

「マタハラ防止措置を義務化した法律の罰則は、"直接的な過料"はないので何もしなくても大丈夫」と思っていると、勧告に従わなかった段階で企業名が全国公表され、採用・取引・株価まで一気に傷つく可能性があります。
マタハラ(マタニティハラスメント)防止措置の義務化とは、2017年1月1日に施行された改正男女雇用機会均等法・改正育児介護休業法によって、すべての事業主に対して「妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントを防止するための措置」を講じることが法的に義務付けられた制度です。重要なのは「すべての企業」が対象という点です。
パワハラ防止法の義務化が大企業は2020年、中小企業は2022年と段階的に行われたのとは異なり、マタハラ防止措置の義務化は2017年の施行時点から企業規模を問わず一律に課されました。つまり従業員数が1人であっても、パートやアルバイトを雇用している小規模な個人商店であっても対象から外れることはありません。
「規模に関係なく義務が生じる」ということですね。
法的根拠は主に2つの法律です。男女雇用機会均等法第11条の3第1項では、「妊娠・出産・産前産後休業の取得等に関する言動により女性労働者の就業環境が害されることのないよう、相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と定めています。育児介護休業法第25条第1項では、育児休業等の制度・措置の利用に関する言動による就業環境悪化を防ぐための措置義務を規定しています。
この義務の対象となる労働者の範囲も見落とされがちな点です。正社員だけでなく、パートタイム・有期雇用・派遣労働者もすべて含まれます。特に派遣社員については、派遣元事業主だけでなく派遣先事業主にも防止措置義務が適用される点は、多くの企業担当者が見落としがちです。
厚生労働省が定める指針(平成28年厚生労働省告示312号)に基づき、企業が講じるべき具体的な措置の内容が詳細に規定されており、単に「知らなかった」では免れない法的責任が生じる仕組みとなっています。
参考:厚生労働省「職場における妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント対策や労働者からの相談に対する適切な対応の推進について」(指針の原文)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000132960.pdf
厚生労働省の指針に基づき、企業が義務として実施しなければならない措置は5つに整理されています。「何となく対応している」という曖昧な状態では法令遵守とはみなされないため、具体的な内容を正確に把握する必要があります。
① 方針の明確化と社内への周知
第1の措置は「マタハラは許されない」という企業としての方針を明確に打ち出し、全従業員に周知することです。社長や代表取締役が朝礼・社内通達・イントラネット等を通じて明確なメッセージを発信するとともに、就業規則にマタハラを懲戒処分の対象として明記することが求められます。「ポスターを貼った」程度では不十分で、全従業員が認知できる形での継続的な周知が必要です。
② 相談体制の整備と周知
第2の措置は、マタハラに関する相談窓口を設置し、全従業員に知らせることです。ポイントは「マタハラが実際に発生した場合だけでなく、発生のおそれがある場合や、該当するかどうか不明な段階でも相談を受け付ける」体制が必要という点です。相談窓口は外部機関(弁護士事務所・社労士・EAP機関など)への委託も認められています。またセクハラとの同時相談にも対応できることを周知することも求められます。
これは使えそうです。
③ 相談発生時の適切・迅速な対応
第3の措置は、実際に相談が寄せられた際の対応プロセスを整備することです。具体的には、相談者・行為者双方からのヒアリング実施、主張が食い違う場合の第三者(目撃者等)への確認、事実確認ができた場合の被害者へのケアと行為者への懲戒処分、事実確認の有無にかかわらず再発防止措置の実施、という一連のフローが必要です。
④ 背景要因の解消
第4の措置として、マタハラが起こりやすい職場の構造的問題を解消する取り組みが求められています。例えば、妊娠中の従業員の体調不良により周囲のスタッフへ業務負担が集中し、それが嫌がらせに発展するケースがあります。こうしたリスクを減らすために業務分担の見直しや人員補充を行うことが、企業に課された義務の一つです。
