貸倒引当金の取り崩しとは何かを仕訳と税務で解説

貸倒引当金の取り崩しとは何かを仕訳と税務で解説

貸倒引当金の取り崩しとは:仕訳・税務・投資分析まで徹底解説

取り崩すと、会社の利益が増えて法人税の負担も増えます。


この記事のポイント3つ
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取り崩しとは「戻入」のこと

貸倒引当金の取り崩しとは、積んでいた引当金を「貸倒引当金戻入」として収益計上する処理です。利益が増える反面、課税所得も増えます。

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洗替法と差額補充法で仕訳が異なる

取り崩しの方法は採用している引当金の計算方法によって変わります。税務上の原則は洗替法、上場企業では差額補充法が一般的です。

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投資家・株主にとっても重要なシグナル

銀行や上場企業の貸倒引当金の積み増し・取り崩しは、業績見通しを読む重要な指標です。財務諸表分析に役立てることができます。


貸倒引当金の取り崩しとは何か:基本の仕組みをわかりやすく解説

貸倒引当金(かしだおれひきあてきん)とは、売掛金や貸付金などの債権が将来回収できなくなるリスクに備えて、あらかじめ計上しておく引当金のことです。まず、この基礎をしっかり押さえることが大切です。


売掛金100万円を持っている企業が、その取引先の経営悪化を察知したとします。このとき「倒産して回収できなくなるかもしれない」と見積もって、たとえば50万円を貸倒引当金として費用計上します。翌期に実際に倒産すれば、引当金を取り崩して損失と相殺します。これが引当金の基本的な役割です。


では「取り崩し」とは具体的に何を意味するのでしょうか?


取り崩しとは、過去に積んでいた引当金を「減少させる」処理のことです。主に2つの場面で発生します。ひとつは、実際に貸倒れが発生して引当金で補填するケース。もうひとつは、引当金を積んでいた債権が予想より問題なく回収でき、引当金が不要になったケースです。後者の場合、取り崩した引当金は「貸倒引当金戻入」という収益(利益)として計上されます。


収益になるということですね。


つまり、引当金の取り崩しには「損失の補填」と「利益への戻し入れ」という2つの側面があります。どちらも財務諸表に影響を与えます。


取り崩しの場面 内容 損益計算書への影響
貸倒れが発生した場合 引当金で損失を補填する 損失を減らす(費用圧縮)
債権が回収できた場合 不要な引当金を「戻入」する 収益が増える(利益増加)


なお、引当金を計上する際には「貸倒引当金繰入(かしだおれひきあてきんくりいれ)」という費用勘定を使い、取り崩す際には「貸倒引当金戻入(かしだおれひきあてきんもどしいれ)」という収益勘定を使います。この2つは正反対の動きをする、セットの勘定科目です。これが基本です。


参考:貸倒引当金の仕訳や計算方法の全体像については以下のオリコビジネスの解説が詳しくまとめられています。


貸倒引当金戻入とは?勘定科目の意味から計上区分や仕訳例も解説!|オリコ


貸倒引当金の取り崩し:洗替法と差額補充法の仕訳の違い

貸倒引当金の取り崩しにおける仕訳は、企業がどの計上方法を採用しているかによって大きく変わります。主な方法は「洗替法(あらいがえほう)」と「差額補充法(さがくほじゅうほう)」の2種類です。


💡 洗替法(ぜいむ上の原則)


洗替法は、毎期末に前期の貸倒引当金を一度すべて取り崩し、新たに当期分を繰り入れる方法です。リセットして積み直す、というイメージです。税務上の原則として採用されており、中小企業に多く使われています。


たとえば前期末に50万円の貸倒引当金があり、当期末に新たに70万円積みたい場合、次のような2段階の仕訳になります。


ステップ 借方 金額 貸方 金額
①取り崩し 貸倒引当金 500,000円 貸倒引当金戻入 500,000円
②新規繰入 貸倒引当金繰入 700,000円 貸倒引当金 700,000円


