ハイブリッドミスマッチ オーストラリア規定で損金が消える仕組み

ハイブリッドミスマッチ オーストラリア規定で損金が消える仕組み

ハイブリッドミスマッチ オーストラリアの規定と日本企業が直面するリスク

グループ会社間の利息支払いが、実は豪州側で損金に算入できないと気づかず追徴課税を受けた日本企業が複数報告されています。


この記事で分かる3つのポイント
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ハイブリッドミスマッチとは何か

国によって税務上の取り扱いが異なる金融商品や事業体を使い、二重に損金算入したり、どちらの国でも課税されない状態を作る仕組みのこと。OECDのBEPS行動計画2がその排除を勧告しました。

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オーストラリア規定はOECDより厳格

2019年1月1日から施行されたオーストラリアのハイブリッドミスマッチ規定は、OECD勧告よりも範囲が広く、自社が直接関与していなくてもグループ全体の取り決めで損金が否認される可能性があります。

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リスク自己評価と文書化が必須

オーストラリア税務当局(ATO)はリスクを7段階で色分け評価します。自社の取引がどのゾーンに該当するかを把握し、十分な調査記録を残すことが、罰則軽減の鍵を握ります。


ハイブリッドミスマッチとはどういう仕組みか:基本的な概念とBEPS行動計画2の背景

国際的なビジネスを展開する企業が複数の国で事業を行う場合、各国の税法が必ずしも同じルールで金融商品や事業体を分類するわけではありません。ある国では「負債」として扱われる金融商品が、別の国では「資本」として分類されることがある、という現実がそこにあります。この税務上の取り扱いの不一致が「ハイブリッド・ミスマッチ」です。


具体的には、2種類の効果に大別されます。1つ目はD/NI(Deduction / Non-Inclusion)効果で、支払国では損金算入(Deduction)が認められる一方、受領国では益金算入(Inclusion)が生じない状態を指します。2つ目はD/D(Double Deduction)効果で、単一の支払いが複数の国で二重に損金算入されるケースです。


つまり「損金」です。これを利用することで、法人税の課税ベースを人為的に圧縮できます。


2015年10月、OECDは400ページを超える「BEPS(税源浸食と利益移転)行動計画2」の最終報告書を公表し、こうしたミスマッチの効果を無効化するための国内法措置を各国に勧告しました。日本では平成27年度税制改正で外国子会社配当益金不算入制度の見直しが行われており、子会社の所在地国で損金算入される配当については、日本の親会社で益金不算入を適用しないこととなりました(法法23の2)。


ここで重要なのが、豪州の対応です。


豪州(オーストラリア)は世界でもいち早くBEPS行動計画2への対応を表明した国の一つで、2018年10月24日にハイブリッドミスマッチ規定が法制化され、2019年1月1日以降に開始する事業年度から原則として適用されています。


日本企業のオーストラリア子会社を持つ企業はこの時点で、すでにこのルールの射程に入っています。


国税庁(NTA)の論文「ハイブリッド・ミスマッチに対する各国の対応及び我が国における示唆」では、各国の対応状況と実務上の問題点が詳細に解説されています。


国税庁・論叢87号「ハイブリッド・ミスマッチに対する各国の対応及び我が国における示唆」(D/NI効果・D/D効果の類型と各国対応を詳解)


ハイブリッドミスマッチ オーストラリアの規定がOECD勧告より厳格な理由

オーストラリアのハイブリッドミスマッチ規定は、OECDが推奨するモデルルールよりも複雑かつ広範な内容になっています。これは金融に携わる多くの専門家にとっても、見落としやすいポイントです。


規定の対象となるミスマッチ・アレンジメントは6つのタイプに及びます。


タイプ 内容(根拠条文)
① ハイブリッド金融商品 Subdivision 832-C
② ハイブリッド支払者が行う無視される支払 Subdivision 832-D
③ リバースハイブリッドに対する支払 Subdivision 832-E
④ 支店ハイブリッド Subdivision 832-F
⑤ 双方居住者が行う損金算入可能な支払 Subdivision 832-G
⑥ 輸入されたミスマッチ・アレンジメント Subdivision 832-H


