
在職老齢年金制度は、60歳以上で厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受給する際に適用される制度です。この制度により、給与と年金の合計額が一定の基準を超えると、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止となります。
制度の対象となるのは以下の方々です。
重要なポイントとして、老齢基礎年金は支給停止の対象外となっており、給与の額に関係なく全額受給できます。また、老齢厚生年金が一部でも受け取れる場合は、加給年金も全額受け取ることができます。
2022年4月の制度改正により、60歳代前半と65歳以降の支給停止基準が統一され、計算方法も同じになりました。これにより、年齢による複雑な計算の違いが解消されています。
2025年4月から、在職老齢年金の支給停止基準額が50万円から51万円に引き上げられました。この基準額を用いた具体的な計算方法を詳しく解説します。
基本的な計算式:
支給停止額 = (基本月額 + 総報酬月額相当額 - 51万円) × 1/2
用語の説明:
具体的な計算例:
例1:支給停止なしのケース
例2:支給停止ありのケース
年金の支給停止が発生する年収の目安を、様々なパターンで詳しく見ていきましょう。年収だけでなく、年金額との組み合わせが重要なポイントになります。
年金月額別の支給停止開始年収:
全額支給停止となる年収の目安:
年金が全額支給停止となるのは、以下の条件を満たした場合です。
基本月額 ≤ (総報酬月額相当額 - 51万円) × 1/2
例えば、年金月額15万円の場合、月収が81万円(年収972万円)を超えると年金が全額停止となります。
賞与の影響について:
賞与も総報酬月額相当額の計算に含まれるため、月給が低くても年間賞与が多い場合は注意が必要です。例えば。
70歳以降の特別な取り扱い:
70歳以降は厚生年金保険料の負担はありませんが、厚生年金の加入条件と同程度で働く場合は引き続き支給停止の対象となります。これは意外と知られていないポイントです。
2025年の制度改正は、高齢者の就労促進を目的として実施されました。改正内容の詳細と今後の予定について解説します。
2025年4月の主な変更点:
改正による影響の試算:
月額1万円の年金増額効果があるケースを試算してみましょう。
改正前(50万円基準)の場合:
改正後(51万円基準)の場合:
2026年4月の大幅改正予定:
さらに大きな変更が予定されており、2026年4月から支給停止調整額が62万円に引き上げられる予定です。この改正により、多くの高齢者がより多くの年金を受給できるようになります。
改正の背景:
この改正により、年収700万円程度までの方であれば、年金の大幅な減額を気にせずに働けるようになると予想されます。
年金の支給停止を最小限に抑えるための実践的な年収調整方法について、あまり知られていないテクニックも含めて解説します。
効果的な年収調整のタイミング:
意外と知られていない調整方法:
1. 企業年金との使い分け
企業年金(確定給付年金、確定拠出年金)の受給は在職老齢年金の計算に含まれません。そのため、公的年金の受給を調整しつつ、企業年金を活用することで総収入を維持できます。
2. 個人事業主への転換
雇用契約から業務委託契約に変更することで、厚生年金の被保険者でなくなり、在職老齢年金の適用対象外となります。ただし、実態が雇用関係と変わらない場合は適用される可能性があります。
3. 繰下げ受給の戦略的活用
在職老齢年金で支給停止される部分は、繰下げ受給による増額の対象外となります。そのため、支給停止率が高い期間は繰下げ受給を選択し、退職後に増額された年金を受給する戦略も有効です。
年収調整の具体例:
パターン1:給与を月45万円に調整
パターン2:給与を月41万円に調整
この場合、月収を4万円下げることで年金が2万円多く受給でき、実質的な減収は2万円に抑えられます。
長期的な視点での判断:
年金の支給停止を避けるために年収を下げることは、目先の収入では有利に見えますが、将来の厚生年金額増加の機会を失うことにもなります。70歳以降の年金額増加分も含めて総合的に判断することが重要です。