遺言の撤回方式と手続きを正しく知る完全ガイド

遺言の撤回方式と手続きを正しく知る完全ガイド

遺言の撤回方式を正しく知らないと意思が無効になる

法務局に預けた自筆証書遺言の「保管を撤回」しても、遺言書そのものは有効なままです。


この記事の3つのポイント
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遺言の撤回は「方式」が必須

民法1022条により、遺言の撤回は必ず遺言の方式(自筆証書・公正証書・秘密証書のいずれか)に従う必要があります。口頭では効力ゼロです。

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公正証書遺言の謄本を破棄しても無意味

公正証書遺言の原本は公証役場で保管されるため、手元の謄本を燃やしても撤回になりません。別途、公証役場での手続き(手数料約11,000円)か新しい遺言書が必要です。

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「撤回の撤回」は原則として無効

一度撤回した遺言を再び撤回しても、元の遺言は原則復活しません(民法1025条)。例外は錯誤・詐欺・強迫の場合のみで、最高裁も遺言者の意思が明確な場合に限り復活を認めています。


遺言の撤回とは何か:民法1022条が定める基本ルール


遺言の撤回とは、一度作成した遺言の全部または一部を、法的に無効にする行為のことです。民法1022条は「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる」と規定しており、生存中であればいつでも、何度でも撤回が可能です。


重要なのは「遺言の方式に従って」という部分です。つまり、口頭で「あの遺言書は取り消す」と宣言しても、法的な撤回にはなりません。必ず自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言のいずれかの方式による書面が必要です。


さらに、遺言の撤回権は放棄することができません(民法1026条)。これは非常に重要なポイントです。遺言書の中に「この遺言は将来絶対に撤回しない」と書いても法的な意味はなく、いつでも自由に撤回が可能な状態が保たれます。遺言は遺言者の最終意思を尊重する制度であるため、そのような権利は守られるべきとされているのです。


遺言制度は「遺言者が死亡するまで効力を生じない」という前提に基づいています。これはきわめて実践的な設計で、生前に何度でも意思を変更できる柔軟な仕組みになっています。


撤回の自由が認められている、これが原則です。


民法(e-Gov法令検索) ― 民法1022条(遺言の撤回)、1025条(撤回された遺言の効力)、1026条(遺言の撤回権の放棄の禁止)の条文を確認できます。


遺言の撤回方式の種類:自筆証書・公正証書・秘密証書ごとの手続き

遺言の撤回方法には大きく3種類あります。①遺言の方式に従って明示的に撤回する(民法1022条)、②前の遺言と抵触する新しい遺言を作成する(民法1023条)、③遺言書または遺贈目的物を故意に破棄する(民法1024条)です。


まず「自筆証書遺言」の場合を見てみましょう。自宅で保管している自筆証書遺言であれば、遺言書本体をシュレッダーや焼却などで完全に廃棄すれば、その部分については撤回したものとみなされます。ただし、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用している場合は注意が必要です。法務局での「保管申請の撤回」をしただけでは、遺言書の効力は消えません。手元に戻ってきた遺言書を物理的に破棄して、はじめて撤回が完了します。


次に「公正証書遺言」の場合、原本は公証役場に保管されているため、手元にある謄本(正本)を破棄しても何の効力もありません。撤回するには、①公証役場に出向いて撤回の申述をする(手数料約11,000円、実印・印鑑証明書・証人2名が必要)か、②新たに遺言書を作成して旧遺言を撤回する旨を明記する、いずれかが必要です。


「秘密証書遺言」は封印されているため変更ができません。そのため、撤回する場合は別の方式で新しい遺言書を作り直す必要があります。


つまり、どの方式でも撤回の対応方法が異なる、ということですね。


撤回のための新しい遺言を作る場合、元の遺言と「同じ方式」を使う必要はありません。たとえば、公正証書遺言を自筆証書遺言の方式で撤回することも法律上は可能です。ただし、自筆証書遺言は一字でも方式を欠くと無効になるリスクがあるため、公正証書遺言を撤回するなら、再度公正証書遺言の形式で行うのが安全です。


































遺言の種類 撤回方法 費用の目安 主な注意点
自筆証書遺言(自宅保管) 遺言書本体を物理的に破棄 無料 完全に復元不可能な形で廃棄が必要
自筆証書遺言(法務局保管) 法務局へ出頭し保管撤回→手元に返ってきた書面を破棄 無料(本人確認書類が必要) 「保管撤回」≠「遺言撤回」。書面の廃棄も必須
公正証書遺言 公証役場で撤回申述 または 新しい遺言書の作成 約11,000円~(撤回のみの場合) 謄本破棄では無効にならない。原本は公証役場に残る
秘密証書遺言 新しい遺言書を作成して撤回を明記 方式による 封印済みのため変更不可。作り直しが必須


