
役員報酬は税制上、給与所得として扱われるため、所得税と住民税が課税されます。これらの税金は毎月の報酬から源泉徴収され、控除後の金額が役員に支払われます。
所得税の計算方法は以下の式で表されます。
所得税額 = (役員報酬 - 給与所得控除 - 所得控除) × 所得税率 - 税額控除
所得税率は累進課税制度が適用され、所得が増えるほど税率も上がります。現在の所得税率は以下の通りです。
課税される所得金額 | 所得税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円未満 | 5% | 0円 |
195万円以上~330万円未満 | 10% | 97,500円 |
330万円以上~695万円未満 | 20% | 427,500円 |
695万円以上~900万円未満 | 23% | 636,000円 |
900万円以上~1,800万円未満 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円以上~4,000万円未満 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 4,796,000円 |
住民税は一般的に所得に対して10%の税率が適用されます。所得税と住民税を合わせると、最低でも15%から最高55%の税率となります。
なお、役員報酬が年収103万円以下であれば所得税はかからず、年収100万円以下であれば住民税も非課税となります。
役員報酬には税金だけでなく、社会保険料も大きな負担となります。社会保険料には健康保険料と厚生年金保険料があり、役員報酬に対して約30%の料率が適用されます。この負担は会社と役員個人で折半するのが一般的です。
社会保険料の計算は、標準報酬月額に保険料率をかけて算出します。標準報酬月額は役員報酬の月額を一定の幅で区分したものです。
例えば、役員報酬が月額50万円(年間600万円)の場合。
これらの社会保険料は役員報酬から源泉徴収されるため、手取り額はさらに減少します。また、会社側も同額を負担するため、会社全体としての負担は大きくなります。
社会保険料は税金と異なり、所得の多寡にかかわらず一定率で課されるため、特に高額な役員報酬を設定している場合は大きな負担となります。
役員報酬を会社の経費(損金)として計上するためには、法人税法上の要件を満たす必要があります。損金算入が認められる役員報酬の支給方法は以下の3つです。
これらの条件を満たさない役員報酬は、法人税の計算上、損金として認められず、結果として法人税の負担が増加します。特に、年度途中での役員報酬の増額は原則として認められないため、事業計画に基づいた適切な金額設定が重要です。
役員報酬の設定は、法人税と個人の所得税・住民税のバランスを考慮して最適化する必要があります。単純に法人税の節税だけを考えると役員報酬を高く設定したくなりますが、それによって役員個人の税負担が増加する可能性があります。
法人税率は、中小企業の場合、年間所得800万円以下の部分は約22%、800万円超の部分は約34%です。一方、役員個人の所得税・住民税と社会保険料を合わせた負担率は、所得に応じて35%~56%になります。
つまり、以下の不等式が成り立ちます。
法人税率(22%または34%)< 個人の税金・社会保険料(35%~56%)
この関係から、単純に役員報酬を増やすよりも、法人内に利益を残した方が全体の税負担は少なくなる場合が多いです。ただし、会社に利益を残しすぎると、将来的に配当や退職金として取り出す際に二重課税のリスクがあります。
最適な役員報酬の設定例。
具体的なシミュレーションとして、役員報酬が月額30万円(年間360万円)の場合と月額50万円(年間600万円)の場合を比較すると。
このように、役員報酬を増やすほど税負担率も上昇する傾向があります。
基本的に役員報酬と給与の両方を同時に受け取ることはできません。しかし、「使用人兼務役員」という立場であれば例外的に両方の支給が認められます。
使用人兼務役員とは、役員としての職務だけでなく、特定の部門の責任者など、従業員としての職務も担っている役員のことです。例えば「取締役営業部長」「取締役総務部長」などの肩書きを持つ役員が該当します。
使用人兼務役員の場合、以下のように報酬が区分されます。
この制度のメリットは、使用人給与部分と使用人賞与部分が、通常の役員報酬よりも柔軟に損金算入できる点です。特に賞与については、役員賞与は原則として損金算入できませんが、使用人賞与部分は損金算入が可能です。
ただし、使用人兼務役員として認められるためには、以下の条件を満たす必要があります。
この制度は、特に中小企業において有効な節税策となりますが、形式的な兼務ではなく実質的な職務分担が必要であることに注意が必要です。
役員報酬の最適な金額を決定するためには、具体的なシミュレーションが有効です。以下に、役員報酬の金額別に税金負担がどのように変化するかを示します。
【ケース1:役員報酬が月額30万円(年間360万円)の場合】
【ケース2:役員報酬が月額50万円(年間600万円)の場合】
【ケース3:役員報酬が月額100万円(年間1,200万円)の場合】
このシミュレーションから、役員報酬が増えるほど税負担率も上昇することがわかります。特に所得税は累進課税のため、高額な報酬になるほど税率が高くなります。
最適な役員報酬の設定には、以下のポイントを考慮することが重要です。
特に中小企業の場合、オーナー経営者は役員報酬を年間800万円程度に設定し、残りの利益は法人内に留保するという選択が税負担の観点からは効率的なケースが多いです。ただし、これはあくまで税金面だけの考慮であり、事業の成長投資や将来の資金需要なども含めた総合的な判断が必要です。
役員報酬を損金算入するためには、決定時期と変更手続きに関する厳格なルールがあります。これらを守らないと、せっかくの役員報酬が損金として認められなくなるリスクがあります。
役員報酬の決定時期
例えば、3月決算の会社であれば、4月1日から6月30日までの間に役員報酬を決定しなければなりません。この期間を過ぎると、原則として当該事業年度中は役員報酬を損金算入できなくなります。
役員報酬の変更手続き
役員報酬は原則として事業年度の途中で変更することはできません。ただし、以下の特例的な事由がある場合は変更が認められます。
これらの事由がある場合でも、変更には株主総会や取締役会などの正式な決議が必要です。また、変更後も定期同額給与の要件(毎月同額の支給)を満たす必要があります。
特に注意すべき点として、役員報酬の増額変更は非常に厳格に審査されます。単に「業績が良くなったから増額したい」という理由では認められません。一方、減額変更は比較的容易に認められる傾向があります。
実務上のポイントとして、役員報酬を変更する場合は、その理由と根拠を明確に文書化し、適切な時期に正式な手続きを経ることが重要です。また、税務調査の際に説明できるよう、変更の経緯や理由を記録しておくことをお勧めします。
役員報酬の決定や変更は、会社法上の手続きと税法上の要件の両方を満たす必要があるため、専門家(税理士など)に相談しながら進めることが安全です。
国税庁の役員給与に関する詳細な解説はこちら
以上が役員報酬の税金に関する基本的な知識です。適切な役員報酬の設定は、会社と個人の双方の税負担を最適化するために重要な経営判断の一つです。税制は改正されることもあるため、最新の情報を確認しながら定期的に見直すことをお勧めします。