特定事業者一覧と金融機関の義務・取引時確認の全知識

特定事業者一覧と金融機関の義務・取引時確認の全知識

特定事業者の一覧と金融機関が負う義務・取引時確認の全知識

宝石を現金200万円超で買うとあなたの氏名・住所・生年月日が当局に記録されます。


📋 この記事でわかること3つ
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特定事業者とは何か

銀行だけでなく宝石商・弁護士・税理士など49業種が犯収法の規制対象。金融に関わる人なら必ず知っておくべき事業者の全体像を整理します。

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取引時確認と疑わしい取引の届出

取引時確認・確認記録の7年保存・疑わしい取引の届出など、特定事業者に課される主な法的義務の内容と、違反した場合の罰則(2年以下の懲役・300万円以下の罰金)を解説します。

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2027年改正など最新動向

令和6年の疑わしい取引届出件数は過去最多の80万件超。2027年4月施行予定の犯収法改正でeKYCの「ホ方式」が廃止される予定など、知っておくべき最新情報を紹介します。


特定事業者一覧:犯収法が定める8つのカテゴリ

「特定事業者」とは、犯罪収益移転防止法(犯収法)の第2条第2項に列挙された、マネー・ローンダリング(マネロン)対策の義務を負う事業者の総称です。つまり「規制適用対象の事業者」という意味であり、法律では1号から49号まで個別の業種を限定列挙する方式で定義されています。包括的な定義ではなく個別列挙が採用された理由は、規制対象を明確にして義務の範囲をはっきりさせるためです。


特定事業者は大きく8つのカテゴリに分類されます。

















































カテゴリ 主な対象事業者 所管行政庁
①金融機関等(1〜38号) 銀行・信用金庫・保険会社・証券会社・暗号資産交換業者 等 金融庁・財務省 等
②ファイナンスリース事業者(39号) 機械・設備等のファイナンスリースを行う事業者 経産省
クレジットカード事業者(40号) クレジットカードの発行・管理事業者 経産省
④カジノ事業者(41号) IR整備法に基づくカジノ運営事業者 カジノ管理委員会
⑤宅地建物取引業者(42号) 不動産売買・賃貸を仲介する宅建業者 国土交通省
⑥宝石・貴金属等取扱事業者(43号) 金・プラチナ・ダイヤ等の売買業者(質屋・宝石商等) 経産省・都道府県警 等
⑦郵便・電話系サービス事業者(44号) 私設私書箱・電話秘書・電話転送サービス 経産省・総務省
⑧士業者(45〜49号) 司法書士・行政書士・公認会計士・税理士・弁護士(法人含む) 士業会・連合会 等


金融機関は1〜38号と号数が多く、内訳を見ると農業協同組合(8号)・漁業協同組合(10号)・暗号資産交換業者(32号)・商品先物取引業者(33号)など非常に幅広い業種が含まれています。意外ですね。


最近の追加例として注目したいのが「暗号資産交換業者」(32号)と「電子決済手段等取引業者」(31号の2)です。これらは匿名性が高く資金移動が容易という特性から犯罪収益に利用されやすいため、規制の網がかかりました。一方、農協や漁協も古くから特定事業者であることを意外に感じる人は多いです。


また、「高額電子移転可能型前払式支払手段発行者」(30号の2)という分類もあります。通常のプリペイドカード発行者は含まれず、高額かつ移転可能な残高を持つサービスに限定した規制です。つまり、ポイントカードとマネロン規制の境界線は「高額移転の可否」が条件です。


金融に興味がある人は特に、証券会社(21号)・暗号資産交換業者(32号)・資金移動業者(31号)などが自分の投資活動と直接関係する特定事業者であることを把握しておく価値があります。


参考:JAFICによる特定事業者の詳細一覧(警察庁)
犯罪収益移転防止法の概要(JAFIC・警察庁)


特定事業者に課される主な義務と「取引時確認」の中身

特定事業者は、定められた「特定業務」の中でも一定の「特定取引」を顧客と行う際に、法律上の義務を負います。覚えておくべき主な義務は次の4つです。



  • 📌 取引時確認:顧客の本人特定事項(氏名・住所・生年月日)、取引目的、職業または事業内容(法人の場合は実質的支配者も)を確認する義務。

  • 📌 確認記録の作成・保存:取引時確認をした場合は直ちに確認記録を作成し、契約終了日から7年間保存しなければならない。

  • 📌 取引記録の作成・保存:取引記録についても同様に7年間の保存義務がある。

  • 📌 疑わしい取引の届出:マネロンが疑われる取引を発見した場合、所管行政庁に届け出る義務がある(※士業者は対象外)。


「取引時確認」とは何かが、少しわかりにくいかもしれません。簡単に言えば「この人は誰で、なぜこの取引をするのか」を事業者側が記録に残す手続きのことです。銀行口座を開設するときに運転免許証を提示し、目的を記入した書類に署名した経験があれば、それが取引時確認です。


「7年間保存」というルールは非常に重要です。感覚的に例えるなら、2025年に締結した契約の記録は2032年まで保管し続ける義務があります。もし紛失・廃棄した場合は義務違反となります。記録保存が原則です。


また取引時確認が必要な「特定取引」は事業者の種類によって異なります。たとえば宝石・貴金属等取扱事業者については「代金が現金200万円を超える売買契約」が特定取引にあたり、宝飾品店でダイヤモンドを現金購入する際などは運転免許証などで本人確認が求められます。200万円という金額はおよそ高級車1台分の感覚です。意外ですね。


「ハイリスク取引」と呼ばれる特別な類型もあります。なりすましが疑われる取引・イランや北朝鮮の居住者との取引・外国PEPs(外国の元首や閣僚クラスの重要公職者やその家族)との取引がこれにあたり、通常より厳格な確認方法が求められます。


参考:宝石・貴金属等取扱事業者の取引時確認義務の詳細(大阪府警)
宝石・貴金属等取扱事業者における取引時確認(大阪府警本部)


特定事業者が違反した場合の罰則と是正命令

義務に違反した場合、どうなるのでしょうか?


