

契約書に「請負」と書いてあっても、あなたの会社は偽装請負で直接雇用を強制される側になり得ます。
偽装請負とは、書面上は「請負契約」や「業務委託契約」を結んでいるにもかかわらず、実態としては「労働者派遣」に該当する状態のことです。
請負契約において本来、発注者(委託者)は受注者(受託者)の労働者に対して直接指揮命令を出すことはできません。業務の進め方や労働時間の管理は、あくまで受注者が独自に行う必要があります。しかし現実には、「ちょっと今日はこの作業を先にやって」「残業をお願いしたい」といった日常的な一言が積み重なり、知らずしらずのうちに偽装請負の状態に陥るケースが多いのです。
つまり、意図的に違法行為をしていなくても違反になり得ます。
偽装請負は、労働者派遣法・職業安定法・労働基準法の3つの法律に同時に違反する可能性があります。特にアウトソーシングやBPO(業務プロセスアウトソーシング)を活用している金融機関やIT企業では、現場の実態と契約内容のズレが生じやすく、注意が必要です。
厚生労働省は「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年4月17日労働省告示第37号。以下「37号告示」)を公表しており、これが偽装請負を判断する際の公式の基準となっています。
偽装請負か否かの判断は、契約書の「形式」ではなく「業務の実態」で行われます。これが原則です。
参考:厚生労働省「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」
厚生労働省:労働者派遣・請負を適正に行うためのガイドについて(公式ページ)
厚生労働省は偽装請負に該当する指揮命令の実態を、以下の4パターンに整理しています。これらを把握しておくだけで、社内の業務委託が問題のある状態になっていないか、迅速にチェックできます。
🔴 代表型
最も多く見られるのがこのパターンです。形式上は請負契約でありながら、発注者が受注者の労働者に対して作業手順や日々の業務内容を直接指示し、出退勤や休憩時間まで管理しているケースが該当します。製造現場やコールセンターでよく問題になります。
🟠 形式だけ責任者型
受注者側に名目上の「現場責任者」がいるものの、その人物は実質的に発注者の指示を個々の労働者に「伝言」するだけの存在です。実態として指揮命令をしているのは発注者側であるため、責任者が形だけでは意味がありません。この形は「管理責任者を置けばOK」という誤解から生まれやすく、厄介です。
🟡 使用者不明型
A社がB社に発注し、B社がさらにC社に再委託する多重下請け構造の中で、C社の労働者がA社やB社の指揮命令を受けて働いている状態です。労働者が「誰に雇われているのか」すら把握できていない場合があり、金融システム開発などのIT分野でも頻繁に問題化しています。
🟢 一人請負型
企業が個人事業主と請負契約を結びながら、実態としては正社員と同じように発注者の指揮命令下で働かせているパターンです。フリーランスの活用が増えている近年、特にIT・金融・コンサルティング分野で注意が必要です。
どのパターンも共通するのは、「発注者が実質的に指揮命令をしている」という点です。
| パターン | 特徴 | よく見られる業界 |
|---|---|---|
| 代表型 | 発注者が直接業務指示・勤怠管理をしている | 製造・物流・コールセンター |
| 形式だけ責任者型 | 名目上の責任者が伝言役に過ぎない | IT・金融・サービス業 |
| 使用者不明型 | 多重下請けで誰が使用者か不明 | 建設・システム開発 |
| 一人請負型 | 個人事業主を社員同然に扱っている | IT・コンサル・金融 |
偽装請負か否かを正確に判断するには、「37号告示」に基づく10項目(正確には9項目+選択1項目)のチェックが不可欠です。これらは「すべて」を満たしている必要があり、1つでも欠けると偽装請負と判断される可能性があります。
以下がその10項目のチェックリストです。受注者(請負会社)が自ら行っているかどうかが問われます。
注意すべき点が一つあります。
この基準は「総合的に勘案して判断する」とされており、例えば業務の性質上、発注者が日時や人数を指定することに合理的な理由がある場合は、一部の要件を満たさなくても偽装請負とは判断されない余地があります。ただし「合理的な理由」の証明責任は企業側にあります。安易に例外に頼ることは非常に危険です。
