不動産所得と確定申告の基礎知識
不動産所得の基本
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不動産所得の定義
不動産の貸付けによって得られる所得で、収入から必要経費を差し引いた金額
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確定申告の必要性
不動産所得が年間20万円を超える場合は確定申告が必要
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税金の種類
所得税・住民税をはじめ、不動産関連の各種税金が課される
不動産所得の定義と3つの分類
不動産所得とは、不動産の貸付けによって得られる所得のことを指します。所得税法では、収入をその取得方法によって10種類に分類しており、不動産所得はそのうちの一つです。
具体的には、不動産所得は以下の3つに分類されます。
- 土地や建物などの不動産の貸付け
- アパートやマンションの賃貸による家賃収入
- 土地の賃貸による地代収入
- 店舗や事務所の賃貸による賃料収入
- 地上権など不動産の上に存する権利の設定および貸付け
- 借地権の設定による権利金収入
- 地上権の設定による収入
- 船舶や航空機の貸付け
- 総トン数20トン以上の船舶の貸付けによる収入
- 航空機の貸付けによる収入
なお、20トン未満の船舶の貸付けによる収入は、事業所得または雑所得として扱われるため注意が必要です。
また、不動産の売買による利益は「譲渡所得」に分類され、不動産所得には含まれません。この点は多くの方が混同しやすいポイントです。
不動産所得の収入に含まれる項目
不動産所得の総収入金額には、単なる賃料だけでなく、以下のようなものも含まれます。
- 基本的な賃貸料収入
- 一時的に受け取る収入
- 敷金・保証金関連
- 返還不要の敷金・保証金
- 敷金から控除される原状回復費用
- その他の収入
- 共益費
- 管理費
- 電気代・水道代(共用部分)
- 清掃費
例えば、月額6万円の家賃で物件を貸し出している場合、年間の基本収入は72万円(6万円×12ヶ月)となります。これに加えて、更新料や共益費などの収入も不動産所得の総収入金額に含めなければなりません。
特に注意が必要なのは敷金の扱いです。敷金は基本的に返還する前提のため収入には含みませんが、契約上返還不要とされている部分や、退去時に原状回復費用として控除される部分は、その年の収入として計上する必要があります。
不動産所得の確定申告が必要なケース
不動産所得がある場合、以下のケースでは確定申告が必要となります。
- 不動産所得の金額が20万円を超える場合
- 給与所得者(会社員・公務員など)であっても、不動産所得が年間20万円を超える場合は確定申告が必要です。
- この20万円は、収入ではなく「所得金額」(収入から必要経費を引いた金額)で判断します。
- 不動産所得が赤字で損益通算を行う場合
- 不動産所得が赤字(マイナス)で、給与所得などの他の所得と損益通算を行う場合は、金額にかかわらず確定申告が必要です。
- 損益通算により税金の還付を受けられる可能性があります。
- 複数の所得がある場合
- 不動産所得と事業所得など、複数の所得がある場合は、それらの合計額に応じて確定申告が必要かどうかが決まります。
- 青色申告を行う場合
- 青色申告の特典を受けるためには、事前に「青色申告承認申請書」を提出し、確定申告を行う必要があります。
確定申告の期限は、原則として翌年の2月16日から3月15日までです。この期間内に申告書を提出しないと、無申告加算税などのペナルティが課される可能性があるため注意が必要です。
不動産所得にかかる税金の種類と計算方法
不動産所得には、様々な税金がかかります。主なものは以下の通りです。
- 所得税
- 不動産所得を含む1年間の総所得に対してかかる国税です。
- 累進課税制度が適用され、所得が多いほど税率も高くなります(5%~45%)。
- 計算式:(不動産所得+その他の所得)-所得控除=課税所得
- 課税所得に税率をかけて所得税額を算出します。
- 住民税
- 所得に応じて課税される地方税で、所得割と均等割があります。
- 所得割は前年の所得に対して約10%の税率で課税されます。
