配偶者短期居住権と配偶者居住権の違いと活用法

配偶者短期居住権と配偶者居住権の違いと活用法

配偶者短期居住権・配偶者居住権の違いと正しい活用法

配偶者短期居住権を持っていても、自宅が第三者に売却されると即日退去を迫られます。


この記事の3つのポイント
🏠
短期か長期か、目的が根本的に違う

配偶者短期居住権は「最短6か月の緊急避難」、配偶者居住権は「終身住み続ける」ための制度。目的が異なるため、使うべき場面が全く違います。

📋
相続税の扱いが正反対

配偶者短期居住権の評価額はゼロ円で相続税が一切かかりません。一方、配偶者居住権は相続税の課税対象です。この差が遺産分割に大きく影響します。

⚠️
登記の有無で第三者への対抗力が決まる

配偶者居住権は登記すれば第三者にも主張できますが、配偶者短期居住権は登記制度がなく、建物が売却されると権利を守れない場合があります。


配偶者短期居住権とは何か・発生の仕組みと2020年改正の背景


配偶者短期居住権は、2020年(令和2年)4月1日施行の改正民法によって新設された権利です。夫や妻が亡くなったとき、残された配偶者が亡くなった人の持ち家に無償で住んでいた場合、遺産分割が完了するまでの間、または相続開始から最低6か月間は、引き続き無償で住み続けられる権利です。


この権利が生まれた理由を理解すると、なぜ法律が必要だったかが見えてきます。


改正前は「遺産分割が成立するまで使用貸借契約があったと推認する」という最高裁判例(平成8年12月17日)が事実上の根拠でした。しかしこれはあくまで「推認」に過ぎず、被相続人が「自宅を第三者に遺贈する」などの明確な意思表示をしていた場合、配偶者は保護されない可能性がありました。それを明文化・強化したのが配偶者短期居住権です。


成立要件は2点だけです。①被相続人の戸籍上の配偶者であること(内縁・事実婚は対象外)、②相続開始時に被相続人所有の建物に無償で居住していたこと。この2点を満たせば、遺言の内容や遺産分割の結果にかかわらず、自動的に権利が発生します。


遺産分割協議書に記載する必要もなく、他の相続人全員の合意も不要です。つまり条件ゼロに近い。


ただし注意点があります。賃貸住宅には適用されません。配偶者が「賃借人の地位」を相続によって引き継ぐため実害は少ないとされていますが、自動発生の対象はあくまで「被相続人が所有していた建物」に限られます。また、配偶者居住権を遺産分割等で取得した場合、配偶者短期居住権は自動的に消滅し、長期の保護に移行します。


配偶者居住権との違いを比較表で整理・成立要件・期間・登記

2つの権利の違いを正確に理解することが、相続対策の第一歩です。大きく分けて「発生方法」「存続期間」「登記の有無」「相続税」の4点で異なります。

















































比較項目 配偶者短期居住権 配偶者居住権(長期)
発生方法 要件を満たせば自動発生 遺産分割・遺言・家裁審判が必要
存続期間 遺産分割確定日 or 相続開始から6か月(遅い方) 原則として配偶者の終身(別段の定めも可)
対象範囲 居住部分のみ 店舗等を含む建物全体
収益 なし(居住のみ) あり(店舗収入なども配偶者のもの)
登記 登記不可 登記必須(第三者対抗のため)
相続税評価 ゼロ円(課税なし) 課税対象(建物・土地の評価が必要)
遺産分割上の扱い 相続分にカウントされない 相続分にカウントされる
共有建物への適用 第三者共有でも成立する 第三者共有の場合は成立しない


特に見落とされがちなのが「共有建物への適用」の差です。たとえば被相続人が第三者(親族でない人)と建物を共有していた場合、配偶者居住権は一切成立しません。一方、配偶者短期居住権は第三者との共有であっても成立するため、短期保護の枠組みは機能します。


もう一点、対象範囲の差も重要です。配偶者居住権は建物全体が対象となり、店舗から生じる収入も配偶者が得られます。配偶者短期居住権は居住部分に限定されるため、商業的な収益は認められません。


「名前が似ているから同じ権利では?」と誤解される方が多いですが、制度設計の目的が根本的に違います。


配偶者短期居住権の存続期間・消滅事由と登記できないリスク

配偶者短期居住権の存続期間は、場面によって2つのケースに分かれます。


ケース①:遺産分割すべき建物の場合
「遺産分割が成立した日」と「相続開始時から6か月を経過した日」のうち、遅い方の日付が終期になります。遺産分割協議が長引いて6か月を超えたとしても、確定するまでは自動的に保護されます。最短でも6か月は保障されています。


ケース②:遺言などで第三者に遺贈されていた場合
居住建物取得者(遺言で建物を受け取った人)が配偶者に「消滅の申入れ」をした日から6か月が経過した日が終期になります。いつ申し入れるかは取得者次第なので、相続後すぐに申入れがあれば、6か月後には出て行かなければなりません。


この配偶者短期居住権には、もう一つ大きな弱点があります。登記ができないという点です。


配偶者居住権は登記できるため、登記済みなら建物が第三者に売却されても「私にはここに住む権利がある」と主張できます。一方、配偶者短期居住権には登記制度がなく、建物が第三者に譲渡されてしまうと、その第三者に権利を主張することができません。


