

3,000万円控除を使った後でも、この特例の軽減税率が追加で適用されると思っているなら、その判断で数百万円単位の損失が出ます。
「優良住宅地造成等のための譲渡」とは、租税特別措置法第31条の2に定められた税制特例で、個人が所有する土地を住宅地の開発や優良住宅の建設に供するために譲渡した場合に、長期譲渡所得に対する税率を軽減する制度です。国が良質な住宅地の供給を後押しするために設けており、売主となる個人に対して直接メリットが生じます。
通常、土地を売却して得た長期譲渡所得(売った年の1月1日時点で所有期間が5年超)には、所得税15%・住民税5%、合計20%の税率が課されます。これが原則です。
しかし、この特例が適用されると、譲渡所得のうち2,000万円以下の部分については、所得税10%・住民税4%、合計14%の税率に引き下げられます。つまり、通常税率との差が6%生じます。
| 区分 | 所得税 | 住民税 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 通常(長期譲渡所得) | 15% | 5% | 20% |
| 特例適用(2,000万円以下部分) | 10% | 4% | 14% |
| 軽減幅 | ▲5% | ▲1% | ▲6% |
※別途、復興特別所得税(所得税額×2.1%)がかかります。
具体的なイメージで言うと、譲渡益が2,000万円ちょうどの場合、通常なら400万円かかる税金が280万円になります。差額は120万円の節税です。これは使えそうです。
ただし、2,000万円を超える部分の譲渡所得については、通常の税率(20%)がそのまま適用されます。つまり、超過部分は特例の恩恵を受けられません。あくまでも「2,000万円以下の部分が対象」という点が条件です。
この特例は時限立法であり、令和8年度税制改正大綱において令和10年12月31日まで3年間延長されることが決定しました。土地の売却を検討しているなら、この期限内に手続きを進めることが大切です。
参考:国土交通省「土地の譲渡に係る税制」(制度の体系的な解説)
https://www.mlit.go.jp/tochimizushigen/land/zei_gaiyou_jouto.html
この特例を使えるのは、「住宅地造成のために売った」という事実を証明できた場合に限られます。どんな土地売却でも対象になるわけではありません。
租税特別措置法が定める主な適用パターンは次のとおりです。
さらに、令和5年度の税制改正により、これまで対象だった「特定の民間再開発事業のための譲渡」が対象から除外されています。意外ですね。また、開発許可を受けた宅地造成への譲渡については、区域が「市街化区域」「市街化調整区域」「用途地域が定められた非線引き都市計画区域」の三区域のいずれかに限定されるようになりました。
それぞれのパターンで求められる面積基準や事業要件が細かく異なるため、自分の土地売却がどれに該当するかを事前に把握しておくことが重要です。面積基準については、三大都市圏(首都圏・近畿圏・中部圏)かどうかで要件が変わる点にも要注意です。
なお、国・地方公共団体への譲渡や都市再生機構、土地開発公社等への譲渡もこの特例の対象に含まれます。公的機関への売却であっても特例の要件確認が必要です。
参考:国税庁「優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の軽減税率の特例」(法令解釈通達)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/joto-sanrin/970401-2/01.htm
この特例の最大の落とし穴は、「要件を満たしていても書類がなければ特例が使えない」という点です。これは必須です。
特例を受けるためにはまず、所有期間が5年超の土地であることが大前提です。所有期間の計算は「売った年の1月1日時点で5年超かどうか」で判定されます。たとえば2026年中に売却した場合は、2026年1月1日時点で5年超、つまり2020年12月31日以前に取得した土地であることが条件です。
次に、買取業者(土地を購入する開発事業者)から証明書類を取得する必要があります。
これらの書類を揃えたうえで、確定申告書に特例適用条文(措法31条の2)を記載し、書類を添付して税務署へ提出します。申告書を提出して初めて特例が適用されます。
書類は早めに買取業者へ確認することが重要です。なぜなら、証明書の作成依頼・交付・確定申告という流れをスムーズに進めるには、売却後から確定申告期限(原則3月15日)までの間に余裕が必要だからです。
また、申告後に開発計画が中止になった場合は修正申告が必要になる場合があります。確定優良住宅地等予定地(将来的に要件を満たすことが確実と認められる土地)として特例を先行適用した場合に限りますが、このリスクは頭に入れておく必要があります。