- 均等割は所得にかかわらず一定額(年間約5,000円)が課税されます。
- 消費税
- 不動産の貸付けのうち、住宅の貸付けは非課税ですが、事務所や店舗などの貸付けは課税対象となります。
- 課税売上高が1,000万円を超える場合、消費税の納税義務が生じます。
- 固定資産税・都市計画税
- 不動産の所有者に対して課される地方税です。
- 固定資産税評価額に基づいて計算されます。
- 固定資産税は評価額の1.4%、都市計画税は0.3%が標準税率です。
- 不動産取得税・登録免許税・印紙税
- 不動産の取得時や登記時に課される税金です。
- これらは一時的な税金であり、継続的な不動産所得に直接関係するものではありません。
不動産所得の計算方法は以下の通りです。
不動産所得 = 総収入金額 - 必要経費
この不動産所得に対して、所得税や住民税が課されることになります。不動産所得がマイナス(赤字)の場合は、給与所得などの他の所得と損益通算することができ、全体の税負担を軽減できる可能性があります。
不動産所得の必要経費として認められる項目
不動産所得の計算において、必要経費として認められる主な項目は以下の通りです。
- 固定資産税・都市計画税
- 貸し出している不動産に係る固定資産税や都市計画税は全額経費になります。
- 一部のみ貸し出している場合は、貸し出し部分に応じた按分計算が必要です。
- 減価償却費
- 建物や設備などの資産は、使用や時間の経過によって価値が減少するため、その減少分を費用として計上します。
- 木造建築物は22年、鉄筋コンクリート造は47年など、法定耐用年数に基づいて計算します。
- 減価償却費は実際に支出するものではありませんが、重要な経費項目です。
- 修繕費
- 建物の維持・修繕にかかる費用は経費として認められます。
- 日常的な修繕は全額経費になりますが、大規模な改修は資本的支出として減価償却の対象となる場合があります。
- 損害保険料
- 火災保険や地震保険など、不動産に関する保険料は経費になります。
- 管理委託費
- 不動産管理会社への委託費用は経費として認められます。
- 広告宣伝費
- 租税公課
- 支払利息
- 不動産取得のためのローン利息は経費になります。
- ただし、元金部分は経費ではなく、返済に充てられるものです。
- 旅費交通費
- 物件の管理や入居者との面談のための交通費は経費になります。
- ただし、通常の経路と金額であることが条件です。
- 水道光熱費
- 共用部分の電気代や水道代は経費になります。
- 自宅の一部を貸し出している場合は、貸し出し部分に応じた按分が必要です。
これらの経費を適切に計上することで、不動産所得の金額を正確に算出し、適正な納税を行うことができます。特に減価償却費は実際の現金支出を伴わないものの、税法上認められる重要な経費項目であり、不動産所得の計算において大きな影響を与えます。
国税庁:不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)の詳細解説
不動産所得の青色申告と白色申告の違いと選び方
不動産所得の確定申告では、青色申告と白色申告の2つの方法から選択できます。それぞれの特徴と違いを理解し、自分に適した申告方法を選ぶことが重要です。
青色申告のメリット
- 最大65万円の特別控除
- e-Taxによる電子申告を行い、複式簿記で記帳し、貸借対照表と損益計算書を添付すると、最大65万円の特別控除が受けられます。
- 簡易帳簿の場合は10万円の特別控除となります。
- 赤字の繰越控除
- 不動産所得で生じた赤字を最長3年間繰り越して、将来の黒字と相殺できます。
- 白色申告では赤字の繰越しはできません。
- 家族への給与の経費算入
- 配偶者や親族に支払う給与を、一定の条件下で必要経費として認めてもらえます。
- 少額減価償却資産の特例
- 30万円未満の減価償却資産を、一定の条件下で全額経費として計上できます。
白色申告の特徴
- 手続きが簡単
- 青色申告に比べて記帳や申告の手続きが簡単です。
- 複式簿記の知識がなくても対応できます。
- 特別な申請が不要
- 記帳義務はあるが複雑さは低い
- 白色申告でも記帳義務はありますが、青色申告ほど詳細な記帳は求められません。
どちらを選ぶべきか?
