
森林環境税は、令和6年度(2024年度)から導入された国税で、個人住民税の均等割と併せて徴収される仕組みとなっています。計算方法としては非常にシンプルで、国内に住所を有する個人に対して一律で年額1,000円が課税されます。
この森林環境税の導入は、東日本大震災復興財源確保のための住民税均等割の臨時増税措置(年額1,000円)が令和5年度で終了するタイミングと合わせて設計されています。そのため、納税者の負担感を抑える工夫がなされています。
具体的な計算の流れは以下のとおりです。
ただし、地域によっては都道府県や市区町村が独自に環境税などの超過課税を実施している場合があり、その場合は上記の標準税率に加算されることになります。
森林環境税の納税義務者は「国内に住所を有する個人」とされていますが、すべての人が納税義務を負うわけではありません。一定の所得基準以下の方や特定の条件に該当する方は非課税となります。
重要なポイントは、森林環境税と個人住民税では非課税基準が異なる点です。そのため、個人住民税が非課税であっても、森林環境税は課税される場合があります。
森林環境税の非課税基準は以下のとおりです。
一方、個人住民税の非課税基準は以下のとおりです。
この違いにより、年収93万円超98万円以下の給与所得者などは、個人住民税は非課税でも森林環境税は課税されるケースが生じます。税理士としては、この点を顧問先に明確に説明し、混乱を防ぐことが重要です。
森林環境税の計算は基本的にシンプルですが、実務上いくつかの留意点があります。ここでは具体的な計算例と共に解説します。
【計算例1】給与収入のみの単身者の場合
【計算例2】給与収入のみで扶養家族1名の場合
実務上の留意点としては、以下の点に注意が必要です。
特に、個人住民税の特別徴収(給与天引き)を行っている企業の給与担当者には、令和6年度からの変更点を事前に説明しておくことが望ましいでしょう。
森林環境税が導入された背景には、日本の森林整備に関する課題があります。日本の国土の約7割は森林ですが、林業の担い手不足や木材価格の低迷などにより、適切な管理が行き届いていない森林が増加しています。
森林環境税は、以下のような目的で導入されました。
森林環境税の税収は全額が森林環境譲与税として、以下の基準で都道府県・市町村に配分されます。
この配分基準により、森林を多く有する地方自治体に重点的に配分される仕組みとなっています。ただし、森林の少ない都市部の自治体にも人口に応じた配分があり、木材利用の促進や普及啓発などに活用されています。
森林環境譲与税の使途は、以下のように定められています。
税理士としては、顧問先に対して森林環境税の導入背景や使途について説明することで、新たな税負担への理解を促すことができるでしょう。
税理士として顧問先に森林環境税について説明する際のポイントをまとめます。特に、個人事業主や中小企業の経営者に対しては、以下の点を押さえておくと良いでしょう。
令和5年度までの東日本大震災復興財源のための臨時増税(1,000円)が終了し、代わりに森林環境税(1,000円)が導入されるため、基本的には負担増とはならないことを説明します。
個人住民税と森林環境税では非課税基準が異なるため、特に所得が少ない方については、どちらの税金が課税されるのか個別に確認が必要です。
給与の特別徴収を行っている企業は、令和6年度分の住民税から森林環境税が含まれることになります。特別徴収税額の通知書の見方や、従業員への説明方法についてアドバイスしましょう。
森林環境税は一律1,000円の定額課税であり、所得控除や税額控除の対象とはならないため、通常の節税対策では軽減できない点を説明します。
森林環境税は個人に対する課税であり、法人には直接課税されません。ただし、特別徴収義務者としての事務負担は発生します。
一部の都道府県では独自に森林環境税(森林税)を導入している場合があります。国税の森林環境税と混同しないよう、違いを明確に説明しましょう。
現在は年額1,000円ですが、将来的に税率が変更される可能性もあることを念頭に置いておくと良いでしょう。
顧問先からよくある質問としては、「森がない都市部に住んでいるのになぜ払う必要があるのか」というものがあります。これに対しては、森林の恩恵(酸素供給、水源涵養、CO2吸収など)は全国民が受けているため、広く薄く負担する仕組みになっていることを説明すると理解が得られやすいでしょう。
また、個人事業主の場合は、森林環境税は事業税や所得税とは異なり、必要経費や税額控除の対象とはならない点も押さえておくべきポイントです。
国税である森林環境税とは別に、一部の地方自治体では独自に森林環境税(または森林税、水源環境税など名称は様々)を導入しています。これらと新たに導入された国税の森林環境税との関係について理解しておくことは、税理士として重要です。
地方自治体独自の森林環境税の例。
これらの地方独自の環境税と国税の森林環境税は、課税の根拠や使途が異なります。地方独自の環境税は各自治体の条例に基づいて徴収され、その地域の森林保全や環境対策に使われます。一方、国税の森林環境税は全国一律で徴収され、森林環境譲与税として全国の自治体に配分されます。
実務上の注意点としては、両方の税金が課税される地域に住んでいる納税者は、国税と地方税の両方の森林環境税(または類似の名称の税)を負担することになります。例えば、宮城県の場合、令和6年度以降は以下のようになります。
税理士としては、顧問先が所在する地域の地方税制度を確認し、国税の森林環境税との重複課税がある場合は、その旨を説明することが重要です。また、地方独自の環境税は時限立法であることが多いため、適用期間にも注意が必要です。
森林環境税に関する情報は、各地方自治体のホームページや国税庁のホームページで確認することができます。最新の情報を把握し、顧問先に正確なアドバイスを提供することが求められます。