

資本金999万円でも、親会社が大手なら設立初日から消費税を払わされます。
法人を設立したとき、多くの創業者が「2年は消費税を払わなくていい」と認識しています。これは完全な誤解ではありませんが、正確な理解とは少し異なります。
消費税の納税義務は、「基準期間における課税売上高が1,000万円を超えるかどうか」で判定されます。基準期間とは前々事業年度のことです。新設法人には前々事業年度が存在しないため、原則として設立1期目・2期目は納税義務が免除されます。これが「2年免税」と呼ばれる根拠です。
免税が原則です。ただし、条件次第で話は大きく変わります。
設立時の資本金が1,000万円以上の場合、基準期間がなくても自動的に課税事業者となります。この仕組みを「新設法人の納税義務の免除の特例」と呼び、免税ではなく課税が強制される規定です。金融や投資に関心の高い読者の中には「資本金を多めに用意して信用力を高めたい」と考える方もいるかもしれませんが、1,000万円の壁を超えた瞬間に消費税の負担が始まる点を見落とすと、資金計画が狂うリスクがあります。
たとえば、年間売上が2,000万円(税込)の法人を想定すると、消費税率10%で約182万円(税抜売上1,818万円×10%≒182万円)が納税額の目安になります。免税か課税かで、この182万円が丸ごと手元に残るかどうかが変わってきます。痛いですね。
また、設立1期目の途中で増資して資本金が1,000万円を超えた場合、その期は課税事業者にはなりませんが、2期目からは課税事業者となります。設立後の資金調達タイミングにも注意が必要です。
参考:国税庁「No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例」(令和7年4月1日現在)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6503.htm
「資本金を999万円にしておけば問題ない」と考えている方は要注意です。資本金が1,000万円未満であっても、「特定新規設立法人」に該当すると、設立初日から消費税の課税事業者となります。これはあまり知られていない落とし穴のひとつです。
特定新規設立法人とは、次の2つの要件をともに満たす新設法人のことです。
まず「特定要件」として、設立時点で他の法人(親会社など)に株式等の50%超を保有されている必要があります。次に「規模要件」として、その支配している法人(または特殊関係法人)の課税売上高が5億円を超えること(令和6年10月1日以後に開始する課税期間からは、国内外の収入合計が50億円超の場合も対象に拡大されました)が条件です。
つまり、大企業グループの子会社として設立された法人は、資本金が1円でも課税事業者となりえます。これが条件です。
たとえば、以下のような状況を想像してください。個人投資家Aさんが別事業用に新会社(資本金300万円)を設立したとします。ところが出資者のひとつであるB社(課税売上高6億円)が55%の株式を保有していた場合、新会社は特定新規設立法人に該当し、設立1期目から消費税を申告・納税しなければなりません。
さらに令和6年の改正で、判定対象が「国内の課税売上高5億円超」だけでなく「国内外含む収入合計50億円超」にも拡大されています。グローバルに事業を展開する大企業が出資者に含まれる場合、海外売上も含めて判定されるため、意図せず特定新規設立法人に該当するリスクが高まっています。これは意外ですね。
グループ会社を設立する場合や、大企業からの出資を受ける予定がある場合は、設立前に税理士に株式構成を確認してもらうことで、この落とし穴を回避できます。
参考:国税庁「特定新規設立法人の納税義務免除の特例(特定要件の判定)」
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/22/16.htm
資本金1,000万円未満で、特定新規設立法人にも該当しない新設法人であれば、1期目は免税事業者となります。しかし2期目については別の判定が必要です。それが「特定期間」による判定です。
特定期間とは、1期目の開始日から6ヶ月間のことです。この期間の課税売上高、または給与等支払額のいずれかが1,000万円を超えると、2期目から課税事業者となります。どちらか一方でも超えれば課税です。給与だけで1,000万円を超えても判定がかかる点が見落とされがちです。
ここで活用できるのが、設立1期目の事業年度を7ヶ月以下に設定する方法です。直前期の月数が7ヶ月以下の事業者は、特定期間の判定そのものが不要となります。つまり、1期目を短く設定することで、2期目の特定期間判定を丸ごとなくすことができます。
具体的な仕組みをイメージしてみましょう。通常の12ヶ月決算で設立した場合、1期目の前半6ヶ月の売上・給与が1,000万円を超えると2期目から課税が始まります。しかし設立日が6月で決算月を12月に設定すれば、1期目は7ヶ月間になります。この場合、特定期間の判定が行われず、2期目も原則免税が維持されます。つまり合計で最長1年7ヶ月の免税期間が確保できる可能性があります。
売上が急成長しそうな事業では特に有効な方法です。これは使えそうです。
ただし、この方法は「設立登記の日付から決算月をどう設定するか」という設計段階での判断が必要です。法人設立後に変更することは手間がかかります。起業前の段階で決算月の設計を税理士と相談しておくことが、この節税効果を確実に得るための鍵となります。
参考:国税庁「特定期間の判定」
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/22/10.htm
2023年10月から導入されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)は、新設法人の消費税判定に新たな複雑さをもたらしました。もっとも注意が必要なのは、インボイス発行事業者として登録した瞬間に、免税事業者の地位が失われるという点です。
