

規程のない慶弔見舞金は、給与課税され手取りが減ることがある。
慶弔見舞金規程とは、従業員の結婚・出産・病気・死亡などの慶弔事に際して会社が支給するお金の基準をまとめた社内規程です。法律で作成が義務付けられているわけではありませんが、約8割以上の企業がすでに福利厚生の一環として導入しています。
規程がない状態で慶弔見舞金を支払うと、担当者の判断でバラツキが生じ、従業員間の不公平感やトラブルの原因になりかねません。それだけではありません。規程がない場合、支払った慶弔金が「賃金」とみなされ、社会保険料や所得税の計算に影響するリスクも出てきます。つまり規程は作成が義務ではなくとも、会社を守るために欠かせない文書です。
サンプル規程には、一般的に以下の項目が盛り込まれます。
| 記載項目 | 内容の概要 |
|---|---|
| 目的 | 就業規則の何条に基づき設けるかを明示 |
| 慶弔見舞金の種類 | 結婚祝金・出産祝金・傷病見舞金・災害見舞金・死亡弔慰金など |
| 適用範囲(支給対象者) | 正社員のみか、パート・有期雇用労働者を含むかを明記 |
| 支給金額・計算方法 | 勤続年数による段階設定を含むケースが多い |
| 届出手続き | 申請様式・添付書類・提出先・提出期限 |
| 支給時期 | 申請確認後の速やかな支給と明記するのが一般的 |
社労士の坂本直紀氏が公開しているモデル規程では、勤続年数ごとに結婚祝金を10,000円・20,000円・30,000円の3段階に設定するなど、具体的かつシンプルな構成になっています。サンプル規程を参考にしながら、自社の状況にあわせて金額や対象範囲をカスタマイズするのがもっとも効率的な方法です。
就業規則本則に慶弔見舞金のすべての詳細を書き込む必要はありません。「詳細は別途定める慶弔見舞金規程による」と一文を加え、別規程として整備する方法が実務では一般的です。
社労士監修のモデル慶弔見舞金規程(全文)はこちらで確認できます。
慶弔見舞金の種類は会社ごとに異なりますが、サンプル規程に共通して登場するのは主に5種類です。それぞれの市場相場を確認しながら、自社規程の金額設定の参考にしましょう。
| 種類 | 支給相場(一般的な範囲) |
|---|---|
| 結婚祝金(本人・初婚) | 10,000円〜30,000円(平均約36,500円) |
| 出産祝金(本人または配偶者) | 10,000円〜30,000円(平均約18,884円) |
| 死亡弔慰金(本人) | 50,000円〜100,000円(平均約229,921円) |
| 傷病見舞金(私傷病) | 10,000円〜30,000円(平均約12,152円) |
| 災害見舞金(全損失) | 50,000円〜100,000円(平均約15万円前後) |
金額は上記の相場を大きく外れない設定が原則です。これは税務上の理由があり、「社会通念上相当」と認められる範囲であれば従業員に所得税はかかりません。ここが重要なポイントです。
死亡弔慰金の平均が約23万円というのは、業務上・業務外を合算した数値で、業務上の場合は10万円程度、業務外でも5万円程度を設定する企業が多い傾向にあります。なおサンプル規程では、業務上死亡を100,000円・業務外死亡を50,000円と設定しているモデルが標準的です。
勤続年数で段階を設けるケースも多く見られます。たとえば結婚祝金であれば「勤続5年未満:10,000円」「5〜10年未満:20,000円」「10年以上:30,000円」のように3段階とすることで、長期勤続者への報いと支給原資のバランスを保てます。勤続年数の計算は採用日から起算し、1年未満の端数は切り捨てるのが通例です。
意外なことに、子どもの結婚祝金(入学祝金等)を支給している企業は全体の約20%にとどまります。主流は本人の慶弔事に限定したシンプルな構成で、規程の複雑化を避ける傾向が強いです。自社で入学祝金を取り入れる場合は「勤続5年以上の従業員の子に限る」など条件を絞ることがおすすめです。
慶弔見舞金の種類と金額相場の詳細は以下が参考になります。
慶弔見舞金支給規程の作成ポイント|J-Net21(中小企業ビジネス支援サイト)
慶弔見舞金は「もらっても税金はかからない」と思っている方が多いですが、条件があります。これを知らないと会社・従業員の双方に予想外の課税が生じます。
まず所得税の扱いについてです。国税庁の通達(所得税法基本通達第28-5)によれば、会社から支給される結婚・出産などの祝金は本来「給与」として課税対象になります。ただし、「社会通念上相当と認められる金額」であれば、例外的に課税しなくて差し支えないとされています。つまり原則は課税、非課税は例外です。
「社会通念上相当」の具体的な目安として、結婚祝金や出産祝金であれば1万〜3万円程度、見舞金も同程度の範囲が一般的に問題ないとされています。しかし相場から大幅に逸脱した高額設定は、超過部分が給与課税されます。給与課税されると、毎月の給与と同様に源泉徴収義務が生じ、社会保険料の計算にも影響する可能性があります。これは大きなリスクです。
次に、死亡に際して支給する弔慰金については、相続税の取り扱いも押さえておく必要があります。
