

法定相続人への不動産を死因贈与にすると、遺贈より税金が最大93万円以上高くなることがあります。
死因贈与とは、贈与者が自分の死亡を条件として特定の財産を受贈者に渡すことを約束する「契約」です。民法554条に規定されており、贈与者と受贈者の双方が生前に合意することで成立します。財産が実際に移転するのは贈与者が亡くなった後ですが、契約自体は生きている間に結ばれる点が大きな特徴です。
一方、遺贈とは遺言書によって自分が亡くなった後に特定の人へ財産を無償で渡すことを指します。民法964条に基づき、遺贈者(財産を渡す人)が一方的に遺言書へ記載することで成立するため、受遺者(財産を受け取る人)の同意はまったく必要ありません。つまり、受取人に内緒のまま手続きを進められるのが遺贈の大きな特徴です。
両者の最も根本的な違いを一言でまとめると「死因贈与は双方合意の契約、遺贈は一方的な遺言」ということです。
以下の比較表に主な違いをまとめます。
| 項目 | 死因贈与 | 遺贈 |
|---|---|---|
| 法的性質 | 契約 | 遺言による意思表示 |
| 双方の合意 | 必要 | 不要 |
| 書面の要否 | 口頭でも有効(書面推奨) | 遺言書が必須 |
| 年齢制限(贈与側) | 原則18歳以上 | 15歳以上 |
| 撤回 | 原則可(例外あり) | いつでも可 |
| 死後の放棄 | 受贈者は原則不可 | 受遺者は可 |
| 課税 | 相続税 | 相続税 |
| 秘密性 | 相手に知られる | 秘密にできる |
年齢制限の違いも見落とされがちな点です。遺贈は15歳以上なら単独で行えますが(民法961条)、死因贈与は「契約」である以上、原則として18歳以上(成年)でないと単独では結べません。
遺贈のうち、特定の財産を指定して渡す「特定遺贈」と、財産の割合を示す「包括遺贈」の2種類があることも理解しておきましょう。包括遺贈の場合は借金などマイナスの財産も引き継ぐことになるため注意が必要です。これが基本です。
死因贈与との重要な違いとして、遺贈では受遺者が「放棄」することが可能です。特定遺贈の放棄はいつでもできますが、包括遺贈の放棄は「遺贈の効力が生じたことを知ってから3か月以内」という期限があります。一方、死因贈与では受贈者は死後に一方的に放棄することが原則できません。これは贈与者にとっては「確実に渡せる」という大きなメリットになります。
参考:死因贈与の民法上の根拠や遺贈との規定の違いについて、法務省管轄の法令データ提供システムで確認できます。
死因贈与は「贈与」という名称を含みますが、課税される税金は相続税です。贈与税ではありません。贈与者が亡くなった日を起算日として、受贈者は亡くなったことを知った翌日から10か月以内に相続税の申告・納付を行う必要があります。
ここで注意が必要なのが「相続税の2割加算」です。受贈者が亡くなった方の配偶者・一親等の血族(子・父母など)以外の場合、算出された相続税額に20%が上乗せされます。例えば本来の相続税額が100万円なら、2割加算後は120万円の納税義務が生じます。孫や兄弟姉妹、内縁のパートナーなどへ財産を渡す場合は、この加算を必ず計算に織り込む必要があります。
同じルールが遺贈にも適用されます。一方で、死因贈与が遺贈より明確に不利になるのが不動産を渡す場合の税コストです。この点が金融・相続対策において特に重要です。
| 税金の種類 | 死因贈与(法定相続人) | 遺贈・特定遺贈(法定相続人) |
|---|---|---|
| 登録免許税 | 評価額の2.0% | 評価額の0.4% |
| 不動産取得税 | 土地・住宅3%、他4%(軽減措置あり) | 非課税 |
具体例で確認してみましょう。固定資産税評価額3,000万円の土地を法定相続人に渡す場合を想定します。
- 遺贈(特定遺贈)の場合 → 登録免許税:3,000万円×0.4%=12万円、不動産取得税:0円。合計12万円。
- 死因贈与の場合 → 登録免許税:3,000万円×2.0%=60万円、不動産取得税:宅地は価格の1/2に3%をかけるため3,000万円×1/2×3%=45万円。合計105万円。
差額は93万円です。これはちょうどパソコンが9台以上買えるほどの金額です。法定相続人への不動産を渡したい場合、死因贈与よりも特定遺贈の方が有利になるケースが多いということです。
厳しいところですね。この差は金融資産の移転では生じませんが、不動産を含む相続対策を検討している場合には必ず把握しておきたい知識です。
なお、不動産の登録免許税・不動産取得税の正確な計算や軽減措置の適用については、国税庁のWebサイトや税理士・司法書士に確認することをおすすめします。
