給与所得控除と計算方法の違いを解説

給与所得控除と計算方法の違いを解説

給与所得控除と計算方法

給与所得控除の基本
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給与所得者の必要経費

給与所得控除は、給与収入から一定額を差し引ける制度で、給与所得者の必要経費を概算で控除するものです。

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収入に応じた控除額

給与収入の金額に応じて控除額が決まり、年収が高くなるほど控除率は低くなります。

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所得税計算の基礎

給与所得控除を適用することで、課税対象となる所得金額を減らし、所得税の負担を軽減できます。

給与所得控除の意味と対象者

給与所得控除とは、給与所得者が所得税の計算をする際に、給与収入から一定額を差し引くことができる制度です。この制度は、給与所得者が収入を得るために必要な経費を概算で控除するためのものです。

 

給与所得控除の対象者は、給与所得を得ているすべての人が該当します。具体的には以下のような方々が対象となります。

 

  • 会社員(正社員)
  • パートタイマー
  • アルバイト
  • 役員報酬を受け取っている役員
  • 公務員

給与所得とは、雇用契約に基づいて労務の対価として受け取る以下のような収入を指します。

 

  • 給料
  • 賃金
  • 俸給
  • 賞与(ボーナス)
  • 各種手当(残業手当、休日出勤手当、職務手当など)

一方、個人事業主やフリーランスなど、自身が営む事業から得る収入は事業所得となり、給与所得控除の対象外となります。事業所得の場合は、実際にかかった必要経費を収入から差し引いて所得を計算します。

 

給与所得控除は、給与所得者が個別に経費を計算する手間を省くとともに、納税者間の公平性を確保するための制度として機能しています。

 

給与所得控除額の計算方法と表

給与所得控除額は、給与等の収入金額(年収)に応じて段階的に計算されます。2020年の税制改正により、給与所得控除額の計算方法が変更され、現在(2025年4月時点)は以下の表に基づいて計算されています。

 

給与等の収入金額 給与所得控除額
1,625,000円まで 550,000円(最低控除額)
1,625,001円から1,800,000円まで 収入金額×40%-100,000円
1,800,001円から3,600,000円まで 収入金額×30%+80,000円
3,600,001円から6,600,000円まで 収入金額×20%+440,000円
6,600,001円から8,500,000円まで 収入金額×10%+1,100,000円
8,500,001円以上 1,950,000円(上限)

この表を使って、いくつかの年収パターンで給与所得控除額を計算してみましょう。

 

【例1】年収300万円の場合

  • 計算式:3,000,000円×30%+80,000円
  • 給与所得控除額:980,000円

【例2】年収500万円の場合

  • 計算式:5,000,000円×20%+440,000円
  • 給与所得控除額:1,440,000円

【例3】年収1,000万円の場合

  • 年収が850万円を超えるため
  • 給与所得控除額:1,950,000円(上限)

なお、給与等の収入金額が660万円未満の場合には、上記の表にかかわらず、所得税法別表第五(年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表)により給与所得の金額を求めることができます。これにより、計算の手間を省くことができます。

 

給与所得控除と所得税の関係

給与所得控除は所得税の計算において重要な役割を果たしています。所得税は、給与収入から給与所得控除額を差し引いた「給与所得」に対して課税されるため、給与所得控除額が大きいほど課税対象となる所得が少なくなり、結果的に所得税の負担が軽減されます。

 

所得税の計算の流れは以下のとおりです。

  1. 給与収入(年収)から給与所得控除額を差し引いて給与所得を算出
  2. 給与所得から所得控除(基礎控除配偶者控除社会保険料控除など)を差し引いて課税所得を算出
  3. 課税所得に税率を適用して所得税額を計算
  4. 所得税額から税額控除を差し引いて最終的な所得税額を確定

例えば、年収500万円の場合の所得税計算の流れを簡略化して示すと。

  • 給与収入:5,000,000円
  • 給与所得控除額:1,440,000円(5,000,000円×20%+440,000円)
  • 給与所得:3,560,000円(5,000,000円-1,440,000円)
  • 所得控除(例:基礎控除48万円+社会保険料控除70万円):1,180,000円
  • 課税所得:2,380,000円(3,560,000円-1,180,000円)
  • 所得税額:税率表に基づいて計算

給与所得控除は、給与所得者の必要経費を概算で認める制度であり、所得税の公平な課税を実現するための重要な仕組みとなっています。また、給与所得控除の存在により、給与所得者は個別に経費を計算・申告する手間が省けるというメリットもあります。

 

給与所得控除と103万円の壁の関係

「103万円の壁」とは、パートやアルバイトなどの給与所得者にとって重要な年収のラインで、この金額を超えると所得税が課税される可能性が出てくる境界線を指します。この103万円という数字は、給与所得控除と基礎控除の合計額に由来しています。

 

103万円の壁の内訳は以下のとおりです。

  • 給与所得控除(最低額):55万円
  • 基礎控除:48万円
  • 合計:103万円

年収が103万円以下であれば、給与所得控除(55万円)を差し引いた後の所得(48万円以下)に対して、さらに基礎控除(48万円)が適用されるため、課税所得がゼロとなり、所得税が課税されません。

 

しかし、年収が103万円を超えると、給与所得控除と基礎控除を差し引いても課税所得が発生するため、所得税が課税される可能性があります。ただし、実際には配偶者控除や扶養控除、社会保険料控除などの他の所得控除も適用される場合があるため、年収が103万円を少し超えただけでは必ずしも所得税が発生するわけではありません。

