

三様監査を「3つ全部が同じ目的で動いている」と思っているなら、あなたの会社は連携の穴を突かれて重大不祥事が見逃されるリスクがあります。
三様監査(さんようかんさ)とは、「監査役監査」「会計監査人監査」「内部監査」の3種類の監査を総称した言葉です。英語では "Three-Way Audit" と表現されることもありますが、この概念自体は日本独自のガバナンス制度に根ざしたものです。
同じ「監査」という言葉がついていても、3つはそれぞれ実施者・目的・根拠法がまったく異なります。
これが基本です。
| 種類 | 実施者 | 主な目的 | 根拠法 |
|---|---|---|---|
| 監査役監査 | 監査役(会社内部) | 取締役の業務執行の適法性チェック | 会社法第381条など |
| 会計監査人監査 | 公認会計士・監査法人(外部) | 財務諸表の適正性確認・投資家保護 | 会社法第436条・金商法 |
| 内部監査 | 企業内部の従業員 | 業務の効率化・リスク管理・内部統制評価 | 法的根拠なし(実質義務) |
3つを総称するこの言葉は、コーポレートガバナンスの議論が高まった2000年代以降、特に上場企業やIPO準備企業で頻繁に使われるようになりました。3者が互いに連携することで、監査の重複を防ぎながら企業統治の実効性を高めることが期待されています。
つまり、「三様監査=3つの監査が独立しつつ連携する仕組み」が原則です。
参考:三様監査の概要と各監査の役割について詳しく解説されています。
アビタス「三様監査とは?各役割と違い、連携の意義と効果を具体例とともに解説」
監査役監査は、会社法に基づいて設置された監査役が行う「法定監査」です。主な監査対象は取締役の業務執行であり、取締役が法令・定款を守って職務を行っているかをチェックします。
監査役は株主総会によって選任されます。任期は原則4年ですが、非公開会社では定款の定めにより最長10年まで延長できます。
以下のいずれかに該当する会社は、監査役会の設置が義務付けられています。
監査役の権限は法律で広く認められています。
見落とされがちな点があります。監査役は必ずしも会計の専門家である必要がなく、公認会計士のような資格要件はありません。
そのため、財務諸表の判断においては会計監査人との連携が不可欠となります。監査役が会計に明るくなければ、会計監査人の報告の妥当性を判断できないからです。
また、監査役には「独任制」が適用されます。監査役会で意見交換はできますが、最終的な判断・意見表明は各監査役が独立して行えます。これは内部監査が「組織監査」として行われるのと大きく異なる特徴です。
会計監査人監査は、企業外部の公認会計士または監査法人が実施する外部監査です。財務諸表が法令・会計基準に従って適正に作成されているかを検証し、投資家や株主・債権者を保護することが目的です。
重要なのは、会計監査人監査が義務化されている企業の範囲です。
上場準備中の企業についても注意が必要です。IPO申請期(N期)の直前期(N-2期)から監査法人による監査を受けることが実務上求められており、上場時には2期分の財務諸表に監査意見が必要です。
これは義務です。
会計監査人の任期は、選任から1年以内に行われる最終の定時株主総会終結まで。ただし、任期満了時に決議がなければ再任とみなされます。
会計監査人は「企業から完全に独立した第三者」でなければならないため、欠格事由が厳しく定められています。たとえば、業務停止処分中の者や、その会社で継続的な報酬を受けている者(監査業務以外で)は会計監査人になれません。
ステークホルダーを守るために独立性が命です。
参考:会計監査人監査の義務要件と手続きについて詳しく解説されています。
内部監査は、企業内部の独立した部門(内部監査室など)が、業務の適正性・内部統制の有効性を評価するために行う監査です。他の2つと大きく異なる点は、直接的な法的根拠がないことです。
実は、内部監査には義務化する直接的な法律が存在しません。
これは多くの人が意外に感じる点です。
しかし、実質的には義務に近い状態です。2006年の会社法改正で内部統制整備が義務付けられ、金融商品取引法第24条は有価証券報告書提出企業に内部統制報告書の提出も要求しています。内部監査なしではこの要求を満たせないため、取締役会設置会社・大会社・IPO準備企業では実質的に避けられません。