⑤ 相談者のプライバシー保護と不利益取扱い禁止の周知
第5の措置は、マタハラについて相談したことや調査に協力したことを理由に不利益を受けないことを社内で明確にし、相談者のプライバシーを守るための体制を整備することです。相談担当者向けのプライバシー保護マニュアル整備や研修実施も含まれます。プライバシー保護の仕組みが整っていなければ、相談窓口を設置しても実質的には機能しません。
参考:企業向けにマタハラ防止措置の5つの内容を弁護士が詳しく解説したページ
https://kigyobengo.com/media/useful/185.html
「マタハラ防止措置に直接的な罰則規定はない」という情報が一人歩きし、対応を後回しにしている企業が少なくありません。しかしこれは大きな誤解で、段階的に厳しい制裁を受ける可能性があります。
まず、法違反の事実や疑いがある場合、厚生労働大臣から「報告徴求命令」が出されます。これは企業に対して職場の実態についての報告を求めるものです。報告を拒否したり虚偽の報告をした場合、20万円以下の過料が直ちに科せられます。
次の段階として、法違反に対して「助言・指導・勧告」が行われます。助言・指導は行政から改善を促す行政指導ですが、「勧告」は法的な是正命令に近い性質を持ちます。
問題はその先です。
勧告に従わなかった場合、厚生労働大臣が当該企業名を公表できると法律(均等法・育児介護休業法)に明記されています。
これが実務上最大のリスクです。
企業名公表は単なる「お知らせ」ではありません。2015年9月、茨城県のクリニックが妊娠を理由に女性労働者を解雇したにもかかわらず是正勧告に従わなかったとして、均等法違反での初の企業名公表が行われました。SNSが高度に普及した現代において、企業名が公表されれば炎上リスクは極めて高く、採用活動への打撃・取引先との信頼毀損・株価下落など、金銭的・社会的損失は計り知れません。
さらに見落とされやすいのが民事訴訟リスクです。マタハラによる損害賠償請求では、慰謝料は50万円〜100万円程度が相場とされていますが、退職を余儀なくされた場合には逸失賃金(得られたはずの給与)も加算され、総額が数百万円から1,000万円超に及ぶ事案も存在します。育休明けの降格によって年俸が550万円から500万円に減額された事例では、裁判所が差額分の支払いと損害賠償を命じています。
厳しいところですね。
法律上の不利益取扱い禁止(均等法第9条・育児介護休業法第10条)に違反した場合、その行為自体が違法となります。妊娠・出産・育休取得を理由とした解雇・降格・雇止め・契約更新拒否・減給・賞与カット・不利益な配置転換はすべて該当します。
育休明けに関するトラブルのなかで金融業界を含む多くの企業が見落としているのが「原職・原職相当職への復帰原則」です。育児介護休業法第22条とそれに関する厚生労働省の指針では、育児休業から復帰した従業員を「原職」または「原職相当職」に戻すことを原則として義務付けています。
「原職相当職」とは、厚生労働省の通達において以下の3条件すべてを満たす職とされています。①休業後の役職が休業前を下回っていないこと、②職務内容が変わっていないこと、③勤務する事業所が同一であること。この3条件のうち一つでも欠けると、「原職相当職への復帰」とは認められない可能性があります。
原職復帰が原則です。
「育休中に組織改編があったので、別部署・別ポジションへの異動はやむを得ない」というケースも、業務上の必要性が客観的・合理的に証明できなければ違法となりえます。最高裁判所は2014年(平成26年)の広島中央保健生活協同組合事件において、妊娠中の軽易業務への転換に際した降格は原則として男女雇用機会均等法に違反すると判示し、会社側が「特段の事情」を証明できる場合のみ例外的に適法とされると示しました。この判例以降、育休・産休を契機とする降格や職務変更に対して企業側の証明責任が重くなっています。
さらに、転勤命令についても配慮義務があります。育児介護休業法第26条では、就業場所の変更を伴う配置転換により育児が困難になる労働者がいる場合、その状況に配慮しなければならないと定めています。たとえ就業規則で転勤義務が定められていても、育児中の従業員への配慮を怠ると法違反になり得る点は、人事担当者として特に注意が必要です。
マタハラには大きく2つの類型があります。厚生労働省の指針(平成28年厚生労働省告示312号)では「制度等の利用への嫌がらせ型」と「状態への嫌がらせ型」に分類されています。
