相続放棄の期限と申し立て方法を正しく知る

相続放棄の期限と申し立て方法を正しく知る

相続放棄の期限と申し立ての正しい知識

3ヶ月過ぎてからでも相続放棄が認められたケースが、実は全国に多数存在します。


この記事の3つのポイント
「3ヶ月の期限」は死亡日からではない

民法915条により、相続放棄の熟慮期間は「自己のために相続の開始があったことを知った時」から起算されます。死亡日と異なるケースでは期限が延びることがあります。

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自分で申し立てれば実費はわずか800円〜

家庭裁判所への申述に必要な収入印紙は申述人1人につき800円。戸籍謄本等の取得費用を合わせても3,000〜5,000円程度で手続きが完結します。

⚠️
遺産に少しでも手をつけると放棄できなくなる

被相続人の預金を引き出したり、遺品を売却したりすると「みなし単純承認」が成立し、3ヶ月以内でも相続放棄ができなくなります。借金をそのまま引き継ぐリスクがあります。


相続放棄の期限「3ヶ月」の起算点を正しく理解する

相続放棄の申し立てには、民法915条1項が定める「熟慮期間」が関係します。多くの方が「親が死亡した日から3ヶ月」と思い込んでいますが、法律の条文はそうなっていません。正確には「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内」が期限です。


この違いは、実際の場面で大きな意味を持ちます。たとえば、疎遠だった親族が亡くなったことを半年後に知った場合、死亡日からはすでに6ヶ月が経過していますが、「知った日」からであれば3ヶ月の期間がまだ始まったばかりです。つまり、死亡日から3ヶ月を超えていても、相続放棄の申し立てができるケースは珍しくないのです。


これは原則です。


また、第2順位・第3順位の相続人(被相続人の親や兄弟姉妹)にとっても重要な点があります。先順位の相続人全員が放棄して初めて相続権が自分に回ってくることを知った日が、その人の熟慮期間のスタート地点です。長男が放棄した連絡が来てから3ヶ月、という計算になります。


| 相続人の種別 | 熟慮期間の起算点の目安 |
|---|---|
| 配偶者・子(第1順位) | 基本的には被相続人の死亡を知った日 |
| 親・祖父母(第2順位) | 先順位者が全員放棄したと知った日 |
| 兄弟姉妹(第3順位) | 先順位者が全員放棄したと知った日 |
| 未成年者・成年被後見人 | 法定代理人が相続開始を知った日 |


この表の通り、相続人の立場によって「3ヶ月」のカウントが始まる日がまったく異なります。期限が来ていると思い込んで諦めてしまわないことが大切です。


参考:家庭裁判所の相続放棄申述手続きの概要(申述期間・費用・書類の詳細)
裁判所|相続の放棄の申述(手続案内)


相続放棄の申し立てに必要な書類と費用の実態

相続放棄の手続きは、「家庭裁判所に書類を提出して申述する」という方法で行われます。費用が高そうに見えて、実は自分で行えばかなりリーズナブルです。


家庭裁判所に納める費用は、申述人1人につき収入印紙800円と、連絡用の郵便切手(目安500円前後)のみです。これに戸籍謄本等の取得費用(1枚あたり750円前後)を加えても、多くのケースで合計3,000〜5,000円程度で申し立てが完了します。コンビニのランチ数回分のコストで、多額の借金相続を回避できるわけです。


費用がリーズナブルなのはいいことですね。


ただし、申述先を間違えると受理されません。申し立ては「被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所」に行う必要があります。近くの家庭裁判所ではなく、亡くなった方が最後に住んでいた場所の管轄裁判所です。遠方の場合は郵送での申し立ても認められているので安心してください。


必要書類は、申述人と被相続人の関係によって変わりますが、共通して必要なのは以下の書類です。


- 相続放棄申述書(裁判所のウェブサイトから書式を入手できます)
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 申述人(放棄する方)の戸籍謄本
- 被相続人の死亡の記載がある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本


書類が整ったら申し立てをすれば、約10日後に家庭裁判所から「照会書」が届きます。照会書に必要事項を記入して返送し、さらに10日ほどで「相続放棄申述受理通知書」が届けば手続き完了です。申し立てから完了まで、通常1ヶ月程度かかる見込みです。