洗替法では損益計算書に「戻入50万円(収益)」と「繰入70万円(費用)」の両方が計上されます。取り崩し額50万円が収益として見えるため、営業利益の数値に影響を与える点に注意が必要です。


💡 差額補充法(上場企業の一般的な方法)


差額補充法は、前期の残高と当期の必要額との差額のみを処理する方法です。前期より必要額が増えれば差額分を繰り入れ、前期より少なくなれば差額分だけ取り崩します。


前期50万円の残高に対して、当期の必要額が30万円に減った場合の仕訳は以下です。


借方 金額 貸方 金額
貸倒引当金 200,000円 貸倒引当金戻入 200,000円


差額20万円だけを取り崩して戻入します。シンプルな仕訳ですね。


重要なのは、最終的に貸借対照表上の貸倒引当金の残高は、洗替法でも差額補充法でも同じになるという点です。どちらの方法でも当期純利益への影響は変わりません。ただし、損益計算書の見え方が異なります。洗替法では戻入額が特別利益として表示されるケースがあるため、営業利益が小さく見えてしまいます。金融機関の融資審査では営業利益が重視されることが多いため、差額補充法を選ぶ企業も少なくありません。これは使えそうです。


参考:マネーフォワード クラウドの解説記事では、洗替法・差額補充法の仕訳をより詳しく確認できます。


貸倒引当金戻入とは?仕訳から解説|マネーフォワード クラウド会計


貸倒引当金の取り崩しと税務:会計と税務の違いに注意

ここは多くの方が誤解しやすいポイントです。会計と税務では、貸倒引当金の扱いがまったく異なります。


会計(財務会計)の目的は、投資家や株主などに対して「会社の実態を正確に伝える」ことです。そのため、将来のリスクを合理的に見積もって引当金を計上することが義務づけられています。一方、税務の目的は「課税の公平性」の確保です。見積りは会社ごとの主観が入りやすく、恣意的に費用を増やして税金を減らす操作に悪用される恐れがあります。このため、税務上は原則として引当金の損金算入が認められていません。


ただし、例外があります。


資本金1億円以下の中小企業や、銀行・保険会社などの金融機関に限り、一定の方法で計算した引当金の繰入額は損金算入が認められます(法人税法第52条)。これが、貸倒引当金が中小企業にとっての節税ツールとなる理由です。


主体 目的 引当金の扱い
会計 投資家への情報提供 計上が原則義務
税務(大企業) 課税の公平性 損金算入できない
税務(中小企業等) 課税の公平性(例外) 一定額まで損金算入可


取り崩した引当金(貸倒引当金戻入)は会計上の収益として利益を押し上げます。課税所得が増えますね。


つまり、前期に損金算入によって節税できた分は、取り崩した翌期の課税所得増加として「後払い」になります。貸倒引当金はあくまで「課税の繰り延べ」であり、永久的な節税ではありません。これは一度しっかり理解しておくべき重要な点です。


また、税務上の計算方法には「一括引当て」と「個別引当て」の2種類があります。一括引当ては、貸倒リスクが中程度以下の債権(一括評価金銭債権)をまとめて一定比率で算定する方法で、業種ごとに定められた法定繰入率が使われます。たとえば卸売業・小売業なら1,000分の10、製造業なら1,000分の8です(国税庁No.5501)。個別引当ては、倒産リスクが高い債権を個別に算定するもので、更生手続開始申立てなどの状態にある場合は50%という固定比率が適用されます。