なお、特例の申告については「当初申告要件」があります。実際に、当初申告で別の特例を選択したあと、計画変更を理由に修正申告で優良住宅地特例に切り替えようとした際に税務署から認められなかったという裁決事例(国税不服審判所平成30年1月25日)があります。「後で変えればいい」という判断は危険です。
参考:税理士法人タクトコンサルティング「譲渡所得税の最近のトラブル事例集」(当初申告と修正申告の事例解説)
https://www.tactnet.com/news/2020/No.823.html
特例は複数あります。しかし、すべてを組み合わせて使えるわけではありません。
優良住宅地特例(措法31条の2)と、絶対に重複して適用できない代表的な特例が「居住用財産の3,000万円特別控除(措法35条)」です。これが最も注意が必要な組み合わせです。
たとえば、自分が住んでいたマイホームの土地をハウスメーカーへ売却し、そのハウスメーカーが戸建て分譲地として開発する場合、「居住用財産の3,000万円控除」と「優良住宅地造成等のための譲渡の軽減税率」の両方の要件を満たすことがあります。しかし、この2つは選択適用です。どちらか一方しか使えません。
| 特例名 | 内容 | 優良住宅地特例との関係 |
|---|---|---|
| 居住用財産3,000万円特別控除(措法35) | 譲渡所得から最大3,000万円を控除 | ❌ 重複不可(選択適用) |
| 収用等の5,000万円控除 | 譲渡所得から最大5,000万円を控除 | ❌ 重複不可 |
| 特定事業用資産の買換え特例(措法37) | 課税を将来に繰り延べ | ❌ 買換え特例を選択すると優良住宅地特例は不可 |
| 居住用財産10年超所有の軽減税率(措法31条の3) | 6,000万円以下部分を14%に軽減 | ❌ 重複不可 |
どちらを選ぶべきかは、譲渡所得の金額と取得費次第で変わってきます。
たとえば、譲渡益が1,500万円の場合、3,000万円控除を使えばゼロになります。一方、優良住宅地特例を使っても14%の税率で210万円の税金が発生します。この場合は3,000万円控除が圧倒的に有利です。
逆に、居住用ではない土地(賃貸用や事業用)で3,000万円控除の対象外であれば、優良住宅地特例が唯一の軽減手段になることもあります。状況によって結論は変わります。
自分のケースではどちらが有利かを事前に試算し、確定申告前に税理士に相談することが、数十万〜数百万円の差につながる判断になります。
参考:鶴亀税理士事務所「譲渡所得の主な特例とその適用のポイント」(各特例の重複適用関係を詳解)
https://tsurukame-tax.com/syotokuzei/tax-return/5185/
ほとんどの解説記事には出てこない視点ですが、この特例には「先行適用」の仕組みがあります。
それが「確定優良住宅地等予定地のための譲渡」という制度です。どういうことでしょうか?
本来、優良住宅地特例を適用するには、「開発許可がすでに下りていること」などの要件を満たす必要があります。しかし土地の売買実務では、土地を売ってからしばらく経って初めて開発許可が下りるというタイムラグがよく発生します。
そこでこの制度では、「譲渡の日から2年を経過する日の属する年の12月31日まで」の期間内に優良住宅地等のための譲渡の要件を満たすことが確実と認められる場合には、先行して特例と同様の税率軽減が受けられます。
具体的には、売却時点では許可申請中であっても、申請内容・規模・地域区分などから要件を満たすことが客観的に認められれば、確定申告においてこの特例の準用を受けることができます。
ただし注意点があります。譲渡後2年以内に要件を満たす証明書類が揃わなかった場合や、開発計画が中止になった場合は、修正申告が必要になります。この場合、追加の税額と延滞税が発生するリスクもあります。これは大きなデメリットです。
確定優良住宅地等予定地制度を利用する場合は、特例の適用可否について売却時点で税理士または所轄税務署に確認しておくことを強くおすすめします。証明書の整備と申告手続きを業者任せにするのではなく、売主側が主体的に動くことが求められます。
参考:国土交通省「確定優良住宅地等予定地のための土地等の譲渡に係る課税の特例」(制度の概要と手続き)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000113.html
参考:三井住友トラスト不動産「優良住宅地造成等のための譲渡」(制度の基本整理)
https://smtrc.jp/useful/knowledge/tax/tax1_05_01.html