
地方道路税は、地方公共団体の道路整備財源を確保するために1955年(昭和30年)に地方道路税法によって導入された国税です。当時、日本の高度経済成長期に入り、自動車交通量が急増する中で、道路整備の必要性が高まっていました。
地方道路税創設の背景には、道路整備を促進する観点から揮発油税収入を国の道路目的財源とするため、1953年(昭和28年)に「道路整備費の財源等に関する臨時措置法」が制定されたことがあります。しかし、道路整備事業は国だけでなく地方団体も莫大な経費を負担していたため、揮発油税収入を全面的に国の道路財源にすることは適当ではないという考えから、1954年度(昭和29年度)に揮発油譲与税として揮発油税の一部を地方団体に譲与する制度が暫定的に設けられました。
そして1955年度(昭和30年度)には、揮発油の消費に対する税負担を国の財源となる揮発油税と地方団体の財源となる地方道路税に区分し、地方道路税の収入額の全額を地方団体に譲与する地方道路譲与税法が創設されました。これにより、地方の道路整備に必要な財源を安定的に確保する仕組みが整備されたのです。
地方道路税は目的税の一つであり、その税収は道路整備という特定の目的のために使用されることが法律で定められていました。これにより、自動車利用者が負担する税金が確実に道路整備に還元される仕組みが構築されたのです。
地方道路税の計算方法は比較的シンプルで、課税標準となる揮発油の数量に税率を乗じて算出します。具体的には、揮発油の製造場から移出した揮発油または保税地域から引き取る揮発油の数量から、消費者に販売するまでに貯蔵および輸送により減少する数量を控除したものが課税対象となります。
地方道路税の基本税率は、当初は揮発油1キロリットルにつき2,000円と定められていました。しかし、道路整備の必要性や財政状況に応じて、特例措置として税率が変更されてきた歴史があります。
1993年(平成5年)から2018年までの間は、特例措置として揮発油1キロリットルにつき5,200円の税率が適用されていました。この特例税率は、揮発油税(48,600円/キロリットル)と合わせて、いわゆる「ガソリン税」として53,800円/キロリットルが課税される形となっていました。
2008年(平成20年)には道路特定財源の一般財源化をめぐる議論が活発化し、一時的に本則税率(地方道路税:2,000円/キロリットル)に戻る動きもありましたが、その後再び特例税率が適用されることになりました。
2009年(平成21年)には、道路特定財源の一般財源化に伴い、地方道路税は「地方揮発油税」に改められ、地方道路譲与税法も地方揮発油譲与税法に改正されました。これにより、名称は変わりましたが、基本的な仕組みは継続されています。
計算例。
この税金は、揮発油の製造者または輸入者が納税義務者となり、最終的には揮発油価格に上乗せされる形で消費者が負担することになります。
地方道路税と揮発油税は、どちらもガソリンに課税される税金ですが、その目的や使途に違いがあります。両者を合わせて「ガソリン税」と総称されることもありますが、正確には別個の税金です。
揮発油税は、1949年(昭和24年)に創設された国税で、当初は一般財源でしたが、1953年(昭和28年)からは道路整備の財源として特定されるようになりました。一方、地方道路税は1955年(昭和30年)に創設され、地方の道路整備財源として使用されることを目的としていました。
両税の最大の違いは、税収の帰属先と使途にあります。
税率についても違いがあります。
申告納付の方法については、地方道路税の申告納付はすべて揮発油税とあわせて行われることになっており、課税物件、課税標準、納税義務者なども揮発油税の場合と同様です。これは納税者の利便性を考慮した措置と言えます。
2009年(平成21年)の道路特定財源の一般財源化に伴い、地方道路税は「地方揮発油税」に、地方道路譲与税は「地方揮発油譲与税」に名称変更されましたが、基本的な仕組みは継続されています。
地方道路税(現在の地方揮発油税)の収入は、全額が「地方道路譲与税」(現在の地方揮発油譲与税)として地方自治体に譲与されます。この譲与の仕組みは、地方自治体の道路整備財源を確保するために重要な役割を果たしています。
譲与の基準は以下のように定められています。
譲与時期は年3回で、以下のスケジュールとなっています。
なお、譲与税の算定の基礎となる道路の延長および面積については、道路の種別その他の事情を参酌して所要の補正が加えられます。これは、単純な延長や面積だけでなく、道路の重要性や整備状況なども考慮するためです。
2015年度(平成27年度)には、国庫補助負担金の見直しに伴い、国県道分と市町村道分の配分割合が、43:57から58:42に改正されました。また、2008年度(平成20年度)には、高速自動車国道(新直轄方式)の維持管理費用の地方負担が導入されたことに伴い、算定基礎である道路の種類に「高速自動車国道」が追加されるなど、時代の変化に応じた見直しが行われています。
2009年(平成21年)の道路特定財源の一般財源化に伴い、地方道路税は「地方揮発油税」に名称変更されました。これは単なる名称変更ではなく、道路整備に限定されていた使途の制限がなくなったことを意味します。
この変更に伴い、地方道路譲与税法も地方揮発油譲与税法に改正され、地方道路譲与税は「地方揮発油譲与税」となりました。ただし、譲与の基準や仕組み自体に大きな変更はありませんでした。
税理士として実務上注意すべき点としては、以下が挙げられます。
また、2009年の一般財源化以降、地方揮発油譲与税の使途は道路整備に限定されなくなりましたが、多くの地方自治体では依然として道路関連事業に充当されています。税理士としては、クライアントが自治体である場合、この点を踏まえた予算編成のアドバイスが求められることもあるでしょう。
さらに、環境問題への対応や電気自動車の普及に伴い、将来的には自動車関連税制全体の見直しが予想されます。地方揮発油税(旧地方道路税)も例外ではなく、今後の動向に注意を払う必要があります。
地方揮発油譲与税の詳細な沿革と意義について(総務省資料)
地方道路税から地方揮発油税への変遷は、日本の道路財源制度の大きな転換点でした。税理士としては、この歴史的背景と現在の制度を正確に理解し、クライアントに適切なアドバイスを提供することが求められます。特に自治体関連のクライアントを持つ税理士にとっては、地方財政における地方揮発油譲与税の位置づけを理解することが重要です。