
住民税の特別徴収とは、事業主(特別徴収義務者)が従業員(納税義務者)の給与から住民税を差し引き、従業員に代わって市区町村に納付する制度です。この制度により、納税者である従業員は自ら納税手続きを行う必要がなくなります。
特別徴収の対象期間は6月から翌年5月までの12ヵ月間で、毎月の給与から均等に住民税が天引きされます。事業主は従業員の給与から特別徴収税額を差し引いた月の翌月10日までに、市区町村へ納付する義務があります。
特別徴収の流れは以下のようになります。
特別徴収は、正社員だけでなくアルバイトやパートタイマーなど、給与所得者であれば雇用形態に関わらず適用されます。国は特別徴収を積極的に推進しており、原則としてすべての事業者に特別徴収が義務付けられています。
住民税の納付方法には「特別徴収」と「普通徴収」の2種類がありますが、両者には大きな違いがあります。
納付方法の違い
特別徴収では、事業主が従業員の給与から住民税を天引きし、市区町村に納付します。一方、普通徴収では納税者自身が市区町村から送られてくる納付書を使って、金融機関や市役所などで直接納付する必要があります。
徴収回数の違い
特別徴収は毎月の給与から天引きされるため、年間12回の納付となります。対して普通徴収は年4回(6月、8月、10月、1月)の納付となります。
1回あたりの納税額
例えば、年間の住民税が30万円の場合、特別徴収では1回あたり2万5千円が給与から差し引かれますが、普通徴収では1回あたり7万5千円を納付することになります。総額は同じでも、1回あたりの負担感が大きく異なります。
納付期限と滞納リスク
特別徴収では給与から自動的に天引きされるため、納税者が滞納するリスクはほとんどありません。一方、普通徴収では納税者自身が期限内に納付する必要があり、納付期限を過ぎると滞納となります。滞納が続くと督促が行われ、最終的には財産の差し押さえなどの処分を受ける可能性もあります。
対象者の違い
特別徴収は給与所得者が対象となりますが、普通徴収は主に次のような方が対象となります。
特別徴収には、納税者である従業員と事業主の双方にとって様々なメリットがあります。特に従業員にとっては、納税の手間が大幅に軽減されるという大きなメリットがあります。
従業員側のメリット
事業主側のメリット
特別徴収による従業員の負担軽減効果は、特に税額が高い場合に顕著です。例えば、年間住民税額が24万円の場合、特別徴収では毎月2万円の納付となりますが、普通徴収では1回あたり6万円を納付することになります。この差は家計への影響が大きく、特別徴収によって納税者の負担感が大幅に軽減されます。
また、特別徴収は納税者の意識を変える効果もあります。給与明細で毎月の住民税額を確認することで、税金に対する意識が高まり、納税の重要性を実感することができます。
特別徴収を行うためには、事業主は一連の手続きを適切に行う必要があります。ここでは、特別徴収の実務手続きについて詳しく解説します。
1. 給与支払報告書の提出
特別徴収の第一歩は、給与支払報告書の提出です。事業主は毎年1月31日までに、前年の給与支払状況を記載した「給与支払報告書」を従業員の住所地の市区町村に提出しなければなりません。この報告書には以下の情報が含まれます。
注意点として、年の途中で退職した従業員についても、給与支払報告書の提出が必要です。また、複数の市区町村に従業員が居住している場合は、それぞれの市区町村に提出する必要があります。
2. 特別徴収税額決定通知書の受領と確認
給与支払報告書の提出後、市区町村は従業員の住民税額を計算し、5月31日までに「特別徴収税額決定通知書」を事業主に送付します。この通知書には以下の情報が記載されています。
事業主はこの通知書の内容を確認し、誤りがある場合は速やかに市区町村に連絡する必要があります。また、「納税義務者用」の通知書は従業員に配布し、各自の住民税額を確認してもらいます。
3. 給与からの天引きと納付
特別徴収税額決定通知書に基づき、6月分の給与から特別徴収を開始します。毎月の給与計算時に、通知された月割額を従業員の給与から差し引きます。天引きした住民税は、翌月10日までに市区町村に納付します。
納付方法は主に以下の3つがあります。
4. 異動があった場合の手続き
従業員の入社、退職、転居などの異動があった場合は、「給与所得者異動届出書」を提出する必要があります。特に以下のケースでは適切な手続きが必要です。
5. 年末調整との関連
年末調整は所得税に関する手続きですが、その結果は翌年度の住民税額にも影響します。年末調整で提出される「給与所得者の扶養控除等申告書」の情報は、翌年の住民税計算の基礎となります。
特別徴収の実務では、給与計算システムを活用することで効率的に処理することができます。また、eLTAX(地方税ポータルシステム)を利用することで、電子的に給与支払報告書の提出や住民税の納付を行うことができ、事務負担を軽減することができます。
特別徴収から普通徴収への切替は、一般的に納税者や事業主の意向だけでは変更できません。しかし、特定の状況下では切替が認められる場合があります。また、副業所得がある場合の住民税の取り扱いについても理解しておく必要があります。
特別徴収から普通徴収への切替が認められるケース
退職により給与の支払いがなくなる場合、残りの住民税は以下のいずれかの方法で納付します。
病気や育児などで長期間休職し、給与の支払いがない、または大幅に減少する場合は、普通徴収への切替が認められることがあります。この場合、事業主は「特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を提出する必要があります。
給与額が住民税の徴収額に満たない場合、普通徴収への切替が認められることがあります。ただし、基準は市区町村によって異なります。
事業所が倒産や廃業した場合、特別徴収を継続できないため、自動的に普通徴収に切り替わります。
副業所得がある場合の住民税
副業やフリーランスの仕事など、給与所得以外の所得がある場合、住民税の取り扱いは以下のようになります。
副業所得がある場合は、確定申告で申告する必要があります。申告した所得に基づいて、翌年度の住民税額が計算されます。
副業所得に対する住民税は、原則として本業の給与からの特別徴収に合算されます。つまり、副業所得分の住民税も給与から天引きされることになります。
副業所得が多額で、給与からの天引きが困難な場合、一部を普通徴収とすることができます。この場合、「給与・公的年金等に係る所得以外の所得に係る個人住民税の徴収方法の選択申出書」を提出します。
副業の存在を勤務先に知られたくない場合、一定の条件を満たせば、副業所得分の住民税を普通徴収で納付することができます。ただし、この申請は市区町村によって対応が異なるため、事前に確認が必要です。
注意点
副業所得がある場合、住民税額が増加するため、給与からの天引き額も増えます。これにより手取り額が予想以上に減少することがあるため、計画的な資金管理が重要です。
また、副業所得を申告せずに住民税を納めないと、後日、修正申告や住民税の追徴が発生する可能性があります。さらに、延滞金や加算金が課される場合もあるため、適切に申告することが重要です。
総務省:個人住民税の特別徴収制度について詳しい情報が掲載されています
住民税の特別徴収と普通徴収の選択は、単なる納税方法の違いだけでなく、納税者の生活や事業主の業務効率にも大きく影響します。特に副業や複数の収入源がある場合は、適切な納税方法を選択することで、納税負担を平準化し、計画的な資金管理が可能になります。