 

103万円の壁は、特に以下のような方々にとって重要な意味を持ちます。

  1. 配偶者の扶養に入っている方
    • 配偶者控除の適用を受けるためには、配偶者の年収が103万円以下である必要があります
    • 年収が103万円を超えると、配偶者控除が受けられなくなる可能性があります
  2. 親の扶養に入っている学生アルバイト
    • 扶養控除の適用を受けるためには、扶養される側の年収が103万円以下である必要があります
    • 年収が103万円を超えると、親の扶養から外れる可能性があります

なお、2020年の税制改正により、配偶者特別控除の適用範囲が拡大され、配偶者の年収が201万円未満であれば、段階的に控除が受けられるようになりました。これにより、いわゆる「103万円の壁」の影響は緩和されています。

 

給与所得控除と特定支出控除の活用法

給与所得控除は概算経費控除ですが、実際の経費が給与所得控除額を上回る場合には、「特定支出控除」を利用することで、実際にかかった経費を控除できる可能性があります。特定支出控除は、給与所得者の実際の経費を反映させるための制度で、2012年に拡充されました。

 

特定支出控除の対象となる経費は以下の7種類です。

  1. 通勤費
    • 通勤のために支出した交通費のうち、会社から支給される通勤手当を超える部分
  2. 転居費
    • 転勤に伴う引越し費用のうち、会社から支給される転居費用を超える部分
  3. 研修費
    • 職務に直接必要な技術や知識を得るための研修費用
  4. 資格取得費
    • 職務に直接必要な資格の取得費用
  5. 帰宅旅費
    • 単身赴任者が家族の居住地に帰宅するための旅費
  6. 勤務必要経費
    • 図書費、衣服費、交際費など職務の遂行に直接必要な経費
  7. 職務上の旅費
    • 職務の遂行のための旅費で、会社から支給される金額を超える部分

特定支出控除を受けるためには、以下の条件を満たす必要があります。

  • 特定支出の合計額が、給与所得控除額の2分の1を超えていること
  • 確定申告時に「特定支出に関する明細書」と領収書などの証明書類を提出すること

例えば、年収500万円で給与所得控除額が144万円の場合、特定支出の合計額が72万円(144万円の2分の1)を超えていれば、その超えた分を追加で控除できます。

 

特定支出控除は、以下のような方に特に有効です。

  • 遠距離通勤で通勤費が高額な方
  • 自己啓発のために多額の研修費や資格取得費を支出している方
  • 単身赴任で帰宅旅費がかさむ方
  • 職務上必要な書籍や衣服に多額の費用をかけている方

特定支出控除を活用することで、実際の経費に応じた公平な課税を実現できるとともに、自己啓発や能力向上のための支出を税制面でサポートする効果もあります。ただし、申告手続きや証明書類の保管など一定の手間がかかるため、特定支出の合計額が給与所得控除額の2分の1を大きく超える場合に検討するとよいでしょう。

 

国税庁「特定支出控除」の詳細と適用条件について

給与所得控除の最新改正と今後の動向

給与所得控除は、社会経済状況の変化に応じて定期的に見直しが行われています。2020年の税制改正では、給与所得控除の上限引下げと基礎控除の引上げが実施されました。この改正の主なポイントは以下のとおりです。

 

【2020年の主な改正内容】

  1. 給与所得控除の上限引下げ
    • 改正前:給与収入1,000万円超で220万円(上限)
    • 改正後:給与収入850万円超で195万円(上限)
  2. 基礎控除の引上げ
    • 改正前:一律38万円
    • 改正後:一律48万円(合計所得2,400万円以下の場合)

この改正により、給与所得控除は全体的に縮小された一方、基礎控除が拡大されました。これは、働き方の多様化に対応し、給与所得者と自営業者などの間の税負担の公平性を図るための措置とされています。

 

また、2023年以降、インボイス制度の導入に伴い、消費税の仕入税額控除の要件が厳格化されました。これにより、個人事業主やフリーランスの税負担が変化する可能性があり、給与所得者との公平性の観点から、今後も給与所得控除の見直しが議論される可能性があります。

 

今後の給与所得控除に関する動向としては、以下のような点が注目されています。

  1. デジタル化の進展に伴う在宅勤務の増加
    • 在宅勤務の増加により、通勤費などの経費構造が変化
    • 給与所得控除の考え方や特定支出控除の対象範囲の見直しの可能性
  2. 所得再分配機能の強化
    • 格差是正の観点から、高所得者の給与所得控除をさらに縮小する可能性
    • 低・中所得者への配慮として、控除の下限は維持される見込み
  3. 国際的な税制との調和
    • OECD諸国の動向を踏まえた税制の国際的調和
    • デジタル課税など新たな課税方式の導入に伴う所得控除体系の見直し
  4. 社会保障制度との連携
    • 年金制度や医療保険制度との整合性を図るための見直し
    • 社会保険料負担と税負担のバランスの調整

給与所得控除は税制の根幹に関わる制度であり、経済状況や社会保障制度の変化に応じて今後も継続的に見直しが行われると考えられます。納税者としては、税制改正の動向に注目し、自身の税負担がどのように変化するかを把握しておくことが重要です。

 

財務省「所得税の仕組み」で最新の税制改正情報を確認できます