

比率が「マイナス」表示なのに、それが「黒字で健全」を意味するのが連結実質赤字比率の世界です。
連結実質赤字比率とは、地方公共団体の一般会計だけでなく、公営企業会計(公立病院・水道・下水道など)や国民健康保険特別会計・介護保険特別会計など、すべての会計を対象にした実質的な赤字額が、その自治体の標準財政規模(市税や地方交付税などによる標準的な財政規模)に対してどのくらいの割合になっているかを示す財政指標です。地方公共団体財政健全化法(平成19年法律第94号)に基づき、全国のすべての地方公共団体が毎年度算定・公表することが義務付けられています。
似た指標に「実質赤字比率」がありますが、この2つには明確な違いがあります。実質赤字比率が一般会計と一部の特別会計のみを対象とするのに対し、連結実質赤字比率は公営企業会計も含むすべての会計をひとまとめにして算定します。つまり、一般会計が黒字であっても、公立病院会計や下水道会計が大きな赤字を抱えていれば、連結実質赤字比率はプラスになる可能性があります。実質赤字比率が「表向きの家計収支」だとすれば、連結実質赤字比率は「ローンや隠れた負債も含めた総合収支」に相当するイメージです。
数字の読み方で多くの人が戸惑うポイントがあります。それが「マイナス表示=黒字・健全」という仕組みです。比率がプラス(赤字状態)であれば財政状況が悪化していることを意味し、マイナス(黒字状態)であれば比率は「−」と表示されます。つまり、多くの健全な自治体の公表データに「−(マイナス)」と記載されているのは、赤字がゼロ以下であることを示しており、問題がないことを意味します。これは直感に反するため注意が必要です。
つまり、マイナス=健全が原則です。
総務省|地方公共団体の財政の健全化|健全化判断比率の算定(連結実質赤字比率の定義・4指標の概要を公式に解説)
連結実質赤字比率の計算式は、次のように表されます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 分子 | 連結実質赤字額(全会計の実質赤字額の合計) |
| 分母 | 標準財政規模(市税+地方交付税などの標準的な財政規模) |
| 算式 | 連結実質赤字額 ÷ 標準財政規模 × 100(%) |
「連結実質赤字額」は、一般会計等の特別会計における実質赤字と、公営企業会計における資金不足額を合算して算出します。各会計が黒字の場合はその黒字分が赤字を相殺できるため、全会計を合算した最終的な赤字額がゼロになれば比率はゼロ(黒字なら「−」)となります。黒字の会計が赤字の会計をカバーできるかどうかが鍵です。
「標準財政規模」は、地方公共団体が標準的な状態で自主的に収入できる一般財源の年間総額のことです。市税収入・地方譲与税・地方交付税などが含まれます。たとえば標準財政規模が100億円の市で、全会計の赤字合計が20億円であれば、連結実質赤字比率は20%になります。これは「1年間の収入の5分の1が赤字に相当する」という規模感です。東京ドームの建設費が約350億円とされることを踏まえると、標準財政規模100億円の市で20億円の連結赤字は非常に深刻な水準といえます。
対象となる会計には、一般会計・普通会計の特別会計(国民健康保険・後期高齢者医療・介護保険など)に加え、公営企業会計(地方公営企業法適用・非適用の両方)、そして一部事務組合等が含まれます。これだけ広範囲をカバーするため、財政の「隠れた穴」を発見しやすい指標です。
幅広いカバーが強みです。
小松市|早期健全化基準・財政再生基準の各指標の基準値一覧(計算対象の整理と基準数値を一覧で確認できる)
地方公共団体財政健全化法は、連結実質赤字比率について2段階の警戒基準を定めています。これを正確に理解しておくと、自治体の財政ニュースの読み方が大きく変わります。
| 基準の種類 | 市町村(規模により変動) | 道府県 |
|---|---|---|
| 早期健全化基準 | 16.25〜20% | 8.75% |
| 財政再生基準 | 30% | 15% |
「早期健全化基準」は、財政の悪化が深刻化する前に自主的な改善を促すための基準です。この基準を超えると、当該自治体は「財政健全化団体」となり、財政健全化計画の策定が義務付けられます。計画策定後は総務大臣・都道府県知事への報告義務も生じます。市町村の場合、財政規模が小さいほど基準値が高め(最大20%)に設定されており、大都市ほど厳しい基準(16.25%)が適用される仕組みです。
