勤労学生控除で税金負担を減らす方法と条件

勤労学生控除で税金負担を減らす方法と条件

勤労学生控除とは

勤労学生控除の基本情報
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控除額

所得税:27万円、住民税:26万円

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対象者

勤労所得がある特定の学校に通う学生

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所得条件

合計所得金額75万円以下(給与収入130万円以下)

勤労学生控除とは、働きながら学校に通う学生の税負担を軽減するための所得控除制度です。この制度は、学生が学費や生活費を稼ぐために働いている場合に、その経済的負担を考慮して設けられています。

 

勤労学生控除を受けることができると、所得税の計算では27万円、住民税の計算では26万円が所得金額から差し引かれます。これにより、学生の税負担が大幅に軽減され、手取り収入を増やすことができます。

 

この控除は、アルバイトやパートタイムの仕事をしている学生だけでなく、インターンシップや研究助成金を受けている大学院生なども対象となる可能性があります。ただし、後述する条件をすべて満たす必要があります。

 

勤労学生控除は単なる税金の控除制度ではなく、教育を受けながら自立を目指す若者を社会全体で支援するための重要な仕組みとも言えるでしょう。

 

勤労学生控除の適用条件と対象学校

勤労学生控除を受けるためには、その年の12月31日時点で以下の3つの条件をすべて満たしている必要があります。

 

  1. 給与所得などの勤労による所得があること
    • アルバイトやパートタイムの給与所得が該当します
    • 株の配当所得、家賃収入、ギャンブルの収入などは勤労所得に含まれません
  2. 合計所得金額が75万円以下で、かつ勤労による所得以外の所得が10万円以下であること
    • 給与収入から給与所得控除(55万円)を引いた金額が所得金額です
    • 給与収入で言えば130万円以下が目安となります
  3. 特定の学校の学生・生徒であること

勤労学生控除の対象となる「特定の学校」には以下が含まれます。

  • 学校教育法に規定する小学校、中学校、高等学校、大学、高等専門学校など
  • 国、地方公共団体、学校法人などが設置した専修学校や各種学校(一定の課程を履修させるもの)
  • 職業能力開発促進法による認定職業訓練を行う職業訓練法人(一定の課程を履修させるもの)

通信制の学校や夜間学校に通っている場合でも、上記の「特定の学校」に該当すれば勤労学生控除の対象となります。ただし、予備校や資格取得のための民間スクールは一般的に対象外となるケースが多いため注意が必要です。

 

勤労学生控除のメリットと税金計算例

勤労学生控除を受けることで得られる最大のメリットは、所得税と住民税の負担が軽減されることです。具体的にどのような効果があるのか、計算例を見てみましょう。

 

所得税の非課税枠の拡大
通常、給与所得者の場合、基礎控除(48万円)と給与所得控除(55万円)により、年収103万円までは所得税がかかりません。しかし、勤労学生控除(27万円)が適用されると、この非課税枠が130万円まで拡大します。

 

住民税の非課税枠の拡大
住民税については、基礎控除(43万円)と給与所得控除(55万円)により、年収98万円までは住民税がかかりません。勤労学生控除(26万円)が適用されると、この非課税枠が124万円まで拡大します。

 

具体的な計算例
年収130万円の学生の場合。
【勤労学生控除適用時】

  • 所得税:130万円-(55万円+48万円+27万円)= 0円 → 税額0円
  • 住民税:130万円-(55万円+43万円+26万円)= 6万円 → 税額6,000円(税率10%)

【勤労学生控除非適用時】

  • 所得税:130万円-(55万円+48万円)= 27万円 → 税額13,500円(税率5%)
  • 住民税:130万円-(55万円+43万円)= 32万円 → 税額32,000円(税率10%)

この例では、勤労学生控除を適用することで、年間約39,500円の税負担が軽減されます。これは学生にとって大きな金額であり、教科書代や生活費などに充てることができます。

 

勤労学生控除の申告方法と必要書類

勤労学生控除を受けるためには、適切な申告手続きが必要です。申告方法は主に以下の2つがあります。

 

1. 年末調整での申告
アルバイト先が1カ所のみで、他に収入がない場合は、年末調整で手続きするのが一般的です。

 