「制度等の利用への嫌がらせ型」は、産前休業・産後休業・育児休業・短時間勤務・時間外労働の制限など、法律が定める制度を利用しようとしたり利用したことを理由に不利益を受けるケースです。例えば、育休を申請した女性に「休むなら代わりの人を雇う」と退職をほのめかす言動、育休取得の申請を同僚が「迷惑だから撤回して」と繰り返す言動、時短勤務を取得した社員に「大きな仕事は任せられない」と言って業務から外すケースなどが典型例です。
厚生労働省の実態調査(令和2年度)によると、実際に被害を受けた内容として最も多いのが「上司による制度利用の請求・利用阻害言動」で24.3%、次いで「繰り返しまたは継続的な嫌がらせ等」が24.0%となっています。
「状態への嫌がらせ型」は、妊娠・出産・産後の状態に起因して就業環境が害されるケースです。上司が「妊婦はいつ休むか分からないから仕事を任せられない」と言って雑務だけを担当させる、「妊娠するなら多忙な時期を避けるべきだった」と責める言動などが該当します。
マタハラに該当しないケースも存在します。業務上の必要性に基づいて客観的に判断された言動で、妊娠・出産・育児に関係なく行われる業務指示等はハラスメントには当たりません。ただし「業務上の必要性がある」という主張を企業側が立証できなければ、違法と判断されるリスクがあります。また、妊娠・出産を理由に解雇・降格・減給・雇止め等を行うのは「ハラスメント」ではなく「不利益取扱い」として別途違法とされる点も覚えておく必要があります。
参考:厚生労働省「育児・介護休業等を理由とする不利益取扱いの禁止と妊娠・出産等に関するハラスメント」
https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/gimu/harassment/
2017年の義務化以降、マタハラ対策に関連する法制度はさらに強化されています。2022年4月から順次施行された改正育児介護休業法では、マタハラ防止措置の枠組みをさらに拡充する内容が盛り込まれました。
最も注目すべき変更点は「妊娠・出産の申し出をした労働者への個別の周知・意向確認措置の義務化」です。労働者が妊娠・出産を申し出た時点で、会社は育休制度の概要や申し出先・期間、育休中の待遇(給付金・社会保険料免除等)を個別に説明し、取得意向を確認することが義務となりました。これは「制度を知らずに育休を取り損ねた」という状況を防ぐためのルールで、形式的な書面交付だけでなく実質的な確認が求められます。
2022年10月からは「産後パパ育休(出生時育児休業)」が創設されました。これにより男性は子の出生後8週間以内に最大4週間の育休を取得できるようになり、男性の育休取得を妨げる「パタハラ(パタニティハラスメント)」への対策も、マタハラ防止と同様の枠組みで義務付けられています。育児制度の利用を希望した男性労働者の26.2%が何らかのパタハラを経験しているというデータもあり(令和2年度厚生労働省調査)、女性だけの問題ではないという認識が企業に求められています。
2023年4月からは、常時1,000人超の企業に男性育休取得率の公表義務が課せられ、2025年4月からはその対象が300人超の企業へ拡大されています。公表内容が対外的に示されることで、取得率の低い企業は採用競争で著しく不利になります。
この流れは続きます。
2022年以降の改正対応として、多くの金融機関・証券会社・保険会社でも、育休制度の個別説明フローのシステム化、ハラスメント研修のe-ラーニング化、相談窓口の社外委託(弁護士・産業カウンセラーなど)が進んでいます。法律の変化を先取りして体制を整えることが、コンプライアンスリスクを抑えるうえで最も合理的な選択です。
参考:2022年改正育児・介護休業法の詳細解説(HR Pro)
https://www.hrpro.co.jp/series_detail.php?t_no=2616
義務化への対応は「気持ちの上での心がけ」ではなく、文書・仕組み・人員の整備が必要です。実務上の対応として特に優先すべき取り組みを整理します。
まず就業規則の整備です。マタハラを懲戒事由として明記する改訂が必要で、具体的には懲戒規定の中に「妊娠・出産・育児に関するハラスメント行為」を禁止行為として列挙し、違反した場合の懲戒処分の種類(戒告・出勤停止・降格・解雇等)を明記します。就業規則の改訂は労働基準法上、常時10人以上の労働者を雇用する事業場では届出義務がある点も注意が必要です。
