

専門家に依頼して15万円払っても、その後に毎月2万円以上の監督人報酬が発生し続けます。
任意後見契約とは、将来に認知症や精神障害などで自分の判断能力が低下したとき、あらかじめ信頼できる人に財産管理や生活支援を代わりにやってもらうよう契約しておく制度です。「誰に何を任せるか」を元気なうちに自分で決められる点が最大の特徴といえます。
この契約には、法律上の義務として「公正証書」での作成が求められます。口頭や私文書(個人で作った書面)では一切効力が生じません。つまり公正証書が条件です。なぜ公正証書でなければならないかというと、任意後見契約に関する法律(任意後見契約に関する法律第3条)で明文化されているためで、公証人という国家資格者が作成に関与することで、契約内容の確実性・法的有効性が保証されます。
公正証書が完成すると、公証人の嘱託により東京法務局へ登記が行われます。これにより将来の家庭裁判所での手続きや、金融機関・介護施設との交渉でも「正式な任意後見人」と認めてもらいやすくなります。登記されていることは誰でも証明書を取得して確認できるため、第三者への信頼性も高いです。
財産管理を誰かに任せるのは、「認知症になってから」では手遅れになるケースがあります。判断能力が衰えた後では、本人の意思で任意後見受任者を選ぶことができなくなるためです。早めの準備が原則です。
以下のリンクでは、任意後見制度全体の仕組みや監督人選任の流れが公的機関の情報としてまとめられています。
厚生労働省「成年後見はやわかり」による任意後見制度の解説(手続きの流れ・費用一覧あり)。
https://guardianship.mhlw.go.jp/personal/type/optional_guardianship/
公正証書の作成にかかる費用は、公証役場に支払う公的な実費と、専門家に依頼した場合の報酬の2種類に分けて考える必要があります。まずは公証役場への支払い分から確認しましょう。
| 費用項目 | 金額の目安 |
|---|---|
| 公正証書作成の基本手数料 | 11,000円(5枚超は1枚ごとに250円加算) |
| 登記嘱託手数料 | 1,400円 |
| 法務局へ納付する収入印紙代 | 2,600円 |
| 正本・謄本の証書代 | 1枚につき250円 |
| 書留郵送料 | 420円程度(重量により変動) |
| 合計(自分で手続きの場合) | 約2〜3万円 |
これが「自分で公証役場に出向いて手続きをする」場合の総額です。合計2〜3万円程度と考えれば問題ありません。
一方、弁護士や司法書士などの専門家に書類作成から公証役場との調整まで依頼した場合、専門家への報酬として別途5〜15万円程度が相場です。弁護士は司法書士よりも費用が高くなる傾向があり、20万円前後に達するケースも少なくありません。行政書士に依頼する場合は3〜10万円程度が目安とされています。
注意点として、見守り契約や財産管理委任契約を任意後見契約とセットで結ぶ場合があります。この場合、公正証書作成の基本手数料が「1契約ごとに11,000円」加算されます。たとえば任意後見・見守り・財産管理委任の3契約を同時に結ぶと、基本手数料だけで33,000円になります。セット契約は便利ですが、費用は確実に増えることは覚えておきましょう。
さらに、体が不自由で公証役場に出向けない場合は、公証人に病院や自宅への出張を依頼できます。この場合は次の追加費用が発生します。
- 🚗 日当:1日2万円(4時間以内なら1万円)
- 🚌 交通費:実費
- 🏥 病床執務加算:基本手数料の半額(約5,500円)
公証役場に足を運ぶのが難しい事情がある場合は、出張費用込みで計算しておくと安心です。
日本公証人連合会による手数料の公式説明ページ(任意後見契約の費用に関するQ&A)。
https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow04/4-q22
