
金銭消費貸借契約における要物契約とは、当事者間の合意だけでは契約が成立せず、実際に金銭の授受が行われて初めて契約の効力が生じる契約形態です 。民法第587条では「消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる」と規定されています 。
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この要物性の特徴により、借主が返済を約束し、貸主が融資を承諾したとしても、実際に金銭が交付されるまでは法的な契約関係は成立しません 。つまり、口約束だけでは金銭消費貸借契約としての拘束力を持たないということになります 。
参考)要物契約
要物契約の概念は、契約の安全性と明確性を確保するため設けられた制度であり、金銭の実際の移動を契約成立の前提条件とすることで、当事者双方の意思と行動の一致を担保しています 。
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金銭消費貸借契約が成立するための法的要件は、第一に「借主が貸主に対して同額を返還することを約束すること」、第二に「実際に金銭を受け取ること」の2つです 。この2番目の要件が要物契約としての特徴を示す重要な要素となっています 。
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契約の効力については、金銭の授受が完了した時点で発生し、借主は返済義務を負い、貸主は返済請求権を取得します 。ただし、返済期限前においては、借主は金銭を受け取る前であれば契約解除が可能という特殊な効果もあります 。
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注目すべき点として、契約書の作成がなくても要物契約としての金銭消費貸借契約は有効に成立しますが、証拠保全の観点から実務上は書面化が強く推奨されています 。これは後日の紛争予防と法的安全性確保のために重要な意味を持ちます 。
参考)借用書関連用語
民法改正(2020年4月施行)により、書面で作成される金銭消費貸借契約は諾成契約として取り扱われることになりました 。諾成契約では、当事者の申込みと承諾という意思表示の合致のみで契約が成立し、実際の金銭授受は契約履行の問題となります 。
参考)民法改正~要物契約から諾成契約へ~
要物契約と諾成契約の最も重要な違いは、契約成立のタイミングです 。要物契約では金銭授受時に契約が成立するのに対し、諾成契約では合意時点で成立します 。この違いにより、契約違反時の責任追及や損害賠償請求の可否にも影響が生じます 。
参考)ブログエラー
実務面では、銀行融資や住宅ローンなど、事前に契約書を作成してから後日融資実行される場合、諾成的消費貸借契約として取り扱われることが一般的です 。これにより借主の地位がより安定し、融資実行前の段階でも法的保護を受けることが可能になっています 。
参考)【民法改正(2020年4月施行)に対応】金銭消費貸借契約のレ…
実務において要物契約としての金銭消費貸借契約を取り扱う際は、まず契約成立時期の明確化が重要です 。金銭授受の事実を客観的に証明できるよう、領収書や振込記録等の証拠書類を整備する必要があります 。
参考)金銭消費貸借契約書とは?無料テンプレート・雛形をもとにわかり…
契約当事者が異なる意思表示を行った場合の法的効力について、民法第91条の「任意規定と異なる意思表示」により、公序良俗に反しない限り当事者の意思が優先されます 。例えば、書面による契約であっても当事者が要物契約として合意していれば、その意思が尊重される可能性があります 。
参考)https://www.moj.go.jp/content/001255621.pdf
金融機関では、融資契約書に「要物契約である」旨を明記するケースもありますが、この場合は契約自由の原則に基づき有効とされる一方で、民法587条の2との整合性について慎重な検討が必要です 。実務上は、契約条項の明確化と法的リスクの回避を両立させるための工夫が求められています 。
金融業界において要物契約としての特性を活用する特殊なケースとして、段階的融資や条件付き融資があります 。これらの場面では、各段階での金銭授受を契約成立の要件とすることで、融資実行の柔軟性と法的安全性を両立させています 。
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近年注目されているのは、FinTech企業によるP2P融資プラットフォームでの要物契約活用です 。個人間融資において、プラットフォーム上での合意と実際の資金移転を分離することで、取引の透明性と安全性を確保しています 。
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また、企業間の短期資金調達において、手形割引や商業手形取引では要物契約の性質を活用し、手形の物理的な授受を契約成立の要件とするケースも存在します 。これにより、有価証券としての手形の特性と要物契約の法的効果を組み合わせた独特な取引形態が形成されています 。
参考)要物契約とは