事業税 計算の基本と実務のポイント
事業税計算の基本知識
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個人と法人で異なる計算方法
個人事業税と法人事業税では計算方法が大きく異なります。個人は所得に基づく単純な計算、法人は規模や業種によって複雑な計算体系があります。
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業種別の税率差
事業税は業種によって税率が3%~5%と異なります。第一種事業(製造業等)は5%、第二種事業(畜産業等)は4%、第三種事業(サービス業等)は5%(一部3%)です。
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控除の活用が重要
個人事業税では事業主控除(290万円)、法人事業税では各種特例措置を活用することで、納税額を適正に抑えることができます。
事業税 計算の基本的な仕組みと種類
事業税は、事業活動に対して課される地方税の一種で、都道府県が課税主体となります。事業を行うことで地域の行政サービスを受けていることへの対価として支払う「応益課税」の性質を持っています。
事業税には大きく分けて「個人事業税」と「法人事業税」の2種類があります。それぞれ計算方法や税率、納付期限などが異なるため、自分のビジネス形態に合わせた理解が必要です。
個人事業税の基本的な計算式は以下の通りです。
個人事業税 = (事業所得 + 青色申告特別控除額 - 事業主控除額)× 税率
一方、法人事業税はより複雑で、法人の規模や業種によって計算方法が異なります。
- 資本金1億円以下の法人:主に所得割による計算
- 資本金1億円超の法人:外形標準課税(付加価値割、資本割、所得割の合算)
- 特定業種の法人:収入金額課税など特殊な計算方法
事業税の納付先は事業所等が所在する都道府県となり、複数の都道府県に事業所がある場合は「分割基準」に基づいて納税額を按分します。
事業税 計算における個人事業税の具体的な計算例
個人事業税の計算は比較的シンプルですが、いくつかのポイントがあります。ここでは具体的な計算例を見ていきましょう。
【例1】年間を通じて営業している場合(第一種事業・税率5%)
- 事業所得:400万円
- 青色申告特別控除額:65万円
- 事業主控除額:290万円
計算:(400万円 + 65万円 - 290万円) × 5% = 8万7,500円
【例2】年の途中で開業した場合(6月開業・事業期間7ヶ月)
- 事業所得:200万円
- 青色申告特別控除額:65万円
- 事業主控除額(月割):290万円 × 7 ÷ 12 = 169万2,000円(千円未満切上げ)
計算:(200万円 + 65万円 - 169万2,000円) × 5% = 4万7,900円
個人事業税の計算で注意すべき点。
- 事業主控除額(290万円)は年の途中で開業・廃業した場合、月割計算となります
- 青色申告特別控除額は課税所得に加算されます
- 事業専従者給与については、青色申告の場合は全額控除、白色申告の場合は配偶者86万円、その他親族50万円までが控除限度額となります
個人事業税は所得税や住民税と異なり、自分で申告する必要はありません。所得税の確定申告内容に基づいて都道府県が税額を計算し、8月と11月の年2回に分けて納税通知書が送付されます。
事業税 計算で異なる法人事業税の外形標準課税の仕組み
資本金1億円を超える法人に適用される外形標準課税は、法人の所得だけでなく事業活動の規模や実態に応じた課税を行う制度です。この制度は2004年度から導入され、法人の担税力に応じた公平な税負担を実現するために設けられました。
外形標準課税における事業税の構成要素は以下の3つです。
- 付加価値割:人件費(報酬給与額)、支払利子、支払賃借料などの合計額に基づく課税
- 資本割:資本金等の額に基づく課税
- 所得割:法人の所得に基づく課税
特に付加価値割の計算は複雑で、以下の要素から構成されます。
- 報酬給与額(役員給与、従業員給与、福利厚生費など)
- 純支払利子(支払利子 - 受取利子)
- 純支払賃借料(支払賃借料 - 受取賃借料)
また、外形標準課税対象法人でも、業種によって課税方式が異なります。
- 電気供給業やガス供給業:収入割、付加価値割、資本割の組み合わせ
- 保険業:収入金額課税
法人事業税の税率も複雑で、法人の規模や業種、事業年度によって異なります。例えば、外形標準課税適用法人の場合、付加価値割は1.2%、資本割は0.5%、所得割は1%~3.6%(所得金額に応じて段階的に変化)といった具合です。
事業税 計算における業種別の税率と課税対象の違い
事業税は業種によって税率が異なり、個人事業税と法人事業税でも課税対象や税率の体系が大きく異なります。
個人事業税の業種別税率
個人事業税は第一種事業から第三種事業まで約70業種が課税対象となっており、それぞれ税率が定められています。
- 第一種事業(5%):製造業、電気供給業、土石採取業、運送業など
- 第二種事業(4%):畜産業、水産業など
- 第三種事業(5%または3%)。
- 5%:小売業、料理店業、理容業など
- 3%:医業、歯科医業、薬剤師業、獣医業など
重要なのは、すべての事業が課税対象となるわけではないという点です。例えば、農業や林業、鉱業(非課税鉱業を除く)、宿泊業、映画業などは非課税業種とされています。
法人事業税の業種別課税方式
法人事業税では、業種によって課税方式そのものが異なります。
- 一般の法人。
- 資本金1億円以下:所得割のみ
