

寄付額の1割しか負担しないのに、地方創生への貢献が記録として残り自社のブランド価値まで上がる。
企業版ふるさと納税(正式名称:地方創生応援税制)とは、企業が内閣府の認定を受けた地方公共団体の地方創生プロジェクトへ寄付を行うことで、法人税・法人住民税・法人事業税の税額控除を受けられる制度です。2016年に創設され、2020年の税制改正で税制優遇が大幅に拡充されました。
この制度の最大の特徴は、寄付額の最大約9割が税制上で軽減されるという大きなインパクトです。仕組みは大きく2段階に分かれています。
まず「損金算入」による軽減効果が約3割あります。企業が国や地方公共団体に寄付を行った場合、その全額を損金として扱えます。法人税の実効税率は一般的に28〜33%程度であるため、仮に税率30%で計算すると、1,000万円を寄付した場合に約300万円分の税負担が軽減される計算になります。
次に「税額控除」として最大約6割の直接控除が加わります。税額控除は損金算入と異なり、法人税率に関わらず税額そのものから一定割合が差し引かれるため、軽減効果が非常に大きいのが特徴です。
これが原則です。
つまり、1,000万円を寄付した場合、損金算入で約300万円、税額控除で最大約600万円の計900万円が軽減され、実質的な企業負担は約100万円(寄付額の1割)になります。シミュレーションツールでは、この計算を寄付予定金額と所得金額を入力するだけで即座に確認できます。
令和7年度(2025年度)の税制改正では、この特例措置が3年間延長され、令和10年(2028年)3月31日までに支出した寄付分に適用されることが確定しました。期限延長によって今後も制度を活用できる期間が広がっており、これから検討を始める企業にとっては好機といえます。
参考(内閣府公式:制度概要PDF)
内閣府「企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)の概要」
シミュレーションの仕組みを正しく読み解くには、税目ごとの計算ルールを把握しておく必要があります。税額控除は「法人住民税」「法人税」「法人事業税」の3つに分かれており、それぞれに控除の計算方法と上限が設けられています。
以下の表に、各税目の控除率と上限をまとめます。
| 税目 | 控除率 | 上限 |
|---|---|---|
| 法人住民税 | 寄付額の40% | 法人住民税法人税割額の20% |
| 法人税 | 法人住民税で4割に達しない場合の残額(最大寄付額の10%) | 法人税額の5% |
| 法人事業税 | 寄付額の20% | 法人事業税額の20% |
これだけ見ると複雑に感じますが、具体的な数字で見ると理解しやすくなります。以下は「課税所得1億円の企業が1,000万円を寄付した場合」の計算例です。
この場合の合計軽減額は約5,902,320円となり、自己負担額は約4,097,680円(自己負担率約41%)です。
意外ですね。
「9割軽減」のイメージとはかなり異なる結果になっています。これは各税目に上限が設定されているため、課税所得の規模と寄付額のバランスによっては、9割に届かないケースが十分あり得るのです。一方で、課税所得と寄付額のバランスが理想的な場合には、シミュレーション上で自己負担率が6〜10%台まで下がる計算も出てきます。
所得金額に対して寄付額が所得の1%程度に収まる場合、最も軽減効果が高くなる傾向があります。たとえば所得10億円の企業が1,000万円(所得の1%)を寄付した場合、ある計算例では自己負担割合が約6.4%まで下がるケースも報告されています。
対して、所得10億円の企業が5,000万円(所得の5%)を寄付した場合は自己負担割合が約28.7%まで上昇します。寄付額を増やすほど自己負担割合も上がるという逆転現象が起きる点は、シミュレーションで事前に必ず確認すべきポイントです。
これは要注意です。
参考(控除額の計算方法と具体例を解説)
財源確保.com「企業版ふるさと納税の控除額と上限額の計算方法」
シミュレーションツールは複数のポータルサイトが無料で提供しており、数項目を入力するだけで軽減額の目安を確認できます。これは使えそうです。主要なツールを以下にまとめます。
ただし、これらのシミュレーションツールには共通の前提条件があり、実際の状況と乖離が生じる可能性があります。代表的な前提条件は次の4つです。
繰越欠損金が残っている企業の場合、課税所得が圧縮されて各税目の税額が小さくなるため、シミュレーション上の軽減額よりも実際の控除額が少なくなる可能性があります。「試算より負担が大きかった」という失敗事例はこのケースが多く見られます。