公正証書の作成は「入口の費用」にすぎません。本当に注意が必要なのは、任意後見が始まった後に毎月継続的に発生するコストです。
任意後見を実際に動かすには、家庭裁判所に「任意後見監督人の選任申立て」をする必要があります。任意後見監督人とは、後見人が不正なく財産管理できているかを監視する役割を担う人で、弁護士や司法書士などの専門家が選ばれるのが一般的です。親族はほぼ選任されません。
申立て時の手続き費用は下記のとおりです。
| 費用項目 | 金額の目安 |
|---|---|
| 申立手数料(収入印紙) | 800円 |
| 登記手数料(収入印紙) | 1,400円 |
| 必要書類(診断書・戸籍謄本など) | 3,000〜10,000円 |
| 専門家に代行依頼した場合 | 10〜15万円程度 |
| 鑑定が必要な場合(別途) | 5〜10万円程度 |
そして任意後見が始まると、任意後見監督人への報酬が毎月発生します。これが長期的に見ると大きな出費になります。
| 管理財産額 | 監督人報酬の目安(月額) | 年間換算 |
|---|---|---|
| 5,000万円以下 | 1〜2万円 | 12〜24万円 |
| 5,000万円超 | 2万5千〜3万円 | 30〜36万円 |
たとえば、管理財産が3,000万円の方が10年間任意後見を利用した場合、監督人報酬だけで120〜240万円になります。これは東京ディズニーランドの年パスポートを約40〜80枚買えるほどの金額です。一度始まると途中でやめることが非常に難しいため、この費用をあらかじめ把握しておくことが重要です。
加えて、任意後見人が子や親族であれば無報酬のことも多いですが、専門家(弁護士・司法書士)に依頼する場合は別途月額3〜5万円程度の報酬が必要になります。監督人報酬と後見人報酬を合わせると、毎月4〜8万円、年間では48〜96万円になる場合も珍しくありません。
費用の全体像を知ったうえで制度を選ぶのが賢明です。
任意後見監督人の報酬相場と支払いタイミングについて詳しく解説したページ。
https://legalestate-kazokushintaku.com/guardianship/supervisor-remuneration/
実際に任意後見契約の公正証書を作成するには、いくつかのステップを踏む必要があります。流れを知っておけば、初めてでも落ち着いて手続きできます。
【ステップ1】任意後見受任者(後見人候補)を決める
最初にすべきことは、誰に後見人を任せるかを決めることです。子、親族、友人、専門家(弁護士・司法書士・行政書士)など、法律上の欠格事由がなければ誰でもなれます。選ぶ際は「信頼できるか」「長期間対応できるか」「財産管理の知識があるか」を軸に考えましょう。
【ステップ2】契約内容を詰める
何を任せるか(財産管理の範囲・医療契約の代理・施設入居の手続きなど)を双方で確認します。このとき、任意後見の報酬額や支払い方法も決めておかないと後でトラブルになりやすいです。必ず契約書に明記します。
【ステップ3】公証役場に事前相談・予約をする
公証役場には管轄がないため、どこの公証役場でも利用できます。まず電話やメールで「任意後見契約公正証書を作りたい」と伝えて予約を入れ、契約書の案文を事前に送って確認してもらうことが一般的です。
【ステップ4】必要書類を揃える
| 提出者 | 必要書類 |
|---|---|
| 本人(委任者) | 印鑑証明書(発行後3ヶ月以内)、実印、住民票 |
| 受任者(後見人候補) | 印鑑証明書(発行後3ヶ月以内)、実印、住民票 |
| その他 | 本人の戸籍謄本(法人の場合は登記事項証明書) |
【ステップ5】公証役場で署名・押印して完成
本人と受任者が公証役場に出向き、公証人の面前で契約内容を確認したうえで署名・押印します。これで公正証書が完成し、自動的に法務局への登記嘱託が行われます。
全ステップを通じて、早めに動くことが大切です。判断能力が少しでも低下した後では、公証人から「本人の意思能力に問題がある」と判断され、契約を結べないケースも出てきます。健康なうちに手続きを済ませておくのが鉄則です。