死因贈与の撤回について、多くの人が「契約だから一度結んだら取り消せない」と思い込んでいますが、実際には原則として贈与者は自由に撤回できます。民法554条により遺贈の規定が準用されており、遺贈と同様に基本的にはいつでも撤回が可能です。
ただし、例外があります。それが「負担付死因贈与」です。
負担付死因贈与とは、財産を渡す代わりに受贈者に何らかの義務を課す内容の契約を指します。例えば「私が生きている間、介護をしてくれたら自宅をあげる」「店舗を継いでくれたら、その代わりに店の借入金も引き継いでほしい」といったケースが典型例です。
この場合、受贈者がその負担(介護・借入金の引き受けなど)を一部でも履行してしまうと、贈与者による一方的な撤回が原則として認められなくなります。つまり、受贈者の権利が守られるということです。
これは視点を変えると贈与者のリスクでもあります。介護を続けてもらったあとで関係が悪化し「やはり財産は渡したくない」と思っても、負担が履行済みであれば撤回は困難です。「やむを得ないと認められる特段の事情」がある場合のみ例外的に撤回が認められますが、これは裁判所が判断する高いハードルです。
結論は、負担付死因贈与を結ぶ際には内容を慎重に設計する必要があるということです。
また、死因贈与契約の撤回と似た問題として「遺言書との優先関係」があります。死因贈与契約締結後に遺言書を作成し、その内容が死因贈与契約と矛盾する場合、原則として日付の新しい方が優先されます。つまり、死因贈与契約より後の日付の遺言書が残されていれば、遺言書の内容が優先されることになります。これも注意が必要な点です。
さらに注目すべき視点として、「無効な遺言書が死因贈与として認められる可能性」があります。自筆証書遺言で日付の記載漏れや押印忘れなど形式不備があった場合、遺言書としては無効になります。しかし、遺言者と受遺者の間で意思の合致が認められる場合、過去の裁判例では「無効な遺言書を死因贈与契約書として認める」判決が複数出ています。遺言書の形式不備があっても、すぐにあきらめる必要はないということです。
遺贈との比較で見落とされやすいが実務上非常に重要な違いが、不動産の「仮登記」の可否です。
死因贈与契約を結んで不動産を受け取ることが決まった場合、受贈者は「始期付所有権移転仮登記」を申請することができます。これは贈与者が生存している段階で、将来の所有権移転を登記の順位で確保しておく手続きです。仮登記を行っておけば、例えば贈与者が後から同じ不動産を第三者に売却したり、別の相続人に遺贈したりしても、受贈者は自分の権利を優先的に主張できます。これは使えそうです。
一方、遺贈による不動産の場合はこの仮登記ができません。遺贈の場合は贈与者が亡くなって初めて所有権移転の手続きができるため、生前に権利を保全する手段がない点が大きな違いです。
仮登記の申請は原則として贈与者・受贈者の共同申請が必要ですが、贈与者の承諾がある場合は受贈者が単独で申請できます。また、死因贈与契約書を公正証書として作成し、贈与者の承諾が記載されていれば、印鑑証明書等の書類も省略できるため手続きが大幅に簡略化されます。
💡 実務上おすすめの3点セット
不動産を含む財産を特定の人に確実に渡したい場合、この3点セットを整えておくことが、後々のトラブルを防ぐ最も効果的な手段といえます。
なお、仮登記や本登記の手続きは複雑なため、対象不動産の所在地を管轄する法務局や、司法書士への相談を活用するとよいでしょう。
死因贈与と遺贈はどちらが優れているということはなく、目的や状況によって選択肢が変わります。それぞれに向いている場面を整理します。
🔵 死因贈与が有利なケース
🔴 遺贈が有利なケース
金融的な観点からまとめると、「法定相続人への不動産承継は遺贈、法定相続人以外への確実な財産承継や条件付き承継は死因贈与」という分け方が基本的な判断軸になります。
相続対策の全体設計で見ると、死因贈与・遺贈のほかにも生前贈与や家族信託という選択肢もあります。特に生前贈与は、年間110万円の基礎控除を活用した段階的な財産移転が可能で、相続税の節税効果が期待できます。ただし、2024年以降の税制改正により、生前贈与の相続財産への加算期間が従来の3年から7年に延長されている点には注意が必要です。
複数の手法を組み合わせた相続対策の全体設計を検討する場合は、相続専門の税理士や弁護士への早めの相談が、結果的に節税・トラブル回避の両面で有効です。
参考:遺贈・相続・死因贈与にかかる登録免許税の税率の違いや手続きについて
相続遺言サポートオフィス:遺贈と死因贈与の登記・税率比較

YM262 FP事典 第1巻 相続贈与編 相続と法律 相続分 遺産分割 遺贈と死因贈与 遺言 相続の手続 金融財政事情研究会 平成元年第1刷発行