必要な手続き。

  • アルバイト先から配布される「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に必要事項を記入
  • 「勤労学生」の欄にチェックを入れる
  • 学校名、入学年月日、所得の種類と見積額を記入(例:○○大学、○○年4月1日入学、給与所得73万円)
  • 学生証のコピーや在学証明書の提出(求められた場合)

記入例。

勤労学生 ☑

学校名:○○大学
入学年月日:2023年4月1日
令和7年中の所得の種類とその見積額:給与所得73万円

2. 確定申告での申告
複数のアルバイト先がある場合や、年末調整を受けられなかった場合は、確定申告で手続きします。

 

必要な手続き。

  • 確定申告書Aまたは確定申告書Bの「所得から差し引かれる金額」の欄の「勤労学生」にチェック
  • 「勤労学生」の控除額欄に「27万円」と記入
  • 学生証のコピーや在学証明書を添付

申告期限は、その年の翌年2月16日から3月15日までです。期限を過ぎると控除を受けられなくなる可能性があるため、早めの準備が重要です。

 

勤労学生控除と扶養控除の関係

勤労学生控除と扶養控除の関係は、学生本人とその親の両方に影響する重要なポイントです。

 

扶養控除の条件
親の扶養に入るための条件は、年間の所得が48万円以下(給与収入では103万円以下)であることです。この金額を超えると、親の税金計算上で扶養控除(38万円)を受けられなくなります。

 

勤労学生控除と扶養控除の両立
勤労学生控除を受けることと、親の扶養に入ることは別の制度です。つまり。

  • 給与収入が103万円以下であれば、勤労学生控除を受けつつ、親の扶養にも入ることができます
  • 給与収入が103万円を超え130万円以下の場合、勤労学生控除は受けられますが、親の扶養からは外れます

どちらが得か?
年収が103万円を超える場合、「親の扶養に入る」か「勤労学生控除を受ける」かの選択が必要になります。どちらが得かは、以下のポイントを考慮して判断しましょう。

  • 親の所得税率が高い場合は、扶養に入る方が家計全体では得になることも
  • 学生本人の独立性を重視するなら、勤労学生控除を受ける方が良い
  • 社会保険の扶養(健康保険・年金)は税金の扶養とは別の基準(年収130万円未満)なので、勤労学生控除を受けても社会保険の扶養には入れる可能性がある

家族全体の税負担を考えて最適な選択をすることが重要です。

 

勤労学生控除と学振研究員の節税戦略

大学院生の中でも、特に日本学術振興会(学振)の特別研究員(DC)に採用された博士課程の学生にとって、勤労学生控除は重要な節税戦略となります。

 

学振研究員と勤労学生控除
学振DC研究員は、研究奨励金として月額20万円程度(年間約240万円)を受給します。この奨励金は「雑所得」として扱われるため、通常は勤労学生控除の対象外となります。

 

しかし、1年目の学振研究員に限り、以下の方法で勤労学生控除を活用できる可能性があります。

  1. 博士課程入学年度の4月から学振採用前までの期間にアルバイト等の給与所得を得る
  2. その給与所得が勤労学生控除の条件(合計所得75万円以下)を満たしていれば、その年は勤労学生控除を申請できる
  3. 学振採用後の研究奨励金(雑所得)とアルバイト収入(給与所得)を合算した所得に対して税金が計算される

具体的な節税効果
例えば、4月から9月までアルバイトで月10万円(半年で60万円)の給与収入があり、10月から学振研究員として採用された場合。

  • 給与所得:60万円 - 給与所得控除55万円 = 5万円
  • 雑所得(学振):60万円(10〜3月の6ヶ月分)
  • 合計所得:65万円

この場合、勤労学生控除の条件(給与所得があり、合計所得75万円以下)を満たすため、27万円の控除を受けられます。結果として課税所得が大幅に減少し、所得税・住民税の負担が軽減されます。

 

ただし、この戦略は学振1年目のみに適用可能で、2年目以降は給与所得がなければ勤労学生控除を受けられません。また、学振の採用時期や個人の収入状況によって適用可能性が変わるため、事前に税理士に相談することをおすすめします。

 

学振研究員の勤労学生控除活用法についての詳細はこちら

勤労学生控除の注意点と活用のポイント

勤労学生控除を上手に活用するためには、いくつかの注意点を押さえておく必要があります。

 