「財政再生基準」は、いわば「財政的な危機的状態」の宣告基準です。市町村で30%を超えると「財政再生団体」となり、財政再生計画の策定と国の同意が必要になります。地方債の発行も国の管理下に置かれ、自律的な財政運営が著しく制限されます。住民にとっては税金の超過課税や行政サービスの大幅削減が現実の問題となります。厳しいですね。
令和5年度(2023年度)決算においては、連結実質赤字額がある(比率が0%超)の団体は全国でゼロ団体です。これは前年度と同様の結果で、地方財政が全体として健全化方向にある状況を示しています。ただし「ゼロ=ずっと安心」ではありません。令和5年度時点で財政再生基準以上の団体は北海道夕張市の1団体のみですが、人口減少・税収減の自治体は全国に多数あります。
0団体だけど油断は禁物です。
総務省|令和7年版 地方財政白書 第1部9 健全化判断比率等の状況(最新の全国集計データを確認できる)
「自治体の財政指標なんて自分には関係ない」と思っていると、実は家計に直結するリスクを見逃す可能性があります。
財政健全化団体に指定されると、自治体は財政健全化計画を策定し、歳出削減と歳入確保のための措置を取らなければなりません。具体的には、公共施設の統廃合・閉鎖、職員数の削減・給与カット、バスや図書館などの行政サービスの縮小、各種使用料・手数料の引き上げなどが実施されます。これらはすべて住民の日常生活に影響を与えます。
さらに財政再生団体になると、その影響はより直接的です。北海道夕張市では財政破綻後、固定資産税に超過課税(税率1.45%)が適用され、個人住民税にも0.5%の超過課税がかかりました。これは他の市町村と比べて住民の税負担が重くなることを意味します。市の負債総額は財政破綻時に約632億円に達し、当時の市税収入約9億7,000万円の実に65倍もの規模でした。
金融に関心のある方にとって、連結実質赤字比率は地方債投資のリスク判断にも活用できる指標です。地方債は国内の機関投資家だけでなく個人投資家にも開放されており、各自治体が発行する市場公募地方債を購入する機会があります。その際に、対象自治体の連結実質赤字比率・実質公債費比率・将来負担比率などを確認することで、償還能力に関するリスク判断の材料が得られます。
地方債投資では複数指標の確認が条件です。
総務省|財政状況資料集の説明ページ(連結実質赤字比率の赤字・黒字構成分析など、詳細な分析ツールの使い方を解説)
多くの解説記事では「比率がゼロなら問題なし」という結論で終わっていますが、財政分析の実践的な観点では、比率がゼロでも「黒字幅(マイナスの絶対値)が年々縮んでいる」トレンドに着目することが重要です。これは、連結実質赤字比率が公表されているほぼすべての記事で触れられていない盲点です。
たとえば、ある自治体の連結実質収支(黒字額)が前年度から大幅に減少している場合、比率自体はまだゼロ(黒字)であっても、その勢いのまま数年後にはプラス転換(赤字化)するリスクがあります。実際に、総務省の「財政状況資料集」では「連結実質赤字比率に係る赤字・黒字の構成分析」として水道事業・下水道事業・病院事業等の各会計の赤字・黒字を経年で比較する分析ツールが提供されています。この機能を使えば、どの会計が足を引っ張り始めているかを早期に確認できます。
特に注意が必要なのは公立病院会計です。全国的に公立病院の経営は厳しく、人口減少地域では患者数の減少とともに赤字が拡大しやすい傾向があります。公立病院の赤字は直接、連結実質赤字比率の悪化要因になります。また、老朽化した下水道インフラの更新費用が膨らみやすいことも、中小自治体にとってのリスク要因です。
さらに、自治体の「標準財政規模」そのものが人口減少とともに縮小している場合、仮に赤字額が横ばいでも比率(分母が小さくなることで)は悪化します。これは人口減少地域の自治体財政において特に深刻な構造問題です。財政規模の縮小が比率悪化を自動的に引き起こすわけですね。
黒字幅の縮小こそ見るべき数字です。
総務省|地方公共団体の財政の健全化(各年度の健全化判断比率・資金不足比率等のデータが年度別に公開されている)