内部監査部門は通常、代表取締役(社長)直下に置かれ、他部署から独立した立場で業務を行います。
内部監査の主な業務は2つです。
内部監査と監査役監査の大きな違いは「監査対象の焦点」にあります。監査役が主に取締役の適法性を監査するのに対し、内部監査は全従業員・各部門の業務の妥当性・効率性を監査します。
ただし、日本の現実は厳しいところですね。日本経済新聞(2016年12月)の調査によれば、内部監査部門のスタッフが9人以下の大企業は全体の7割超、3人以下の大企業は全体の3分の1にのぼります。まるで小学校の1クラス分以下の人員で会社全体を監査している状況です。
三様監査の連携が強く求められるようになった背景には、2021年6月のコーポレートガバナンス・コード改訂があります。
同改訂では、補充原則4-3④に「内部監査部門を活用し、取締役会・監査役会への直接報告体制を整備すること」が明記されました。この改訂は、形式的な監査体制の整備から「実効性ある監査の連携」への転換を求めるものです。
なぜ改訂が必要だったのでしょうか?その理由は、日本で実際に起きた不祥事の歴史にあります。オリンパス(2011年)、東芝(2015年)、スルガ銀行(2018年)など、大企業の重大不祥事のほとんどで、三様監査の連携不足が見逃しの温床となりました。
日本金融監査協会のレポート(碓井茂樹CIA、2020年)によれば、三様監査の5つの問題点として次が挙げられています。
特に深刻なのが連携の不足です。同調査では、内部監査の報告が取締役会に対して行われているのは全体のわずか1割程度、監査役・監査委員会等に対しても4割以下にとどまるという実態が明らかになっています。
三様監査の連携不足は、財務的損失や法的制裁につながる重大リスクです。
これは見過ごせません。
参考:三様監査の連携強化に向けた制度改革の詳細が解説されています。
三様監査の連携を実効性あるものにするには、3者間の定期的な情報共有の場を設けることが基本です。年に2~4回程度の「三様監査連絡会」を開催し、各監査の計画・結果・課題を共有することが推奨されています。
具体的な連携パターンは3つあります。
① 監査役と会計監査人の連携
監査役は会計監査人の監査内容の相当性を判断した上で株主へ報告するため、両者の緊密な連携は不可欠です。
連携の要点は以下のとおりです。
② 会計監査人と内部監査の連携
会計監査人は内部監査部門と接点が浅くなりがちですが、J-SOX(内部統制報告制度)の対象企業では財務報告に係る内部統制の評価で両者の連携が必要です。会計監査人が会計報告を行う場に内部監査の担当者が同席するなど、接点を意識的に作ることが有効です。
③ 監査役と内部監査の連携
監査役は取締役の業務を、内部監査は各部門・従業員の業務を主に監査するため、役割の重複が生じやすい組み合わせです。重複を避けるためには、詳細な監査内容の分担を事前に決め、時間的な間隔を設けながら調整します。
内部監査が取締役の問題を発見した場合は、監査役と情報共有してそのまま取締役の業務監査につなげることができます。
これが連携の実益です。
参考:IPO準備企業における三様監査の実務的な連携方法が解説されています。
IPO(新規株式公開)を目指す企業にとって、三様監査は任意ではなく実質的に必須の体制です。上場審査においてガバナンス体制の整備・実効性が厳しく問われるからです。
IPO準備における三様監査のタイムラインは以下のように整理できます。
| 時期 | 必要な対応 |
|---|---|
| N-2期(上場の2期前) | 監査法人による準金商法監査の開始(財務諸表監査) |
| N-1期〜N期 | 内部監査体制の整備・内部統制評価の本格化 |
| 申請期(N期)前後 | 会計監査人として正式就任・三様監査連絡会の定期開催 |
| 上場審査 | 三様監査それぞれの独立性・実効性・連携状況が審査対象 |
注意すべきポイントがあります。N期より前の監査は「準金商法監査」と呼ばれ、監査法人はまだ正式に会計監査人として就任していない場合があります。
しかし、監査等委員会設置会社の場合は例外で、N期より前でも会計監査人の設置が義務付けられているため、法定監査の対象となります。この区別を誤ると、上場審査で重大な指摘を受けるリスクがあります。
また、内部監査体制については、単に形式的な内部監査室を設置するだけでは不十分です。