OECDルールとの大きな相違点は、損金否認の範囲です。OECDの一次対応ルールでは特定の支払類型に限定されるケースが多いのに対し、オーストラリアの規定では利息だけでなくロイヤリティ、管理費、棚卸資産のコストなど広範な支払項目も対象に含まれます。ほとんどのケースで損金否認によりミスマッチ効果は無効化されます。


さらに重要な点があります。


たとえ豪州法人が直接ハイブリッドアレンジメントの当事者でなくても、サプライチェーンの川上に「アップストリーム・ミスマッチ」が存在する場合、豪州での損金算入が否認される規定(Subdivision 832-H:輸入されたミスマッチ規定)が導入されています。つまり、豪州子会社が関与していないグループ会社間の取引でも、豪州での損金が飛ぶ可能性があるのです。これは大きなリスクです。


加えて、「Financing Integrity規定(Subdivision 832-J)」が存在し、関連者が行う金融取引において支払いの損金算入と受領側での10%以下の課税が主目的と認定される場合、利息の損金算入が否認されます。


厳しいところですね。


KPMG税理士法人が公表したオーストラリア税務レポート(2019年11月号)では、豪州規定がOECD勧告より厳格である点と、日系企業が留意すべき具体的なアレンジメントが解説されています。


KPMG税理士法人「KPMG Insight Vol.39」(オーストラリアのハイブリッドミスマッチ規定の詳細と日系企業への示唆を掲載)


ハイブリッドミスマッチ オーストラリアで実際に問題になった例:MRPS(償還優先株式)のD/NI効果

オーストラリアのハイブリッドミスマッチ事例として最もよく知られているのが、MRPS(Mandatorily Redeemable Preference Shares:償還優先株式)を使ったスキームです。


この仕組みはシンプルですが、税務上の扱いが国によって真逆になります。


豪州の会計・税務ルールでは、MRPSは負債(Debt)として分類されます。そのため、豪州法人が日本の親会社に対して行う優先配当は「利息」として損金算入が認められます。ところが日本では、MRPSは資本(Equity)として扱われるため、受け取った優先配当は「配当」として外国子会社配当益金不算入制度(法法23条の2改正前)の対象となり、益金不算入が適用されていました。


結果として、豪州側では支払いが損金算入(D)され、日本側では受け取った収益が益金不算入(NI)となる典型的なD/NI効果が生じていたのです。


これが使えたのは過去の話です。


日本では2015年度税制改正(平成27年)により、子会社所在地国で損金算入される配当については、日本の親会社で外国子会社配当益金不算入制度を適用しないこととなり(法法23の2)、このMRPSスキームの旨味は大幅に削られました。


さらにオーストラリア側でも2018年のハイブリッドミスマッチ規定施行により、同様のアレンジメントに対して豪州側での損金算入が否認されるようになっています。


つまり、日豪両側からのダブルの規制強化が行われた形になります。


もし現在も類似の取り決めを継続している日系企業があれば、豪州側での損金否認リスクを早急に専門家とともに見直すことが強く推奨されます。見直しのきっかけとしては、ジェトロが発行するオーストラリア進出ガイドが有用です。法人税の詳細なほか、ハイブリッドミスマッチ規定の記述も含まれています。


ジェトロ「オーストラリアにおける企業設立および税務等に関するガイド(2023年改訂版)」(ハイブリッドミスマッチ規定を含む豪州税務の全体像を日本語で解説)


ハイブリッドミスマッチ オーストラリアの「輸入されたミスマッチ規定」と7段階リスク評価の実務対応

「輸入されたミスマッチ規定(Imported Hybrid Mismatch Rules)」は、オーストラリアのハイブリッドミスマッチ規定の中でも、日本企業に特に影響が大きい規定の一つです。


仕組みをわかりやすく説明します。


たとえば、グループ全体の資金調達でハイブリッドアレンジメントが組まれているとします。豪州子会社は直接そのアレンジメントに関与していなくても、豪州子会社が行う「普通の支払い(例:利息や管理費)」が、間接的にそのアレンジメントにより生じた控除額と相殺されている場合、豪州での損金算入が認められなくなります。


豪州外のグループ会社が組んだスキームの影響が、豪州まで波及する規定なのです。


これは、グローバルグループ全体の税務ストラクチャーを把握しておかないと、「気づかないうちに損金が消えていた」という事態を招きます。


2021年12月、オーストラリア国税庁(ATO)はこの輸入されたミスマッチ規定に関する最終版コンプライアンス実務指針「PCG 2021/5」を発表しました。この中でATOは7段階のリスク評価フレームワークを設けており、色別に管理されています。


