

法人の代表者が実質的支配者とは限らない。25%超の株式を持つ別人が「本当の支配者」として申告を求められます。
「実質的支配者(Beneficial Owner/BO)」とは、法人の事業活動を実質的に支配することが可能な関係にある自然人のことを指します。根拠となるのは「犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)」第4条第1項第4号で、2016年10月1日の法改正施行以降、金融機関などの特定事業者が法人と新規取引を行う際には、この確認が法的義務となっています。
よく誤解されるのが「代表取締役=実質的支配者」という思い込みです。それは違います。会社の所有と経営が分離されているケースでは、日常業務を担う代表取締役よりも、議決権を多く持つ株主が実質的支配者に該当します。同族企業やオーナー経営なら代表者と一致することも多いですが、出資者と経営者が異なる場合は要注意です。
確認の目的はマネーロンダリング(資金洗浄)およびテロ組織・犯罪組織への資金流出防止にあります。法人の「匿名性」を悪用した不正取引を防ぐために、実際にお金の流れを支配している個人(自然人)を特定・記録することが求められているわけです。
なお、実質的支配者は必ず「個人(自然人)」でなければなりません。ただし例外的に、国・地方公共団体・上場企業およびその子会社は「自然人とみなされる」扱いを受けます。つまり上場企業が親会社の場合、その上場企業が実質的支配者として申告できるということです。これは知らない方が多い重要なポイントです。
法務省:実質的支配者リスト制度の創設(令和4年1月31日運用開始)|実質的支配者の定義・手続の流れを公式に確認できます
株式会社などの「資本多数決法人」における実質的支配者の判定は、以下の4段階で順番に確認します。上の段階に該当する人が見つかった時点で、その人が実質的支配者です。
| 優先順位 | 条件 | 実質的支配者 |
|---|---|---|
| ❶ 第1段階 | 議決権の50%超を直接または間接に保有する自然人がいる | その自然人 |
| ❷ 第2段階 | ❶がおらず、議決権の25%超を直接または間接に保有する自然人がいる | その自然人(複数該当の場合は全員) |
| ❸ 第3段階 | ❶❷がおらず、出資・融資・取引等を通じて支配的な影響力を持つ自然人がいる | その自然人 |
| ❹ 第4段階 | ❶❷❸のいずれにも該当する者がいない | 法人を代表し業務を執行する自然人(代表取締役等) |
第4段階まで来てはじめて、代表取締役が実質的支配者となります。つまり代表者申告は「最終手段」です。
ここで重要なのが「間接保有」の概念です。たとえばA社の株式を「B社」が60%保有しており、そのB社をさらに個人Cが70%保有しているとします。この場合、個人CはB社を通じてA社を間接的に支配しているとみなされ、個人CがA社の実質的支配者となります。これが「自然人まで遡る」という考え方の核心です。
間接保有の計算は少し複雑に感じますが、基本ルールは「50%超の議決権を持つ法人の議決権は、そのまま引き継ぐ」という考え方です。間接保有があると申告書類が多くなりますので、早めに確認しておくことが肝心です。
広島銀行:法人の「実質的支配者」判定フロー(PDF)|間接保有の判定方法を図解で確認できます
実質的支配者の確認方法は、法人の種類によって大きく変わります。これを知らずに「株式会社の基準で申告しようとした」という誤りが実際に起きています。法人形態別に整理します。
合同会社については特に注意が必要です。合同会社は定款認証が不要なため、公証人への実質的支配者申告義務がありません。しかし、銀行口座を開設したり証券口座を利用する際には、犯収法に基づく申告は必須です。「合同会社だから申告しなくていい」は大きな誤解です。
また、投資法人や特定目的会社は資本多数決法人ではあるものの、実質的支配者リスト制度(法務局保管制度)の対象外となっています。株式会社とは扱いが違うため注意が必要ですね。
実質的支配者リストとは、法務局(商業登記所)に対して会社が申出を行うことで、登記官の認証文付き写しを取得できる公的書類です。2022年1月31日から運用開始されており、銀行口座開設や融資申込など、犯収法に基づく実質的支配者申告の場面で活用できます。
制度の対象は「株式会社・特例有限会社」のみです。利用手数料は無料です。申出は郵送・代理人(司法書士など)でも行えます。
取得の流れは以下のとおりです。
取得した実質的支配者リストの有効期間は「交付を受ける日の前6ヶ月以内に作成されたもの」に限られます。6ヶ月が過ぎたリストでは再度申出が必要になるため、タイミングの管理が大切です。
利用の大きなメリットは、一度リストを作っておくことで毎回の申告書作成を省ける点です。特に間接保有が絡む複雑な株主構造を持つ会社にとっては、支配関係を図示した認証付きリストを提出するだけで済むため、時間的コストの削減効果が大きくなります。
一方で司法書士目線から見た注意点もあります。リストは「申出時点の情報しか証明しない」という点です。株主に変動があっても、法務局への変更届出義務はありません。受け取った側の金融機関は、いつ時点の情報なのかをきちんと確認することが求められます。
法務省:実質的支配者リスト制度Q&A|上場会社100%子会社の扱いや例外ケースなど実務上の疑問を公式に確認できます
虚偽申告を行うと、法的リスクが一気に高まります。重大な点なので正確に理解しておく必要があります。
罰則の内訳は以下のとおりです。
「誰が実質的支配者か、よく分からないから社長にしておいた」という対応は危険です。これが結果として虚偽申告になることがあります。不明確な場合は、司法書士や弁護士に相談するのが正解です。
実務上の対応で特に見落としやすいのが「継続的顧客管理」の視点です。実質的支配者情報は「取引開始時だけ申告すれば終わり」ではありません。株主が変わったり、会社の組織再編が行われたりした場合には、情報の更新が必要になることがあります。金融機関から定期的に「実質的支配者の変更はありましたか?」と確認される場面も増えています。これは必須の認識です。
また、実質的支配者の確認が必要となる場面は銀行口座開設だけではありません。証券口座の開設、法人クレジットカードの申込、宅地建物取引(不動産売買)、弁護士・司法書士・税理士・公認会計士などへの特定業務の依頼、貴金属の取引など、犯収法が定める特定事業者との取引では、ほぼすべての場面で求められます。取引の幅が広い法人ほど、早い段階で実質的支配者を明確にしておくことが、スムーズな事業運営につながります。
株主構造が複雑で間接保有が絡む場合や、複数の実質的支配者が存在するケースでは、専門家のサポートを受けながら実質的支配者リストを一度作成しておくことで、以後の取引対応を大幅に効率化できます。
穴町グループ(司法書士):実質的支配者リスト徹底解説|虚偽申告の罰則・有効期間・作成費用の目安まで実務視点で確認できます