特別法人事業税の計算方法と税率の違い

特別法人事業税の計算方法と税率の違い

特別法人事業税の計算方法

特別法人事業税の基本情報
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適用開始時期

令和元年10月1日以後に開始する事業年度から適用

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納税義務者

法人事業税の納税義務のある法人

💰
課税標準

基準法人所得割額または基準法人収入割額

特別法人事業税は、平成31年度地方税制改正に伴い創設された税金です。地域間の財政力格差の拡大や経済社会構造の変化を踏まえ、地方法人課税における税源の偏在を是正するために導入されました。法人事業税の一部を分離する形で設計されており、令和元年10月1日以後に開始する事業年度から適用されています。

 

特別法人事業税は国税として位置づけられていますが、都道府県が法人事業税と併せて賦課徴収を行います。納付された特別法人事業税は、納付のあった月の翌々月の末日までに国に払い込まれ、その後、特別法人事業譲与税として人口に応じて都道府県に譲与される仕組みになっています。

 

特別法人事業税の計算式と基準法人所得割額

特別法人事業税の計算式は非常にシンプルで、以下のように表されます。

 

特別法人事業税額 = 基準法人所得割額または基準法人収入割額 × 税率

ここで重要なのが「基準法人所得割額または基準法人収入割額」という概念です。これは標準税率で計算した法人事業税の所得割額または収入割額のことを指します。

 

具体的には、以下の手順で計算されます。

 

  1. まず法人事業税の所得割額または収入割額を計算
    所得割額または収入割額 = 所得金額または収入金額 × 法人事業税の税率
    
    
  2. 次に特別法人事業税額を計算
    特別法人事業税額 = 所得割額または収入割額 × 特別法人事業税の税率
    
    

この計算方法は、法人の種類や資本金の額によって適用される税率が異なるため、自社がどのカテゴリーに該当するかを正確に把握することが重要です。

 

特別法人事業税の税率と法人区分の違い

特別法人事業税の税率は、法人の区分によって大きく異なります。令和4年4月1日以後に開始する事業年度における税率は以下の通りです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

法人区分 税率
資本金1億円以下の普通法人等の所得割額 37%
外形標準課税法人(資本金1億円超)の所得割額 260%
特別法人の所得割額 34.5%
収入金額課税法人の収入割額(一般) 30%
発電事業等・小売電気事業等を営む法人 40%
特定ガス供給業を営む法人 62.5%

ここで注意すべき点として、令和2年度と令和4年度の税制改正により、一部の業種の税率が変更されています。特に電気事業やガス供給業を営む法人については、業態によって税率が大きく異なるため、該当する場合は注意が必要です。

 

また、一般ガス供給業を営む法人は、普通法人等と同じ課税方式となり、資本金の額によって税率が37%または260%となります。

 

特別法人事業税の具体的な計算例と所得割額

特別法人事業税の計算をより具体的に理解するために、いくつかの例を見てみましょう。

 

例1:資本金5,000万円、所得金額1,000万円の普通法人の場合
まず、法人事業税(所得割)を計算します。

 

法人事業税の税率を7%と仮定すると。

法人事業税(所得割)= 1,000万円 × 7% = 70万円

次に、特別法人事業税を計算します。

 

資本金1億円以下の普通法人の税率は37%なので。

特別法人事業税 = 70万円 × 37% = 25.9万円

例2:資本金2億円、所得金額1,650万円、付加価値額1,000万円の外形標準課税法人の場合
外形標準課税法人は、所得割、付加価値割、資本割の3つの要素で課税されますが、特別法人事業税の計算には所得割のみが関係します。

 

法人事業税の所得割の税率を1.0%と仮定すると。

法人事業税(所得割)= 1,650万円 × 1.0% = 16.5万円

外形標準課税法人の特別法人事業税の税率は260%なので。

特別法人事業税 = 16.5万円 × 260% = 42.9万円

このように、資本金の額によって適用される税率が大きく異なるため、特別法人事業税の負担額も大きく変わってきます。特に資本金1億円を超える法人は、260%という高い税率が適用されるため、税負担が大きくなる点に注意が必要です。

 

特別法人事業税の申告と納付方法

特別法人事業税は、法人事業税・法人住民税と同じ期日までに申告・納付する必要があります。具体的な手続きは以下の通りです。

 

  1. 申告時期
    • 事業年度終了の日から2ヶ月以内(原則)
    • 法人税の申告期限の延長の特例を受けている場合は、その延長された期限まで
  2. 申告書類
    • 法人事業税・特別法人事業税・法人住民税申告書
    • 法人税申告書の写し
    • 貸借対照表、損益計算書などの計算書類
  3. 納付方法
    • 都道府県の税事務所に申告し、納付
    • 電子申告(eLTAX)による申告・納税も可能

特別法人事業税は法人事業税と一体的に申告・納付するため、別途手続きを行う必要はありません。ただし、計算方法が異なるため、申告書上では別々に計算して記載する必要があります。

 

また、予定申告義務のある法人(前事業年度の法人事業税の年税額が20万円を超える法人)は、事業年度開始の日から6ヶ月を経過した日から2ヶ月以内に予定申告・納付を行う必要があります。予定申告における特別法人事業税の計算は、前事業年度の税額の2分の1相当額となります。

 