次に相談窓口の設置と周知です。相談窓口担当者には、マタハラに関する基本知識・プライバシー保護ルール・ヒアリング技術を事前に習得させることが求められます。担当者が1人だと担当者自身がハラスメントの加害者になる可能性も否定できないため、複数人体制か外部機関への委託が推奨されます。社外EAP(従業員支援プログラム)の利用は年間1人あたり数千円〜数万円程度の費用で導入できるサービスもあり、中小企業でも比較的導入しやすい選択肢です。
対応フローの文書化も欠かせません。「相談があった場合、誰が何を行うか」を手順書として整備することで、担当者が変わっても一貫した対応が維持できます。相談者・行為者双方のプライバシー保護、ヒアリングの進め方、懲戒処分の判断基準、相談者へのフォローアップまでを網羅した対応マニュアルを整備することが理想的です。
マニュアル整備が条件です。
研修の実施も法令上の措置義務に含まれます。全従業員向けのマタハラ基礎研修に加え、管理職向けには「部下から相談を受けた際の対応」「育休取得者が出た際の業務再編」といった実務的な内容を含む研修が有効です。厚生労働省の委託事業として無料提供されているオンライン研修素材もあり、費用をかけずに対応できる部分も多くあります。
参考:中小企業向けのマタハラ防止対策の具体的な進め方(弁護士解説)
https://www.takumi-corporate-law.com/column/maternity_harassment/
金融業界(銀行・証券・保険・ファンドなど)は特有の働き方・文化的背景があるため、マタハラリスクが顕在化しやすい側面があります。業界特性を踏まえた視点で確認しておく価値があります。
第一に、成果主義・数字管理の文化との衝突です。金融業界では個人の営業成績・運用成果が厳密に管理されることが多く、妊娠・育休による一時的な業績低下が査定にそのまま反映されると、それ自体がマタハラ・不利益取扱いに当たる場合があります。育休取得中の期間の査定(成果報酬算定・昇進審査)において、取得前の実績を参考にする形を取らずに当該期間の「成果ゼロ」扱いにすることは、法的リスクを伴います。
第二に、長時間労働・転勤文化との摩擦です。全国転勤が当然とされてきた金融機関の人事慣行は、育児介護休業法第26条の「転勤配慮義務」と真っ向からぶつかります。「転勤できないなら昇進はない」という暗黙の了解が維持されていると、育児中の社員に対する事実上の不利益取扱いになり得ます。
第三に、コンプライアンス違反が与える対外的影響の大きさです。金融機関は金融庁の監督下に置かれており、労働法上のコンプライアンス違反はビジネス上の信用毀損と直結します。企業名公表を受けた金融機関は、機関投資家・取引先からのESG評価で大幅なマイナス評価を受けるリスクがあります。近年のESG投資・SDGs経営の潮流のなかで、ハラスメント対策の充実度が企業評価に直結する環境が整いつつあります。
これは見逃せません。
第四に、女性活躍推進法との相互作用です。常時301人以上の企業に対しては女性活躍推進法に基づく行動計画の策定・届出・情報公開が義務付けられており、マタハラ防止措置の整備水準は「女性が働きやすい職場かどうか」を外部から判断する材料の一つになっています。厚生労働省が運営する「えるぼし認定」や「くるみん認定」の取得も、取組水準を社外にアピールする有効な手段です。
参考:職場のハラスメント対策総合情報サイト(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html
マタハラ対策を議論するうえで、見落とされがちなのが「逆マタハラ」の問題です。これは一般的なマタハラとは逆に、妊娠・育児中の労働者が自分の立場を過度に主張したり、周囲への業務の丸投げや権利の乱用によって、同僚や上司が不当な扱いを受けるケースを指します。
具体的には、「妊婦だから残業は一切できない」と主張したまま業務調整に一切協力しない、「育休明けだから最初の1年は残業ゼロ」と言い続けて特定の業務を常に他者に押し付ける、「マタハラと訴える」という言葉を使って上司の合理的な業務指示を断り続けるといった事例が報告されています。
こうした状況は、妊娠・育児に関する法律が浸透する一方で、権利と義務のバランスに関する理解が不十分なことから生じます。企業にとっての正しい対処法は、「法律上認められた制度の利用は保護するが、業務上合理的な指示や協力要請には正当に応じることも求める」という方針を就業規則と管理職研修の中で明確にすることです。
この点が難しいところですね。
