高年齢被保険者とは雇用保険の仕組みと給付を完全解説

高年齢被保険者とは雇用保険の仕組みと給付を完全解説

高年齢被保険者とは何か・雇用保険の仕組みと給付を完全解説

65歳の誕生日当日に退職すると、失業手当が最大300日以上もらえなくなり、年金も止まります。


📋 この記事でわかる3つのポイント
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高年齢被保険者の定義

65歳以上の雇用保険加入者を「高年齢被保険者」と呼びます。2017年の法改正で制度が整備され、年齢の上限なく雇用保険に加入できるようになりました。

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受給できる給付金は4種類

高年齢求職者給付金(一時金)・育児休業給付金・介護休業給付金・教育訓練給付金の4つが対象です。年金との併給も可能です。

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マルチジョブホルダー制度とは

2022年1月から始まった特例制度。複数の職場で週の合計が20時間以上あれば、雇用保険に加入できる仕組みです。


高年齢被保険者とは何か・雇用保険の被保険者区分の基本

高年齢被保険者とは、2017年(平成29年)1月1日の雇用保険法改正によって誕生した被保険者区分の名称です。具体的には、週の所定労働時間が20時間以上、かつ31日以上の雇用見込みがある65歳以上の労働者が該当します。加入に年齢の上限はなく、80歳を超えて就労しているケースでも要件を満たせば加入義務が生じます。


それ以前は、65歳未満で被保険者だった人がそのまま働き続けるケースのみ「高年齢継続被保険者」として例外的に加入が認められていました。65歳を超えて新たに雇用された人は雇用保険の対象外でした。つまり、法改正前は65歳以上で就職しても原則として雇用保険の保護が受けられない状態だったのです。


法改正後は「高年齢継続被保険者」の区分は廃止されて「高年齢被保険者」に統合されました。手続きは不要で、自動的に読み替えられています。


64歳以下の雇用保険加入者が65歳の誕生日を迎えた場合も、自動的に「高年齢被保険者」へ区分が変更されます。区分変更の手続きをハローワークへ提出する必要はありません。つまり65歳移行は自動です。


なお、65歳より前に被保険者であった期間と、65歳以降に高年齢被保険者となった期間は通算して計算されます。これは後述する高年齢求職者給付金の給付日数(30日か50日か)の判定にも影響します。


区分 対象年齢 法改正後の扱い
一般被保険者 65歳未満 変更なし
高年齢継続被保険者 65歳以上(旧制度) 2017年に廃止・統合
高年齢被保険者 65歳以上 2017年~現行制度


参考:雇用保険制度の適用拡大について(厚生労働省)
雇用保険の適用拡大等について|厚生労働省PDF


高年齢被保険者の雇用保険料・加入手続きと事業主の義務

雇用保険料については、制度開始当初(2017年1月〜2020年3月)は65歳以上の高年齢被保険者に対して経過措置として保険料が免除されていました。しかし、2020年4月1日以降はその免除措置が終了し、現在は一般の被保険者と同様に雇用保険料の徴収・納付が必要です。


事業主は雇用保険料を本人負担分と事業主負担分を合算して労働保険料として納付します。加入手続きの期限は、雇用開始日の属する月の翌月10日までにハローワークへ「雇用保険被保険者資格取得届」を提出することです。これは一般の雇用保険加入と同じ流れです。


加入要件は次の2点のみです。


  • 雇用保険の適用事業所に雇用されていること
  • 1週間の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込みがあること


定年後に再雇用した社員が週20時間未満の短時間勤務になった場合は、この要件を満たさなくなるため雇用保険の資格を喪失します。これが条件です。


なお、週20時間未満であっても後述するマルチジョブホルダー制度(特例)の対象になる場合があります。その場合は本人がハローワークに申し出ることで被保険者となれます。


参考:雇用保険の加入義務と手続き(ハローワーク)
雇用保険マルチジョブホルダー制度について|厚生労働省


高年齢被保険者が受け取れる給付金4種類と高年齢求職者給付金の計算方法

高年齢被保険者が受給できる給付金は4種類あります。一般被保険者が受け取れる「基本手当(失業保険)」とは異なる点も多いため、正確に把握しておくことが重要です。


まず、最も利用される機会が多い高年齢求職者給付金について詳しく見ていきます。65歳以上で退職・離職した場合に受け取れる一時金です。最大の特徴は「年金との併給が可能」「一括支給」の2点です。65歳未満の失業手当では年金が全額支給停止されますが、高年齢求職者給付金はそのような調整を受けません。


受給要件は「離職日以前1年間に被保険者期間が通算6か月以上あること」「失業の状態にあること」の2つです。離職後1年以内に申請が必要な点も覚えておきましょう。期限を過ぎると受給できません。


給付額の計算式はシンプルです。


  • 基本手当日額=賃金日額(退職前6か月の賃金合計÷180)×給付率(50〜80%)
  • 高年齢求職者給付金=基本手当日額×給付日数(30日または50日)


給付日数は被保険者期間が1年未満なら30日分、1年以上なら50日分です。


たとえば月給15万円で1年以上加入していたAさんのケースでは、賃金日額は15万円×6÷180=5,000円、給付率は80%なので基本手当日額は4,000円、給付金は4,000円×50日=20万円となります。月給12万円で加入期間が1年未満のBさんなら約9万6,000円が一括で受け取れます。これは使えそうです。


