累進課税制度と所得税の計算方法や税率一覧

累進課税制度と所得税の計算方法や税率一覧

累進課税制度と税率

累進課税制度の基本
💰
所得が増えると税率も上昇

課税対象となる金額が多くなるほど、適用される税率も高くなる仕組み

📊
日本での適用税

所得税、相続税、贈与税の3種類に適用されている

⚖️
垂直的公平の実現

経済的に豊かな人がより多くの税負担をする公平性を確保

累進課税制度の概要と歴史

累進課税制度とは、課税対象となる金額(所得や資産など)が多くなるほど、適用される税率も高くなっていく課税方式です。この制度は、「担税力に応じた課税」という考え方に基づいており、経済的に余裕のある人がより多くの税負担を担うことで、社会全体の公平性を保つことを目的としています。

 

日本では1887年3月から累進課税制度が導入され、130年以上の長い歴史を持っています。当初は比較的緩やかな累進性でしたが、時代とともに制度は改正され、現在の形に至っています。

 

現在、日本で累進課税が適用されている主な税金は以下の3種類です。

  • 所得税(個人の所得に対する税金)
  • 相続税(相続によって取得した財産に対する税金)
  • 贈与税(贈与によって取得した財産に対する税金)

これらの税金は、金額が大きくなるほど税率が段階的に上昇する「超過累進課税方式」を採用しています。

 

累進課税の種類と仕組み

累進課税には主に2つの方式があります:単純累進課税と超過累進課税です。日本の税制では超過累進課税方式が採用されています。

 

1. 単純累進課税
課税対象となる金額全体に対して、その金額に応じた税率を適用する方式です。例えば、課税所得が200万円なら10%、300万円なら15%というように、所得の総額に対して一律の税率が適用されます。

 

この方式では、わずかな所得の増加によって税率が上がると、手取り額が逆に減少する「逆転現象」が生じる可能性があります。そのため、現在の日本では採用されていません。

 

2. 超過累進課税
課税対象となる金額を複数の区分に分け、各区分ごとに異なる税率を適用する方式です。高い区分に入った場合でも、その区分を超えた部分にのみ高い税率が適用されます。

 

例えば、所得税の場合。

  • 195万円までの部分:5%
  • 195万円超330万円までの部分:10%
  • 330万円超695万円までの部分:20%

という具合に、所得の各区分に対して異なる税率が適用されます。

 

この方式では、所得が増えても手取り額が減るという逆転現象は起こりません。そのため、勤労意欲を阻害せず、公平な税負担を実現できるとされています。

 

所得税における累進課税の税率一覧

所得税は、個人の所得に対して課される国税であり、典型的な累進課税制度を採用しています。令和5年度(2023年度)現在の所得税の税率は、以下の7段階に分かれています。

 

課税される所得金額 税率 控除額
1,950,000円以下 5% 0円
1,950,000円超 3,300,000円以下 10% 97,500円
3,300,000円超 6,950,000円以下 20% 427,500円
6,950,000円超 9,000,000円以下 23% 636,000円
9,000,000円超 18,000,000円以下 33% 1,536,000円
18,000,000円超 40,000,000円以下 40% 2,796,000円
40,000,000円超 45% 4,796,000円

この表の「控除額」は、税額計算を簡略化するためのものです。所得税額は「課税所得金額 × 税率 - 控除額」という計算式で求められます。

 

例えば、課税所得が400万円の場合。

  • 400万円 × 20% - 427,500円 = 372,500円

となります。この控除額は、超過累進課税方式を簡便に計算するための工夫で、各所得区分の境界では税額が連続的に変化するように設定されています。

 

累進課税の計算方法と実例

累進課税の計算方法を具体的な例で見てみましょう。ここでは所得税を例に説明します。

 

所得税の計算手順

  1. 収入から経費を差し引いて所得を算出
  2. 所得から所得控除(基礎控除、配偶者控除、医療費控除など)を差し引いて課税所得金額を算出
  3. 課税所得金額に税率を適用して所得税額を計算

具体例:課税所得が500万円の場合
超過累進課税方式では、所得の区分ごとに異なる税率を適用します。

 

