
法定外普通税とは、地方税法に定められた税目(法定税)以外に、地方自治体が条例によって独自に設定できる税金のことです。平成12年4月の地方分権一括法による地方税法の改正により、それまでの許可制から同意を要する協議制に変更され、地方自治体の課税自主権が強化されました。
法定外普通税は、使途を特定せずに徴収される税金であり、地方自治体の一般財源として自由に使えるという特徴があります。一方、使途を特定して徴収される法定外目的税とは区別されます。
総務省の発表によると、令和3年度の法定外税の決算額は634億円で、地方税収全体に占める割合は約0.15%となっています。そのうち法定外普通税が500億円、法定外目的税が133億円です。金額としては大きくありませんが、地方自治体にとっては重要な財源となっています。
法定外普通税には様々な種類があり、地域の特性や課題に応じて設定されています。主な例としては以下のようなものがあります。
これらの税は、地域特有の事情や課題に対応するために設けられており、地方自治体の財政運営において重要な役割を果たしています。
法定外普通税の計算方法は、各地方自治体の条例によって定められており、税目ごとに異なります。一般的には、課税標準に税率を乗じて税額を算出します。
例えば、核燃料税の場合、原子炉の熱出力や発電電力量などを課税標準として、それに一定の税率を乗じて計算します。別荘等所有税の場合は、固定資産税評価額を課税標準として、それに税率(例:1.4%)を乗じて計算するケースが多いです。
税率の設定については、地方自治体が条例で自由に決めることができますが、以下のような制約があります。
これらの要件を満たさない場合、総務大臣は同意しないことがあります。また、特定の納税義務者に係る税収割合が高い場合(課税標準の10分の1を超える場合)には、条例制定前に議会でその納税者の意見を聴取する制度も設けられています。
法定外普通税は、企業や個人の税負担に影響を与えるため、実効税率の計算においても考慮する必要があります。特に企業にとっては、法人税の実効税率に影響を及ぼす可能性があります。
法人税の実効税率は、以下の計算式で求められます。
法定実効税率 =
法人税率×(1+法人住民税率+地方法人税率)+事業税率+事業税率×特別法人事業税率
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1+事業税率+事業税率×特別法人事業税率
法定外普通税が課される場合、これが追加の税負担となり、企業の実質的な税負担率が高まることになります。ただし、法定外普通税の多くは特定の業種や活動に対して課税されるものであり、すべての企業に一律に影響するわけではありません。
例えば、核燃料税は原子力発電事業者、別荘等所有税は別荘所有者、狭小住戸集合住宅税はワンルームマンションの建設主など、特定の納税義務者に影響します。そのため、税理士としては、顧問先の事業内容や所在地に応じて、該当する法定外普通税があるかどうかを確認し、税負担の計算に含める必要があります。
地方自治体が法定外普通税を新設または変更しようとする場合は、総務大臣に協議し、その同意を得る必要があります。この手続きの流れは以下のとおりです。
総務大臣は、以下の3つの要件のいずれかに該当する場合を除き、同意しなければならないとされています。
これらの要件は地方税法第261条、第671条、第733条に規定されています。
なお、平成16年度税制改正により、既存の法定外税について、税率の引下げ、廃止、課税期間の短縮を行う場合には、総務大臣への協議・同意の手続きが不要となりました。これにより、地方自治体の課税自主権がさらに強化されています。
法定外普通税は、企業会計上どのように処理すべきか、また税効果会計にどのような影響を与えるかについても理解しておく必要があります。
会計処理については、法定外普通税の性質によって異なります。例えば、事業に関連する法定外普通税(核燃料税など)は、一般的に「租税公課」として販売費及び一般管理費に計上されます。一方、固定資産に関連する法定外普通税(別荘等所有税など)は、固定資産税と同様に「租税公課」として処理されることが多いです。
税効果会計への影響については、法定外普通税が損金算入される場合と損金不算入となる場合があります。損金算入される場合は、会計上の費用と税務上の損金が一致するため、一時差異は生じません。しかし、損金不算入となる場合は、会計上の費用と税務上の損金に差異が生じるため、一時差異として税効果会計の対象となります。
