

減価償却を毎年ちゃんと申告しても、売却時に税金が増える場合があります。
不動産における減価償却とは、建物の取得費用を耐用年数にわたって毎年少しずつ経費として計上する仕組みのことです。建物は使用を続けることで年々価値が目減りしていくという考え方に基づいており、その目減り分を「減価償却費」として所得から差し引けます。
重要な前提として、土地は減価償却の対象外です。これは土地が経年劣化しないという税法上の考え方によるもので、不動産を取得した際は土地と建物の価格を必ず分けて記録しておく必要があります。一括価格で購入した場合は、固定資産税評価額の比率などで按分することになります。
つまり基本はシンプルです。
確定申告では、不動産所得の計算において「収入金額−必要経費=不動産所得」と計算しますが、この必要経費の中に減価償却費が含まれます。減価償却費は実際に現金を払う出費ではないにもかかわらず経費として認められるため、節税上の大きなメリットになります。
例えば、年間の家賃収入が120万円で、修繕費・固定資産税・保険料などの実費が60万円、そこに減価償却費20万円が加わると、課税所得は120万−80万=40万円となります。減価償却費を計上しなかった場合は60万円が課税所得になりますので、差は歴然です。
この節税効果を活かすためには、毎年の確定申告で正確に計算し、申告書に記載することが条件になります。
国税庁|No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)- 収入・経費の計算方法について公式に解説されています。
減価償却費の計算には大きく2つの方法があります。建物(および建物付属設備・構築物)については、原則として「定額法」が適用されます。定率法が選べるのは機械装置など一部の設備に限られ、2016年4月以降に取得した建物には定率法は使えません。これは意外ですね。
定額法の計算式:
減価償却費 = 取得価額 × 定額法の償却率
定額法は毎年同額を計上するシンプルな方法です。償却率は「1÷耐用年数」で算出されます。例えば耐用年数22年(木造住宅)であれば償却率は0.046、取得価額が2,000万円なら毎年の減価償却費は2,000万×0.046=92万円になります。22年間ずっと同額です。
建物の構造別の法定耐用年数をまとめると以下の通りです。
| 構造 | 住宅用耐用年数 | 償却率(定額法) |
|---|---|---|
| 木造・合成樹脂造 | 22年 | 0.046 |
| 軽量鉄骨造(厚さ3mm以下) | 19年 | 0.053 |
| 軽量鉄骨造(厚さ3〜4mm) | 27年 | 0.038 |
| 重量鉄骨造 | 34年 | 0.030 |
| 鉄筋コンクリート造(RC) | 47年 | 0.022 |
| 鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC) | 47年 | 0.022 |
耐用年数が短いほど毎年の減価償却費が大きくなります。これが基本です。
注目すべきは中古物件の扱いで、法定耐用年数をすべて経過した中古物件は「法定耐用年数×20%」が耐用年数になります。例えば法定耐用年数22年の木造建物を築30年で購入した場合、22年×20%=4.4年→4年(端数切捨て)という短い耐用年数で減価償却できます。つまり毎年の償却額が大きくなり、節税スピードが上がるということです。
国税庁|No.5404 中古資産の耐用年数 - 簡便法による中古不動産の耐用年数の計算方法が確認できます。
減価償却費を確定申告で申告するには、まず申告の種類によって記載する書類が異なります。これが条件です。
青色申告の場合は「青色申告決算書(不動産所得用)」の中にある「減価償却費の計算」欄に記入します。建物の名称、取得年月、取得価額、耐用年数、償却率、本年分の普通償却費などを順番に入力していきます。
白色申告の場合は「収支内訳書(不動産所得用)」の経費欄に減価償却費の合計を記載します。ただし白色申告では65万円の青色申告特別控除が受けられないため、同じ不動産所得でも手元に残る金額に差が出ます。