また、発注者から受注者の労働者への「日常的な会話」や、緊急時の安全指示などは、例外的に指揮命令に該当しないとされています。しかしこれらにも詳細な前提条件があるため、「会話はOK」という解釈で広く適用することは禁物です。
参考:37号告示・疑義応答集の原文(厚生労働省)
厚生労働省:労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示PDF)
偽装請負が発覚した場合の法的リスクは、多くの人が想定しているより遥かに重大です。罰則だけで終わるのではなく、「直接雇用の強制」という、企業経営に直結する問題にまで発展し得ます。
💰 罰金・懲役リスク(発注者・受注者の双方が対象)
| 適用法令 | 違反内容 | 罰則 |
|---|---|---|
| 労働者派遣法59条 | 無許可での労働者派遣事業 | 1年以下の懲役または100万円以下の罰金 |
| 職業安定法64条 | 無許可の労働者供給事業 | 1年以下の懲役または100万円以下の罰金 |
| 労働基準法118条 | 中間搾取の禁止違反 | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
罰則は発注者・受注者の双方に科されます。「頼まれた側だから」という言い訳は通用しません。
さらに深刻なのが、行政対応の段階的エスカレーションです。発覚後は「行政指導 → 改善命令 → 勧告 → 企業名の公表」という流れで対処されます。企業名が公表されれば、特に上場企業や金融機関にとって株価や社会的信用への影響は計り知れません。
🏢 最大のリスク:労働契約申込みみなし制度
2015年の労働者派遣法改正で導入された「労働契約申込みみなし制度」により、偽装請負が発覚した場合、発注者が受注者の従業員に対して「直接雇用の申込みをしたもの」とみなされます(労働者派遣法40条の6第1項5号)。
この制度が発動すると、受注者の従業員が偽装請負終了から1年以内に承諾した場合、発注者との間に直接の雇用関係が成立します。発注者側は基本的にこれを拒否できません。
実際に2021年11月の東リ株式会社の大阪高裁判決では、長期間にわたって偽装請負状態が継続していた事案で、裁判所が「日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けていた場合は、特段の事情がない限り偽装請負等の目的が推認される」と判示しました。この判決は2022年6月に最高裁で確定しています。
つまり、長期にわたって偽装請負を続けていると、「知らなかった」では通用しなくなります。これは痛いですね。
金融機関・IT企業・コンサルティング会社では、業務委託の活用が非常に広く、偽装請負のグレーゾーンに踏み込みやすい環境が揃っています。ここでは、一般的な対策に加えて、これらの業界特有のリスクポイントと対処法を解説します。
一般的な対策4点
まず押さえておくべき基本対策をまとめます。
💡 金融・IT業界特有のグレーゾーンに注意
金融システム開発でよく見られるのが「アジャイル開発での偽装請負」です。スクラム開発などでは、発注者側のプロダクトオーナーが毎日の作業タスクを割り振る「デイリースクラム」を受注者の開発者に対して行うケースがあります。厚生労働省の疑義応答集では「アジャイル開発型の開発チーム内コミュニケーション」について一定の余地を認めていますが、厳密な前提条件があり、安易に適用できません。
また、コールセンター業務の委託では、発注者がスクリプトを提供し応答品質のモニタリングを行うケースが多くあります。これ自体は「業務委託の仕様」として認められる部分もありますが、モニタリング結果を基に発注者が受注者の個々の従業員を直接指導・評価すると、偽装請負リスクが一気に高まります。
社内のコンプライアンス担当者や法務部門が定期的に業務委託の実態をチェックする仕組みを構築することが、特に金融機関では重要です。また、弁護士や社会保険労務士(社労士)への定期相談も有効な手段です。
自社の業務委託契約に不安がある場合は、厚生労働省が公開している疑義応答集や、労働局への相談窓口を活用することをおすすめします。厚生労働省の「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」は無料でPDF公開されており、Q&A形式で具体的な判断事例が掲載されています。確認することをお勧めします。
参考:偽装請負の判断基準と違反リスクに関する弁護士解説
TMI総合法律事務所:偽装請負の判断基準と違反のリスク(弁護士による解説)