特別法人事業税と法人事業税の関係性と改正点

特別法人事業税は、法人事業税と密接に関連していますが、その性質や目的は異なります。両者の関係性と近年の改正点について理解しておくことは、税務戦略を立てる上で重要です。

 

特別法人事業税と法人事業税の違い

  1. 税の性質
    • 法人事業税:地方税(都道府県税)
    • 特別法人事業税:国税(ただし都道府県が徴収)
  2. 目的
    • 法人事業税:地方自治体の行政サービスに対する対価
    • 特別法人事業税:地域間の税源偏在の是正
  3. 税収の帰属
    • 法人事業税:各都道府県の収入
    • 特別法人事業税:いったん国に集められた後、人口比に応じて各都道府県に譲与

近年の主な改正点

  1. 令和2年度税制改正
    • 電気供給業のうち、発電事業等・小売電気事業等を営む法人の税率が30%から40%に引き上げ
  2. 令和4年度税制改正
    • 特定ガス供給業を営む法人の税率が30%から62.5%に引き上げ
    • 一般ガス供給業を営む法人は普通法人等と同じ課税方式に変更(税率30%→37%または260%)

これらの改正は、エネルギー業界の構造変化に対応するとともに、税負担の公平性を確保するために行われました。特に電気・ガス事業については、自由化に伴う事業環境の変化を踏まえた税制の見直しが進められています。

 

また、特別法人事業税は地方法人特別税の後継として導入されたものであり、地方税財政制度の改革の一環として位置づけられています。今後も経済環境や地方財政の状況に応じて、税率や課税方式の見直しが行われる可能性があるため、最新の税制改正の動向に注意を払う必要があります。

 

特別法人事業税における中小企業への配慮と節税対策

特別法人事業税は、法人の規模や業種によって税率が異なるため、特に中小企業にとっては税負担の影響を正確に把握し、適切な対策を講じることが重要です。

 

中小企業への配慮点

  1. 税率の差異
    • 資本金1億円以下の普通法人:37%
    • 資本金1億円超の外形標準課税法人:260%

    この税率の差は、中小企業の税負担を相対的に軽減する効果があります。特に、外形標準課税が適用される資本金1億円超の法人と比較すると、税率に大きな開きがあります。

     

  2. 特別法人(協同組合や医療法人など)への配慮
    • 特別法人の税率:34.5%

    一般の普通法人よりもやや低い税率が設定されており、公益性の高い法人への配慮がなされています。

     

節税対策のポイント

  1. 資本金の検討
    • 資本金1億円を超えると外形標準課税の対象となり、特別法人事業税の税率も大幅に上昇します。事業拡大や資金調達の際には、この点を考慮した戦略が必要です。
  2. 所得の平準化
    • 特別法人事業税は法人事業税の所得割額に連動するため、所得の年度間の平準化が間接的な節税につながります。
  3. グループ法人税制の活用
    • 複数の法人を持つグループ企業の場合、グループ内での所得の配分を工夫することで、全体としての税負担を最適化できる可能性があります。
  4. 税額控除の活用
    • 法人事業税には様々な税額控除制度があり、これを活用することで間接的に特別法人事業税の負担も軽減できます。
  5. 事業形態の検討
    • 新規事業を立ち上げる際には、法人形態や資本金の額を慎重に検討することで、将来的な税負担を最適化できる可能性があります。

ただし、これらの対策は税法の趣旨に沿った適正なものである必要があります。過度な節税策は税務調査の対象となる可能性もあるため、税理士などの専門家に相談しながら進めることをお勧めします。

 

また、特別法人事業税は地方税財政制度の一環として導入されたものであり、単に税負担を避けるのではなく、企業の社会的責任として適正な納税を行うという視点も重要です。長期的な企業価値の向上のためには、コンプライアンスを重視した税務戦略が求められます。

 

特別法人事業税の将来展望と企業への影響

特別法人事業税は、地方税財政制度の改革の一環として導入された比較的新しい税制です。今後の展望と企業への影響について考察してみましょう。

 

将来的な税制改正の可能性

  1. 税率の見直し
    • 地域間の財政力格差の状況や経済環境の変化に応じて、税率の見直しが行われる可能性があります。特に、エネルギー関連事業のように、産業構造の変化が著しい分野では、今後も税率の調整が行われる可能性が高いでしょう。
  2. 課税方式の見直し
    • 現在の所得割・収入割に基づく課税方式から、より広範な課税ベースに基づく方式への移行が検討される可能性もあります。
  3. 地方税体系全体の再構築
    • 人口減少や経済のグローバル化が進む中で、地方税体系全体の見直しが進められる可能性があり、その中で特別法人事業税の位置づけも変わる可能性があります。

企業への中長期的影響

  1. 立地戦略への影響
    • 特別法人事業税は全国一律の税率が適用され、その税収は人口比で譲与されるため、企業の立地選択に対する税制面での影響は軽減されています。しかし、法人事業税自体は都道府県によって超過課税が適用される場合もあるため、総合的な税負担を考慮した立地戦略が重要です。
  2. 財務計画への影響
    • 特別法人事業税は法人事業税に連動するため、中長期的な財務計画においては両者を一体的に考慮する必要があります。特に、成長に伴い資本金が1億円を超える場合には、税負担の急増に備えた計画が重要です。
  3. 業界再編への影響
    • 電気・ガス事業のように、税率が業態によって大きく異なる場合、税負担の差が業界再編の一因となる可能性もあります。

企業が取るべき対応

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