

元入金がマイナスでも、銀行は融資を断れる権限を持っています。
元入金(もといれきん)とは、個人事業主が事業を始める際に投入した元手となるお金・資産を表す勘定科目です。法人でいえば「資本金」にあたりますが、性質は大きく異なります。法人の資本金は増資・減資という法的手続きなしには変わりませんが、元入金は毎年の利益・損失や、事業用資金と個人資金のやり取りによって毎年変動します。
元入金は貸借対照表の「純資産の部」に記載されます。つまり、事業が保有するすべての資産から負債を差し引いた「正味の財産」がいくらあるか、を示す数値です。
元入金・事業主貸・事業主借の三者は密接につながっています。わかりやすくイメージするなら「バスタブの水位」です。
排水が給水を上回ると水位は下がります。これが繰り返されてバスタブが空になった状態が、元入金のマイナスです。
元入金の計算式は以下のとおりです。
| 計算式 | 説明 |
|---|---|
| 翌期首の元入金 | 前期末の元入金 + 事業主借 − 事業主貸 + 当期純利益 |
具体的な数字で確認しましょう。前期末の元入金が100万円、当期利益300万円、事業主借50万円、事業主貸400万円だった場合、翌期首の元入金は「100+300+50−400=50万円」となります。これが元入金500万円の状態で事業主貸が2,000万円(純額)あれば、マイナスになるのです。
元入金が基本です。まずこの計算式を押さえておけば、後の話がスムーズに理解できます。
参考リンク:元入金の計算式・仕訳方法の詳細は国税庁の青色申告決算書の書き方に準拠しています。
元入金がマイナスになる原因は、大きく2つです。
原因①:事業の赤字(損失の累積)
売上から経費を引いた利益がマイナス、つまり赤字の状態が続くと、元入金は徐々に削られていきます。たとえば「開業資金100万円・借入金300万円」でスタートした事業が初年度に200万円の赤字を出した場合、期末の資産200万円・負債300万円となり、元入金はマイナス100万円になります。
これは痛いですね。開業直後に多額の初期投資をした事業主には、特によくあるパターンです。
原因②:事業主貸の積み上がり(生活費の過剰な持ち出し)
利益が出ていても、生活費として事業用口座から引き出す額がその利益を超えてしまう場合です。たとえば年間利益が300万円でも、生活費として400万円を引き出していれば、超過した100万円分が元入金から削られます。月20〜40万円の生活費引き出しで年間240〜480万円の事業主貸が積み上がるため、稼ぎと引き出しのバランスを意識していない事業主ほど陥りやすいパターンです。
個人事業主には法人の役員報酬のような「毎月いくら受け取る」という概念がありません。そのため生活費の持ち出しに無計画になりがちで、気づけば元入金がマイナスになっていた、というケースが珍しくないのです。
原因が赤字か事業主貸かで、対処法が変わります。この2つを区別して把握することが条件です。
参考リンク:元入金のマイナスになる原因と貸借対照表の詳細解説
マネーフォワードクラウド「元入金のマイナスとは?個人事業主が知っておきたい原因・対処法」
「元入金がマイナスでも帳簿が合っていれば税務上は問題ない」という情報は正しいです。しかし、この言葉だけを信じて放置すると、融資審査で大きな代償を払うことになります。
金融機関は融資審査において、青色申告決算書の貸借対照表を必ず確認します。その際、元入金がマイナスの状態は「資産より負債が多い=債務超過」と判断されます。
| 状態 | 金融機関の評価 | 融資への影響 |
|---|---|---|
| 元入金がプラス | 自己資本が確保されている | 融資審査で有利 |
| 元入金がゼロ付近 | 経営管理が課題 | 審査が慎重になる |
| 元入金がマイナス | 実質的な債務超過 | 融資が極めて困難 |
注目すべきは、「毎年黒字でも融資が通らない」ケースが現実に存在する点です。損益計算書で利益が出ていても、貸借対照表の元入金がマイナスであれば、金融機関の担当者は融資姿勢を一気に消極的にします。単年度の利益以上に「純資産がプラスか、債務超過か」を重視しているからです。
また、法人化を検討している場合にも問題が波及します。個人事業の財産を法人に引き継ぐ際、元入金がマイナス(債務超過)だと、新設法人が設立直後から債務超過状態でスタートします。スタートラインからハンデを背負う最悪のシナリオです。