「費用を抑える」という観点で任意後見契約を考えると、実は多くの人が見落としているポイントがあります。それは、監督人報酬が発生しないフェーズを最大限活用するという視点です。
任意後見監督人への報酬は、監督人が選任されて初めて発生します。つまり本人の判断能力がある間は、一切費用はかかりません。ここでできることが「財産管理委任契約(任意代理契約)」の活用です。
財産管理委任契約とは、判断能力があるうちから任意後見受任者に財産管理を任せられる契約です。任意後見契約とセットで結ぶことで、認知症の前後を通じてシームレスに財産管理が続けられます。この期間は監督人がいないため、監督人報酬は発生しません。つまり「任意後見が発動するまでの期間を長くキープする」ことで、長期的な費用を抑えられます。
また、家族信託(民事信託)と任意後見の費用比較も知っておくと選択肢が広がります。家族信託は初期費用が高め(設定コスト50〜100万円程度)ですが、毎月の監督人報酬がかからないため、長期間の利用では総コストが安くなることがあります。一方で家族信託は不動産や株式など複雑な財産管理に向いており、任意後見は医療・介護など生活面の支援を含む幅広い代理権が認められます。どちらかを選ぶのではなく、両方を組み合わせる方法も実務上は存在します。
さらに、任意後見監督人の報酬は「家庭裁判所が決定する」という点も重要です。報酬は本人の財産から支払われます。財産が少ない場合は監督人への報酬も抑えられますが、財産が多ければそれだけ報酬も高くなる仕組みになっています。財産の整理や適切な管理をしておくことが、間接的に監督人報酬の圧縮につながります。
専門家に任意後見全体の設計を相談するときは、「費用の総額がどうなるか」「家族信託との組み合わせはどうか」を最初に確認するとよいでしょう。初回相談だけを確認するという行動が、長期的なコスト最適化への第一歩になります。
任意後見制度を調べると、費用以外にもいくつか引っかかりやすい疑問が出てきます。ここでは実務でよくある疑問を整理します。
❓ 任意後見契約を途中で解除できる?
できます。ただし、任意後見監督人が選任される前と後では条件が変わります。選任前であれば、当事者双方の同意または一方の意思のみでも解除でき、いずれの場合も公証役場での手続きが必要です(費用5,500円)。選任後は、家庭裁判所が認める「正当な理由」が必要で、後見人の健康状態悪化・遠方への転居などが認められるケースとして挙げられます。
❓ 任意後見人に家族を選ぶと費用はゼロになる?
家族が後見人になっても「任意後見監督人の報酬」は別途発生します。監督人は家庭裁判所が選任する第三者(専門家)であり、後見人が誰であっても月1〜3万円の報酬支払いは避けられません。費用がゼロになるわけではないです。
❓ 任意後見契約なのに法定後見に切り替わることがある?
あります。任意後見監督人が選任された後に「後見開始の審判」がされると、任意後見契約は終了します。ただし本人の利益のために特に必要な場合に限り、法定後見制度の利用も認められています。
❓ 認知症が軽い場合でも任意後見は使える?
任意後見は「判断能力が不十分になった段階」で発動する制度です。軽度の認知症でも、家庭裁判所が「一人で決めることに不安がある状態」と認めれば監督人を選任できます。ただし、公正証書を結ぶ時点では十分な判断能力が必要です。契約時点の能力確認は公証人が行います。
❓ 任意後見契約の内容は後から変更できる?
変更できます。ただし、内容の変更にも公正証書での手続きが必要で、変更のための費用が改めて発生します。一方的な書き換えや口頭での変更は無効です。内容を変更するときは改めて公証役場での手続きが必要と覚えておきましょう。
任意後見に関するよくある疑問への公的機関のQ&A(申立て・監督人・解除など)。
https://guardianship.mhlw.go.jp/personal/type/optional_guardianship/