定残業代の超過分が支払われないのは違法!未払い残業代の請求方法|響き法律事務所


残業代の未払いと時効・4月〜6月の残業が社会保険に与える影響

残業代にまつわる「見えないコスト」と「見えない損失」を2つの視点から押さえておきましょう。


残業代未払いの時効は現在3年間


2020年の労働基準法改正(民法改正への対応)により、未払い残業代の消滅時効期間は従来の「2年」から「当面の間3年」に延長されました。これにより、労働者は過去3年分の未払い残業代を請求できるようになっています。未払い残業代には遅延損害金も発生し、退職後6か月間に請求された場合は年利14.6%(賃金の支払の確保等に関する法律)が適用されます。


たとえば月に2万円の未払い残業代が3年間続いていた場合、元本だけで「2万円 × 36か月 = 72万円」です。これに遅延損害金が加算されると、実際の請求額はさらに大きくなります。72万円は見逃せない金額ですね。


4月〜6月の残業が社会保険料を1年間押し上げる


金融や投資に興味がある人ほど「手取りを最大化する」視点で知っておきたいのが、社会保険料の仕組みです。毎年4月・5月・6月の3か月間に支給された給与の平均額が「標準報酬月額」として決定され、9月以降の1年間の社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)の等級が決まります。


つまり、この3か月に残業が多くなり基本給に加えて残業代が大きくなると、標準報酬月額が上がり、9月から翌年8月までの毎月の社会保険料負担が増えます。仮に標準報酬月額が1等級(約1万円)上がった場合、健康保険料と厚生年金保険料の合計で月に約5,000〜7,000円(従業員負担分)増加します。1年間で換算すると「約6〜8万円の社会保険料増加」につながる可能性があります。


ただし、社会保険料が上がること自体がすべて「損」とは言えません。標準報酬月額が高くなれば、将来受け取れる厚生年金額が増え、傷病手当金出産手当金の計算額も上がるメリットがあります。これは一概にデメリットとは言い切れない点です。


「4〜6月の残業を意図的に抑える」という選択肢を取る場合は、短期的な手取り増と長期的な年金受給額のバランスを考えて判断することが重要です。社会保険料シミュレーションツール(日本年金機構の「ねんきんネット」など)で自分のケースを確認する方法が、最も手軽です。


参考リンク(4〜6月の残業と標準報酬月額の関係について実例つきで解説):