犯収法では是正命令という行政処分の仕組みが用意されています。所管行政庁は、特定事業者が法令違反をしていると認めた場合、違反を是正するよう命令を出すことができます。そしてこの是正命令に違反した者には、2年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはその両方が科されます(犯収法25条)。厳しいところですね。


2025年12月には、実際に経済産業省が郵便物受取サービス業者に対して是正命令を発動した事例が公表されています。取引時確認義務に違反する契約の締結を行っていたことが違反の内容です。これは法律が実際に運用されている証拠であり、見せしめではなく日常的な監督の一環です。


また疑わしい取引の届出件数は年々増加傾向にあり、令和6年には特定事業者から所管行政庁への届出件数が過去最多の80万件超に達しました。日本全体でマネロン対策への意識と態勢が底上げされている表れです。これはいいことですね。


投資家・個人として注意すべき点が一つあります。顧客側が取引時確認事項を偽った場合も犯収法違反となります。たとえば本人確認書類として他人のものを使用したり、取引目的を虚偽申告したりすることは違法です。金融商品への投資や口座開設の際に正直に情報提供することが義務であることを忘れないでください。


参考:犯収法違反の罰則について詳しく解説(東京刑事弁護士)
犯罪収益移転防止法の解説~罰則①(特定事業者への罰則)


特定事業者の一覧が広がった背景:FATFと国際的な圧力

なぜ「銀行だけ」でなく宝石商や弁護士まで特定事業者になったのか。その答えは国際機関FATFにあります。


FATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)は1989年に設立された政府間タスクフォースで、38の国・地域と2つの国際機関が参加するマネロン対策の国際標準を策定する機関です。FATFが1990年に発表した「40の勧告」が、現在の各国のマネロン規制の土台となっています。


日本は2021年に「FATF第4次対日相互審査」の結果として「強化(重点)フォローアップ国」という評価を受けました。これは3段階評価の2番目、つまり「合格ラインには届いていない」に相当する評価です。この結果を受けて、日本は2022年に犯収法等の改正を行い、士業(司法書士・行政書士・公認会計士・税理士)への取引時確認の義務対象に「取引目的等の確認」を追加するなど、規制の強化が図られました。


2003年のFATF勧告改訂では「非金融業者(不動産業者・宝石商等)・職業的専門家(弁護士等)」への適用が求められており、これが日本でも特定事業者の範囲が金融機関以外に大きく広がった直接の理由です。つまり「特定事業者の一覧」が広い理由は、国際基準への対応という外圧が背景にあります。


金融に関心がある人にとっては、自分が利用する証券会社・FX会社・暗号資産取引所なども全てこのFATFの国際基準に基づく義務を負っていることを知っておくと、なぜ本人確認が厳しくなっているかの背景が理解できます。


参考:FATFおよびJAFICによる国際的なマネロン対策の枠組み(財務省)
国内のマネロン・テロ資金供与・拡散金融対策(財務省)


特定事業者と金融利用者が知るべき2027年犯収法改正の最新動向

現在、特定事業者に関する法制度はさらなる改正の波を迎えています。注目すべきは2027年4月施行予定の犯収法改正です。


最大のポイントは、eKYC(オンライン本人確認)における「ホ方式」の廃止です。「ホ方式」とは身分証の画像をアップロードして目視確認する方式で、これまでネット証券・FX口座・暗号資産取引所などの口座開設で広く使われてきた最も普及した方式です。これは使えそうです。


しかし2027年4月1日以降、この方式は原則廃止となります。偽造身分証を用いたなりすましリスクの高さが廃止の理由です。代替として推進されるのがICチップ読取方式(ワ方式)で、マイナンバーカードや運転免許証のICチップをスマートフォンで読み取る方法が主流になります。また、スマートフォンの生体認証(顔認証)のみで本人確認が完了する方式も2025年6月の改正で新設されました。
























eKYC方式 概要 2027年以降
ホ方式(撮影方式) 身分証の画像+本人の顔写真を送信して目視確認 ❌ 原則廃止
ワ方式(ICチップ読取) マイナンバーカード等のICチップをNFCで読み取る ✅ 主流方式として残存
生体認証方式(新設) スマホの顔認証のみで本人確認を完了 ✅ 2025年6月から新設


この改正は特定事業者(証券会社・FX会社・暗号資産取引所等)にとって対応コストが生じる変化ですが、金融利用者の目線では「口座開設・本人確認の手続きが変わる」という形で影響します。マイナンバーカードのICチップが今後ますます重要になります。


また、「犯罪収益移転危険度調査書(NRA)」の令和7年版によれば、令和6年の疑わしい取引の警察庁への年間通知件数は約85万件にのぼりました。これはコンビニの全店舗数(約5万6千店)の約15倍に相当する件数です。規制の実態がいかに大きなスケールで運用されているかがわかります。


金融機関の口座を複数持つ方や暗号資産に投資している方は、2027年の改正を前に、利用中のサービスの本人確認体制がいつ・どう変わるかを各サービスの公式ページでこまめに確認することをお勧めします。


参考:2027年改正に向けたeKYCのホ方式廃止の最新解説
eKYCのホ方式廃止で本人確認はどう変わる?今準備すべきこととは(nexway)