本来であれば免税事業者として扱われるはずの新設法人でも、インボイス登録を行った課税期間の初日から課税事業者とみなされます。登録は任意ですが、取引先(特にBtoB取引)から「インボイスを発行してほしい」と求められるケースは多く、結果として免税期間を自ら手放してしまう状況が生まれています。
さらに厳しいのは、一度インボイス発行事業者として登録すると、原則として登録日から2年間は免税事業者に戻れないということです。「取引先の要望に応えるために登録したけれど、その後売上が伸びなくて消費税の負担が重かった」というケースは、実務でも少なくありません。
一方、この制度には「2割特例」という緩和措置があります。インボイス登録によって初めて課税事業者となった免税事業者(新設法人を含む)は、売上税額の20%のみを納付すればよいという特例です。たとえば課税売上高が1,000万円(税別)の場合、本来の消費税額100万円のうち20万円だけ納付すればよい計算になります。残りの80万円は仕入税額控除として処理されます。この2割特例の適用には事前届出は不要で、確定申告書に適用を記載するだけで利用できる点も覚えておいてください。
ただし、2割特例は永続する制度ではありません。適用期間が限定されており、国税庁のアナウンスを定期的に確認する必要があります。インボイス登録の可否は、取引先との関係と免税メリットを天秤にかけて慎重に判断することが重要です。
参考:国税庁「2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置)の概要」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shohi/kaisei/202304/01.htm
新設法人が消費税の課税事業者となっている期間中に、税抜価格100万円以上の固定資産(調整対象固定資産)を取得して一般課税で確定申告した場合、その後最長3年間は免税事業者に戻れないというルールがあります。この「3年縛り」は、創業期の設備投資と消費税の関係を考えるうえで非常に重要です。
調整対象固定資産の例としては、建物・付属設備、機械装置、車両、工具・器具・備品などが挙げられます。税抜100万円という基準はそれほど高いものではなく、業務用PCを数台まとめて購入したり、店舗の内装工事を行ったりするだけで該当するケースがあります。3年縛りに注意すれば大丈夫です。
さらに、税抜1,000万円以上の「高額特定資産」を取得した場合は、より厳格な制限がかかります。仕入税額控除の調整計算が3年間にわたって行われるうえ、簡易課税制度の選択届出書も3年間提出できなくなります。簡易課税が使えなくなるというのは、売上規模が小さい段階の法人にとって税務上の選択肢が狭まることを意味します。
この落とし穴が実際に問題になるのは、次のような場面です。設立1期目にインボイス登録で課税事業者となり、設備投資として税抜150万円の機械を購入(一般課税で申告)した場合、本来なら2期目・3期目に免税へ戻れるはずが、3年縛りによってそれができません。結果として、最低でも取得した課税期間を含む3事業年度は課税事業者のままとなります。
設立初期に大型設備投資を予定している法人は、課税・免税の選択とあわせて、調整対象固定資産の取得タイミングを税理士と事前に綿密に設計することが損失回避の観点から不可欠です。固定資産の取得時期を1期ずらすだけで、税負担の総額が数百万円単位で変わることもあります。
参考:国税庁「No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例(調整対象固定資産を取得した場合の特例)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6503.htm
個人事業主として事業を行ってきた方が法人化(法人成り)するとき、消費税の免税期間をどこまで引き延ばせるかは、創業期の資金繰りに直結する重要テーマです。実は、条件次第で最大4年間の消費税免税期間を確保できる可能性があります。これが原則です。
仕組みを整理すると以下の通りです。個人事業主として開業した場合、開業から2年間(1年目・2年目)は基準期間がないため原則免税事業者となります。この2年間の免税を享受したのち、法人成りをすると、新設法人として改めて2期分の免税期間がスタートします。合計すると最大4年間の免税期間が得られる計算です。
個人の2年間は「個人事業主としての基準期間なし期間」、法人の2年間は「新設法人の基準期間なし期間」として、それぞれ独立して適用されます。ただしひとつ重要な条件があります。法人成りした際に、個人時代の課税売上高を新法人の基準期間には引き継がないという原則です。個人と法人は別人格であるため、個人時代に1,000万円超の売上があったとしても、それは法人の基準期間の課税売上高には含まれません。
ただし、この方法にも落とし穴があります。個人時代にインボイス発行事業者として登録していた場合、法人成り後も引き続き課税事業者とみなされる可能性がある点や、特定新規設立法人の要件に該当するケースでは免税が受けられない点には注意が必要です。
また、法人成り後の1期目を7ヶ月以下に設定することで、特定期間の判定を回避し、さらに確実に2期目の免税を確保するという組み合わせ戦略も有効です。個人事業主からの転換を検討する際は、法人設立の時期と決算月の両方を意識した設計が、最も大きなコスト削減効果を生みます。結論は「設計段階での選択が税負担を大きく左右する」です。
参考:みずほ銀行「法人化すると消費税が2年間免除される?条件や期間を延ばす方法を解説」
https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/account/tips/topic_126.html