残り3種類の給付は以下のとおりです。


  • 育児休業給付:1〜2歳未満の子の養育のために育児休業を取得した場合に支給
  • 介護休業給付金:家族を介護するために介護休業をした場合に支給(通算93日・3回まで)
  • 教育訓練給付:厚生労働大臣指定の講座を修了した場合に受講費用の一部(一般教育訓練は20%、専門実践教育訓練は最大80%)を支給


65歳以上の方が教育訓練給付金の対象になる点は、意外と知られていない情報です。資格取得やスキルアップの費用の一部をカバーできるため、積極的に活用したいところです。


参考:高年齢求職者給付金の詳細(厚生労働省)
離職されたみなさまへ 〈高年齢求職者給付金のご案内〉|厚生労働省PDF


高年齢被保険者の特例・マルチジョブホルダー制度のポイントと活用法

2022年(令和4年)1月1日から始まった「雇用保険マルチジョブホルダー制度(高年齢被保険者の特例)」は、複数の職場で働く65歳以上の人を対象にした制度です。従来の制度では、1か所で週20時間以上働かないと雇用保険に加入できず、失業した場合の給付も受けられませんでした。


マルチジョブホルダー制度では、2つの事業所での所定労働時間を合算して週20時間以上になれば、雇用保険に加入できます。たとえば、A社で週12時間、B社で週10時間働く65歳以上の方は、合計22時間となり要件を満たします。


適用要件は以下の3点です。


  • 🔸 複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること
  • 🔸 2つの事業所のそれぞれの週所定労働時間が5時間以上20時間未満であること
  • 🔸 2つの事業所のそれぞれで31日以上の雇用見込みがあること


重要なのは、手続きは「本人がハローワークへ申し出る」形であるという点です。事業主が代わりに届け出るものではありません。本人の申し出を起点に手続きが進む仕組みです。


この制度を利用して「マルチ高年齢被保険者」になると、離職時に高年齢求職者給付金の受給対象となります。ただし、2つの事業所のうちいずれか一方を離職した時点でその事業所に係る被保険者資格は失われます。もう一方の事業所での雇用が続いている場合も同様です。


複数の職場で短時間勤務している65歳以上の方は、この制度を確認しておきましょう。


参考:マルチジョブホルダー制度(厚生労働省公式)
雇用保険マルチジョブホルダー制度について|厚生労働省


退職日と65歳の関係・高年齢被保険者になる前後で変わる給付の損得

雇用保険の給付において、退職日が65歳の誕生日前後のどちらに当たるかで、受け取れる給付の内容が大きく変わります。これは金融に関心がある方でも見落としがちなポイントです。


法律上、65歳の「到達日」は誕生日の前日とみなされます。つまり、65歳の誕生日の前々日までに退職すれば、65歳未満の一般被保険者として扱われ、基本手当(失業保険)の受給資格が生まれます。一方、誕生日の前日以降に退職した場合は「高年齢被保険者」として扱われ、受け取れるのは高年齢求職者給付金(最大50日分)のみになります。


この違いを比較すると、次のような差が出ます。


項目 基本手当(65歳未満) 高年齢求職者給付金(65歳以上)
給付日数 最大150〜330日(加入期間・理由による) 最大50日
年金との併給 ❌ 老齢厚生年金が全額停止 ✅ 全額受給可能
支給方式 4週間ごとに分割 一括支給


定年後20年以上雇用保険に加入していた人が65歳で退職する場合、65歳の誕生日前々日に退職すれば失業手当が最大150日分受け取れます。たとえば基本手当日額が6,000円なら、150日×6,000円=90万円です。同じ人が1日遅く退職して高年齢求職者給付金に切り替わると、50日×6,000円×給付率=最大で30万円程度にとどまります。これは痛いですね。


ただし、年金が高い方にとっては高年齢求職者給付金との併給が有利になるケースもあります。どちらが得かは、年金額・加入期間・退職理由によって異なります。手続き前にハローワークで個別に相談することを強く推奨します。


参考:退職日と給付の関係(オリックス銀行


高年齢雇用継続給付の2025年改正と今後の制度変更に備える視点

「高年齢被保険者」制度とは別に、60歳以上65歳未満の継続雇用者を対象にした「高年齢雇用継続給付」にも注目すべき改正が入っています。金融に関心がある方はこの給付の変化も把握しておくと、老後の収入設計に役立ちます。


高年齢雇用継続給付とは、雇用保険の被保険者期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の労働者が、60歳時点の賃金に比べて75%未満に低下した場合に、毎月の賃金の一部が補填される給付です。以前は最大15%の給付率が設定されており、たとえば月給が60歳時の40万円から24万円(60%)に下がった場合は24万円×15%=3万6,000円が補填されていました。


しかし2025年4月1日以降に60歳に達した人からは、この給付率の上限が15%から10%に引き下げられました。2025年4月以降に60歳を迎えた人は最大10%に縮小されています。同じケースで計算すると24万円×10%=2万4,000円と、月1万2,000円の差が生まれます。さらに制度は将来的に段階的廃止が見込まれており、現役世代は特に注意が必要です。


この制度変更の背景には、同一水準の人件費でシニア人材を維持しやすい環境をつくるという政策意図があります。高年齢雇用継続給付に頼らず、賃金の維持や人事制度の見直しを促す方向で制度設計が変わっているのです。


60歳前後で再雇用や賃金変更が見込まれる場合、給付を受けられる期間・金額を事前にシミュレーションしておくことが賢明です。給付額は毎年8月に改定される基本手当日額にも連動します。現在の制度で何が受け取れるかは、自分の賃金日額と加入期間をもとに計算しておきましょう。


参考:高年齢雇用継続給付の支給率変更(厚生労働省)
令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します|厚生労働省