

支払調書を報酬の受取先に渡さないと、あなたが法律違反になると思い込んでいませんか?
支払調書とは、企業や個人事業主が「誰に・どのような内容で・年間いくら支払ったか」を税務署に報告するための法定調書です。2025年時点で63種類の法定調書が存在しており、そのうち35種類が各種支払調書にあたります。税務署はこの書類をもとに、受取側が正しく申告しているかを照合します。
実務上、最も頻繁に作成されるのが「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」です。弁護士・税理士・社会保険労務士といった士業への報酬、フリーランスへの原稿料・翻訳料・講演料などがこれに該当します。提出義務が生じるのは、同一人に対する年間支払金額の合計が5万円超になった場合です。
ただし、全ての報酬区分が5万円超で義務になるわけではありません。外交員・集金人・プロボクサー・ホステス等への報酬や広告宣伝のための賞金については、50万円超が提出範囲の基準です。また、馬主に支払う競馬の賞金については1回の支払賞金額が75万円超の場合に、その年のすべての支払金額について作成が必要になります。区分によって基準金額が大きく異なる点が最初のつまずきポイントです。
注意したいのは、源泉徴収の対象にならない法人への支払いや、少額で源泉徴収をしていない報酬であっても、提出範囲に該当すれば支払調書を提出しなければならない点です。「源泉徴収していないから提出不要」という判断は誤りです。これが原則です。
国税庁|No.7431「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の提出範囲と提出枚数等
※提出範囲の金額基準や消費税の取り扱いについて、国税庁の公式解説が確認できます。
「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」には、大きく7つの記入欄があります。書き方を正確に押さえておくことで、差し戻しや確認対応のリスクを防げます。
① 支払を受ける者
報酬を受け取った相手の住所(所在地)・氏名(名称)・個人番号または法人番号を記載します。個人の場合はマイナンバー12桁、法人の場合は法人番号13桁を右詰めで記入します。屋号だけの記載では不十分で、必ず個人名まで記入することが求められます。
② 区分
支払った報酬の種類を「原稿料」「講演料」「弁護士報酬」「税理士報酬」「翻訳料」「外交員報酬」など具体的な名称で記入します。支払の性質が一目でわかるよう、明確に表記することがポイントです。
③ 細目
区分をより具体的に補足する欄です。たとえば印税であれば書籍名、弁護士報酬であれば関与した事件名、原稿料であれば支払回数、講演料であれば講座名などを記入します。記入内容は区分によって異なります。
④ 支払金額
1月1日から12月31日の間に「支払が確定した」金額を記入します。ここで見落としやすいのが、未払分の取り扱いです。支払調書の作成日時点でまだ支払われていない金額がある場合は、各欄の上段に未払額を「内書き」で記載し、下段に年間確定総額を記入します。消費税込みで記載するのが原則ですが、消費税額が請求書等で明確に区分されている場合は、税抜き金額のみを記入することも認められています。
⑤ 源泉徴収税額
1年間に源泉徴収すべき所得税および復興特別所得税の合計額を記入します。まだ未払いのために徴収できていない税額がある場合は、こちらも内書きで上段に記載します。1円未満の端数は切り捨てです。
⑥ 摘要
診療報酬に家族診療分がある場合・災害による猶予を受けた税額がある場合・広告宣伝賞金が金銭以外の場合・源泉徴収免除証明書の提出がある場合など、特別な事情が生じたときに記入する欄です。通常は空欄でも問題ありません。
⑦ 支払者
報酬を支払った側(作成者)の住所または所在地・氏名または名称・電話番号・マイナンバーまたは法人番号を記入します。この欄のマイナンバー記載が必要なのは税務署提出用のみです。受取先への写し交付時には記載してはいけません。
| 記入欄 | 記入内容の要点 | 注意点 |
|---|---|---|
| ①支払を受ける者 | 住所・氏名・マイナンバー | 屋号だけは不可。個人名必須 |
| ②区分 | 報酬の種類(原稿料・講演料等) | 内容が一目でわかる名称で |
| ③細目 | 書籍名・事件名・支払回数等 | 区分によって記入内容が異なる |
| ④支払金額 | 年間確定額(未払は内書き) | 未払分も確定額に含める |
| ⑤源泉徴収税額 | 所得税+復興特別所得税の合計 | 未徴収分は内書きで記載 |
| ⑥摘要 | 特別事情がある場合のみ記入 | 通常は空欄可 |
| ⑦支払者 | 支払側の情報・番号 | 写し交付時はマイナンバー不可 |
国税庁|令和6年分 報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書(作成手引きPDF)
※各欄の具体的な記入例が掲載されています。実際の帳票イメージを確認できます。
源泉徴収税額の計算は、報酬の種類と金額によって異なります。理解しておくべき基本パターンは2種類です。
まず、原稿料・講演料・弁護士報酬・税理士報酬・外交員報酬など一般的な報酬について、100万円以下の部分は以下の式で計算します。
$$\text{源泉徴収税額} = \text{報酬額} \times 10.21\%$$
100万円を超える部分については税率が変わり、次の式になります。
$$\text{源泉徴収税額} = (\text{報酬額} - 100\text{万円}) \times 20.42\% + 102{,}100\text{円}$$
たとえば、デザイナーへの年間報酬が150万円だった場合は次のようになります。
$$\text{源泉徴収税額} = (150\text{万円} - 100\text{万円}) \times 20.42\% + 102{,}100\text{円} = 204{,}200\text{円}$$