「業務上の合理的な必要性に基づく言動はハラスメントに該当しない」という原則を従業員全員に周知し、何がマタハラで何が合理的な業務指示かを具体例で示すことが、逆マタハラの予防にも通じます。相談窓口でも「上司・同僚からの相談」を受け付ける体制を整えることで、一方的に保護される者と我慢させられる者という構図を解消できます。
逆マタハラが放置されると、職場のマタハラ対策全体への反発が生じ、結果として本来保護すべき妊産婦・育休取得者への理解が損なわれるという負のスパイラルに陥ります。公正なルールの徹底こそが、真のマタハラ防止につながるという視点が重要です。
法律の義務を果たしているかどうかを自社で定期的に点検するチェックリストを活用することが、継続的なコンプライアンス維持には有効です。以下の項目を基準に自社の状況を確認してみてください。
| チェック項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 📋 方針の明確化 | 就業規則にマタハラ禁止と懲戒規定が明記されているか |
| 📢 周知・啓発 | 全従業員が制度の存在と禁止事項を認識しているか |
| 🏢 相談窓口 | 窓口設置・担当者・利用方法が全員に周知されているか |
| 🔒 プライバシー保護 | 相談者の情報が適切に保護される体制があるか |
| 📝 対応マニュアル | 相談発生時の対応手順が文書化されているか |
| 👥 研修の実施 | 管理職・一般社員向けに定期的な研修が行われているか |
| 🔄 背景要因の解消 | 育休取得者が出た際の業務分担見直し体制があるか |
| 📣 個別周知 | 妊娠・出産の申し出を受けた際に育休制度を個別説明しているか |
チェック項目に未対応のものがあれば、優先度の高い項目から整備を進めることが重要です。特に「相談窓口の設置と周知」については、厚生労働省の2023年度調査においても「実施できていない」と回答する企業が相当数あるとされており、まずここから手をつけることが現実的な第一歩です。
問題がなければ問題ありません。
厚生労働省が提供する無料の「事業主向けセルフチェックシート」や、都道府県労働局・社会保険労務士会が実施する無料相談サービスを活用することで、専門家の助言を得ながら費用を抑えて体制整備を進めることもできます。重要なのは、今すぐに完璧な体制を整えることよりも、現状の課題を把握し、改善サイクルを回し続けることです。
参考:厚生労働省「男女雇用機会均等法 均等法Q&A」(パート・アルバイト・派遣への適用も明記)
https://www.mhlw.go.jp/general/seido/koyou/danjokintou/q-a.html
多くの企業がマタハラ防止措置をコンプライアンス上の「義務・コスト」として捉えていますが、2024年以降の金融市場環境においては、これを「企業価値を高める資産」として再評価する視点が広まっています。この観点は、特に金融に関心のある読者にとって見逃せない点です。
2023年3月期から上場企業に対して「人的資本の情報開示」が義務付けられました。具体的には有価証券報告書において、「多様性」「育成」「安全衛生・労働環境」などの指標を数値で開示することが求められています。マタハラ防止体制の充実度・育休取得率・女性管理職比率は、これらの指標に直結します。
ESG投資家(環境・社会・ガバナンスを重視する機関投資家)は、こうした指標を企業選別のスクリーニングに使っています。日本の主要年金基金(GPIFなど)もESG投資を拡大しており、ハラスメント対策の開示水準が低い企業は、長期的な資金調達コストに影響が出る可能性があります。
「マタハラ対策=コスト」から「マタハラ対策=企業価値投資」へのパラダイムシフトが起きつつあります。優秀な女性人材の獲得・定着、管理職候補者層の多様化、職場エンゲージメントの向上、そして外部評価の上昇はいずれも財務的なリターンをもたらします。マタハラ対策への投資対効果を定量的に示す姿勢が、今後の企業経営・IR活動においても重要な要素となってきています。
結論はシンプルです。
マタハラ防止措置を「義務だから最低限やる」ではなく、「取り組み水準を開示・競争できるビジネス資産」として積極的に整備する企業が、今後の人材・資本市場において優位性を獲得していく流れがすでに始まっています。金融に関心のある方にとって、こうした視点でマタハラ防止措置を理解しておくことが、投資先の選別にも、勤務先の評価にも役立つはずです。
参考:人的資本開示・ESGとハラスメント対策の関係についての解説(ビジネスロイヤーズ)
https://www.businesslawyers.jp/articles/1112