弁護士や司法書士に依頼する場合は、別途専門家費用が加わります。司法書士への依頼相場はおよそ3万〜5万円、弁護士への依頼は5万〜10万円程度が目安です。案件が複雑な場合や期限を超えてしまったケースでは、専門家のサポートが事実上不可欠になることもあります。


参考:相続放棄手続きの6ステップ・費用・必要書類の詳細解説
相続プロ|相続放棄の手続きは6ステップでできる!費用・必要書類・注意点も紹介


相続放棄の期限を延長する「熟慮期間の伸長申立」とは

財産調査に3ヶ月では時間が足りない、という状況は実際に起こります。そのような場合に使える制度が「熟慮期間の伸長(延長)申立」です。期限内に判断できない理由がある場合、家庭裁判所に申立書を提出することで、熟慮期間をさらに延長してもらえる可能性があります。


これは使えそうです。


重要なのは、この伸長申立は「3ヶ月の熟慮期間が終わる前に」申し立てなければならないという点です。期間が過ぎてから「もっと時間が欲しかった」と申し立てても認められません。必ず熟慮期間内に申し立てることが条件です。


伸長申立に必要な費用は収入印紙800円(相続放棄の申述費用と同額)です。書類は、申立書のほか、被相続人の戸籍謄本、申述人の戸籍謄本などが必要になります。延長が認められた場合、一般的にはさらに3ヶ月程度の延長が認められることが多いとされています。


期間の延長は複数回申立できるケースもありますが、2回目以降は審査が厳しくなります。「○○銀行に残高照会を依頼中」「不動産の調査書類待ち」など、具体的な調査の経過を示す証拠を添付すると、認められやすくなります。財産調査に時間がかかりそうなら、早めに専門家(司法書士・弁護士)に相談して手続きを進めることをおすすめします。


参考:相続放棄の期間伸長申立について詳しく知れるサイト
リーガルスクエア|相続放棄は3か月以内|調査が間に合わないときの期間伸長申立と注意点


3ヶ月経過後でも申し立てが認められる例外ケース

熟慮期間の3ヶ月を過ぎてしまった後でも、例外的に相続放棄が認められるケースがあります。ただし、これは非常にハードルが高いため「過ぎたら諦めるしかない」という誤解が広まっています。実際には、特定の条件を満たせば期限後の相続放棄が裁判所に受理された事例が複数存在します。


期限後でも認められやすいのは「被相続人の借金が存在することを3ヶ月以上経ってから初めて知った」ケースです。最高裁判所の昭和59年4月27日の判例が基準とされており、「財産が全く存在しないと信じたためであり、かつそう信ずるについて相当な理由があった場合」には、借金の存在を知ってから3ヶ月以内に相続放棄の申述をすれば認められる可能性があるとされています。


これが原則です。


たとえば、親が亡くなった際にプラスの財産しか把握できず、4年後に消費者金融からの借金の督促状が届いて初めて借金の存在を知った、という場合です。この場合、督促状を受け取った日を起算点として3ヶ月以内であれば、申し立てができる可能性があります。もちろん、裁判所が「知らなかったことに合理的な理由がある」と認める必要があり、一概に認められるとは言えません。


このほかの例外的なケースとしては次のようなものがあります。


- 🏥 天災や急病など、やむを得ない事情で物理的に手続きができなかった場合
- 📬 疎遠だった親族の死亡を長期間知らなかった場合(死亡から1年後に知ったなど)
- 🔍 被相続人が他人名義で借金をしており、借金の存在が通常の調査で判明しなかった場合


期限を過ぎてしまったケースでは、「上申書」と呼ばれる事情説明書を相続放棄申述書に添付して提出することが実務上の対応となります。上申書には、なぜ3ヶ月を超えてしまったのか、借金をいつ・どのような形で知ったのか、を具体的かつ時系列で記載することが求められます。こうした書類作成は一般の方には難しいため、弁護士への相談が現実的な選択肢です。


相続放棄の申し立てを無効にする「みなし単純承認」の落とし穴

相続放棄を検討している段階でやってしまいがちな「あの行為」が、実は相続放棄を完全に封じてしまうことがあります。これが「法定単純承認(みなし単純承認)」と呼ばれるルールです。3ヶ月の期限内であっても、特定の行動をとった瞬間に「相続を承認した」とみなされてしまいます。


