
環境税とは、環境保全や地球温暖化対策を目的として課される税金の総称です。日本では主に二つの環境税が存在しています。一つは2012年10月から導入された「地球温暖化対策のための税」で、もう一つが2024年から本格導入された「森林環境税」です。
地球温暖化対策のための税は、石油・天然ガス・石炭といったすべての化石燃料の利用に対して、CO2排出量に応じて課税される仕組みになっています。この税制は、低炭素社会の実現に向けて、再生可能エネルギーの導入や省エネ対策をはじめとする地球温暖化対策を強化するために導入されました。2016年4月に最終税率への引き上げが完了し、現在も継続して徴収されています。
この税金の特徴は、二酸化炭素の排出量に応じて、工場や企業、家庭などから幅広く負担を求めることにより、広く国民に対して温暖化対策の重要性についての認識を促し、排出量の削減を推進する点にあります。また、各種温暖化対策の実効性を確保するための安定的財源としても機能しています。
森林環境税は、2024年から国内に住所のある個人に対して課税される国の税金です。この税金は、日本の森林を守り、育て、次世代へと引き継いでいくための新たな取り組みとして始まりました。
導入の背景には、日本の森林が抱える様々な課題があります。日本の国土の約7割を占める森林は、水源の確保や生態系の保全、地球温暖化の抑制などに大きく寄与していますが、林業の衰退により森林への手入れが行き届かず、多くの自治体で森林整備に課題を抱えている現状があります。
また、2015年にパリで開催された「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)」で採択された「パリ協定」では、加盟国に温室効果ガスの排出削減目標を定めて公表する義務が課されています。この国際的な約束を果たすためにも、森林の整備と保全は重要な課題となっています。
森林環境税の創設は、このような国内外の課題に対応するための「森林整備及びその促進に関する費用」の財源確保を目的としています。実は、この税金の構想は昭和61年頃からあり、「水源税」や「森林交付税」など様々な名称で検討されてきましたが、長い議論の末に現在の形で実現しました。
森林環境税は2024年1月1日から施行され、日本国内に住所を有する個人が納税義務者となります。税額は年額1,000円で、市区町村において個人住民税の均等割と合わせて徴収されます。具体的には、6月から市町村において、個人住民税均等割と併せて徴収が始まります。
徴収された森林環境税は、都道府県を経由して税収の全額が交付税及び譲与税特別会計に直接払い込まれます。その後、森林環境譲与税として都道府県・市町村へ譲与され、森林の整備や森林の整備を担うべき人材の育成等に充てられることになっています。
注目すべき点として、この新たな税制によって私たちの負担が年額1,000円増えるように思えますが、実際には2023年度までは東日本大震災の復興に関する防災財源確保のための均等割額の増額分として年額1,000円が徴収されていたため、徴収される合計額は前年度と変わりません。つまり、震災復興のための増税分が森林環境税に置き換わる形となっています。
日本の納税義務者は約6,200万人と言われており、森林環境税の開始によって、1年間の税収は620億円に上ることが見込まれています。この大きな財源が、日本の森林環境の保全と整備にどのように活用されるかが注目されています。
森林環境税として徴収されたお金は、その全額が「森林環境譲与税」として全国すべての都道府県や市町村に配分されます。2024年度は想定される税収600億円の9割を市町村に、1割を都道府県に譲与することになっています。
森林環境譲与税の使途は法律によって定められており、市町村では間伐などの森林整備に関する施策や、人材育成・担い手の確保、木材利用の促進や普及啓発など森林の整備の促進に関する施策に充当することとされています。一方、都道府県では森林整備を実施する市町村の支援に関する費用に充当することが定められています。
具体的な活用例としては、秋田県の由利本荘市が森林経営管理制度に基づく市町村による間伐を実施したことや、鳥取県の八頭町が花粉発生源対策となるクヌギ・コナラ植栽への支援を実施したことなどが挙げられます。2022年度の活用額が一番多かった用途は「間伐等の森林整備関係」でした。
譲与基準は、市町村の場合、総額の9割に相当する額を私有林人工林面積(5/10)、林業就業者数(2/10)、人口(3/10)で按分する形になっています。また、市町村の私有林人工林面積は、林野率により補正されます。都道府県の場合は、総額の1割に相当する額を市町村と同様の基準で按分します。
