
市町村民税は地方税の一種で、私たちが居住する自治体に納める税金です。この税金は、地域の行政サービスを支えるための重要な財源となっています。市町村民税を正確に計算するためには、まず基本的な構造を理解する必要があります。
市町村民税は「均等割」と「所得割」の2つの要素から構成されています。均等割は所得の多寡にかかわらず一定額を納めるもので、所得割は前年の所得に応じて計算される部分です。
計算の第一歩は、前年の所得金額を正確に把握することです。所得金額とは、収入から必要経費を差し引いた金額を指します。所得には給与所得、事業所得、不動産所得、配当所得など10種類があり、それぞれ計算方法が異なります。
例えば、給与所得の場合は収入金額から給与所得控除額を差し引いて計算します。事業所得の場合は、売上から必要経費を差し引いた金額となります。これらの所得を合計したものが総所得金額となり、市町村民税計算の基礎となります。
所得計算において注意すべき点は、所得の種類によって課税方法が異なることです。一般的な給与所得や事業所得などは「総合課税」として合算されますが、土地建物の譲渡所得や上場株式の配当所得などは「分離課税」として別々に計算されることがあります。
所得金額が確定したら、次に適用される所得控除を計算します。所得控除とは、総所得金額から差し引かれる金額で、納税者の個人的事情を考慮するための制度です。
市町村民税で適用される主な所得控除には以下のようなものがあります。
重要なのは、市町村民税の所得控除額は所得税の所得控除額とは異なる場合があるという点です。例えば、基礎控除は所得税では48万円ですが、市町村民税では43万円となっています。このような違いは、税額計算において大きな影響を与えることがあります。
所得控除を適用した後の金額が「課税総所得金額」となり、これに税率を乗じて所得割額を計算します。
市町村民税の所得割は、課税総所得金額に税率を乗じて計算します。課税総所得金額とは、総所得金額から所得控除額を差し引いた金額です。
市町村民税の標準税率は6%で、道府県民税と合わせると通常10%となります。ただし、自治体によって税率が異なる場合があります。例えば、横浜市では市民税が8%、県民税が2.025%で合計10.025%となっています。
所得割の計算手順は以下の通りです。
税額控除には、配当控除、外国税額控除、住宅借入金等特別税額控除(住宅ローン控除)などがあります。これらの控除を適用した後の金額が最終的な所得割額となります。
具体的な計算例を見てみましょう。総所得金額が500万円、所得控除額が150万円、税額控除額が30万円の場合。
この5万円が所得割額となります。
均等割は、所得の多寡にかかわらず一定額を納める税金です。市町村民税の均等割額は標準で年間3,000円、道府県民税の均等割額は標準で年間1,000円で、合計4,000円となります。ただし、自治体によって金額が異なる場合があります。
また、令和6年度(2024年度)からは、均等割とあわせて森林環境税が1人年額1,000円徴収されるようになりました。これは、森林整備や森林吸収源対策の財源として導入された国税です。
均等割が課税されない「非課税」の要件としては、以下のようなものがあります。
例えば、単身者の場合は前年の合計所得金額が45万円以下、扶養親族が1人いる場合は前年の合計所得金額が91万円以下であれば、均等割が非課税となります。
また、東日本大震災からの復興に関する臨時増税として、平成26年度から令和5年度(2023年度)までの10年間、市民税・県民税の均等割額がそれぞれ500円増額されていましたが、この措置は令和5年度で終了しています。
令和6年度(2024年度)と令和7年度(2025年度)に限り、市町村民税・道府県民税に定額減税が適用される場合があります。これは政府の経済対策の一環として導入された措置です。
定額減税の内容は、所得割額に対して一定額を減税するというものです。具体的な減税額や適用条件については、各自治体の条例によって定められています。名古屋市の例では、令和6年度・令和7年度に限り市民税・県民税の定額減税が適用されることが明記されています。
この定額減税を考慮した市町村民税の計算手順は以下の通りです。
例えば、所得割額が12万円、定額減税額が1万円、均等割額が4,000円の場合。
この定額減税措置は期間限定のものであり、令和8年度(2026年度)以降は通常の計算方法に戻る予定です。納税者にとっては一時的な負担軽減となりますが、税理士としては、この措置の適用条件や計算方法を正確に把握し、クライアントに適切なアドバイスを提供することが重要です。
また、定額減税の適用有無によって納税額が大きく変わる可能性があるため、確定申告や住民税申告の際には特に注意が必要です。
ここでは、具体的な計算例を通じて市町村民税の計算方法を確認し、実務上の注意点を解説します。
【計算例】
給与収入600万円、社会保険料控除80万円、生命保険料控除5万円、基礎控除43万円の場合
実務上の注意点としては、以下のようなものがあります。
また、住民税の計算結果は100円未満が切り捨てられるため、最終的な税額は100円単位になることにも注意が必要です。
市町村民税の計算は複雑ですが、正確に理解することで、クライアントに適切なアドバイスを提供することができます。特に、所得税との違いや特例措置の適用条件などは、税理士として押さえておくべき重要なポイントです。
名古屋市の市民税・県民税の計算例と定額減税について詳しく解説されています
住民税の税率や計算方法について詳細な解説があります