確定申告に必要な書類として以下を準備しておきましょう。
申告期限は毎年2月16日〜3月15日です。期限が重要です。
この期限を過ぎると無申告加算税(15〜20%)や延滞税(最大約14.6%/年)が加算されるリスクがあります。特に不動産収入が年間20万円を超える会社員は確定申告の義務が生じますので注意が必要です。
なお、確定申告の書類作成に不安がある場合は、マネーフォワード クラウド確定申告やfreeeなどのクラウド会計ソフトを利用すると、減価償却費の計算から申告書の自動作成までをサポートしてくれます。一度設定してしまえば翌年以降も自動で引き継がれるため、計算ミスのリスクも下がります。
国税庁|No.2106 定額法と定率法による減価償却(平成19年4月1日以後取得)- 不動産の償却率の正式な一覧はこちらで確認できます。
減価償却費を確定申告で計上する最大の理由は、実際に現金が出ていかないのに経費として所得を圧縮できる点にあります。これが「キャッシュフローは黒字だが、帳簿上は赤字」という節税スキームの核心です。
具体的な数字で見てみましょう。年間所得500万円の給与所得者が不動産投資をしているとします。
| 条件 | 課税所得 | 所得税(概算) | 5年間合計 |
|---|---|---|---|
| 減価償却なし | 500万円 | 約57万円/年 | 約286万円 |
| 毎年100万円の減価償却あり | 400万円 | 約37万円/年 | 約186万円 |
5年間で約100万円の差が出ます。これは使えそうです。
さらに重要なのが「損益通算」の仕組みです。減価償却費の計上によって不動産所得が赤字になった場合、その赤字を給与所得など他の所得と合算(損益通算)できます。例えば給与所得が700万円あり、不動産所得が減価償却費の計上で50万円の赤字になった場合、課税所得は700万−50万=650万円として計算されます。
ただし注意点があります。不動産の赤字のうち「土地取得のための借入金利子」に相当する部分は損益通算に使えません。また、別荘など生活用不動産の損失も損益通算の対象外です。これだけ覚えておけばOKです。
青色申告を選択すると、さらに最大65万円の青色申告特別控除が受けられます。また不動産所得が赤字になった場合、翌年以降3年間にわたり損失を繰り越す「繰越控除」も使えるため、節税効果をより長期にわたって活用できます。
東京建物不動産販売|不動産所得における「損益通算」とは? - 損益通算の仕組みと制限事項をわかりやすく解説しています。
ここが多くの不動産投資家が見落としているポイントです。減価償却費を毎年きちんと計上すると、保有中は節税できますが、売却時に思わぬ課税が発生するケースがあります。
仕組みを理解しておくことが大切です。
不動産を売却したときの「譲渡所得」は以下の式で計算されます。
譲渡所得 = 売却価格 ー(取得費 ー 減価償却累計額) ー 譲渡費用
つまり、長年にわたって減価償却を積み重ねてきた建物は、税法上の「取得費」がどんどん小さくなっています。その結果、売却価格から差し引ける取得費が少なくなり、帳簿上の譲渡所得が大きくなります。
実例で確認します。
感覚では「2,000万で買って1,800万で売ったのだから損をしている」はずなのに、税法上は1,180万円の利益として課税されます。痛いですね。
さらに、「自分は減価償却を申告していないから大丈夫」と思っている人もいますが、それは誤解です。国税庁の通達では、居住用不動産(非業務用)については申告の有無に関わらず「减価償却した相当額」が取得費から差し引かれる仕組みになっています。つまり、知らずに放置していても減価償却は自動的に進んでいることになります。
これは多くの人が驚く事実です。
売却時の譲渡所得税率は、所有期間が5年超(長期譲渡所得)であれば所得税15%+住民税5%=合計20.315%(復興特別所得税を含む)です。保有中の節税効果(累進課税)と売却時の課税(一律20.315%)のどちらが有利かを事前に試算しておくことが重要です。
国税庁|No.3252 取得費となるもの - 不動産売却時の取得費の範囲と減価償却費の控除ルールが確認できます。