1. 適用条件の確認

  • 12月31日時点での状況が判断基準となります
  • 年の途中で卒業・入学した場合でも、12月31日時点で学生であれば対象となります
  • 休学中でも学籍があれば対象となりますが、退学した場合は対象外です

2. 所得金額の管理

  • 給与収入130万円(所得金額75万円)を超えないよう注意しましょう
  • 複数のアルバイト先がある場合は、収入の合計額に注意が必要です
  • ボーナスや臨時収入も含めた年間の収入を把握しておきましょう

3. 確定申告の必要性

  • 年末調整で勤労学生控除の申告をしなかった場合は、確定申告で申請できます
  • 複数の収入源がある場合は、確定申告が必要です
  • 確定申告の期限(翌年3月15日)を忘れないようにしましょう

4. 過去の年分の適用

  • 過去5年以内であれば、勤労学生控除を受け忘れていた年分について還付申告が可能です
  • 過去に勤労学生だった期間の税金が還付される可能性があります

5. 社会保険との関係

  • 税金の控除と社会保険の扶養は別の制度です
  • 親の健康保険の扶養に入るためには、年収130万円未満(または月収108,334円未満)という条件があります
  • 国民年金の学生納付特例制度を利用している場合は、勤労学生控除とは別に手続きが必要です

活用のポイント

  • 年収が103万円を超え130万円以下の場合、勤労学生控除を受けることで税負担を軽減できます
  • 確定申告で還付金を受け取る場合は、マイナンバーカードを利用したe-Taxでの申告がスムーズです
  • 在学証明書は発行に時間がかかることがあるため、余裕をもって準備しましょう
  • 不明点があれば、税務署の無料相談や大学の学生相談窓口を活用しましょう

勤労学生控除は、学生が自立して学びながら働くことを支援する重要な制度です。条件を正しく理解し、適切に申告することで、税負担を軽減し、より充実した学生生活を送るための一助となるでしょう。

 

勤労学生控除と他の税制優遇制度の組み合わせ

勤労学生控除をさらに効果的に活用するには、他の税制優遇制度と組み合わせることが重要です。学生が利用できる主な税制優遇制度と、その組み合わせ方について解説します。

 

1. 基礎控除との組み合わせ
すべての納税者が受けられる基礎控除(48万円)と勤労学生控除(27万円)を組み合わせることで、効果的に課税所得を減らすことができます。給与所得控除(55万円)と合わせると、130万円まで所得税がかからなくなります。

 

2. 医療費控除との組み合わせ
学生が年間10万円以上の医療費を支払った場合、医療費控除を受けることができます。勤労学生控除と医療費控除を併用することで、さらに税負担を軽減できます。

 

例えば。

  • 給与収入:130万円
  • 医療費支出:15万円
  • 控除額:基礎控除(48万円)+ 給与所得控除(55万円)+ 勤労学生控除(27万円)+ 医療費控除(5万円)
  • 結果:課税所得が実質的にゼロになる可能性があります

3. ふるさと納税との組み合わせ
所得税が発生する場合、ふるさと納税を活用することで、税負担を軽減しながら返礼品も受け取れます。勤労学生控除を受けてもなお所得税が発生する場合は、ふるさと納税の活用を検討しましょう。

 

4. 小規模企業共済との組み合わせ
フリーランスとして働く学生の場合、小規模企業共済に加入することで掛金全額が所得控除の対象となります。勤労学生控除と併用することで、さらに税負担を軽減できます。

 

5. iDeCo(個人型確定拠出年金)との組み合わせ
20歳以上の学生で一定の所得がある場合、iDeCoに加入することで掛金全額が所得控除となります。勤労学生控除と組み合わせることで、将来の資産形成をしながら税負担も軽減できます。

 

組み合わせの注意点

  • 各控除には適用条件があるため、自分が条件を満たしているか確認が必要です
  • 複数の控除を組み合わせる場合は、確定申告が必要になることが多いです
  • 控除の組み合わせが複雑な場合は、税理士に相談することをおすすめします

勤労学生控除を中心に、自分の状況に合った税制優遇制度を組み合わせることで、学生時代の税負担を最小限に抑えつつ、将来に向けた資産形成も可能になります。税制は毎年変更される可能性があるため、最新情報をチェックすることも大切です。

 

国税庁:所得控除の種類と概要