税理士としては、顧問先に適用される法定外普通税の会計処理と税効果会計への影響を正確に把握し、適切な処理を行うことが重要です。特に、法定外普通税の金額が大きい場合は、財務諸表に重要な影響を与える可能性があるため、注意が必要です。
最近の動向として注目されているのが、京都市が検討している「(仮称)非居住住宅利活用促進税」です。これは、空き家や別荘、セカンドハウスなどの居住者がいない住宅(非居住住宅)に対して課税するもので、令和8年(2026年)以降に課税が予定されています。
京都市がこの新税を検討する背景には、人口流出が多い中で、非居住住宅の存在が京都市に居住を希望する人への住宅供給を妨げているという課題があります。この税は、非居住住宅の所有者に対して一定の税負担を課すことで、住宅の有効活用を促進することを目的としています。
今後も、各地方自治体の財政難を背景に、法定外税として新税を検討する動きは続くと予想されます。地方交付税の仕組み上、既存の税収が増加すると地方交付税が減額されるため、地方自治体は独自の課税を行い、税収をそのまま確保する取り組みを強化する傾向にあります。
税理士としては、こうした新たな法定外税の動向に常に注意を払い、顧問先に適切なアドバイスを提供することが求められます。特に、複数の地域で事業を展開している企業や、別荘などの不動産を所有している個人にとっては、法定外税による税負担が無視できない金額になる可能性があります。
総務省:地方税制度|法定外税(法定外税の制度概要や手続きについての詳細情報)
法定外普通税に関しては、過去にいくつかの重要な判例があり、実務上の注意点として理解しておく必要があります。
特に注目すべき事例として、神奈川県の「臨時特例企業税」に関する最高裁判決があります。神奈川県は2001年度から2009年度にかけて、資本金5億円以上の法人を対象として、法人事業税の欠損金の繰越損失控除の適用がないものとして計算した場合の所得を対象に課税していました。
しかし、2013年3月21日の最高裁判決では、この税は実質的には法人事業税の欠損金繰越損失控除額を課税標準として、繰越損失控除の適用を一部排除する効果を有するもので、法人事業税における欠損金繰越控除の一律適用を定めた地方税法の趣旨を阻害するものとして、違法無効であるとの判断が下されました。
この判例から学ぶべき実務上の注意点としては、以下のようなものがあります。
税理士としては、顧問先に適用される法定外普通税について、その合法性や妥当性を検討し、必要に応じて異議申立てや訴訟の可能性も視野に入れたアドバイスを提供することが重要です。
また、法定外普通税の申告・納付手続きについても、各地方自治体の条例で定められた期限や方法に従って適切に行う必要があります。期限を過ぎると、延滞金や加算金が課される可能性があるため、注意が必要です。
法定外普通税を理解する上で重要なのが、地方交付税制度との関係です。地方交付税は、地方自治体の財政力の格差を調整するために国から交付される財源ですが、地方自治体の税収が増えると、その分地方交付税が減額される仕組みになっています。
しかし、法定外普通税による税収は、基準財政収入額の算定において75%しか算入されないため、法定外普通税を導入することで、地方自治体は税収の25%分を純増させることができます。これが、地方自治体が法定外普通税の導入に積極的な理由の一つです。
例えば、ある地方自治体が法定外普通税を導入して1億円の税収を得た場合、基準財政収入額には7,500万円が算入され、地方交付税は7,500万円分減額されますが、差し引き2,500万円の財源増となります。
この仕組みを理解することで、地方自治体がなぜ既存の税収の増額ではなく、法定外普通税の新設を選択するのかが明確になります。税理士としては、この点を踏まえて、地方自治体の税財政政策を理解し、顧問先に対して適切なアドバイスを提供することが求められます。
また、法定外普通税の導入が検討されている地域では、地域経済や特定産業への影響も考慮する必要があります。特に、特定の産業に負担が集中するような法定外普通税の場合、その産業の競争力や地域経済全体への影響を慎重に評価することが重要です。
以上のように、法定外普通税は地方自治体の財政運営において重要な役割を果たしており、税理士としては、その仕組みや計算方法、実効税率への影響などを正確に理解し、顧問先に適切なアドバイスを提供することが求められます。