  • 195万円までの部分:195万円 × 5% = 97,500円
  • 195万円超330万円までの部分:(330万円 - 195万円) × 10% = 135,000円
  • 330万円超500万円までの部分:(500万円 - 330万円) × 20% = 340,000円

合計:97,500円 + 135,000円 + 340,000円 = 572,500円
ただし、実際の計算では前述の控除額を使った簡便な方法が用いられます。
500万円 × 20% - 427,500円 = 572,500円
このように、所得が増えるほど適用される税率も高くなりますが、全体の所得に対して最高税率が適用されるわけではありません。

 

超過累進課税と単純累進課税の違い
同じ500万円の課税所得でも、単純累進課税だと500万円全体に20%の税率がかかり、1,000,000円の税金となります。超過累進課税方式では572,500円となり、大きな差が生じます。この違いが、日本が超過累進課税を採用している理由の一つです。

 

累進課税制度のメリットとデメリット

累進課税制度には様々なメリットとデメリットがあります。税制を理解する上で、これらの側面を把握しておくことは重要です。

 

メリット

  1. 垂直的公平性の実現:経済的能力に応じた税負担を実現し、「担税力」に応じた課税が可能になります。所得や資産が多い人がより多くの税金を負担することで、社会的な公平性が保たれます。
  2. 所得再分配機能:高所得者からより多くの税金を徴収し、その財源を社会保障などに充てることで、所得格差の是正に寄与します。これにより、社会全体の安定性が高まります。
  3. 自動安定化装置としての機能:経済が好調で所得が増加すると自動的に税収も増加し、逆に不況時には税収が減少します。これにより、景気変動を自動的に緩和する効果があります。
  4. 財政需要への対応:高い税率区分を設けることで、必要に応じて税収を確保しやすくなります。

デメリット

  1. 労働意欲の低下懸念:所得が増えると税率も上がるため、追加的な労働や収入増加への意欲が低下する可能性があります。特に高所得者層では、この影響が顕著になることがあります。
  2. 複雑な税制:税率区分や控除制度が複雑になりがちで、一般の納税者にとって理解しづらく、確定申告などの手続きが煩雑になる傾向があります。
  3. 節税対策の誘発:高い税率を避けるための節税対策や租税回避行動を誘発する可能性があります。これにより、本来の税収確保という目的が達成されにくくなることもあります。
  4. 国際的な税率競争:グローバル化が進む中、高い累進税率は国際的な人材や資本の流出を招く恐れがあります。特に高度人材や企業が税率の低い国へ移動するリスクがあります。

累進課税制度は、これらのメリットとデメリットのバランスを取りながら、社会全体の公平性と経済効率を両立させることを目指しています。

 

累進課税と相続税・贈与税の関係性

累進課税制度は所得税だけでなく、相続税や贈与税にも適用されています。これらの税金も、取得する財産の価額が大きくなるほど高い税率が適用される仕組みになっています。

 

相続税の累進課税
相続税は、亡くなった方(被相続人)から財産を相続した際に課される税金です。相続税の税率は10%から55%までの8段階に分かれており、相続する財産が多いほど高い税率が適用されます。

 

相続税の税率表(令和5年現在)。

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10% 0円
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

相続税の計算は複雑で、まず法定相続分に応じた取得金額を算出し、それに税率を適用した後、実際の相続分に応じて税額を按分します。また、基礎控除(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数)があり、これを超える部分に課税されます。

 

贈与税の累進課税
贈与税は、生前に財産を贈与された場合に課される税金です。贈与税も累進課税制度を採用しており、一般的な贈与の場合、税率は10%から55%までの8段階となっています。

 

贈与税の税率表(一般贈与の場合、令和5年現在)。

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10% 0円
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円

贈与税には基礎控除として年間110万円があり、これを超える部分に課税されます。また、特例として「暦年課税」と「相続時精算課税」の選択制があり、後者を選択すると2,500万円までの特別控除が適用されますが、相続時に贈与財産と合算して相続税が課税されます。

 

相続税と贈与税の関連性
相続税と贈与税は密接に関連しており、生前贈与による相続税の節税対策を防ぐために、贈与税の税率は相続税よりも高く設定されています。ただし、計画的な生前贈与や各種の特例制度を活用することで、全体の税負担を軽減できる場合もあります。

 