リスクゾーン ATOの対応方針
🟤 ホワイト ATOが認可を付与(最も安全)
🟢 グリーン・ブルー・イエロー 低リスク。ATOは積極調査を行わない
🟡 アンバー 高リスク(以前は「中程度」だったが引き上げ)
🔴 レッド1・レッド2 非常に高リスク。ATOが積極的に調査


イエローゾーンには特別なセーフハーバーがあります。オーストラリアで納税申告を行っている関連企業グループの売上が2億5,000万豪ドル未満(日本円換算で約250億円規模:東京ドームの建設費約350億円と比較するとやや小さい規模)であり、かつOECD行動計画2と完全に一致したグローバル・ハイブリッド・アレンジメント・リスク・ポリシーを導入しているグループ企業がこれに相当します。


条件が揃えばセーフハーバーが使えます。


また、PCG 2021/5の公表日から18ヶ月間、ATOは納税者が過去の課税年度において輸入されたハイブリッドミスマッチ規定に抵触する取り決めを自発的に開示した場合、罰則の軽減を検討するとしていました。自発的開示の機会を見逃した企業は、現在もATOの調査リスクを抱えていると考えるべきです。


EYジャパンが発表した2022年1月号のタックスアラートでは、PCG 2021/5の詳細と実務上の留意点が丁寧にまとめられています。


EYジャパン「Japan tax alert 2022年1月20日号」(PCG 2021/5の最終ガイダンス内容とリスクゾーン別の実務対応を解説)


ハイブリッドミスマッチ オーストラリア対応で日本企業が今すぐ取るべき独自視点:グローバル税務ポリシー文書の整備

オーストラリアのハイブリッドミスマッチ対策として専門家が口をそろえるのは「文書化」ですが、実はその"範囲"を誤解している企業が少なくありません。


多くの日系企業の担当者が「豪州子会社の取引だけ確認すればよい」と考えがちです。これは要注意です。


ATOが求めているのは、豪州の納税者(つまり豪州子会社)が国外関連者への支払いに対する税額控除を立証するために、グローバル企業グループ全体の税務上の取り扱いについての知識を持つ豪州組織の担当者が十分な調査を行ったことを証明する実質的な責任です。これは豪州グループ全体の話ではなく、グローバル全体の話です。


つまり、ロンドンやシンガポールにある中間持株会社の税務処理まで把握した上で、文書を整備しなければならない局面があるということです。「Combined Assurance Reviews」の一環として、ATOは実施された照会の証拠を要求するケースも出ています。


整備すべき文書の具体的な内容としては以下が挙げられます。


  • グローバルグループ内のハイブリッドアレンジメント・リスクポリシー(OECD行動計画2と整合していることの確認書)
  • グループ内の資金調達スキームの税務分析(支払いの種類・受領国での課税取扱いの確認)
  • ATOへの開示が必要なRTP(Reportable Tax Position)スケジュールに関するリスクゾーン評価記録
  • トップダウンアプローチ・ボトムアップアプローチを組み合わせた調査プロセスの記録


PCG 2021/5では、ATOはトップダウンアプローチ(グループ全体からリスクを把握する方法)とボトムアップアプローチ(個別取引から積み上げる方法)の組み合わせを認めており、一定の柔軟性があります。これは使えそうです。


ただし、仕組まれた取り決め(Structured Arrangement)については柔軟性はなく、厳格な規定が適用されます。


グローバル税務ポリシー文書の整備は、コンプライアンスコストに見えて、実は追徴課税・罰則回避という大きな節約につながります。オーストラリアに子会社・関連会社を持つ日本の大企業(豪州売上250万豪ドル超の企業)は、ATOが毎年実施するTop 1,100企業向け税務ガバナンスレビューの対象になる可能性もあり、内部で早急に体制整備を進めることが現実的なリスク管理策です。


PwCオーストラリア日本語ページでは、BEPSに関するオーストラリアでの開示義務とハイブリッドミスマッチ確認項目についての最新情報が提供されています。


PwCオーストラリア(日本語)「オーストラリアにおけるBEPS関連開示」(ハイブリッドミスマッチ検証結果の開示義務と税務申告上の留意点を解説)