
相続廃除とは、被相続人の意思に基づいて、特定の相続人から相続権を完全に剥奪する法的制度です。民法第892条に規定されており、家庭裁判所の審判によって効力が発生します。
この制度の最も重要な特徴は、遺留分を有する推定相続人のみを対象としている点です。具体的には以下の相続人が対象となります。
一方で、兄弟姉妹は相続廃除の対象外です。これは兄弟姉妹には遺留分がないため、遺言書を作成するだけで相続から除外できるからです。
相続廃除が認められると、対象者は以下の権利を失います。
📌 相続権の完全な喪失
この効果は極めて強力で、仮に被相続人が後から遺言で財産を与えようとしても、廃除が有効である限り相続させることはできません。
また、相続廃除は被相続人との関係においてのみ効力を持ちます。例えば、父親から廃除された子供でも、母親に対する相続権は維持されます。
相続廃除が認められるためには、民法第892条で定められた3つの要件のいずれかに該当する必要があります。これらの要件は厳格に解釈され、単に相続人との関係が悪いという程度では認められません。
1. 被相続人に対する虐待 🚨
虐待には身体的虐待と精神的虐待の両方が含まれます。
実際の認定事例として、和歌山家裁平成16年11月30日審判では、母親に対して「髪の毛をわしづかみにして顔を平手打ちするなどの暴行」を働いた長男の廃除が認められました。
2. 被相続人に対する重大な侮辱 💬
侮辱は被相続人の名誉や尊厳を著しく傷つける行為を指します。
釧路家裁北見支部平成17年1月26日審判では、末期がんで脱毛した妻に対して「いつ死ぬかわからない人間にかつらはいらない」と暴言を吐いた夫の廃除が認められています。
3. その他の著しい非行 ⚠️
非行には反社会的な行為や犯罪行為が含まれます。
熊本家裁昭和54年3月29日審判では、父親の死期が近いことを知って財産の名義を勝手に変更した長男の廃除が認められました。また、前述の和歌山家裁の事例では、郵便貯金約3,500万円の横領も非行として認定されています。
相続廃除の手続きには、生前廃除と遺言廃除の2つの方法があります。どちらの方法を選択しても、最終的には家庭裁判所の審判が必要です。
生前廃除の手続き 📝
被相続人が生存中に自ら家庭裁判所に申し立てる方法です。
必要書類:
手数料:
生前廃除のメリットは、被相続人自身が審判手続きに関与できることです。自分の体験や証拠を直接裁判所に説明でき、廃除の理由を詳細に主張できます。
遺言廃除の手続き 📜
遺言書に廃除の意思を記載し、被相続人の死後に遺言執行者が申し立てる方法です。
手続きの流れ:
遺言廃除の場合、公正証書遺言で作成することが推奨されます。公証役場で原本が保管されるため、遺言書の紛失や改ざんのリスクを防げます。
共通の注意点 ⚠️
どちらの方法でも、以下の点に注意が必要です。
審判には通常数ヶ月から1年程度の期間を要し、家庭裁判所が慎重に事実関係を調査します。
相続廃除において特に注意すべきは、代襲相続との関係です。これは相続欠格とは異なる重要な特徴があります。
代襲相続の発生メカニズム 🔄
相続廃除された相続人に子がいる場合、その子(被相続人から見た孫)が代襲相続人として相続権を取得します。これは民法第887条第2項の規定により、廃除も代襲相続の原因とされているためです。
具体例で説明します。
ケース1:子の廃除と代襲相続
この場合、Bは相続権を失いますが、CはAの相続人として法定相続分を取得します。
代襲相続の範囲と制限 📊
代襲相続には以下の特徴があります。
相続欠格との重要な違い ⚖️
相続廃除と相続欠格では、代襲相続の取り扱いが異なります。
相続廃除の場合:
相続欠格の場合:
実務上の注意点 💡
代襲相続を考慮した相続対策では以下の点が重要です。
特に、廃除対象者の子(代襲相続人)が未成年の場合、将来的な相続関係がより複雑になる可能性があります。
相続廃除が確定すると、その事実は戸籍に記載され、公的な証明となります。また、被相続人の意思により廃除を取り消すことも可能です。
戸籍への記載手続き 📋
家庭裁判所で廃除の審判が確定した後の手続き。
記載される内容:
手続きの流れ:
この戸籍記載により、第三者に対しても廃除の事実が明確になり、相続手続きにおいて廃除された者が相続人でないことが証明されます。
廃除の取消し手続き 🔄
被相続人は廃除した相続人との関係が修復した場合、いつでも廃除の取消しを請求できます。
取消しの方法:
取消しの効果:
実務上の重要ポイント 💡
戸籍記載に関する実務的な注意事項。
相続手続きへの影響:
プライバシーへの配慮:
取消しのタイミング:
相続税への影響 💰
相続廃除は相続税の計算にも影響します。
このように、相続廃除の戸籍記載と取消し手続きは、単なる手続き上の問題ではなく、相続全体に大きな影響を与える重要な制度です。専門家と相談しながら慎重に進めることが重要です。