源泉徴収税額の計算ですね。しっかり押さえておけばOKです。
なお、司法書士や行政書士については計算式が異なります。司法書士報酬の場合は、1回の支払金額から1万円を控除した残額に10.21%を乗じます。
$$\text{源泉徴収税額(司法書士)} = (\text{報酬額} - 10{,}000\text{円}) \times 10.21\%$$
たとえば登記費用として司法書士に5万円を支払った場合、源泉徴収の対象となるのは4万円です。4万円×10.21%=4,084円(端数切り捨て)が源泉徴収税額になります。
消費税の取り扱いについても整理しておきましょう。原則として、支払金額欄には消費税込みの金額を記載します。ただし、請求書などで消費税額が明確に区分されている場合は、消費税を含まない税抜き金額で判断・記載しても問題ありません。この「税抜き可」の特例を知っておくことで、5万円という提出基準の判断に影響する場合があります。
たとえば、フリーランスへの年間報酬が税抜き4万8,000円・消費税4,800円で合計5万2,800円だった場合を考えてみます。消費税が明確に区分されていれば、税抜きの4万8,000円で判断できるため、年間5万円以下として支払調書の提出が不要になります。消費税の区分の有無が、提出義務の有無を分けることがあるわけです。意外ですね。
国税庁|消費税等が含まれている場合の提出範囲の金額基準および記載方法
※消費税の区分の有無が提出基準に与える影響について、具体的な判断基準が確認できます。
提出期限は、報酬等を支払った年の翌年1月31日です。たとえば2025年中に支払った報酬については、2026年1月31日までに税務署へ提出しなければなりません。提出期限は厳守です。
提出方法は4つから選べます。
- 書面提出:国税庁のWebサイトからフォームをダウンロードして印刷・記入
- e-Tax:インターネット経由で税務署に出向かず提出可能
- 光ディスク(CD・DVD等):CSVデータを格納して提出する方法
- クラウドサービス:国税庁長官の認定を受けたクラウドサービス経由での提出
注意点として、前々年の法定調書提出枚数が種類ごとに100枚以上になる場合は、書面での提出が認められません。e-Tax・光ディスク・クラウドのいずれかを選ぶ必要があります。これは2021年1月1日以降のルールで、以前の基準(1,000枚以上)から大幅に引き下げられています。厳しいところですね。
支払調書を提出しなかった場合、または虚偽の記載をして提出した場合は、所得税法第242条に基づき「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」が科される可能性があります。悪意がなくても提出義務を怠ると法的リスクが生じます。なお、提出が遅れた場合(遅延)については、直接の罰則規定はないものの、税務署から問い合わせが入ることがあります。
「受取先への交付義務がない」という点も重要な知識です。支払調書は税務署への提出が義務づけられた書類であり、報酬の受取先(フリーランス等)に渡す法的義務はありません。実務上は確定申告対応のために写しを渡すことが多いですが、あくまで「商慣習」です。
写しを交付する場合は、受取先のマイナンバー・支払側のマイナンバーいずれも記載してはいけません。税務署提出用とは別の、番号なし版を用意する必要があります。これが原則です。
また、受取先が確定申告をする際、支払調書の添付義務はありません。自身の帳簿や収入記録をもとに申告できれば、支払調書がなくても確定申告は成立します。
freee|支払調書とは?税務署への提出義務のある範囲から書き方までわかりやすく解説
※提出義務の範囲・交付義務の有無・確定申告での位置づけについて整理されています。
支払調書の書き方において、検索上位の記事ではあまり深掘りされていない落とし穴が「未払金の二段記載」です。年度末に支払いが確定しているが、実際の入金が翌年になるケースは珍しくありません。
支払調書の支払金額欄は、「実際に支払った金額」ではなく「支払が確定した金額」を記載します。つまり、12月中に確定した報酬が翌年1月に支払われる場合でも、その金額は今年の支払調書に計上しなければなりません。これが条件です。
未払分がある場合は、次の二段記載が必要になります。
- 上段(内書き):支払調書作成日時点での未払額
- 下段:年間の確定総額(未払分を含む)
源泉徴収税額も同様に、未徴収分は上段に内書きします。この記載を省略したり、確定額ではなく実払額だけを記入したりすると、提出後に税務署から確認が入ることがあります。痛いですね。
実務的なミスとして多いのが以下のパターンです。
| よくあるミス | 正しい対処法 |
|---|---|
| 実際に支払った金額のみ記載する | 確定した金額(未払分込み)を記載する |
| 未払がある場合に内書きをしない | 上段に未払額、下段に確定総額を記入 |
| 消費税を常に含めて計算する | 明確に区分されていれば税抜きで判断可 |
| 写しに受取先のマイナンバーを記載する | 写し交付時はマイナンバー記載不可 |
| 法人への支払いは不要と判断する | 提出範囲に該当すれば法人でも必要 |
こうした記載ミスを防ぐには、年末に「①確定額の集計」「②未払残高の確認」「③内書き要否の判定」の3ステップで整理する習慣をつけることが有効です。これだけ覚えておけばOKです。
会計ソフトを使っている場合は、支払調書の自動作成機能で確定額と実払額が別管理されているかどうかを確認しましょう。弥生給与やfreee会計では支払調書の出力に対応していますが、未払処理の設定が正しくないと、実払額のみで出力されてしまうことがあります。設定を確認する、その一手間が後の差し戻しを防ぎます。
弥生|支払調書とは?提出義務の範囲、書き方をわかりやすく解説【記入例あり】
※未払金の取り扱いや記入例の詳細について確認できます。弥生給与での作成手順も解説されています。