
配偶者控除とは、納税者に控除対象となる配偶者がいる場合に、一定の金額を所得から控除できる人的控除の一つです。この制度は、専業主婦(夫)や収入の少ない配偶者がいる世帯の税負担を軽減することを目的としています。
配偶者控除を受けるためには、以下の条件をすべて満たす必要があります。
控除額は納税者本人の合計所得金額によって異なります。
納税者本人の合計所得金額 | 控除額 |
---|---|
900万円以下 | 38万円 |
900万円超950万円以下 | 26万円 |
950万円超1,000万円以下 | 13万円 |
また、納税者本人の合計所得金額が1,000万円(給与収入のみの場合は1,220万円)を超える場合は、配偶者控除の適用を受けることができません。
配偶者控除は長年にわたり、女性の就労を抑制する「103万円の壁」として批判されてきました。この制度により、配偶者(多くの場合は女性)が年収103万円を超えて働くことを控える傾向があり、女性の社会進出や経済的自立を妨げる要因となっていました。
政府の税制調査会では、働き方の選択に対して中立的な税制の構築を目指し、配偶者控除の見直しについて以下のような選択肢が検討されてきました。
平成29年度税制改正では、配偶者控除の廃止には至らなかったものの、平成30年(2018年)から以下の見直しが行われました。
これにより、高所得者への配偶者控除適用を制限する一方で、配偶者の就労を促進する方向への改正が実施されました。
配偶者控除と配偶者特別控除は密接に関連していますが、適用条件や目的に違いがあります。
【配偶者控除】
【配偶者特別控除】
配偶者特別控除は、いわゆる「103万円の壁」を緩和するために導入された制度です。配偶者の収入が103万円を超えても、段階的に控除額が減少する仕組みにより、就労調整(収入を103万円以下に抑える行動)を緩和する効果があります。
2018年の改正では、配偶者特別控除の適用範囲が拡大され、配偶者の合計所得金額が85万円以下(給与収入150万円以下)までは、配偶者控除と同額の38万円の控除が受けられるようになりました。これにより、配偶者が年収150万円程度まで働いても、世帯としての税負担が急増しない仕組みが整いました。
令和7年度(2025年)税制改正大綱によると、配偶者控除にさらなる変更が予定されています。主な変更点は以下の通りです。
これらの変更は、配偶者の就労をさらに促進し、「103万円の壁」「150万円の壁」といった就労調整の要因を緩和することを目的としています。ただし、配偶者特別控除を受けられる年収の上限(201万円以下)は変わらない見込みです。
国税庁|No.1191 配偶者控除(最新の公式情報を確認できます)
配偶者控除の完全廃止については、長年議論が続いていますが、現時点では具体的な廃止時期は決まっていません。しかし、女性の就労促進や税制の公平性の観点から、将来的な廃止の可能性は残されています。
配偶者控除が完全に廃止された場合、以下のような影響が考えられます。
メリット:
デメリット:
配偶者控除が廃止された場合の具体的な影響を試算してみましょう。例えば、夫の年収が600万円で妻が専業主婦の世帯の場合。
ただし、配偶者控除の廃止が検討される場合、単純な廃止ではなく、基礎控除の拡大や新たな控除制度の導入など、激変緩和措置が同時に検討される可能性が高いです。
政府税制調査会では、配偶者控除に代わる選択肢として「移転的基礎控除」の導入も検討されています。これは、配偶者の所得では控除しきれなかった基礎控除を納税者本人に移転して控除する仕組みで、配偶者の収入の多寡によらず、夫婦2人で受けられる控除メリットが一定になるという特徴があります。
内閣府|税制調査会(配偶者控除の見直しに関する議論の詳細)
配偶者控除の廃止議論は、単なる税制の問題ではなく、働き方改革や女性の社会進出、少子高齢化対策など、日本社会の構造的な課題と密接に関連しています。今後も社会情勢の変化に応じて、制度の見直しが継続的に行われる可能性が高いでしょう。
配偶者控除を適用するためには、確定申告や年末調整の際に正確な手続きが必要です。特に給与所得者の場合、年末調整で配偶者控除を受けるための手続きは以下の通りです。
確定申告を行う場合は、「配偶者控除」または「配偶者特別控除」の欄に必要事項を記入します。e-Taxを利用する場合も同様の情報を入力する必要があります。
事業所得者(個人事業主)の場合は、確定申告時に配偶者控除を申請します。ただし、配偶者が事業専従者として給与を受け取っている場合は、配偶者控除の適用はできません。代わりに、青色申告の場合は「青色事業専従者給与」、白色申告の場合は「事業専従者控除」を利用することになります。
また、2018年の税制改正により、給与所得者の扶養控除等申告書の様式が変更され、配偶者に係る扶養親族等の数の算定方法も変更されました。配偶者が源泉控除対象配偶者に該当する場合には、扶養親族等の数に1人を加えて計算することとなりました。
国税庁|給与所得者の扶養控除等申告書の書き方(申告書の正確な記入方法を確認できます)
税制改正が行われると、申告書の様式や記入方法も変更されることがあります。2025年の制度変更に伴い、申告書の様式も変更される可能性がありますので、最新の情報を確認することが重要です。
配偶者控除や配偶者特別控除の適用を誤ると、後日修正申告が必要になったり、追加の税金を支払う必要が生じたりする場合があります。特に配偶者の収入が変動する可能性がある場合は、年間の収入見込みを慎重に見積もり、必要に応じて年末調整後に確定申告で調整することも検討しましょう。
税務署や税理士に相談することで、自身の状況に最適な税務戦略を立てることができます。特に、配偶者の就労状況や収入が変化する予定がある場合は、事前に専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
以上、配偶者控除の制度概要から最新の改正情報、廃止の議論まで幅広く解説しました。税制は定期的に見直されるため、最新情報を常にチェックし、自身の家計に最適な選択をすることが重要です。