立ち退きを迫られるリスクがある、というわけです。


ただし法律は抜け穴を用意しています。居住建物取得者(旧所有者)は、配偶者の権利行使を妨げてはならないと定められており(民法第1037条第2項)、妨げた場合は債務不履行責任(賃料相当額の損害賠償)を負います。つまり第三者への対抗はできないが、旧所有者に損害賠償請求は可能、という構造です。


とはいえ、現実問題として新所有者から退去を求められた場合の精神的・経済的ダメージは大きいです。配偶者短期居住権だけに頼るのは危険で、早期に遺産分割協議で配偶者居住権または所有権を確保する行動が必要です。


配偶者居住権の相続税評価・固定資産税負担と金融面での注意点

配偶者居住権を取得した場合は、相続税の計算に影響が出ます。これが金融面で最も重要なポイントです。


配偶者居住権の評価額は「建物の時価(固定資産税評価額)×残存耐用年数などの指標」を用いた計算式で求めます。建物の残りの使用可能年数(残存耐用年数)と配偶者の平均余命から算出するため、配偶者が若いほど、また建物が新しいほど評価額が高くなる傾向があります。


具体例を見てみましょう。築8年の木造住宅(固定資産税評価額1,000万円)に70歳の女性が住んでいる場合の配偶者居住権評価額は約889万2,000円と計算されます。土地(時価2,000万円)の敷地利用権は約892万円です。これらが相続税の課税対象に加わります。


相続税がかかるということですね。


一方、配偶者短期居住権はゼロ円評価であり、相続税の計算式から外れます。さらに、遺産分割上の相続分にもカウントされない(「無償」の扱い)ため、配偶者は配偶者短期居住権を使いながら、別途、預貯金などを相続分どおりに取得できます。この差は「生活資金を残せるかどうか」に直結します。


固定資産税と修繕費の負担も見落とせません。一般的に固定資産税は所有者が払うものというイメージがありますが、配偶者居住権・配偶者短期居住権のどちらを使っている場合も、固定資産税や通常の修繕費は「居住している配偶者が負担する」とされています(民法の通常の必要費のルール)。


💡 たとえば固定資産税が年間12万円の建物であれば、月1万円のコストが自動的にかかってくる計算です。長期間の配偶者居住権を選んだ場合、20年間で240万円の負担になることも念頭に置く必要があります。


ただし大規模修繕(外壁塗装・屋根の全面補修など)は「有益費」に分類されるため、建物所有者が負担します。配偶者は通常の維持費用のみ負担し、大きな出費は所有者に請求できる仕組みです。


このような費用の流れを事前に把握し、遺産分割協議の場で誰が何を負担するか文書化しておくことで、後のトラブルを防げます。遺産分割に詳しい弁護士や相続専門の税理士への相談が、最終的に時間とコストの節約につながります。


配偶者居住権の相続税評価に関する公式資料はこちらが参考になります。


国税庁が公表している配偶者居住権等の評価に関する詳細な計算方法(具体例付き)です。


国税庁「No.4666 配偶者居住権等の評価」


配偶者短期居住権・配偶者居住権はどちらを選ぶべきか・金融視点からの独自考察

「とりあえず両方もらえるなら両方もらえばいい」と思われがちですが、実際はどちらか一方を選択する場面が多く、判断が生活設計に直結します。


配偶者短期居住権だけで十分なケースは、自宅に長期間住み続けるこだわりがない場合や、すでに別の住居を確保できる見込みがある場合です。評価額ゼロで相続分にも影響しないため、預貯金や金融資産を多く取得したい場合は短期居住権を活用しつつ、現金相続を優先する戦略が有効です。


配偶者居住権(長期)を選ぶべきケースは、今住んでいる家に亡くなるまで住み続けたい、かつ他の相続人(特に子供)との関係で所有権を渡してでも居住を確保したい、という局面です。相続税が課されるデメリットはありますが、配偶者の税額軽減(最大1億6,000万円まで非課税)を活用すれば、税負担を大きく抑えられます。


また、二次相続(配偶者が亡くなったときの相続)の観点も重要です。配偶者居住権は「一身専属権」であり、配偶者が亡くなると自動的に消滅します。消滅時には建物全体の価値が所有者(子ども)に帰属し、居住権部分に相続税はかかりません。一次相続で配偶者居住権を使うと、二次相続時の課税財産を圧縮できる節税効果が期待できます。


これは使えそうです。


一方、配偶者居住権にはお金が必要になっても「権利だけ売る」ことができないというデメリットもあります。老人ホーム入居などのまとまった資金が急に必要になっても、配偶者居住権を現金化する直接的な手段はありません。配偶者居住権を放棄して建物所有者(子ども)に買い取ってもらうという方法はありますが、協議が必要で時間もかかります。


選択のポイントをまとめると、「今後も自宅に住み続ける意思が明確か」「手元の生活資金を優先するか」「二次相続まで視野に入れた節税を重視するか」の3軸で判断することになります。


いずれのケースでも、まず配偶者短期居住権は自動的に発生するため「6か月の猶予」は確実に確保されます。その猶予期間中に相続専門の弁護士・税理士に相談し、配偶者居住権の取得を遺産分割協議で求めるかどうかを判断するのが、最も現実的な流れです。


法務省が公開している制度創設の趣旨や条文の解説は、制度の背景を理解するうえで参考になります。


配偶者居住権・配偶者短期居住権の制度の趣旨と主な規定内容を法務省が解説しています。


法務省「残された配偶者の居住権を保護するための方策が新設されます。」




財産別 相続税対策メニュー-長期・短期・相続後の対策-