民法921条がその根拠です。


特に注意が必要なのが、被相続人の預金口座への手出しです。「少額だから大丈夫」「葬儀費用くらいなら問題ない」と思い込んで口座から現金を引き出すと、そこで単純承認が成立してしまうリスクがあります。少額の引き出しであっても「自分のものとして扱った」とみなされる可能性があるため、相続放棄を検討しているなら手をつけてはいけません。


痛いですね。


代表的なNG行為を押さえておきましょう。


- ❌ 被相続人の預貯金の引き出し・解約(典型的な処分行為。金額を問わず危険)
- ❌ 遺品の売却(リサイクルショップへの持ち込みも含む)
- ❌ 被相続人名義の借金の返済(少額でも相続の承認とみなされる)
- ❌ 被相続人の車の名義変更・売却
- ❌ 遺産分割協議への署名・捺印


一方で、以下の行為は基本的に問題ありません。


- ✅ 葬儀費用を故人の財産から払う(社会通念上、相当な金額に限る。領収書の保管が重要)
- ✅ 生命保険の死亡保険金を受け取る(受取人固有の財産であり、相続財産ではない)
- ✅ 未支給年金を受け取る(遺族固有の権利として扱われる)
- ✅ 建物の修繕など保存行為(財産の価値を維持する行為)


特に葬儀費用についてはグレーゾーンの側面があり、「社会通念上の範囲内」を超えた過剰な葬儀費用は処分行為とみなされるリスクがあります。故人の財産を動かす前に、一度立ち止まって確認することが大切です。「迷ったら触らない」が基本原則です。


参考:みなし単純承認の詳細なOK・NG行為リストと解説
ベンチャーサポート|相続の単純承認とは?みなし単純承認になるNG行為一覧と相続放棄への影響


金融資産がある人ほど注意すべき「相続放棄後の落とし穴」

相続放棄が無事に受理されても、終わりではないことを多くの方が見落としています。金融に関心がある方だからこそ、ここで紹介する2つの注意点を押さえておく価値があります。


1つ目は「相続放棄しても借金の督促が来る問題」です。相続放棄をした相続人は「最初から相続人ではなかった」とみなされるため、法的には借金を返済する義務はありません。しかし、債権者の中にはそれを知らずに請求を続けるケースがあります。そういった際に備えて「相続放棄申述受理証明書」を取得しておくと安心です。この証明書は1通150円で発行してもらえます。


2つ目は「相続放棄すると次の順位の相続人に相続権が移る」問題です。たとえば、子全員が相続放棄をすると、次は被相続人の父母や祖父母に相続権が移ります。その方々が放棄しなければ、その方々が借金を引き継ぐことになります。自分が放棄することで、高齢の親や兄弟姉妹に負担をかけてしまう可能性があります。家族全体での話し合いと、連携した手続きが欠かせません。


これが条件です。


さらに見落とされがちなのが「相続放棄後の財産管理義務」です。相続放棄をした後も、その相続人が相続財産を現に占有(実際に管理・保管している状態)している場合、次の相続人が管理できるようになるまで、自己の財産と同一の注意義務を持って財産を管理し続ける義務が民法940条で課せられています。不動産を所有していてそのまま放置すると、管理責任が生じる場合があるので注意が必要です。


不動産の場合、特に空き家の管理は厄介です。近年は「空き家問題」として社会的にも注目されており、適切に管理しないと固定資産税の優遇措置が取り消される、近隣への損害賠償を求められるといったリスクも考えられます。相続放棄と合わせて、財産管理の問題についても弁護士や司法書士に早めに相談することをおすすめします。


相続放棄が「終わり」ではないということですね。手続きを完了した後も、次の相続人への連絡・財産管理の問題・証明書の取得といった一連の流れを視野に入れた対応が、金銭的なリスクを最小化するための鍵になります。


参考:相続放棄後の管理義務・証明書・次順位相続人への影響など実務的な解説
税理士法人チェスター|相続放棄の期間はわずか3か月!期限内の申し立てと延長の方法を解説