この配分方法により、2022年度の譲与実績では、北海道が約37億8千万円、東京都が約18億9千万円、高知県が約16億9千万円と上位を占めました。森林が少ないと思われる東京都が上位にいるのは、配分基準に「人口」が含まれているためです。
森林環境税の導入に伴い、いくつかの課題が指摘されています。最も大きな問題の一つが「二重課税」の問題です。実は、全国37都道府県と横浜市などではすでに地方税として森林環境税(名称は自治体によって異なる)が導入されています。2024年からは、これらの地方税に加えて国税としての森林環境税が課税されることになり、二重課税の状態が生じています。
この二重課税問題に対しては、各自治体が独自の対応を検討しています。例えば、一部の自治体では地方税としての森林環境税の税率を見直したり、使途を調整したりする動きがあります。しかし、全国的な統一的な解決策はまだ示されておらず、今後の課題となっています。
もう一つの課題は、自治体ごとの具体的な使用用途の透明性です。法律で使途は定められていますが、具体的にどのような事業に使われるかは自治体に委ねられています。そのため、自治体によっては税の使い道に頭を悩ませるケースも報告されています。実際に、三重県南部の度会町では2021年度までの3年間で配分された交付金のうち、9割近くが活用されないまま「基金」として積み立てられているという報告もあります。
さらに、税の配分の公平さも課題となっています。配分基準には「私有林・人工林の面積」「林業就業者数」「人口」が含まれているため、都市部など森林面積の少ない地域では、森林環境譲与税の配分が少ない傾向にあります。全国の納税者に平等に1,000円が課せられることを考慮すると、都市部に住む人々にとっては恩恵が感じられにくい側面があるのは否めません。
2024年からは森林の多い自治体への譲与額を手厚くする見直しが行われるものの、これらの課題を解決するためには、税の使途の透明性を高め、効果的な森林整備につながる仕組みづくりが必要とされています。
環境税、特に森林環境税の導入には様々な課題がありますが、一方で多くのメリットも期待されています。まず第一に、安定的な財源の確保により、長期的な視点での森林整備が可能になることが挙げられます。これまで予算の制約で十分に行えなかった間伐や植林などの森林整備事業が、継続的に実施できるようになります。
二つ目のメリットは、地球温暖化対策への貢献です。森林はCO2の吸収源として重要な役割を果たしており、適切に管理された森林は温室効果ガスの削減に大きく寄与します。パリ協定の目標達成に向けて、森林の二酸化炭素吸収機能を最大限に活用することは不可欠です。
三つ目は、生物多様性の保全です。健全な森林生態系は多様な生物の生息地となり、生物多様性の保全に貢献します。森林環境税による整備事業は、単なる木材生産だけでなく、生態系全体の健全性を考慮した取り組みも含まれています。
四つ目のメリットは、地域経済の活性化です。森林整備事業は地域の林業従事者の雇用を創出し、木材産業の振興にもつながります。特に過疎化が進む山間部の地域経済にとって、森林環境税による事業は重要な経済的基盤となる可能性があります。
最後に、防災・減災効果も見逃せません。適切に管理された森林は、土砂崩れや洪水などの自然災害を防ぐ役割も果たします。近年増加している豪雨災害に対する防災・減災の観点からも、森林環境税による森林整備は重要な意義を持っています。
これらのメリットを最大化するためには、税金の使途の透明性を確保し、効果的な森林管理計画を策定・実行することが重要です。また、納税者である国民に対して、森林環境税の意義や効果を分かりやすく伝え、理解と協力を得ることも不可欠でしょう。
地球温暖化対策のための税の詳細情報(環境省公式サイト)
森林環境税及び森林環境譲与税の最新情報(林野庁公式サイト)
環境税、特に森林環境税は日本の環境政策において重要な位置を占めています。課題はあるものの、適切に運用されれば、持続可能な森林管理と環境保全に大きく貢献する可能性を秘めています。私たち一人ひとりが税金の使途に関心を持ち、環境保全の重要性を理解することが、この制度を成功させる鍵となるでしょう。
森林は日本の国土の約7割を占め、水源涵養、生物多様性の保全、地球温暖化の抑制など多面的な機能を持っています。これらの貴重な森林資源を次世代に引き継いでいくためにも、森林環境税による持続的な森林管理の取り組みは不可欠です。今後は、税金の効果的な活用と透明性の確保を通じて、環境と経済が調和した持続可能な社会の実現を目指していくことが求められています。