東京法務局「保管申請の撤回や変更届出について」 ― 法務局に預けた自筆証書遺言の保管撤回手続きの詳細が確認できます。


遺言の撤回が「みなし撤回」になるケース:民法1023条・1024条の落とし穴

わざわざ撤回の手続きをしなくても、一定の行為をしただけで撤回したとみなされるケースがあります。これを「撤回擬制(ぎせい)」といいます。法律上自動的に撤回とみなされるため、遺言者が意図せず撤回してしまうことも起こりえます。意外な話ですね。


民法1023条1項が規定するのは「前後の遺言が抵触する場合」です。たとえば、2022年に「A不動産を長男に相続させる」という遺言を書き、2024年に「A不動産を長女に相続させる」と書いた場合、2022年の遺言の該当部分は2024年の遺言によって自動的に撤回されたとみなされます。後から書いた遺言が優先されるという原則です。


民法1023条2項は「遺言と生前処分が抵触する場合」を規定しています。遺言で「A不動産を長男に」と書いていても、生前にそのA不動産を売却してしまった場合、遺言のその部分は撤回されたとみなされます。財産を手放したという行為が撤回の意思表示と解釈されるのです。


民法1024条が扱う「故意の破棄」も注意が必要です。遺言書の一部に二重線を引いたり、ページをまとめて斜線で消したりする行為も、最高裁(平成27年11月20日判決)により「遺言書を破棄した」に該当すると判断されています。「一部だけ変えたかった」つもりでも、全文への斜線は全部撤回と扱われる可能性があります。


これらは本人の意図に関わらず撤回と扱われる、非常に重要なルールです。


財産計画を見直す際には、過去に作成した遺言書との整合性を必ず確認することが重要です。株式や不動産などの財産処分を行う前に、遺言書の内容と齟齬が生じないかを専門家に相談するのが安全です。相続に詳しい弁護士や司法書士へのセカンドオピニオンとして、弁護士費用比較サービス(弁護士ドットコムなど)を活用して相談先を探すのも一つの手です。


最高裁判所「最二小判平成27年11月20日」 ― 遺言書への斜線が「故意の破棄」に該当するとした判決の詳細が確認できます。


遺言の撤回を撤回した場合に「元の遺言は復活しない」という原則と例外

一度撤回した遺言をさらに撤回した場合、「元の遺言は復活するのか」という問題があります。民法1025条本文の答えは明快です。「前三条の規定により撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない」つまり、原則として復活しません。


これが基本です。


たとえば、遺言①を作成→遺言②で遺言①を撤回→遺言③で遺言②を撤回、という3段階の操作をしたとします。この場合、遺言②の撤回によって遺言①が自動的に復活するわけではなく、遺言③だけが有効な遺言として残ります。


なぜこのような規定があるのかというと、遺言者の最終意思が不明確になることを防ぐためです。撤回→撤回の撤回を繰り返した場合、どの意思が「最終」なのかが曖昧になるため、民法は非復活を原則としました。


ただし、この原則には2つの例外があります。ひとつは「錯誤・詐欺・強迫による撤回行為が取り消された場合」(民法1025条但書)。この場合は元の遺言が復活します。もうひとつは最高裁平成9年11月13日判決が示した例外で、「遺言書の記載に照らし、遺言者の意思が元の遺言の復活を希望するものであることが明らかなとき」は復活を認めるというものです。


つまり、遺言書の文面上に「甲遺言を有効とする」などの明確な意思が読み取れる場合に限り、例外的に元の遺言が復活します。「明らかでない場合」は復活しません。これが条件です。


一度撤回した遺言の内容に戻したい場合は、同じ内容を改めて新しい遺言書として作成するのが最も確実な方法です。間違えると意図しない人物が財産を受け取ることになりかねず、相続トラブルの原因になります。


花の道法律事務所「遺言を撤回する遺言をさらに別の遺言で撤回した事例(判例解説)」 ― 最高裁平成9年11月13日判決の詳細と遺言復活の条件を確認できます。


遺言の撤回で失敗しないための実践的な注意点:方式の選び方と費用の考え方

遺言の撤回で最もよくある失敗が、「撤回のために作成した新しい遺言書自体が無効になる」ケースです。遺言の方式は非常に厳格であり、たとえば自筆証書遺言は全文・日付・署名・押印をすべて自書する必要があります。日付が「令和〇年〇月吉日」のような曖昧な表記、財産の記載漏れ、第三者の代筆などがあると遺言書全体が無効になります。