シミュレーションはあくまで目安です。
利用の際は「顧問税理士への確認」を最終ステップとして組み込んでおくことが重要です。シミュレーション結果を手元に持参した上で専門家と相談することで、実際の控除可能額を精度高く把握できます。
参考(ふるさとコネクトのシミュレーターページ)
ふるさとコネクト「税控除額シミュレーション」
多くの担当者が「9割控除できる」という印象だけを持ってシミュレーションを行い、後になって想定より控除額が少なかったと気づくケースがあります。その背景にある落とし穴を4点整理します。
① 本社所在地の自治体には寄付できない
企業の「本社(地方税法上の主たる事務所または事業所)」が所在する都道府県・市区町村は寄付対象外です。損金算入は認められますが、税額控除(6割部分)は受けられません。「地元の自治体を応援したい」という動機で検討を始めた場合、この制限に引っかかることがあります。
参考(本社所在地問題の詳細解説)
税理士ブログ「企業版ふるさと納税の落とし穴:本店所在地への寄付は対象外」
② 税額が小さいと9割控除に届かない
税額控除は各税目の税額を上限として適用されます。法人住民税割額が少ない中小企業や、繰越欠損金のある企業は、控除しきれない部分が生じます。シミュレーション上で「自己負担1割」と出ていても、実態の税額が低ければそれは実現しません。シミュレーション結果が良好でも、実際の税額と照合する手順が必要です。
③ 地方交付税不交付団体には寄付できない
東京都や、三大都市圏の既成市街地(東京23区・武蔵野市全域・三鷹市の一部・横浜市・川崎市・埼玉県川口市の一部)に所在する法人が「本社以外の不交付団体自治体」に寄付する場合も制限が適用されます。大企業が本社を都市部に構えているケースでは、選べる自治体の範囲が思いのほか限定されることがあります。
④ 決算期末までの決済完了が必須
その事業年度で税額控除を受けるためには、決算期末日(3月末決算の場合は3月31日)までに寄付金の支払いを完了している必要があります。自治体側の事務処理時間も考慮すると、少なくとも1〜2ヶ月前には手続きを開始する必要があります。厳しいところですね。年度末ギリギリに動き始めて、その期の控除に間に合わなかった事例は実際に報告されています。
多くの解説記事では税額控除の計算に焦点が当てられますが、実はシミュレーションで「寄付額と節税効果」が確認できた後に、どのプロジェクトを選ぶかが企業戦略に大きく関わってきます。この視点はあまり語られていません。
企業版ふるさと納税で寄付したプロジェクトの実績は、統合報告書やサステナビリティレポートに「具体的な数字を伴う社会貢献活動」として記載できます。例えば「〇〇市のDX化支援プロジェクトへ500万円を寄付し、○○人の雇用機会創出に貢献」といった開示が可能になります。これは近年のESG投資家が注目する開示項目とも一致します。
SDGsの観点から整理すると、寄付先のプロジェクト分野によって関連するSDGs目標が変わります。
2023年度の実績では、企業版ふるさと納税の寄付総額は約470億円・寄付件数14,022件・寄付企業数7,680社と過去最高を更新しています(内閣府報告)。これだけの企業が参加している背景には、純粋な節税目的だけでなく、こうした社会的評価につながるメリットを意識した戦略的活用が増えていることがあります。
また、「人材派遣型」という選択肢も見逃せません。企業の社員を一定期間自治体に派遣し、人件費相当額が寄付金として扱われる仕組みです。2024年4月時点で累計157名の派遣実績が報告されており、自治体に専門知識を提供しながら社員の人材育成も実現できます。金銭的な出費を抑えつつ節税効果を得られる点は、キャッシュフローを重視する中小企業にとっても現実的な選択肢です。
参考(企業版ふるさと納税の寄付実績と人材派遣型の詳細)
経理ドリブン「企業版ふるさと納税の税額軽減は最大約9割?令和7年度改正での延長と活用事例」
シミュレーションで節税効果を確認したら、次は「どのプロジェクトが自社のCSR戦略と整合するか」を検討する流れが効果的です。ポータルサイト(ふるさとコネクト・ふるさとチョイス・内閣府ポータルサイト)では、SDGs分野や都道府県・事業テーマでプロジェクトを絞り込んで検索できるため、まず自社の優先テーマを1つ決めてから検索してみることをおすすめします。
参考(内閣府の企業版ふるさと納税ポータルサイト)
内閣官房・内閣府「企業版ふるさと納税ポータルサイト」