参考:税務上の計算方法の根拠は国税庁の法令解説で確認できます。


No.5501 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定|国税庁


貸倒引当金の取り崩しが発生する3つの場面と仕訳例

実務では、貸倒引当金の取り崩しは主に3つの場面で発生します。それぞれの仕訳を把握しておくと、経理処理でミスが起きにくくなります。


場面① 引当金を積んでいた債権が問題なく回収できた場合


取引先の経営不安から引当金を積んでいたが、実際には全額回収できた。このとき、積んでいた引当金は不要になるため、全額取り崩して戻入します。


たとえば、売掛金100万円に対して30万円の引当金を設定していたが、全額回収できた場合の仕訳は次のとおりです。


借方 金額 貸方 金額
貸倒引当金 300,000円 貸倒引当金戻入 300,000円


これにより30万円の収益(戻入益)が発生し、利益が増えます。


場面② 期末に引当金の過大計上が判明した場合


決算で見積りを見直した結果、前期末より必要な引当金の額が減少した。差額分だけを取り崩します。たとえば前期に70万円積んでいたが当期の必要額が50万円に減った場合は、差額20万円を戻入します。


借方 金額 貸方 金額
貸倒引当金 200,000円 貸倒引当金戻入 200,000円


場面③ 実際に貸倒れが発生して引当金の範囲内で補填する場合


これが最も典型的な「取り崩し」の場面です。引当金を積んでいた債権が実際に貸倒れた場合は、引当金を取り崩して損失と相殺します。


売掛金50万円が貸倒れ、引当金残高が50万円あった場合の仕訳です。


借方 金額 貸方 金額
貸倒引当金 500,000円 売掛金 500,000円


引当金が残高を超えて貸倒れた場合、超過分は「貸倒損失」として処理します。たとえば引当金30万円に対して50万円の貸倒れが発生した場合は次の仕訳になります。


借方 金額 貸方 金額
貸倒引当金 300,000円 売掛金 500,000円
貸倒損失 200,000円


引当金と貸倒損失の組み合わせが基本です。


このように、場面によって仕訳のパターンが異なります。特に当期に発生した債権の貸倒れには引当金を使わず、全額「貸倒損失」として当期費用に計上する点も覚えておくと実務で役立ちます。


金融に強い人が財務諸表分析で使う「貸倒引当金の取り崩し」の読み方

貸倒引当金の取り崩しは、経理担当者だけでなく、投資家や金融機関の融資担当者にとっても重要な情報です。財務諸表のどこを見て何を読み取ればよいかを知っておくと、企業分析の精度が上がります。


まず注目すべきは、損益計算書(P/L)における「貸倒引当金繰入額」と「貸倒引当金戻入額」の動きです。繰入額が増えていれば、その企業が取引先のリスクを高く見積もっているサインです。逆に戻入額が増えていれば、過去に積んだ引当金が不要になった、あるいは意図的に利益を調整している可能性もあります。意外ですね。


特に銀行などの金融機関では、貸倒引当金の増減が業績予測の重要指標になります。不良債権処理の局面では引当金を大量に積み増し、景気回復局面では取り崩して利益を増やすというサイクルが繰り返されます。たとえば2020年度のコロナ禍では多くの金融機関が引当金を積み増し、2021年度以降の回復局面では戻入益が増加して利益を押し上げました。


次に見るべきは、貸借対照表(B/S)の貸倒引当金の残高です。売掛金や受取手形などの債権残高に対して貸倒引当金がどの程度積まれているか、その比率(貸倒引当率)を計算することで、企業がリスクをどれくらい保守的に見ているかがわかります。


$$\text{貸倒引当率} = \frac{\text{貸倒引当金残高}}{\text{対象債権残高}} \times 100$$


この比率が前期より大きく下がっていれば、引当金を取り崩したか、新たな引当が少ないかのどちらかです。業績悪化懸念がある中での引当率低下は要注意です。厳しいところですね。


一方、引当率が大きく上昇していれば、特定の取引先にリスクが高まっているサインかもしれません。決算短信や有価証券報告書でこの動きをチェックする習慣をつけておくと、株式投資や企業与信管理に役立ちます。


参考:日本銀行は貸倒引当金の現状と課題について分析レポートを公開しており、金融機関の引当行動に関する考察が詳しく書かれています。


貸倒引当金の現状と課題(PDF)|日本銀行