

法人への家賃が年間120万円でも、支払調書の提出はゼロ円で済む場合があります。
「不動産の使用料等の支払調書」とは、法定調書のひとつで、オフィスや店舗の賃料・権利金・更新料などを支払った際に税務署へ提出する書類です。つまり支払の事実を国が把握するためのレポートです。
法定調書は全部で60種類以上ありますが、不動産を賃借している法人にとって、この支払調書は最も身近な提出書類のひとつといえます。提出を怠った場合、所得税法により最大で1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。痛いですね。
提出義務を負うのは、「すべての法人」と「不動産業を営む個人事業主」です。ただし、主として建物の賃貸借の代理や仲介を目的とする事業を営んでいる個人については、例外的に提出義務が免除されています。一般的なオフィスを借りている会社であれば、法人であれば必ず対象と考えましょう。
支払調書は年に1回、1月1日〜12月31日の1年分をまとめて翌年1月31日までに、自社の所轄税務署へ提出します。提出先は大家さんの住所の税務署ではなく、支払う側(借りる側)の事業所所在地を管轄する税務署という点も覚えておくと役立ちます。これが原則です。
参考:国税庁が公開している「不動産の使用料等の支払調書」提出範囲の公式解説はこちらからご確認いただけます。
国税庁 No.7441「不動産の使用料等の支払調書」の提出範囲等(令和7年4月1日現在)
不動産の使用料等の支払調書の提出範囲は、「同一人に対する年間の支払金額の合計が15万円を超えるもの」です。15万円が基準です。
たとえば月々の家賃が1万3,000円(年間15万6,000円)であれば提出対象になりますが、月1万2,000円(年間14万4,000円)であれば対象外です。ちょうどはがき1枚の差で提出義務が変わることになるので、年末に一度合算して確認する習慣をつけておくことが重要です。
この15万円という金額基準は、原則として消費税および地方消費税を含んだ税込額で判断します。ただし、請求書や契約書などで消費税額が明確に区分されている場合は、税抜額で判断しても差し支えないとされています。つまり消費税の区分が明確なら、税抜で15万円以下に収まる場合は提出不要ということですね。
実務上は多くの不動産契約において消費税が区分された請求書が発行されるケースも多いため、この特例は知っておくと申告の判断に役立ちます。ただし「区分されているかどうか」の判断を誤ると過小申告につながる恐れがあるため、不安な場合は税理士への確認が安全です。
また、年間の支払金額には「未払い分」も含めて判断するという点も盲点になりがちです。12月末時点でまだ支払っていない未払い家賃がある場合も、その金額を含めて15万円超かどうかを判定します。未払いに注意すれば大丈夫です。
不動産の使用料等の支払調書において、最も見落とされやすいルールのひとつが「支払先が法人か個人かによって対象範囲が異なる」という点です。これは意外ですね。
法人(人格のない社団等を含む)に支払う不動産の使用料等については、「賃借料(家賃・地代)」は対象外となります。法人に対して家賃のみを支払っている場合、たとえ年間200万円を超えていても支払調書の提出は不要です。結論はシンプルです。
法人への支払で対象になるのは、権利金・礼金・更新料・承諾料・名義書換料といった「一時的・付随的な対価」に限られます。法人ビルのオーナーへの月次家賃だけであれば、一切提出不要という扱いになります。
一方、支払先が個人の場合は、家賃・地代・権利金・更新料などすべてが対象になります。個人大家への家賃が年間15万円を超えれば、提出義務が生じます。これが条件です。
この違いを整理すると次のようになります。
| 支払先 | 家賃・賃借料 | 権利金・更新料等 |
|---|---|---|
| 個人(大家さん) | ✅ 対象(15万円超で提出) | |
| 法人(法人オーナー) | ❌ 対象外(提出不要) | ✅ 対象(15万円超で提出) |
この表が頭に入っていれば、「法人の大家さんへの家賃は提出不要」という判断が即座にできます。担当者が変わるたびに間違えやすいポイントなので、経理担当者間で共有しておくと良いでしょう。
参考:税理士法人によるわかりやすい解説と提出ケース別早見表はこちらが参考になります。
コムレイド税理士事務所「不動産の使用料等の支払調書とは?」(2025年12月更新)
実務でよく発生する疑問が、「管理会社の口座に家賃を振り込んでいる場合、支払調書は管理会社宛に出せばよいか?」というものです。これは大きな誤解です。
国税庁の質疑応答事例によると、管理会社が家賃の徴収を代行しているだけである場合、「実質的に不動産の使用料等を受け取っているのは個人家主」と判断されます。したがって、支払調書は管理会社ではなく個人家主の情報(住所・氏名・マイナンバー)を記載して提出しなければなりません。
支払調書の「支払を受ける者」欄には個人家主の住所・氏名を記載し、「摘要」欄に「管理会社〇〇社経由で支払」という旨を付記するのが正しい処理です。管理会社の名前だけを書いて提出してしまうと、大家さん側の申告内容と照合できず、税務調査のリスクを高めてしまいます。
共有物件の場合も注意が必要です。たとえば夫婦や兄弟などが共同で所有している物件を賃借している場合、支払調書は共有者ひとりにまとめて作成するのではなく、各共有者ごとに別々に作成・提出することが原則です。共有者ごとに持分に応じた金額を記載し、各人のマイナンバーを記入します。
なお、共有持分の割合が不明な場合は、支払総額を記載した支払調書を共有者の人数分作成し、「摘要」欄に「共有者持分不明につき総額記載」の旨および他の共有者の氏名・マイナンバーを書き添える形で対応します。これが公式の対処法です。
参考:国税庁の質疑応答事例「管理会社経由」「共有持分」それぞれの公式見解はこちらで確認できます。
国税庁 質疑応答事例「不動産の賃借料を管理会社へ支払っている場合」
国税庁 質疑応答事例「共有持分の不動産に係る支払調書の作成」
支払調書の電子提出(e-Tax)に関して、2027年(令和9年)1月提出分から義務の基準が大きく変わります。これは使えそうです。
これまで、前々年に提出した法定調書の枚数が種類ごとに100枚以上の場合に電子提出が義務化されていました。令和6年度の税制改正により、この基準が「30枚以上」に引き下げられます。施行は令和9年1月提出分(令和7年分の調書)からです。
たとえば2025年中(令和7年)に不動産の使用料等の支払調書を30枚以上提出した法人は、2027年1月の提出分からe-TaxまたはCDなどの電子媒体による提出が必須になります。今まで紙で問題なかった中小企業・個人事業者にとっても対象になるケースが増えます。
具体的に言うと、テナントが30か所以上ある不動産業者や、多数の支払先を持つ大手小売チェーンなどは注意が必要です。「まだ100枚に満たないから大丈夫」という認識は2027年以降に通用しなくなります。e-Tax利用には利用者識別番号の取得や電子証明書の準備が必要なため、直前ではなく今から環境整備を進めることが重要です。
判定は「法定調書の種類ごと」に行う点にも注意してください。給与所得の源泉徴収票・報酬の支払調書・不動産の使用料等の支払調書は、それぞれ別々にカウントされます。合算して判断するわけではありません。
年末調整の時期に向けて、自社の調書枚数を事前にカウントしておき、e-Tax対応が必要かどうかを早めに確認しておくことをおすすめします。対応が必要なら、税理士への相談も含めて令和7年中に準備を完了させておくのが現実的な目安です。
参考:電子提出義務の基準変更と2027年以降の実務対応について詳しく解説した記事はこちらです。
安田公認会計士事務所「法定調書のe-Tax提出義務がさらに拡大」(2026年1月更新)