
法定外目的税は、地方自治体が地方税法に定められていない税目を独自に創設する法定外税のうち、特定の目的に税収を充当することが明確化された税制度です 。2000年4月の地方分権一括法により創設され、住民の受益と負担の関係が明確になり、課税の選択の幅を広げることを目的としています 。
現在、法定外目的税を導入している自治体は14団体となっており、主な分野として環境保全、観光振興、原子力政策関連の3つのカテゴリーに分類されます 。法定外普通税の7自治体と比較すると、目的が明確化された法定外目的税の方が導入実績が多く、政策課題への対応手段として活用されています。
参考)https://kumamoto-shigikai.jp/common/UploadFileDsp.aspx?c_id=49amp;id=718amp;sub_id=1amp;flid=1340
制度設計において、法定外目的税は総務大臣の同意を要する協議制となっており、①国税又は他の地方税と課税標準を同じくし住民負担が著しく過重となること、②地方団体間の物流に重大な障害を与えること、③国の経済施策に照らして適当でないこと、のいずれかに該当する場合を除き、総務大臣は同意を与えなければならないとされています 。
参考)https://www.soumu.go.jp/main_content/000162256.pdf
環境保全を目的とした法定外目的税では、産業廃棄物税が最も広く導入されており、2020年4月現在で27都道府県が採用しています 。課税方式は最終処分量1トンあたり1,000円が標準的で、産業廃棄物の発生・排出抑制、リサイクル率向上、不適正処理対策の強化を目的としています 。
参考)産廃税(産業廃棄物税)とは?導入自治体や課税方式別税率を解説…
特徴的な環境税として、岐阜県の「乗鞍環境保全税」(2003年施行)、福岡県北九州市の「環境未来税」(2003年施行)、大阪府箕面市の「開発事業等緑化負担税」(2016年施行)があります 。これらの税は地域の環境課題に応じて設計されており、税収は環境保全施策に特定して活用されています。
沖縄県の離島4村(伊是名村・伊平屋村・渡嘉敷村・座間味村)では「環境協力税」を導入しており、観光客から徴収する仕組みで離島の環境保護に充当しています 。これらの事例は、地域特性に応じた環境課題解決の財源確保手段として機能しています。
宿泊税は法定外目的税の中で最も導入が進んでいる税目の一つで、東京都が2002年に全国初として導入し、現在では京都市、金沢市、倶知安町、福岡市、北九州市が続いています 。東京都では2002年度から2021年度までの20年間で約273億円の税収を確保し、Wi-Fi整備、東京観光情報センター運営、ウェルカムカード作成などの観光振興施策に活用しています 。
参考)全国で導入が進む「宿泊税」とは?先行事例から見る成果と展望
宿泊税導入の背景として、①海外では宿泊税が一般的でインバウンド観光客の理解が得られやすい、②課税対象が明確で一定の担税力がある、③徴収の仕組みが比較的シンプル、④税収増加施策が観光政策目標と重なる、⑤中長期的に安定した財源となり得る、という5つの理由が挙げられています 。
参考)宿泊税とは? 全国で導入が進む背景と制度のポイントを解説
一方で、宿泊税には課題も存在します。東京都の事例では、税の使途を分かりやすく示す必要性、1万円未満の宿泊への課税の是非、観光振興以外の都市づくりへの使途拡大の検討などが有識者から指摘されています 。また、宿泊事業者や観光客の間では賛否が分かれており、地域内の合意形成が重要な課題となっています。
法定外目的税の新設・変更には、地方税法第731条第2項に基づき、総務大臣との協議・同意手続きが必要です 。総務大臣は同意をする場合、地方財政審議会の意見を聴かなければならず、標準処理期間はおおむね3ヶ月とされています 。
参考)再生可能エネルギー発電設備に対する法定外税条例
同意の審査基準として、総務大臣は3つの消極要件のいずれかに該当する場合を除き、同意しなければならないという「同意の原則」が採用されています 。具体的には、①国税又は他の地方税と課税標準を同じくし住民負担が著しく過重となること、②地方団体間の物流に重大な障害を与えること、③国の経済施策に照らして適当でないこと、が不同意要件とされています 。
参考)https://www.env.go.jp/recycle/waste/zei-kento/01/mat05.pdf
2004年度税制改正により、既存の法定外税について税率の引き下げ、廃止、課税期間の短縮を行う場合には総務大臣への協議・同意手続きが不要となり、制度運用の柔軟性が向上しました 。また、特定の納税義務者に係る税収割合が高い場合には、条例制定前に議会でその納税者の意見を聴取する制度も創設されています 。
参考)https://www.jichiken.jp/wp-content/uploads/2021/08/53f99b49dfa2507482e04917a24aa25a.pdf
法定外目的税の中には、導入後に廃止された事例も存在します。代表的な例として、横浜市の「勝馬投票券発売税」があります。この税は2004年12月に協議申請されましたが、総務省との協議が長期化し、結局2004年2月に条例が廃止されました 。
参考)https://sakushin-u.repo.nii.ac.jp/record/256/files/KJ00005435812.pdf
廃止の背景として、納税予定者である競馬主催者との調整不足、地域経済への影響懸念、他自治体との競争条件の悪化などが指摘されています。また、法定税である勝馬投票券発売税(現在は廃止)との課税標準の重複という技術的な問題も存在していました。
一般廃棄物埋立税についても、一部自治体で導入が検討されましたが、住民理解の不足や徴収コストの高さから実現に至らなかった事例があります 。これらの事例は、法定外目的税導入において、事前の十分な調査研究、関係者との合意形成、制度設計の精緻化が重要であることを示しています。
近年では、山梨県のミネラルウォーター税検討事例のように、県議会内でも意見が分かれ、納税予定者の理解が得られない状況が続く事例も報告されており、地域課題解決と税制の両立の難しさが浮き彫りになっています 。
参考)法定外税の成功事例と難航事例:地域課題とその解決策の模索~ワ…