たとえば月給30万円の従業員が業務外で死亡した場合、弔慰金の非課税上限は30万円×6ヶ月=180万円となります。この範囲内なら遺族が受け取っても相続税はかかりません。超過した分は退職手当金と同様の扱いとなり、相続税の課税対象になります。
また、見舞金には消費税の注意点もあります。慶弔見舞金は「労働の対価」ではないため消費税の課税対象外(不課税)となります。本則課税を採用している会社の場合、誤って課税仕入れとして処理しないよう注意が必要です。
税務と慶弔見舞金の関係については国税庁の情報が一次ソースとして信頼できます。
慶弔見舞金規程のサンプルを参考にして自社規程を作成するとき、見落としがちなのが「誰に適用するか」の設計です。これを誤ると、のちに労使トラブルや損害賠償リスクにつながる可能性があります。
2021年4月からすべての企業に適用されたパートタイム・有期雇用労働法(いわゆる同一労働同一賃金)では、慶弔見舞金を含む福利厚生についても、雇用形態のみを理由とした不合理な待遇差を禁止しています。厚生労働省のガイドラインには、慶弔休暇については正社員と同一の付与が必要と明記されており、慶弔見舞金についても「全ての待遇において不合理な待遇差を設けることが禁じられている」とする行政の見解が出ています。
つまり「正社員にだけ慶弔見舞金を支給し、パートには支給しない」という規程は、合理的な理由がなければ不合理な待遇差として違法と判断される可能性があります。罰則は直接課されないものの、裁判上の損害賠償リスクが生じます。厳しいところですね。
ただし、業務内容・責任の範囲・転勤の有無などに応じた合理的な差異は認められています。たとえば「正社員は3万円、パートは1万円(勤続条件あり)」のように、職務内容の差を根拠に支給額に差を設けることは許容される余地があります。この場合、従業員から説明を求められたときに合理的に説明できることが必要です。
パートタイム・有期雇用労働者への適用を盛り込む場合、サンプル規程の適用範囲条項は次のような形が一般的です。「この規程は、試用期間を経過した正社員および勤続6ヶ月以上の有期雇用労働者に適用する」などと記載することで、適用範囲を明確にできます。
雇用形態別の待遇差が問題ないかどうか不安な場合は、都道府県の労働局が設置している同一労働同一賃金対応の相談窓口に問い合わせるか、社会保険労務士に確認するのが確実な一歩です。
同一労働同一賃金における慶弔見舞金の考え方については以下が詳しいです。
同一労働同一賃金での慶弔見舞金の扱いとは?考え方も解説| jinjer HR Blog
サンプルをそのままコピーするだけでは、自社の実態にあわない規程になるリスクがあります。これは避けたいところですね。実際に規程を整備・運用するうえで、特に注意すべきポイントを3点に絞って解説します。
① 支給原資の確保
慶弔見舞金規程を作成し、従業員に周知した時点で会社には法的な支払い義務が発生します。規程があるにもかかわらず支払いができない場合は、従業員との紛争に発展するリスクがあるため、原資の確保が必須です。
特に注意が必要なのが大規模な自然災害のケースです。たとえば南海トラフ級の地震が起きた場合、被災従業員が一時に多数発生し、災害見舞金の総額が会社の資金繰りを圧迫することも想定されます。「全損50,000円・半損30,000円」という設定でも、対象者が100人を超えれば一度に数百万円の支出となります。過度に高額な見舞金設定は避け、「総支給額の上限を設ける」補足条項を検討することも有効です。
こうした資金リスクに備える方法として、「総合福祉団体定期保険」などの企業向け保険を活用する方法があります。弔慰金の財源をあらかじめ保険で手当てしておくことで、大規模被災時でも支払いが安定します。
② 男女差別の禁止と再婚への対応
就業規則に「結婚退職する女性に退職金を上乗せ支給する」「男性と女性で結婚祝金の金額を変える」といった規定を設けることは、男女雇用機会均等法に違反します。現代ではほぼ見られなくなりましたが、古い規程をそのまま使い続けている企業では見直しが必要です。
再婚の場合の扱いも明記しておくと安心です。多くのサンプル規程では「再婚で既に祝金を受領済みの場合は半額支給」と定めています。事前に規程で定めておかないと、支給判断の都度、担当者が迷うことになります。
③ 労働基準監督署への届出タイミング
慶弔見舞金規程は就業規則に付随する関連規程として、労働基準監督署への届出が必要です。ただし、届出に法的な期限は定められておらず、社内で従業員に周知さえしていれば、提出が遅れても規程としての効力は有効とされています(判例あり)。
実務上は、次回就業規則本則の改定・提出のタイミングに合わせてまとめて届け出る対応が、手間・コストの観点から現実的です。ただし、総合福祉団体定期保険などの保険契約の条件として「規程の監督署提出済み証明」が求められる場合は、例外的に速やかな届出が必要になります。保険加入を検討している場合は、先に保険会社に確認することをおすすめします。
慶弔規程の監督署届出タイミングについての詳細はこちらが参考になります。
慶弔見舞金規程・弔意加算金規程の労基署届出は必要?|社労士iPlus