これらすべてが審査で確認されます。IPO直前に慌てて整備しようとしても、審査を通じて過去の実績が問われるため、早期から継続的に取り組むことが求められます。
三様監査を理解する上で、国際的なガバナンス基準である「3線モデル(Three Lines Model)」との関係を押さえておくことで、より深い理解が得られます。これは他の解説ではあまり触れられない視点です。
3線モデルとは、企業のリスク管理・監査機能を3つの防衛線(ライン)に分けて整理する考え方です。
三様監査の「内部監査」は3線モデルの第3線に対応します。一方、「会計監査人」と「監査役」は3線モデルの外側に位置する「独立した監督機能」として機能します。
日本独自の問題として、日本金融監査協会の指摘によれば、内部監査報告が社長(CEO)にしか届いていないケースが全体の約80%に達しています。3線モデルが正しく機能するためには、内部監査が取締役会や監査委員会(監査役会)に対してデュアルレポーティングライン(二重の報告経路)を持つことが国際標準です。
日本では社長直属の内部監査がデフォルトになっています。しかし、これでは監査の独立性が形骸化するリスクがあります。
2021年のコーポレートガバナンス・コード改訂で内部監査の取締役会・監査役会への直接報告体制が求められたのは、まさにこの問題への対処です。金融機関(メガバンクなど)では監査委員会直属の内部監査部門長(CAE)を設置する動きが先行しており、一般事業会社もこの流れに沿った体制整備が求められるようになっています。
参考:コーポレートガバナンスと内部監査の実効性向上について詳しく解説されています。
JPX「コーポレート・ガバナンスにおける内部監査の実効性向上」
三様監査を取り巻く制度環境は、近年も継続的に変化しています。現状の課題と今後の方向性を押さえておくことは、金融・企業法務に携わる人にとって重要です。
現時点での主要な課題は3点あります。
課題1:内部監査の法制化問題
現在、内部監査を直接義務付ける法律は存在しません。一方で、金融商品取引法(J-SOX)の内部統制報告制度により有価証券報告書提出企業は内部統制報告書の提出が義務付けられており、内部監査なしでは実質的に充足できない状況です。
2018年以降、実践コーポレートガバナンス研究会・経済同友会・金融庁などが「内部監査の制度化(コードまたは法律による義務化)」を提言しており、法制化の議論が続いています。
課題2:監査役制度の国際標準との乖離
日本独自の監査役制度(常勤社内監査役の存在)は、独立性の観点から国際社会のガバナンス標準(社外中心の監査委員会)と乖離しています。監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社への移行を進める上場企業は増えていますが、2019年時点で東証1部上場企業でも委員会設置型への移行は約3割程度にとどまっていました。
課題3:三様監査の連携の制度的担保の不在
連携を実現するための法的・制度的な義務規定がなく、各社の自主的な取り組みに委ねられている状態です。そのため、内部統制基本方針や社内規程に具体的な連携の仕組みを明記することが、現状では最も実効的な手段です。
今後の展望としては、コーポレートガバナンス・コードのさらなる改訂や、証券取引所の上場規則整備を通じた三様監査の実効性向上が見込まれます。これらの動向を継続的にウォッチすることが求められます。
参考:三様監査を巡る制度改革の経緯と提言が詳しく整理されています。
三様監査の実務に関わる立場(内部監査担当・経理・財務・法務・CFO候補など)であれば、体系的な知識習得のために資格取得を検討することは有益です。
最も直接的に役立つ資格として、CIA(公認内部監査人:Certified Internal Auditor)があります。
CIAの資格取得を目指す場合、国際資格であることから体系的な学習環境の整備が重要です。スキマ時間に学習できる通信コースや、内部監査実務に精通した講師によるサポートが受けられる環境を選ぶと効率的です。
三様監査の仕組みを理解することは、単に試験対策にとどまらず、企業の不正リスクを見抜き、ガバナンスの実効性を高めるための実践的なスキルに直結します。
これは使えます。
参考:内部監査の基準・知識体系に関する一次資料として参照できます。