- 資本金1億円超:外形標準課税(付加価値割、資本割、所得割)
- 電気供給業。
- 一般送配電事業等:収入割のみ
- 小売電気事業等:収入割、付加価値割、資本割(資本金1億円超の場合)
- ガス供給業。
- 一般ガス導管事業等:収入割のみ
- 特定ガス供給業:収入割、付加価値割、資本割
- 保険業:収入割のみ
特に電気供給業やガス供給業は、2016年以降の電力・ガス小売全面自由化に伴い、課税方式が大きく変更されています。例えば、小売電気事業者は従来の収入金額課税から、一部外形標準課税が適用されるようになりました。
事業税 計算を最適化するための節税戦略と実務上の注意点
事業税の負担を適正に抑えるためには、いくつかの節税戦略と実務上の注意点を押さえておくことが重要です。ここでは税理士の視点から、クライアントにアドバイスできる実践的なポイントを紹介します。
個人事業主向けの事業税節税戦略
- 業種選択の検討。
- 複数の事業を行っている場合、非課税業種と課税業種を明確に区分する
- 課税業種の中でも、税率の低い業種(3%)に該当するかを検討する
- 事業主控除の最大活用。
- 年の途中で開業・廃業する場合、タイミングによっては事業主控除の月割額が変わるため、計画的に行う
- 青色申告の活用。
- 青色申告では事業専従者給与を全額経費計上できるため、家族従業員がいる場合は青色申告を選択する
- ただし、青色申告特別控除額は事業税計算上は所得に加算されるため、その影響も考慮する
法人向けの事業税節税戦略
- 外形標準課税への対応。
- 資本金1億円超の法人は、人件費が付加価値割の対象となるため、役員報酬や従業員給与の設計に注意
- 雇用安定控除や賃上げ促進税制などの特例措置を活用する
- 複数都道府県での事業展開時の対応。
- 分割基準に基づく納税額の最適化(従業員数や事務所の配置など)
- 地方税の超過課税がない都道府県への事業所設置の検討
- 特定子会社株式等に係る控除措置の活用。
- 資本割計算上、一定の要件を満たす特定子会社の株式等は控除可能
実務上の注意点
- 申告・納付のタイミング。
- 個人事業税:8月と11月の年2回納付(自動的に納税通知書が届く)
- 法人事業税:事業年度終了後2ヶ月以内(延長申請可能)
- 予定申告と中間申告の違い。
- 法人事業税では事業年度が6ヶ月を超える場合、中間申告・納付が必要
- 前事業年度の税額に基づく予定申告と、仮決算に基づく中間申告の選択肢がある
- 税率改正への対応。
- 事業税率は頻繁に改正されるため、最新の税率を確認する
- 特に法人事業税は、地方法人特別税から特別法人事業税への移行など、制度変更が多い
事業税の計算は複雑ですが、適切な知識と戦略を持つことで、合法的に税負担を最適化することが可能です。特に複数の事業を行っている場合や、法人成長期の資本政策を検討する際には、事業税の影響も考慮した総合的な税務戦略が重要となります。
国税庁の個人事業税に関する詳細解説(事業主控除や業種区分について詳しい情報があります)
事業税 計算における近年の税制改正と将来の動向
事業税の計算方法は、経済環境の変化や政策目標に応じて頻繁に改正されています。税理士として最新の動向を把握し、クライアントに的確なアドバイスを提供するためには、過去の改正内容と今後の方向性を理解しておくことが重要です。
近年の主な税制改正
- 電気・ガス事業に関する課税方式の変更
- 2016年:電力小売全面自由化に伴い、小売電気事業者に対する課税方式が変更
- 2017年:ガス小売全面自由化に伴い、ガス小売事業者に対する課税方式が変更
- 2020年:発電事業等に対する課税方式の見直し
- 外形標準課税の拡大と税率調整
- 2015年~2016年:外形標準課税の割合を段階的に拡大(所得割を縮小し、付加価値割と資本割を拡大)
- 2019年:地方法人特別税から特別法人事業税への移行
- 2023年:賃上げ促進税制の拡充(付加価値割の控除拡大)
- 中小企業向けの特例措置
- 2019年:中小企業に対する軽減税率の延長
- 2021年:新型コロナウイルス感染症の影響を受けた中小事業者等に対する事業税の軽減措置
- 2023年:インボイス制度導入に伴う経過措置
今後予想される動向
- デジタル課税への対応
- デジタル経済の拡大に伴い、物理的拠点を持たないビジネスモデルに対する課税方法の見直し
- 国際的な課税ルールの変更(BEPS対応)に合わせた事業税制度の調整
- 環境税制との連携
- カーボンニュートラル実現に向けた税制優遇措置の拡充
- 環境負荷の高い事業に対する課税強化の可能性
- 働き方改革を促進する税制
- 雇用安定控除の拡充や賃上げ促進税制の強化
- テレワークやリモートワークの普及に対応した課税ルールの整備
実務への影響と対応策
税制改正は事業計画や投資判断に大きな影響を与えるため、以下の対応が重要です。
- 情報収集の徹底
- 税制改正大綱の早期チェック
- 業界団体や専門家ネットワークを通じた情報収集
- 国税庁・総務省等の公式発表の定期確認
- シミュレーションの実施
- 税制改正による影響額の試算
- 複数シナリオでの事業計画策定
- 最適な事業形態や組織再編の検討
- 柔軟な対応体制の構築
- 税務・会計システムの迅速な更新体制
- 顧問先への早期情報提供と対策立案
- 専門分野に特化した税理士とのネットワーク構築
事業税の計算方法は複雑で、頻繁に変更されますが、これらの変更は単なる負担増ではなく、政策誘導の側面も持っています。例えば、賃上げ促進税制は従業員の待遇改善を税制面から後押しするものであり、こうした制度を積極的に活用することで、税