累進課税制度の国際比較と日本の特徴

累進課税制度は多くの国で採用されていますが、その具体的な内容は国によって大きく異なります。日本の累進課税制度の特徴を国際比較の観点から見てみましょう。

 

主要国の所得税最高税率比較

国名 所得税最高税率 適用される所得水準(円換算概算)
日本 45% 4,000万円超
アメリカ 37% 約6,000万円超
イギリス 45% 約2,500万円超
フランス 45% 約2,000万円超
ドイツ 45% 約3,000万円超
スウェーデン 57% 約800万円超
シンガポール 22% 約3,000万円超

この比較から、日本の所得税最高税率は国際的に見て中程度であることがわかります。北欧諸国のような高福祉国家では50%を超える高い税率が設定されている一方、シンガポールなどのアジアの一部の国々では比較的低い税率となっています。

 

日本の累進課税制度の特徴

  1. 税率区分の数:日本の所得税は7段階の税率区分があり、これは国際的に見ても比較的細かい区分となっています。きめ細かな累進性を持たせることで、所得の違いに応じた公平な税負担を実現しようとしています。
  2. 最高税率の適用所得水準:日本では4,000万円超の所得に45%の最高税率が適用されますが、この水準は欧米諸国と比較すると高めに設定されています。つまり、非常に高所得の人にのみ最高税率が適用される仕組みになっています。
  3. 社会保険料との関係:日本では所得税に加えて社会保険料(健康保険、厚生年金など)の負担が大きく、これらには上限があるため、全体としての累進性は緩やかになる傾向があります。
  4. 控除制度の充実:日本の税制は各種控除制度が充実しており、特に給与所得控除が大きいことが特徴です。これにより、実効税率(実際に支払う税金の割合)は名目税率よりも低くなる傾向があります。
  5. 地方税との関係:日本では国税である所得税に加えて、地方税である住民税があります。住民税は一律10%の比例税率(一部地域では超過課税あり)であるため、所得税と住民税を合わせた全体の累進性は緩やかになります。

国際的な税制改革の動向
近年、多くの国で税制改革が進められており、グローバル化や経済のデジタル化に対応するための見直しが行われています。特に注目されるのは以下の点です。

日本の累進課税制度も、こうした国際的な動向を踏まえながら、今後も改革が続けられていくと考えられます。公平性と経済成長のバランスを取りながら、持続可能な税制を構築することが課題となっています。

 

所得税制度の詳細については財務省の公式サイトで確認できます

累進課税制度の効果的な活用と節税対策

累進課税制度の下では、所得や資産が増えるほど税率が上がるため、合法的な範囲内で税負担を軽減する「節税対策」が重要になります。ここでは、累進課税制度を踏まえた効果的な節税方法について解説します。

 

所得税の節税対策

  1. 所得控除の活用
    • 基礎控除(48万円)
    • 配偶者控除・配偶者特別控除(最大48万円)
    • 扶養控除(扶養家族1人につき38〜63万円)
    • 社会保険料控除(支払った全額)
    • 生命保険料控除(最大12万円)
    • 医療費控除(10万円または総所得金額の5%を超える部分)
    • 寄附金控除(一定の要件を満たす寄附)
  2. 所得分散による節税
    • 家族への資産分散(贈与税の基礎控除内での贈与)
    • 配偶者との共働きによる所得分散
    • 個人事業の場合は家族従業員への給与支払い
  3. 投資による節税
    • NISA(少額投資非課税制度)の活用
    • iDeCo(個人型確定拠出年金)の活用
    • 不動産投資による減価償却費の活用
  4. 損益通算の活用
    • 株式投資の損益通算
    • 不動産所得と他の所得との損益通算

相続税・贈与税の節税対策

  1. 計画的な生前贈与
    • 贈与税の基礎控除(年間110万円)の活用
    • 教育資金の一括贈与非課税制度(1,500万円まで非課税)
    • 結婚・子育て資金の一括贈与非課税制度(1,000万円まで非課税)
    • 住宅取得等資金の贈与税の非課税措置
  2. 相続時精算課税制度の活用
    • 60歳以上の親から18歳以上の子への贈与で選択可能
    • 2,500万円までの特別控除がある
    • 相続時に贈与財産と相続財産を合算して相続税を計算
  3. **不