撤回のための遺言が無効になると、撤回する意思が法的に認められません。つまり古い遺言書が有効な遺言として残ってしまいます。痛いですね。


費用の観点から整理すると、自筆証書遺言の撤回は自分で書いて処分するだけなので費用は原則かかりません。法務局保管制度を使う場合の保管申請費用は3,900円で、撤回の申請自体は無料です。一方、公正証書遺言を撤回のみの目的で公正証書にする場合、手数料は約11,000円が目安(証人報酬や交通費は別途)です。新しい内容の公正証書遺言に書き直す場合は、財産額に応じた手数料(例:財産総額5,000万円なら約105,000円程度)がかかります。


金融資産を多く持つ人ほど、遺言書は公正証書遺言の形式を選ぶのが無難です。


金融に関心が高い人は特に、資産運用の変化に伴って遺言内容が現実と乖離するケースが起きやすい傾向があります。株式・不動産・保険など財産構成が変わった場合には、定期的に遺言書を見直す習慣をつけることが重要です。遺言書の定期見直しのタイミングとしては、大きな資産変動があった年、相続人の家族構成が変わった年、税制改正があった年などが目安になります。


遺言の作成・撤回・書き直しを一括してサポートしてくれる専門家として、弁護士・司法書士・行政書士が挙げられます。費用や対応範囲が異なるため、まずは無料相談で比較することをおすすめします。相続専門の士業を探す際は「相続相談サポートセンター」や「弁護士ドットコム」のような無料マッチングサービスが役立ちます。


日本公証人連合会「公正証書遺言の手数料について」 ― 財産額に応じた公正証書遺言の作成費用の目安を公式情報で確認できます。


金融資産を持つ人が見落としがちな遺言撤回の盲点:生前贈与・株式・投資信託との整合性

金融に関心が高い読者層が特に注意すべきなのが、生前贈与や投資行動によって遺言が「気づかないうちに撤回済み」になるケースです。民法1023条2項は「遺言と遺言後の生前処分が抵触する場合」を撤回とみなすと規定しており、財産の売却・譲渡・贈与が遺言書の内容と抵触すれば、その部分は自動的に撤回されたとみなされます。


たとえば、「A社株式100株を次男に相続させる」という遺言を書いた後、生前にその株式を全て売却してNISA口座で別の銘柄に投資し直した場合、元の遺言の「A社株式100株」の部分は撤回とみなされます。残った遺言には財産が存在しないという状況が生まれます。


これは見落とされやすいポイントです。


投資信託や株式は価格変動だけでなく、銘柄の統廃合・合併・解散などにより保有資産の内容が変わることも珍しくありません。遺言書に「○○投資信託を△△に相続させる」と記載していても、その投資信託が廃止・統合されていれば、その記載は無意味になる場合があります。


さらに、相続税対策で生前贈与を積極的に行っている場合、遺言書に書かれた財産がすでに贈与済みになっているケースもあります。その結果、遺言書全体がほとんど意味を持たなくなってしまうことがあります。


定期的な財産棚卸しと遺言書の見直しが必要です。


こうした問題を防ぐには、財産の具体的な銘柄や数量ではなく「時価評価額の○割を相続させる」「○口座の残高を○○に」といった柔軟な表現を遺言書に盛り込む方法が有効です。この点は遺言書作成のプロ(特に相続税に精通したファイナンシャルプランナーや弁護士)に相談すると、財産構成の変化に対応した表現をアドバイスしてもらえます。



  • 📌 資産の売却・贈与の前に:遺言書に該当資産の記載がないか必ず確認する

  • 📌 遺言書見直しのタイミング:大きな資産変動、相続人の家族構成変化、税制改正があった年に定期確認

  • 📌 記載の工夫:特定の銘柄・口座残高ではなく「割合・比率」で記載すると変動に強くなる

  • 📌 専門家への相談目安:財産総額が3,000万円を超える、または相続人が複数いる場合は弁護士・税理士への相談を強く推奨


遺言書は「一度書いたら終わり」ではなく、資産運用と同じように継続的に管理・見直しが必要な「生きた文書」です。最終意思を確実に実現するために、今の財産状況と遺言書の内容が一致しているかを定期的に点検する習慣が、相続トラブルを防ぐ最大の防御策になります。


法務省「自筆証書遺言書保管制度」公式ページ ― 保管制度の概要・手続き・撤回方法を公式情報で確認できます。




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