さらに、元入金のマイナスが事業主貸・事業主借の記帳ミスや私的支出の経費計上から来ている場合は、税務調査で指摘されるリスクも高まります。国税庁の令和4年事務年度のデータによると、個人事業主を対象とした実地調査は約4万6,000件実施され、そのうち約83%にあたる約3万8,000件で申告漏れなどの違反が発見されています。会計が不明瞭な状態は、税務調査の標的になりやすいのです。
融資審査への影響に注意すれば大丈夫です。税務上OKという情報だけで安心するのが一番危険です。
元入金がマイナスになっている場合、最もシンプルな解消手段は「事業主借」を使って個人資金を事業に投入することです。
解消の仕組み
個人の預金から事業用口座に資金を補充すると「事業主借」として帳簿に記録されます。この事業主借は決算時に元入金と相殺され、元入金を増加させる働きをします。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 普通預金 | 500,000円 | 事業主借 | 500,000円 | 個人資金を事業口座へ補充 |
決算時には以下の順で繰越処理を行います。
これで翌期首の元入金が確定します。clould会計ソフトを使っている場合、この繰越処理は自動で行われるため手動操作は不要です。
元入金がマイナスのまま確定申告する場合、貸借対照表の元入金欄には「△1,000,000」のように△記号を付けて記載します。記載自体を間違える必要はありません。ただし、帳簿上の数字に整合性があること、事業主貸・事業主借の記帳ミスがないことを必ず確認してから申告しましょう。
青色申告を利用していれば、赤字が原因の場合に「純損失の繰越控除」という制度も活用できます。赤字が出た年の損失を翌年以降(最大3年間)に繰り越し、黒字と相殺することで将来の税負担を減らせます。これは元入金そのものを即時回復させるわけではありませんが、事業立て直し期の税負担軽減として有効な補助策です。
参考リンク:元入金のマイナス解消の仕訳方法と具体的な手順
freee「元入金とは?計算方法から仕訳、マイナス時の対策までわかりやすく解説」
元入金のマイナスを解消することも大切ですが、そもそも陥らないための予防策がより重要です。具体的な対策を3つ紹介します。
予防策① 事業用口座とプライベート口座を完全に分ける
これが最も基本で、最も効果の高い対策です。事業専用の銀行口座を新たに開設し、売上の入金と経費の支払いをすべてその口座で管理します。生活費はプライベート口座から支払い、事業用口座には一切混ぜないことがルールです。
たとえば月30万円を生活費として毎月25日に事業口座からプライベート口座へ定額移動するだけで、事業主貸は「年間360万円で固定」されます。これだけで帳簿が劇的にシンプルになり、元入金がどう動くかを見通しやすくなります。
なお、小規模企業共済の掛金や生命保険料を事業用口座から引き落としにしている方は要注意です。これらは経費ではないため、事業用口座から支払うと事業主貸として計上されてしまいます。引き落とし先をプライベート口座に変更するだけで、たとえば月7万円の共済掛金+月2万円の保険料なら年間108万円の事業主貸削減につながります。これは使えそうです。
予防策② 毎月の生活費引き出しに上限ルールを設ける
個人事業主には決まった給与がないため、無意識に利益を超えた額を引き出してしまいがちです。法人の役員報酬と同様の発想で、「毎月〇〇万円まで」という上限ルールを自分で設けましょう。年間の利益見込みを12で割り、そこから事業の内部留保として残したい金額を差し引いた額を「生活費の上限」として設定するのが一つの考え方です。
予防策③ 月に一度、貸借対照表の元入金欄を確認する
確定申告の時期に初めて元入金がマイナスになっていることに気づくのでは遅すぎます。クラウド会計ソフトを使えば、いつでもリアルタイムの貸借対照表が確認できます。月に一度、元入金の残高が危険なレベルまで下がっていないかチェックする習慣をつけましょう。早期発見できれば、生活費の引き出しを一時的に減らす・個人資金を追加投入するなど、軽めの対策で済みます。
元入金の動きを定期的に確認することが原則です。問題が小さいうちに気づくことで、対処のコストも最小限に抑えられます。
参考リンク:事業主貸の管理と元入金への影響、融資審査の観点からの詳細解説
ふりてん「事業主貸を減らすには?融資審査・税務調査で困らない3つの対策」