
軽油引取税の暫定税率廃止は、地方自治体にとって極めて深刻な財政問題となっています 。現在の軽油引取税は1キロリットルあたり32,100円で、そのうち本則税率が15,000円、暫定税率が17,100円となっており、暫定税率分が廃止されれば地方税収は年間約5,000億円の減収となります 。
参考)暫定税率廃止のマクロインパクト ~軽油を含むか否かで大きく異…
特に軽油消費量の多い都道府県への影響は甚大で、最も減収額が大きい愛知県では330億円、北海道で318億円、埼玉県で287億円の減収が見込まれています 。これらの数値は各都道府県の地方税収の数%に相当し、特に地方部では負担割合がより大きくなる傾向があります 。
参考)自治体、最大300億円減収 ガソリン暫定税率廃止、政府試算(…
軽油引取税は都道府県の基幹税収であり、景気の動向に影響を受けにくい安定的な税収源として位置づけられているため、自治体からは廃止に対する強い反発が続いています 。
参考)物価高対策の暫定税率廃止なのに軽油は除外なんてアリ!? トラ…
軽油引取税は1956年に地方税・道路目的税として創設され、当初から揮発油(ガソリン)との税負担の不均衡を解消する目的がありました 。創設時は目的税でしたが、2009年の道路特定財源制度廃止により一般財源化され、従来の目的税から普通税へと移行しています 。
参考)軽油引取税 - Wikipedia
暫定税率の変遷を見ると、1979年6月に24.3円(本則15.0円)、1993年12月に32.1円(本則15.0円)へと段階的に引き上げられてきました 。このように約30年以上にわたって「暫定」とは名ばかりの恒久化状態が続いており、ガソリン税の暫定税率と同様に実質的な恒久税として機能しています 。
参考)11月1日からガソリン暫定税率廃止は本決まり! でもディーゼ…
2008年4月には一時的に本則税率15.0円に戻ったものの、翌月には再び32.1円の暫定税率が復活し、現在まで継続されています 。この長期間にわたる暫定税率の維持は、財政需要の継続的な増加と道路インフラ整備費用の負担が背景にあります 。
参考)https://www.pref.tokushima.lg.jp/sp/FAQ/docs/00036320/
軽油引取税にはガソリン税と同様にトリガー条項が設けられており、ガソリン価格が連続3ヶ月にわたり1リットルあたり160円を超えた場合、本則税率を上回る部分の課税が停止される仕組みになっています 。この場合、軽油引取税は1キロリットルあたり15,000円まで引き下げられることになります 。
参考)軽油引取税について
しかし、このトリガー条項は東日本大震災後の復旧・復興財源確保の観点から2011年以降凍結されており、現在も「当分の間」その適用が停止されている状況です 。仮にトリガー条項が発動された場合、地方税である軽油引取税と地方揮発油税の合計で年間約5,000億円の減収が見込まれるため、地方財政への影響を懸念する声が強くなっています 。
参考)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241108/k10014632781000.html
総務省の試算によると、地方揮発油税分は300億円、軽油引取税分は5,000億円の減収に相当し、近年9,000億円程度で推移する2税合計額の半分超を失うことになります 。このため、トリガー条項の解除についても慎重な検討が求められている状況です 。
参考)地方税収「年5000億円減」 総務相、トリガー条項発動で -…
軽油引取税の暫定税率廃止をめぐり、トラックやバス業界は複雑なジレンマに直面しています 。税の上乗せ分が廃止されれば事業者の燃料負担は軽減されますが、同時に暫定税率と連動して創設された運輸事業振興助成交付金(年間約200億円)の根拠も失われる可能性があるためです 。
参考)軽油の旧暫定税率廃止にジレンマ 根拠失う運輸業界向け200億…
運輸事業振興助成交付金は1976年の軽油引取税引き上げ時に、営業用トラック・バスの輸送コスト抑制を目的として創設された制度で、2011年に法制化されました 。この交付金は軽油引取税の税率に特例が設けられていることが軽油を燃料とする運輸事業に与える影響を考慮し、事業費用の上昇抑制と輸送力確保のために交付されています 。
参考)https://jta.or.jp/wp-content/themes/jta_theme/pdf/disclosure/kofukin01.pdf
具体的な使途として、①安全確保事業、②サービス改善・向上事業、③環境保全事業、④適正化事業、⑤共同施設の設置・運営事業などが規定されており、都道府県から各都道府県トラック協会及びバス協会等に交付される仕組みになっています 。軽油引取税の暫定税率廃止により、この交付金制度の存続が危ぶまれる状況となっています 。
参考)https://jta.or.jp/wp-content/themes/jta_theme/pdf/disclosure/01.pdf
軽油引取税の暫定税率廃止問題は、単純な税負担軽減論では解決できない多面的な課題を抱えています。特に注目すべきは、営業用トラックの軽油引取税負担割合が過去10年間で大幅に増加している点です 。10年前は全体税収1兆2,000億円のうち5,000億円(約42%)だったトラック業界の負担が、近年は全体税収8,000億円のうち5,000億円(約63%)へと2割以上も増加しており、業界の負担感はより重くなっています 。
参考)軽油引取税の負担感より重く 業界の割合が2割以上増加|物流ニ…
また、免税軽油制度の存在も軽油引取税の複雑さを示しています 。国内の軽油総引取数量約3,868万キロリットルのうち、995万キロリットル(約26%)が何らかの形で課税を免除されており、そのうち約298万キロリットルが農業用・船舶用などの免税軽油として扱われています 。この制度により、道路を使用しない用途の軽油は課税対象外となっているため、実質的にはトラック運送業界の負担率が相対的に高くなる構造が生まれています 。
さらに、ガソリン税の暫定税率廃止により、軽油とガソリンの価格バランスが逆転する可能性も指摘されています 。従来「軽油はガソリンより安い」という常識が覆り、ディーゼル車の経済的優位性が失われる恐れがあるため、物流業界全体の燃料選択戦略にも影響を与える可能性があります 。
参考)「軽油はガソリンより安い」常識が覆る恐れ…暫定税率の廃止に向…