- 不動産所得が大きい場合
- 不動産所得が65万円を超える場合は、青色申告の特別控除のメリットが大きいため、青色申告がおすすめです。
- 複数の物件を所有している場合
- 複数の物件を所有し、管理が複雑な場合は、青色申告の方が経費管理がしやすく、税務上有利になることが多いです。
- 将来的に赤字が予想される場合
- 大規模修繕などで赤字が予想される場合は、赤字の繰越控除ができる青色申告が有利です。
- 簡易に済ませたい場合
- 不動産所得が少額で、手続きを簡単に済ませたい場合は白色申告も選択肢となります。
青色申告を選択する場合は、開業から2ヶ月以内、または翌年の3月15日までに「青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があります。一度承認されると、取りやめの届出をしない限り継続して青色申告ができます。
弥生:青色申告と白色申告の違いと選び方の詳細ガイド
不動産所得の節税対策と見落としがちなポイント
不動産所得に関する節税対策は、適切に行うことで税負担を軽減し、投資効率を高めることができます。ここでは、効果的な節税対策と、多くの方が見落としがちなポイントを紹介します。
効果的な節税対策
- 青色申告の活用
- 最大65万円の特別控除を受けられる青色申告を活用しましょう。
- 複式簿記による記帳と電子申告を行うことで、最大限の控除が受けられます。
- 減価償却の最適化
- 建物だけでなく、エアコンや給湯器などの設備も個別に減価償却することで、初期の経費計上額を増やせます。
- 建物の耐用年数は構造によって異なるため、正確に把握することが重要です。
- 修繕費と資本的支出の区分
- 30万円未満の修繕は「修繕費」として全額経費計上できますが、30万円以上の場合は「資本的支出」として減価償却の対象になることが多いです。
- 修繕の内容によっては、30万円以上でも「修繕費」として認められるケースがあります。
- 家族への業務委託
- 家族に不動産管理の一部を委託し、適正な報酬を支払うことで、家族全体の税負担を軽減できる場合があります。
- ただし、実際に業務を行っていることの証明が必要です。
- 少額減価償却資産の特例活用
- 10万円未満の資産は全額経費計上できます。
- 10万円以上30万円未満の資産も、一定の条件下で全額経費計上できる特例があります。
見落としがちなポイント
- 按分計算の重要性
- 自宅の一部を賃貸に出している場合、固定資産税や保険料などは賃貸部分の面積比率で按分計算する必要があります。
- 適切な按分計算を行わないと、税務調査で指摘される可能性があります。
- 実際に支払っていない経費の計上
- 減価償却費は実際の現金支出を伴わない経費ですが、適切に計上することで大きな節税効果があります。
- 多くの不動産所有者がこの点を見落としています。
- 土地と建物の区分
- 不動産取得時に、土地と建物の価値を適切に区分することが重要です。
- 建物部分のみが減価償却の対象となるため、適正な評価が節税につながります。
- 消費税の還付
- 事業用不動産(店舗・事務所など)の場合、消費税の課税事業者を選択することで、建物取得時の消費税の還付を受けられる可能性があります。
- 住宅用不動産は非課税取引のため、この恩恵はありません。
- 損益通算と繰越控除の活用
- 不動産所得で生じた赤字は、給与所得などの他の所得と損益通算できます。
- 青色申告の場合、損益通算しきれなかった赤字は3年間繰り越せます。
これらの節税対策を適切に活用することで、不動産投資の収益性を高めることができます。ただし、過度な節税対策は税務調査のリスクを高める可能性があるため、法令に則った適正な申告を心がけましょう。
不動産所得の経費に関するポイント詳細解説