執行認諾文言付き公正証書の作り方と費用と手順

執行認諾文言付き公正証書の作り方と費用と手順

執行認諾文言付き公正証書の作り方と活用法を徹底解説

公正証書を作るだけでは、差し押さえできない場合があります。


📋 この記事の3つのポイント
⚖️
裁判なしで差し押さえができる

執行認諾文言付き公正証書があれば、訴訟を経ずに債務者の財産を直接差し押さえることが可能になります。

💴
費用は目的価額で変わる

100万円以下なら公証人手数料は5,000円から。ただし専門家報酬や謄本代・送達費用などが別途必要です。

📝
作成後も「送達」と「執行文付与」が必要

公正証書を作るだけでは強制執行できません。債務者への送達と執行文付与という2つの手続きを忘れずに行いましょう。


執行認諾文言付き公正証書とは何か・債務名義としての意味

執行認諾文言付き公正証書とは、債務者が「支払いを怠った場合は直ちに強制執行を受けても異議がない」と認めた文言(強制執行認諾文言)を含む公正証書のことです。通常の契約書と何が違うのか、という点がまず重要になります。


一般的な契約書は、相手が約束を破っても「そのまま強制執行」はできません。裁判を起こして勝訴判決を得て、はじめて差し押さえが可能になります。これは、早くても数か月、長引けば1年以上かかることもあります。


これに対し、執行認諾文言付き公正証書は、民事執行法22条5号に定める「執行証書」として、判決と同等の「債務名義」の効力を持ちます。つまり、裁判をスキップして直接差し押さえ手続きに進めるのです。これは使えそうです。


ただし、この強力な効力が発揮されるのは「金銭の一定の額の支払い」または「代替物・有価証券の一定数量の給付」を対象とした請求に限られています。不動産の明渡しや、物の引き渡し請求など、金銭以外の給付には執行力が認められません。金銭債権が条件です。


具体的な適用場面として多いのは、金銭消費貸借契約(お金の貸し借り)・分割払い弁済契約・離婚に伴う養育費や慰謝料の支払い合意・取引上の売掛金回収などです。60万円を超える金銭債権であれば、少額訴訟(上限60万円)が使えないため、公正証書による備えが特に有効になります。


法務省:公正証書によって強制執行をするには(強制執行認諾文言の記載例あり)


執行認諾文言付き公正証書の作り方・作成の手順と流れ

作成の手順を理解しておくことが重要です。大きく分けると、①事前準備、②公証役場との折衝、③当日の手続き、という3段階で進みます。


① 事前準備:公正証書原案を作成する


公正証書は、「公証役場に行けばその場で作ってもらえる」と思われがちですが、実際にはそう簡単ではありません。事前に公証役場に電話・メールで連絡し、作成する内容・当事者・目的価額などを伝えたうえで「公正証書原案(合意書)」を用意しておくことが求められます。


公証人は中立的な立場であり、どちらか一方に有利になる誘導はしてくれません。原案なしで公証役場に赴いた場合、話し合いが長引いたり、債務者に有利な内容で話がまとまってしまうリスクがあります。法的に吟味された原案を持参するのが原則です。


② 公証役場への出頭と本人確認


当事者(債権者・債務者)双方、またはそれぞれの代理人が公証役場へ出頭します。本人が出頭する場合は、以下のいずれかで本人確認が行われます。


- 🪪 運転免許証・パスポート・マイナンバーカードなど写真付き身分証明書+認印
- 🔏 印鑑証明書+実印


代理人が出頭する場合は、さらに委任状(白紙委任は不可。公正証書原案の内容と綴じ、実印+印鑑証明書の添付が必要)が求められます。なお、債権者が債務者の代理人になることはできません。利益相反が条件です。


③ 公証人による内容確認・署名押印


公証人が当事者に内容を読み聞かせ、または閲覧させ、承認を得たうえで、当事者・公証人全員が署名押印します。完成した公正証書は「原本」として公証役場に原則20年間保管され、債権者には「正本」、債務者には「謄本」が交付されます。


日本公証人連合会:公正証書作成に必要な書類一覧(本人・法人・代理人ごとに解説)


執行認諾文言付き公正証書の費用・公証人手数料と諸費用の全体像

費用は複数の項目に分かれており、想定より多くなるケースがあります。項目ごとに整理しておきましょう。


① 公証人手数料(法定料金・全国一律)


公証人手数料は「公証人手数料令」に基づき定められており、目的価額(債権額)によって以下のとおりに決まります。


| 目的の価額 | 公証人手数料 |
|---|---|
| 100万円以下 | 5,000円 |
| 100万円超〜200万円以下 | 7,000円 |
| 200万円超〜500万円以下 | 11,000円 |
| 500万円超〜1,000万円以下 | 17,000円 |
| 1,000万円超〜3,000万円以下 | 23,000円 |
| 3,000万円超〜5,000万円以下 | 29,000円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 43,000円 |


② その他の諸費用


公証人手数料のほかに、以下の費用が発生します。


- 📄 正本・謄本代:1ページ250円(ページ数次第で変動)
- 📬 特別送達代:送達手数料1,400円+切手代(債務者への謄本郵送に必要)
- 📋 送達証明:250円
- ✍️ 執行文付与:1,700円
- 🖊️ 収入印紙:金銭消費貸借契約書の原本には債権額に応じた印紙が必要(離婚給付の場合は不要)


③ 専門家への報酬(任意)


行政書士・司法書士・弁護士に原案作成や手続きのサポートを依頼する場合、別途報酬が発生します。相場の目安は以下のとおりです。


- 🏛️ 行政書士・司法書士:原案作成サポートで3万円〜5万円程度
- ⚖️ 弁護士:10万円〜20万円程度(複雑な案件や交渉を伴う場合)


専門家に依頼しない場合でも、公証役場に事前にファックス等で原案を送っておくと当日の手続きがスムーズです。専門家費用が条件次第で変わる、という点は覚えておきましょう。


千葉司法書士事務所:強制執行認諾文言付き公正証書の費用一覧(手数料表あり)


作成後に必要な「送達」と「執行文付与」の手続き

公正証書を作って終わりだと思っていると、実際に差し押さえが必要になった時に動けません。これは意外なポイントです。


強制執行を申し立てるには、「公正証書正本」「送達証明書」「執行文」という3点セット(執行3点セット)が必要です。公正証書を作成しただけではこのうちの1つしかそろいません。


送達とは何か


送達とは、公証役場から債務者に対し公正証書謄本を公式に郵送・交付する手続きです。強制執行を行うには、あらかじめ債務者に債務名義の内容が通知されている必要があります。債務者本人が公証役場に出頭した場合は、当日その場で謄本を交付することで「送達」が完了します。一方、代理人出頭の場合は「特別送達」という特殊な郵便手続きで債務者宅に郵送されます。


「送達証明書」は、この送達が完了したことを証明する書面です。発行手数料は250円で、公証役場で取得できます。


執行文付与とは何か


執行文は「この公正証書に基づいて強制執行ができる」という旨を公証人が正本の末尾に記載・押印したものです。公証役場で「執行文付与申立書」を提出して取得します。費用は1,700円です。


通常の場合(単純執行文)は、謄本送達後1週間程度を経てから申請することが多いです。これは、送達後に債務者から異議が出る可能性を考慮した慣行です。


注意点として、執行文付与の申請は「公正証書を作成した公証役場」に対して行う必要があります。将来の再度付与なども見越して、債権者の最寄りの公証役場で作成しておくことが推奨されます。自宅から遠い公証役場で作ると手続きのたびに出向く手間が生じるため、これは痛いですね。


京橋公証役場:強制執行のための送達と執行文の付与(手続き詳細)


執行認諾文言付き公正証書を活用すべき場面と独自の視点

この公正証書が実際にどのような場面で力を発揮するか、また「作ったのに使えなかった」というリスクはどこにあるのかを整理します。


活用場面


金融取引における主な活用場面は、知人・家族間の金銭消費貸借(個人間の貸し借り)・取引先との分割払い弁済契約・不動産売買における残代金支払い合意などです。特に個人間の貸し借りは口頭での約束になりやすく、後日「そんな話は知らない」とトラブルになるケースが少なくありません。


「作ったのに動けない」3つの落とし穴


✅ 落とし穴①:執行認諾文言が入っていない
公正証書に強制執行認諾文言がなければ、たとえ公証役場で作成した公文書であっても差し押さえはできません。作成を急ぐあまり文言の確認を怠ると、後から裁判が必要になります。


✅ 落とし穴②:金銭以外の請求に使おうとする
「不動産を明け渡してもらう」「物を返してもらう」といった金銭以外の請求には、この公正証書は使えません。執行証書として認められるのは金銭・代替物・有価証券の給付請求のみです。


✅ 落とし穴③:相手の財産が特定できていない
強制執行を申し立てるには、差し押さえる財産(預金口座・勤務先・不動産など)を特定する必要があります。公正証書はあるのに相手の財産がわからないと差し押さえに進めません。財産調査の手段として、弁護士会照会・金融機関への照会申請・第三者からの情報取得手続(令和2年改正民事執行法)などが選択肢に挙げられます。


「心理的プレッシャー」という見落とされがちな効果


実は、多くのケースでは実際に差し押さえを行わなくても、「この公正証書があるから払わないと給料を差し押さえられる」という心理的プレッシャーが債務者の任意払いを促す効果があります。執行認諾文言付き公正証書は「抑止力」としての機能も非常に大きいのです。金融取引を行う立場からすると、契約段階でこの一文を入れておくだけで、後のリスクを大幅に下げられるという意味で、非常にコストパフォーマンスの高い法的備えといえます。


相手方の財産を特定するために事前に情報収集しておきたい場合、信用調査サービス(帝国データバンクなど)を利用する方法もあります。公正証書の作成と並行して動いておくと、万が一の際の対応が格段にスムーズになります。


債権回収弁護士:執行認諾文言付き公正証書とは何か・強制執行の申し立てまでの流れ